野球肩

「ボールを投げると肩が痛む」「昔のように思い切り投げられない」と感じていませんか?野球肩は投球を続ける限り誰にでも起こりうる症状であり、野球選手にとって深刻な悩みです。

この記事では、野球肩の概要から、具体的な症状やその原因となるオーバーユース、不適切なフォームについて詳しく解説します。さらに、肩関節インピンジメント症候群のような種類や、検査・診断方法、安静、リハビリテーションなどの治療法も紹介します。

この記事を読むことで、ご自身の肩の状態を理解し、適切なケアや治療へ繋がる第一歩を踏み出せるでしょう。専門的な知識を得て、再びグラウンドで躍動できる未来へ向けた道筋を見つけてください。

野球肩の概要

野球肩とは、野球や投球動作を繰り返し行うことで、肩に痛みが生じる病態の総称です。投球動作は、肩関節とその周囲にある筋肉、腱、靭帯などに大きな負担をかけます。そのため、とくに野球選手に多く見られますが、成長期のお子さんから競技レベルの高い成人選手、さらには趣味で野球を楽しむ方まで、誰にでも発症する可能性があります。この状態は、単に肩が痛いだけでなく、ボールを投げられない、思ったように投げられないといった投球パフォーマンスの低下や、腕が上がりにくいなどの可動域の制限を引き起こすことも少なくありません。

肩の痛みが続く場合、それは身体が「使いすぎ(オーバーユース)」のサインを出していると考えられます。オーバーユースによって、肩の軟骨や腱、関節包といった組織が繰り返しストレスを受け、微細な損傷や炎症を引き起こすことが、痛みの原因となるのです。野球肩にはさまざまなタイプがありますが、痛みが長引く場合は、悪化する前に適切な診断と治療を始めることが大切です。

とくに、肩の特定の組織が挟み込まれて炎症を起こす「肩関節インピンジメント症候群(SIS)」という状態では、肩甲骨の動きを安定させるためのエクササイズが有効とされています。これは、肩甲骨が正しい位置でスムーズに動くことで、肩の構造物への負担が減るためです。

ある研究では、肩関節インピンジメント症候群の高校野球投手を対象に、肩甲骨周囲筋を強化するエクササイズ(SFE)を行ったところ、痛みの軽減や肩の機能改善に役立つことが示されました。この研究では、SFEに加えて筋電図バイオフィードバック(EB)という、筋肉の電気活動を視覚化して適切な動作を促す方法を併用する群と、SFE単独で行う群を比較しています。その結果、筋電図バイオフィードバックの併用は、一部の筋肉(中部僧帽筋)の活動をより高める可能性が見られましたが、痛みの軽減や肩の機能改善といった全体的な効果では、セラピストの指導によるSFE単独でも十分な改善効果が得られると結論づけています※。このことから、専門家による適切な指導のもとで行うリハビリテーションが、野球肩からの回復において非常に重要な役割を果たすことがわかります。

野球肩の種類

野球肩は、投球動作によって肩に生じる痛みや機能障害を総称する言葉です。これは単一の病気ではなく、投球動作の繰り返しで肩のどこにどのような問題が起きているかによって、いくつかの種類に分類されます。

野球肩の主な種類と、それぞれの病態は以下のとおりです。

・肩関節インピンジメント症候群(SIS)

投球動作を繰り返すことで、肩の骨と腱(特に腱板と呼ばれる部分)が衝突し、摩擦することで炎症や痛みを引き起こす状態です。腕を上げた時などに、肩峰(けんぽう)という肩の骨の出っ張りと、その下を通る腱板が挟み込まれるようにして痛みが生じます。

高校野球投手を対象とした研究では、肩関節インピンジメント症候群の治療に、肩甲骨周囲の筋肉を強化するエクササイズ(SFE)が有効であることが示されています。また、筋肉の動きを視覚化する筋電図バイオフィードバック(EB)を併用すると、中部僧帽筋(肩甲骨を安定させる筋肉の一つ)の活動を高める可能性が指摘されています。しかし、痛みの軽減や肩の機能改善といった全体的な効果は、セラピストの指導によるSFE単独でも十分な改善効果が得られるとされています※。

・腱板損傷(腱板炎、部分断裂、完全断裂)

肩関節を動かす際に重要な役割を果たす腱板に、繰り返しのストレスがかかることで炎症を起こしたり、傷ついたり、断裂してしまったりする状態を指します。炎症に留まる「腱板炎」から、一部が傷つく「部分断裂」、完全に切れてしまう「完全断裂」まで、その損傷の程度によって種類が分かれます。投球動作の際に、肩の関節内で腱板が引っ張られたり、骨と摩擦したりすることが原因で起こることがほとんどです。

・関節唇損傷

肩関節は、上腕骨の丸い頭と肩甲骨の浅い受け皿(関節窩)でできています。この受け皿の縁には「関節唇」という軟骨組織が付着しており、ソケットを深くして肩関節の安定性を高める役割を担っています。投球動作の遠心力や牽引力が繰り返し加わることで、この関節唇が剥がれたり、損傷したりするのが関節唇損傷です。特に、上腕二頭筋の腱が付着している上部の関節唇が損傷する「SLAP損傷」が多く見られます。

・上腕骨骨端線離開(リトルリーグ肩)

成長期の子ども特有の野球肩です。上腕骨の成長に関わる「骨端線(こつたんせん)」と呼ばれる成長軟骨の部分が、投球動作による繰り返しストレスで剥がれてしまう状態を指します。骨端線はまだ骨化が完了していない、骨の柔らかい部分であるため、過度な負担がかかると損傷しやすい傾向にあります。

これらの野球肩では、肩関節の可動域制限を伴うことも少なくありません。例えば、腕を上げにくくなったり、特定の方向に動かすと痛みが生じたりといった症状が現れます。投球選手における肩関節の可動域を改善する方法として、特殊な器具を用いて筋肉や腱、筋膜などの軟部組織の癒着を剥がす「インストゥルメントを用いた軟部組織モビライゼーション(IASTM)」が注目されています。あるシステマティックレビューでは、IASTMが受動的なストレッチと比較して、肩関節の内旋(うちせん)、クロスボディ内転(腕を体の反対側に持っていく動き)、そして肩全体の可動域(Total arc ROM)において、より優れた改善効果を示す可能性があると報告されています※。

ご自身の肩の痛みがどの種類の野球肩に該当するのか、そしてどのような治療が適切かについては、専門の医師にご相談ください。

野球肩の原因

野球肩は、肩関節に繰り返し大きな負担がかかることで起こります。投球動作は、肩の多くの組織にストレスを与えるため、いくつかの要因が重なることで、さまざまな損傷につながるのです。

野球肩のおもな原因は、次のとおりです。

・過度な使用(オーバーユース)

投球動作は、肩関節の腱や筋肉に微細な傷を与えます。これらの傷は、通常、十分な休息によって修復されます。しかし、練習量や試合数が多すぎたり、十分な休息が取れなかったりすると、傷の修復が追いつかず、蓄積された疲労やダメージが炎症や痛みを引き起こすのです。これは、肩の組織が回復能力を超えて酷使されている状態といえるでしょう。

・不適切な投球フォーム

誤った投球フォームで投げ続けると、肩の特定の部位に過剰な負荷が集中します。たとえば、肘が下がった投げ方や、体幹をうまく使えない投げ方は、肩関節への負担を増大させます。本来、投球動作は全身運動であり、体幹や下半身の力が腕へと効率よく伝わることで肩への負担が軽減されますが、フォームが崩れるとこの連動性が失われ、肩の組織に無理な力がかかりやすくなります。

・肩関節周囲の筋力不足や柔軟性の低下

肩関節の安定には、インナーマッスルと呼ばれる腱板(けんばん)の筋力が欠かせません。この腱板の筋力が不足していると、投球時に肩関節が不安定になり、余計な負担がかかります。また、肩や肩甲骨まわりの筋肉の柔軟性が低下していると、関節の可動範囲が狭まり、やはり無理な動きを強いられることで肩の組織にストレスが生じやすくなるものです。

・肩関節の可動域制限

肩関節の動きが制限されていることも、野球肩の重要な原因です。投球動作では、肩関節を大きく動かす必要があります。しかし、肩の可動域が十分に確保されていないと、無理な動きで投球することになり、特定の腱や関節唇に過度な負担が集中してしまうのです。これにより、インピンジメント症候群や腱板損傷、関節唇損傷といった具体的な障害につながる可能性があります。

ある研究では、投球選手において肩関節の可動域が制限されることは、肩に過度な負担をかけ、怪我につながる可能性が指摘されています※。

肩関節の可動域改善には、さまざまな方法がありますが、特殊な器具を用いて筋肉や腱、筋膜などの軟部組織の癒着を剥がす「インストゥルメントを用いた軟部組織モビライゼーション(IASTM)」という手法が注目されています。システマティックレビュー(複数の研究をまとめて分析する手法)によると、IASTMは、受動的なストレッチと比較して、肩関節の内旋(腕を内側にひねる動き)、クロスボディ内転(腕を体の反対側に持っていく動き)、そして肩全体の可動域(Total arc ROM)において、より優れた改善効果を示す可能性があると報告されています※。このことから、可動域制限が野球肩の原因となっている場合、IASTMのような専門的なアプローチも有効な選択肢の一つと考えられます。

野球肩の症状

野球肩の症状は、投球動作による肩への過度な負担が原因で現れる、さまざまな不調の総称です。単に肩の痛みに留まらず、投球パフォーマンスの低下など、競技生活に大きな影響を与える場合があります。

野球肩のおもな症状は、次のとおりです。

・投球時の痛み: ボールを投げる際に肩に痛みを感じる症状です。特に、腕を上げる動作やボールをリリースする瞬間に痛みが強くなるケースが多く見られます。

・投球後の痛みやだるさ: 練習や試合が終わった後も肩が痛んだり、重く感じたりすることがあります。これは、肩関節周囲の組織に炎症や筋肉疲労が蓄積しているサインと考えられます。

・肩の引っかかりやクリック音: 腕を特定の位置に動かしたとき、肩の関節内で引っかかりを感じたり、カクッという音が聞こえたりする場合があります。これは関節内の軟骨や腱に問題が生じている可能性を示すものです。

・球速の低下やコントロールの悪化: 肩の痛みや機能の低下が原因で、以前のように速い球が投げられなくなったり、狙ったところに投げられなくなったりします。これは、肩の安定性や運動連鎖が損なわれているために起こると考えられます。

・肩の可動域の制限: 腕を高く上げたり、背中側に回したりする動作がしにくくなることがあります。特に、投球動作に不可欠な肩の動きが制限されると、無理なフォームでの投球を招き、さらなる損傷につながるリスクがあります。

これらの症状は、肩関節インピンジメント症候群(SIS)をはじめとする複数の病態によって引き起こされます。特に、肩関節インピンジメント症候群(SIS)の高校生投手を対象とした研究では、肩甲骨周囲の筋肉を強化するエクササイズ(SFE)が、痛みの軽減と肩の機能改善に有効であることが示されています※。

この研究では、SFEに筋電図バイオフィードバック(EB)を併用した場合と、SFE単独で行った場合の効果が比較検討されています。筋電図バイオフィードバックとは、筋肉の活動を電気信号として可視化し、それをフィードバックすることで、より意識的に筋肉を動かす練習をサポートする手法です。研究の結果、EBを併用したグループでは、肩を90度外側に上げた位置での「中部僧帽筋(肩甲骨を安定させる重要な筋肉)」の筋活動が有意に向上しました※。

一方で、下部僧帽筋や前鋸筋といった他の肩甲骨周囲筋の活動、筋力、痛みの軽減度、および肩の機能スコアについては、EBの併用群とSFE単独群の間で同程度の改善が見られました※。このことから、EBの併用は特定の筋肉の活動を高める可能性はあるものの、セラピストによる指導のもとで行うSFE単独でも、臨床的に十分な改善効果が期待できることがわかっています※。

症状が進行すると、日常生活にも支障をきたす可能性があります。また、痛みを我慢しながら投球を続けると、症状が悪化してしまうことがあります。気になる症状がある場合は、自己判断せず、早めに専門医へ相談することが大切です。

野球肩の検査・診断

野球肩の症状でクリニックを訪れた際、医師はまず「あなたの肩で何が起きているのか」を正確に把握しようと努めます。痛みの根本的な原因を特定し、一人ひとりに合った治療計画を立てるために、複数の検査や診察を組み合わせて総合的に評価するものです。

具体的には、以下の3つの段階を経て診断を行います。

・問診(お話を聞くこと)

・身体診察(実際に肩を動かしたり触ったりすること)

・画像検査(レントゲンやMRIなど)

問診

問診では、医師が患者さんから症状について詳しくお話を伺います。いつ、どんな時に痛みを感じるようになったのか、どのような動作で痛みが強くなるのか、野球を始めてから、過去に肩や肘を痛めた経験はないかなどを確認するものです。

例えば、投球動作のどのフェーズで痛みが生じるかによって、損傷部位をある程度推測できるため、診断の大きな手がかりになります。些細なことと感じる情報でも、医師にとっては病態を解き明かす重要なヒントとなることがあります。

身体診察

次に、医師が患者さんの肩の動きや状態を直接確認します。視診、触診、可動域評価、筋力テスト、徒手検査などを通じて、肩のどこに問題があるのかを探ります。

身体診察では、次の点を確認します。

・視診と触診:肩の左右差、腫れ、赤みがないかを目で確認し、実際に肩を触って熱感や痛む場所がないかを調べます。肩のどの部分が痛むのかを把握することで、損傷が疑われる部位を絞り込みます。

・肩関節の可動域評価:腕を上げる、回すといった肩本来の動きがどの範囲までできるか、また痛みなく動かせるかを確認します。野球肩の患者さんでは、投球動作に必要な肩の可動域が制限されていることが少なくありません。可動域を正確に測ることで、肩のどの動きが不足しているのか、それが痛みにどう影響しているのかを把握する手がかりになります※。

・筋力テスト:肩関節の安定には、インナーマッスルと呼ばれる「腱板(けんばん)」の筋力が欠かせません。この腱板の筋力を細かく評価することで、特定の筋肉の弱さがないか、左右差がないかなどを確認します。筋力不足は、肩の不安定性や特定の部位への負担増大につながる可能性があります。

・徒手検査:医師が腕を動かしたり、抵抗をかけたりすることで、特定の組織に負荷をかけ、痛みの有無やその特徴を確認します。これにより、肩関節インピンジメント症候群(投球動作で肩の組織が挟み込まれる病態)や腱板損傷、関節唇(かんせつしん)損傷といった、疑われる病態をより具体的に絞り込むことができます。

特に肩関節インピンジメント症候群の場合、肩甲骨(けんこうこつ)まわりの筋肉(肩甲骨周囲筋)がうまく機能していないことが痛みの原因となっているケースも少なくありません。この肩甲骨周囲筋の働きを評価することも重要だと考えられています※。正しい肩甲骨の動きを取り戻すためのリハビリが、症状改善につながる可能性もあります。

画像検査

身体診察で疑われる病態に基づき、さらに詳しい情報を得るために画像検査を行います。

下表に主な画像検査とその役割をまとめました。

検査の種類 | 目的とわかること

X線(レントゲン)検査 | 骨の形に異常がないか、骨折や骨の出っ張り(骨棘:こつきょく)がないか、成長期であれば骨端線(こつたんせん)に異常がないかなどを確認します。主に骨の状態を調べるために行われる検査です。

MRI検査 | レントゲンでは見えにくい腱(けん)やじん帯、関節唇(かんせつしん)といった軟部組織の状態を詳しく調べるのに適しています。腱板損傷、関節唇損傷、滑液包(かつえきほう)の炎症など、痛みの具体的な原因を特定するために非常に有用な検査です。

超音波(エコー)検査 | 肩の腱や筋肉、じん帯の炎症、腫れの有無、また腱板の状態などをリアルタイムで確認できます。動かしながら検査ができるため、動きの中での問題点を見つけることにも役立ちます。

これら一連の検査と診察の結果を総合的に評価し、患者さんの野球肩がどのタイプで、どの程度の重症度なのか、そして何が根本的な原因となっているのかを特定します。この正確な診断こそが、一人ひとりの状態に合わせた、最適な治療計画を立てるための出発点となるのです。

野球肩の治療

野球肩の治療の最終目標は、肩の痛みをなくし、再び思い切りボールを投げられるようになることです。そのためには、単に痛みを和らげるだけでなく、肩の機能を根本から回復させ、再発を防ぎながら安全にスポーツ活動へ復帰することが欠かせません。

治療は、現在の痛みの程度や原因、患者さんの年齢、そしてどれくらい活動したいかといった希望に合わせて、一人ひとりに最適な計画が立てられます。

痛みが強い時期には、まずは炎症を抑えることが最優先です。安静にしたり、アイシングをしたり、必要に応じて痛み止めや湿布などの薬を使ったりして、肩の「火事」を鎮めます。この急性期の対応は、慢性化を防ぎ、その後の治療をスムーズに進めるために重要です。炎症が落ち着いてきたら、いよいよ本格的なリハビリテーションへと段階を進め、肩の柔軟性や筋力を向上させ、本来の機能を徐々に取り戻していきます。

1. 安静

痛みが強い時期は、肩に負担がかかる投球動作や重いものを持つ動作を控え、炎症の悪化を防ぎます。安静は、傷ついた組織の回復を促し、さらなる損傷を防ぐために最も基本的な治療法といえます。

2. 薬物療法

痛みや炎症を抑えるために、内服薬(痛み止めや消炎鎮痛剤)や外用薬(湿布や塗り薬)を使用します。これらの薬は、肩の不快な症状を一時的に和らげ、リハビリテーションなどの他の治療をより効果的に進める目的で選択されることがあります。

3. 物理療法

物理療法では、温熱療法で血行を促進したり、電気療法で痛みを和らげたりすることで、肩関節周囲の組織の回復をサポートします。筋肉のこわばりをほぐし、リラックス効果をもたらすことも期待できます。

4. リハビリテーション

リハビリテーションは、野球肩治療の核となるアプローチです。特に、肩関節を安定させる「土台」とも言える肩甲骨(けんこうこつ)周囲の筋肉を強化するエクササイズが重要視されます。肩甲骨の動きが安定することで、投球時に肩関節にかかる不必要な負担を減らし、スムーズな動作を取り戻せるからです。

例えば、肩関節インピンジメント症候群(投球時に肩の組織が挟まれて痛みが出る状態)の高校生投手を対象とした研究では、肩甲骨周囲筋のエクササイズ(SFE)を行うことで、筋力の向上、痛みの軽減、そして肩の機能改善が確認されました。さらに、筋肉の動きを電気信号で可視化する「筋電図バイオフィードバック(EB)」を併用すると、特定の筋肉(特に中部僧帽筋)の活動をより効果的に高められる可能性が示されています。しかし、この研究では、理学療法士などの専門家による適切な指導のもとでSFE単独を行っても、EBを併用しない場合と遜色ない十分な改善効果が得られることがわかっています※。

また、野球肩の患者さん、特に投球動作を多く行う選手の場合、肩関節の可動域(動かせる範囲)が狭くなりがちです。この可動域の制限が投球フォームの崩れや、特定の部位への負担増大につながるため、これを広げるアプローチも欠かせません。

システマティックレビュー(複数の研究をまとめて分析する手法)によると、「インストゥルメントを用いた軟部組織モビライゼーション(IASTM)」という特殊な器具を使った治療法は、通常の受動的なストレッチと比較して、肩を内側にひねる動き(内旋)、腕を体の反対側に持っていく動き(クロスボディ内転)、そして肩全体の可動域(Total arc ROM)をより効果的に改善できる可能性が報告されています※。IASTMは、筋肉や腱、筋膜などの軟部組織の癒着(ゆちゃく)を剥がすことで、肩の動きを滑らかにし、投球動作の改善に役立つと考えられています。

リハビリテーションの主な内容は以下のとおりです。

・ストレッチ:硬くなった肩関節やその周囲の筋肉、腱(けん)の柔軟性を高め、可動域を広げます。投球動作の質を高めるためにも重要な要素です。

・筋力トレーニング:肩関節を安定させる「インナーマッスル」と呼ばれる腱板(けんばん)や、肩甲骨周囲の筋肉を強化します。これにより、肩関節の安定性が向上し、投球時の負担を軽減できる可能性があります。

・動作指導:理学療法士などが、現在の投球フォームや日常生活での体の使い方を評価し、肩に負担をかけにくい動きや正しい姿勢を指導します。体の使い方を見直すことで、再発予防にもつながると考えられています。

5. 注射療法

痛みが非常に強い場合や、炎症が保存療法でなかなか治まらない場合に、炎症を抑える目的でステロイドなどの薬剤を肩関節周囲に注射することがあります。これにより、局所的な痛みを効果的に抑え、リハビリテーションを円滑に進めるきっかけとなる可能性もあります。

6. 手術療法

保存的治療を一定期間続けても改善が見られない場合や、腱板の完全断裂、関節唇の広範囲な損傷など、明らかな構造上の問題があり、それが痛みの原因となっている場合に検討されます。手術は最後の選択肢として、患者さんの状態と希望を考慮して行われます。

野球肩の治療は、一人で抱え込まず、整形外科医や理学療法士などの専門家とともに、計画的に進めることが非常に重要です。自己判断で治療を中断したり、痛みを我慢して無理にスポーツ活動を再開したりすると、症状が悪化したり、残念ながら再発につながったりするリスクが高まります。

あなたの肩の状態、野球への情熱、そして目指すゴールは、一人ひとり異なります。最適な治療計画を立て、再びグラウンドで輝くためにも、まずは専門の医療機関を受診し、ご自身の状態についてしっかり相談してみることをおすすめします。