原因不明の腹痛や下痢が長引いていたり、健康診断で肝臓やコレステロールの数値異常を指摘されたりした経験はありませんか。その一見よくある不調の裏に、約20万人に1人という、非常にまれな遺伝性の病気「酸性リパーゼ欠損症」が隠れているかもしれません。
この病気は、体内で脂肪を分解する大切な酵素が生まれつきうまく働かず、肝臓や血管に脂肪が蓄積してしまうものです。赤ちゃんの頃に重い症状が現れるケースから、大人になるまで自覚症状がなく、気づかないうちに肝硬変や動脈硬化が進むケースまで、その現れ方はさまざまです。
この記事では、見過ごされやすい酸性リパーゼ欠損症について、その原因や症状、最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身やご家族に思い当たる点がないか、ぜひ確認してみてください。
酸性リパーゼ欠損症の概要
私たちの体の中には「酸性リパーゼ」という酵素があります。 この酵素は、細胞の中にある不要な脂肪分を分解する働きを担います。 酸性リパーゼ欠損症は、この酵素の働きが生まれつき弱い病気です。
酵素がうまく働かないと、分解できなかった脂肪が体のあちこちに蓄積します。 脂肪がたまる主な場所は肝臓や脾臓(ひぞう)、血管などです。 その結果、体にさまざまな不調を引き起こす可能性があります。
特に、お腹の痛みや下痢、栄養吸収不良といった消化器の症状は、この病気の重要なサインです。 しかし、これらの症状は他の病気でもよく見られるため、すぐには原因がわからないことも少なくありません。 消化器の症状が、病気の診断より先に見つかることもあり、診断の遅れにつながるケースも報告されています。
この病気のポイントを以下にまとめます。
- 原因 遺伝子の情報をもとに作られる「酸性リパーゼ」という酵素の働きが弱いことです。
- 体で起こること 分解できない脂肪が肝臓や脾臓、消化管などにたまります。
- 頻度 約20万人に1人といわれる、非常にまれな病気です。
原因不明の肝臓の不調や、長引くお腹の症状に悩んでいる場合は、この病気の可能性も考えて検査をすることが大切です。
酸性リパーゼ欠損症の種類
酸性リパーゼ欠損症は、症状があらわれる時期や重さによって、主に2つのタイプに分けられます。 同じ病気でも、タイプによって経過が大きく異なるのが特徴です。
1. 乳幼児期発症型(にゅうようじきはっしょうがた)
以前は「ウォルマン病」と呼ばれていた、症状が重いタイプです。
- あらわれる時期 生まれてから数週間以内という、非常に早い時期に症状が出始めます。
- 主な症状 嘔吐や下痢が続いたり、おなかが大きくふくらんだりします。 また、ミルクを飲んでも体重がなかなか増えないのも特徴です。
- 特に注意すべき点 症状の進行がとても速く、適切な治療を受けないと、赤ちゃんの成長に深刻な影響をおよぼします。 近年の研究では、このタイプは予後が早期の治療開始と直接関係することがわかっています。 できるだけ早く治療を始めることが非常に重要です。
2. 遅発型(ちはつがた)
「コレステロールエステル蓄積症」とも呼ばれるタイプです。 症状がゆっくりとあらわれるため、気づきにくいことがあります。
- あらわれる時期 子どものころから大人になって、初めて病気が見つかることもあります。
- 主な症状 はっきりとした症状がない場合も少なくありません。 健康診断の血液検査で、肝臓の数値やコレステロール値の異常を指摘されて気づかれるケースが多いです。
- 特に注意すべき点 症状はゆっくり進みますが、気づかないうちに肝臓の状態が悪化し、肝硬変に至ることもあります。 また、動脈硬化が進み、心臓や脳の血管の病気につながる可能性もあります。
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タイプのちがい
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乳幼児期発症型(ウォルマン病)
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遅発型(コレステロールエステル蓄積症)
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症状があらわれる時期
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生後数週間以内
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小児期~成人期
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症状の重さ
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重い
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比較的おだやか
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進行のはやさ
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速い
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ゆっくり
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治療の緊急性
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非常に高い
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早期発見・継続的な管理が重要
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酸性リパーゼ欠損症の原因
この病気の原因は、私たちの体の設計図である「遺伝子」にあります。 たくさんの遺伝子の中でも「LIPA遺伝子」という特定の遺伝子に、生まれつき変化があることで起こります。
LIPA遺伝子の役割は、ある特別な酵素(こうそ)をつくることです。
- 酵素とは? 体の中で、食べ物を分解したりエネルギーを作ったりするのを助ける「はたらきもの」です。
- 酸性リパーゼという酵素の役割 細胞の中にある、いらなくなった油(脂肪)をお掃除する役割を担っています。
LIPA遺伝子という設計図に変化があると、お掃除役の酸性リパーゼがうまく作られません。 または、作られても十分に働くことができなくなってしまいます。 その結果、分解されなかった油が肝臓や脾臓(ひぞう)などにたまっていくのです。
この遺伝子の変化には多くの種類があり、今でも新しいタイプが見つかっています。 実際に2023年の研究では、これまで知られていなかった新しいLIPA遺伝子の変化が報告されました。
また、この病気は症状が他の重い病気と似ているため、診断が難しい場合があります。 そのため、遺伝子の状態を詳しく調べる検査が、正しい診断には非常に重要です。 なお、原因は遺伝子なので、男女でかかりやすさに違いはありません。
酸性リパーゼ欠損症の症状
この病気は、体の中に分解できなかった脂肪がたまることで症状があらわれます。 症状のあらわれ方や重さによって、大きく2つのタイプに分けられます。
特に、お腹の痛みや下痢、栄養がうまく吸収できないといった消化器の症状がよく見られます。 しかし、これらの症状は他の病気でも起こるため、すぐには原因がわからないことも少なくありません。 近年の研究では、消化器の不調が病気の診断より先に見つかる場合もあると報告されています。
重症型:乳幼児期発症型(ウォルマン病)
生まれてすぐの赤ちゃんに、重い症状があらわれるタイプです。
- あらわれる主な症状 生後数週間から、嘔吐や下痢が続きます。 肝臓や脾臓(ひぞう)が腫れて、お腹が大きくふくらむことも特徴です。 ミルクを飲んでも体重が増えず、成長が遅れてしまうこともあります。 その他、貧血や発熱、黄疸(おうだん)が見られることもあります。
特に注意が必要なのは、症状が「血球貪食症候群(けっきゅうどんしょくしょうこうぐん)」という別の重い病気と似ている点です。 血球貪食症候群は、体の中で過剰な炎症が起こる病気です。 症状が似ているため診断が遅れると、命に関わる事態になりかねないと警鐘を鳴らす報告もあります。
遅発型(コレステロールエステル蓄積症)
子どものころから大人になって、初めて症状に気づかれるタイプです。
- あらわれる主な症状 はっきりとした自覚症状がない場合も少なくありません。 健康診断の血液検査で、肝臓の数値の異常を指摘されて見つかることが多いです。 悪玉コレステロール(LDL)値が高く、善玉コレステロール(HDL)値が低いのも特徴です。
症状はゆっくり進みますが、気づかないうちに肝臓の状態が悪化し、肝硬変に至ることもあります。 また、動脈硬化が進みやすく、心筋梗塞や脳卒中といった血管の病気につながる可能性もあります。 原因不明の肝臓の不調や、長引くお腹の症状がある場合は、この病気の可能性も考えることが大切です。
酸性リパーゼ欠損症の検査・診断
この病気が疑われる場合、いくつかの検査を組み合わせて診断します。 体の状態を詳しく調べるため、慎重に検査を進めていきます。 診断で特に大切なのが、血液を使った検査です。
血液検査:酵素の働きぐあいを調べる
血液の中にふくまれる「酸性リパーゼ」の働きを測定します。 この酵素の働きがとても弱い場合、診断の大きな手がかりになります。 最近の研究では、迅速で信頼できる検査方法が推奨されています。
指先などから少しの血液をとり、ろ紙にしみこませて調べる方法です。 この「乾燥血液スポット」という方法は、体への負担が少ない検査です。 赤ちゃんのタイプでは予後が早期治療と深く関わるため、特に重要です。
次のような場合は、この病気を疑って検査をすることがあります。
- 肝臓の数値の異常 太っていないのに、肝機能を示す数値の異常が続く場合
- コレステロール値の異常 悪玉(LDL)コレステロールが高く、善玉(HDL)コレステロールが低い場合
- 家族の病歴 ご家族に、原因がはっきりしない肝臓の病気の方がいる場合
その他の検査
診断をより確かにし、体の状態を詳しく把握するために行います。 血液検査のほかに、以下のような検査を組み合わせることがあります。
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検査の種類
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どんなことを調べるの?
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遺伝子検査
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病気の原因となるLIPA遺伝子に、生まれつきの変化がないか調べます。
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画像検査
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超音波(エコー)やCT検査で、肝臓や脾臓(ひぞう)の腫れや脂肪のたまり具合を確認します。
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肝生検(かんせいけん)
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肝臓の組織を少し取り、顕微鏡で観察します。似た症状の病気と見分けるために行うことがあります。
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これらの検査結果を総合的にみて、専門の医師が最終的な診断をします。 特に赤ちゃんの時期に発症するタイプでは、早期診断が命を守る鍵となります。
酸性リパーゼ欠損症の治療
この病気の治療は、原因に直接働きかける方法が中心です。 近年、新しいお薬の登場で治療法が進歩しています。 一人ひとりの状態に合わせて、最適な治療計画を立てます。
酵素補充療法(こうそほじゅうりょうほう)
治療の主役となるのが、この「酵素補充療法」です。 体の中で足りなくなった「酸性リパーゼ」という酵素を、お薬で補います。 「セベリパーゼアルファ」というお薬を、定期的に点滴で体に入れます。 お薬が体にたまった余分な脂肪の分解を助けてくれます。
特に、赤ちゃんの頃に症状があらわれる重いタイプでは、一刻も早い治療が大切です。 治療を早く始めることが、その後の成長に大きく関わると報告されています。 診断されたら、すぐに治療を開始することが非常に重要です。
食事の工夫(食事療法)
お薬の治療と合わせて、食事内容を工夫することも大切です。 体に脂肪がたまりすぎないよう、脂肪分の少ない食事を心がけます。 専門家と相談しながら、栄養のバランスをしっかりと管理します。 これにより、お薬の治療効果を高めることが期待できます。
その他の治療法
症状に応じて、以下のような治療法を組み合わせることがあります。
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治療法
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どんな時に使われるの?
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お薬による治療
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血液中のコレステロール値を下げるお薬(スタチンなど)が使われることがあります。
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移植治療
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症状がとても重く、他の治療で効果が十分でない場合に、肝臓や血液を作る細胞の移植が考えられます。
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どの治療法を選ぶかは、体の状態や病気のタイプによって異なります。 専門の医師とよく相談しながら、ご自身に合った治療を進めていきましょう。