ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症

新生児マススクリーニングでお子さんに異常が指摘され、「ガラクトース血症」という病名に戸惑いや不安を感じていませんか。日本では約90万人に1人とされる稀な疾患のため、情報が少なく、生涯にわたる食事制限や将来の合併症に心配を抱える方も少なくありません。

この記事では、ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症の原因や症状、治療法を詳しく解説します。特に、治療の根幹である食事療法を続ける上での課題や、発達、女性の卵巣機能といった長期的な合併症についても触れていきます。

本記事を通じて病気の全体像を正しく理解し、今後の治療と生活の見通しを立てることができます。ご本人とご家族が前向きに病気と向き合い、周囲のサポートを得ながら歩んでいくために必要な、具体的な知識を得られるでしょう。

ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症の概要

ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(GALT)欠損症とは、生まれつき特定の酵素の働きが弱いために、母乳やミルクに含まれる「ガラクトース」という糖を分解できず、体に有害な物質が蓄積してしまう疾患です。

この病気は「ガラクトース血症I型」とも呼ばれ、日本では新生児マススクリーニングの対象疾患に含まれています。もし治療が遅れると、哺乳を開始して間もなく、哺乳不良や嘔吐、黄疸、肝機能障害といった深刻な症状が現れ、命を落とす危険性もあります。

治療の基本は、原因となるガラクトースを食事から取り除く「ガラクトース除去食」を、診断後すぐに開始し、生涯にわたって続けることです。早期に適切な治療を始めれば、命に関わるような重い症状は防げます。しかし、それでも長期的に見ると、神経系の発達や女性の卵巣機能に影響が及ぶ可能性があることがわかっています。

生涯にわたる食事管理は、単に本人の意思の力だけで続けられるものではありません。食事制限による心理的な負担、成長に伴う認知機能の変化といったご本人の課題に加え、ご家族の関わり方、専門的なケアへのアクセスのしやすさや医療機関による指導内容のばらつきも、治療の継続性に大きく影響します。

さらに、学校生活や社会活動への参加における障壁など、地域社会や構造的な要因も絡み合ってくるため、治療を続けるには多角的な支援が不可欠といえます※。

ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症の種類

ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(GALT)欠損症は、体内で糖の一種である「ガラクトース」をうまく処理できなくなる「先天性高ガラクトース血症」という病気群の1つです。

この病気は、「ガラクトース血症I型」または「古典的ガラクトース血症」とも呼ばれています。

先天性高ガラクトース血症は、どの酵素の働きが弱いかによって、主に4つのタイプに分けられます。下表にその分類を整理しました。

型 | 一般的な名称 | 欠損している酵素

I型 | 古典的ガラクトース血症 | ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(GALT)

II型 | ガラクトキナーゼ欠損症 | ガラクトキナーゼ(GALK)

III型 | UDPガラクトース-4-エピメラーゼ欠損症 | UDPガラクトース-4-エピメラーゼ(GALE)

IV型 | ガラクトースムタロターゼ欠損症 | ガラクトースムタロターゼ(GALM)

このうち、I型である本疾患が最も発症頻度が高く、症状も重篤になることが知られています。

これは、ガラクトースの代謝経路において、GALT酵素が中心的な役割を担っているためです。GALTが働かないと、体に有害な「ガラクトース-1-リン酸」が直接蓄積してしまい、全身に深刻なダメージを与えます。

一方で、II型は主に白内障が問題となり、III型は症状が非常に軽いケースから重いケースまでさまざまであるなど、型によって臨床像が大きく異なります。

ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症の原因

ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症は、GALT遺伝子の変異によって引き起こされる、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式の疾患です。

私たちの体は、父親と母親から1つずつ、対になる遺伝子情報を受け継いでいます。

この病気の場合、ご両親がそれぞれ症状の出ない「変異遺伝子」を1つずつ持っている(保因者)と、お子さんには4分の1の確率でその変異遺伝子が2つ揃って受け継がれ、発症に至ります。

GALT遺伝子は、私たちが食事から摂った糖の一種「ガラクトース」をエネルギーに変えるために不可欠な「ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(GALT)」という酵素の設計図の役割を担っています。

この設計図にエラー(遺伝子変異)があると、酵素が正常に作られなかったり、作られても働きが極端に弱くなったりします。

その結果、行き場を失ったガラクトースは、体内で毒性を持つ「ガラクトース-1-リン酸」という物質に姿を変えて、さまざまな臓器に蓄積します。

この毒性物質が、新生児期には肝臓や腎臓に深刻なダメージを与え、長期的に見ると脳の神経細胞にも影響を及ぼすと考えられています。

特に、女性の患者さんに高い頻度で見られる長期合併症の「早発卵巣機能不全(POI)」も、このガラクトース-1-リン酸の蓄積が卵巣にダメージを与えることなどが一因とされています※。

ただし、なぜPOIが起きるのか、その詳細なメカニズムはまだ完全には解明されていません。遺伝子の変異タイプや血中のガラクトース値と、卵巣機能のダメージ度合いには個人差が大きいこともわかっています※。

日本における発症頻度は約90万人に1人と報告されており、極めてまれな疾患といえます。

ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症の症状

ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症の症状は、治療が間に合わなければ命に関わる「急性期」の症状と、治療を続けていても課題となる「慢性期」の合併症に分けられます。

急性期の症状(新生児期)

通常、母乳やミルクを飲み始めてから数日〜1週間ほどで、以下のような症状が現れます。

・元気がない、機嫌が悪い

・嘔吐や下痢を繰り返す

・体重がなかなか増えない

・皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)

・肝臓が腫れる

・目が白く濁る(白内障)

これらの症状は、体内に蓄積した毒性物質「ガラクトース-1-リン酸」が、肝臓や腎臓、脳などにダメージを与えることで引き起こされます。

特に注意が必要なのが、大腸菌などによる重い感染症(敗血症)です。

血中のガラクトース濃度が高い状態は、細菌にとって格好の繁殖環境となるため、急激に全身状態が悪化し、命を落とす危険性があります。

これらの急性症状は、一刻も早く診断を受け、原因となるガラクトースを含まないミルク(特殊ミルク)に切り替えることで、改善が見込めます。

慢性期の症状(長期合併症)

早期に適切な食事療法を開始し、急性期の危険な状態を乗り越えたとしても、成長とともに以下のような慢性的な合併症が課題となることがあります。

・発達の遅れ(特に言語発達)

・ふるえやふらつきなどの運動症状

そして、女性の患者さんにとって特に大きな問題となるのが、卵巣の働きが早くに低下してしまう「早発卵巣機能不全(POI)」です。

この合併症は、女性患者さんの約8〜9割にみられるといわれています。

POIが起こると、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が不足するため、骨がもろくなるリスクが高まります。そのため、ホルモン補充療法やカルシウムの積極的な摂取が検討されます※。

かつて、この病気の女性が妊娠することは極めて難しいと考えられていました。

しかし最近の研究では、必ずしも自然妊娠が不可能ではないことがわかってきています。妊娠を試みた患者さんのうち、約30%が1年以内に、約50%が2年以内に妊娠に至ったという報告もあります※。

思春期を迎える前からAMH(抗ミュラー管ホルモン)という、卵巣に残っている卵子の数の目安となる数値を定期的に調べることで、将来の卵巣機能がある程度予測できる可能性も示唆されています※。

ただし、なぜPOIが起こるのか、その詳しいメカニズムはまだ完全には解明されていません。遺伝子の変異タイプや血中のガラクトース値と、卵巣機能のダメージ度合いには個人差が大きいこともわかっています※。

ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症の検査・診断

ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症の診断は、生後すぐに行われる新生児マススクリーニングを起点とし、精密検査を経て確定されます。

まず、最初のステップとなるのが「新生児マススクリーニング検査」です。

日本では、生まれてきたすべての赤ちゃんを対象に、いくつかの生まれつきの病気を早期に発見する公的な検査が行われており、この病気もその一つに含まれます。

検査では、生後数日の赤ちゃんの足のかかとからごく少量の血液を採取し、ろ紙にしみこませます。

この血液を用いて、「ボイトラー法」などの手法でガラクトースの分解に不可欠な酵素(GALT)の働き(活性)を調べ、活性の低下が疑われると精密検査の案内が届きます。

精密検査では、以下の検査を組み合わせて診断を確定します。

・血液検査

赤血球中のGALT酵素の活性が本当に低いのかを直接測定します。同時に、体内に毒性を持つ「ガラクトース-1-リン酸」が異常に蓄積していないかを確認します。一般的に、この値が15mg/dL以上あると異常と判断されます。

・遺伝子解析

GALT酵素の設計図であるGALT遺伝子に、病気の原因となる変異がないかを確認し、最終的な確定診断に至ります。

診断が確定した瞬間から、生涯にわたる「ガラクトース除去食」という食事療法が始まります。

この食事療法を続けることは、決してご本人の意志の力だけで乗り越えられるものではありません。食事制限による心理的な負担、ご家族の関わり方、そして学校や社会生活における周囲の理解など、さまざまな要因が複雑に絡み合ってくるためです※。

だからこそ、診断を受けた時点から、医師や管理栄養士などの医療チーム、そしてご家族が連携し、これから始まる長い道のりを支える体制を一緒に作っていくことが重要です。

ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症の治療

ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症の治療は、原因となる「ガラクトース」を食事から徹底的に取り除く「ガラクトース除去食」を、生涯にわたって続けることが根幹です。

診断が確定したその瞬間から、治療は始まります。

まず、命に関わる急性症状を防ぐため、ただちに母乳や通常の粉ミルクを中止し、乳糖を含まない特殊ミルク(大豆乳やガラクトース除去ミルク)へと切り替えます。この迅速な対応が、新生児期の重篤な肝障害や感染症から赤ちゃんの命を守るために最も重要です。

症状が安定した後も、牛乳や乳製品、一部の豆類などを避ける食事管理を生涯続けます。

しかし、この長い道のりは、決してご本人の意思の力だけで乗り越えられるものではありません。

なぜ食事管理の継続が難しいのか。それは、単なる個人の努力の問題ではなく、以下のようなさまざまな要因が複雑に絡み合っているためです※。

・ご本人に関わる要因

食べたいものが食べられない心理的なストレスや、成長に伴う病気への理解度の変化など

・ご家族など対人関係の要因

ご家族の関わり方やサポートの度合いなど

・医療体制の要因

専門的な栄養指導を受けられる施設へのアクセスのしやすさや、医療機関による指導内容のばらつきなど

・社会・環境的な要因

学校給食や友人との外食など、社会生活を送る上での障壁

このように、治療の継続性を高めるには、ご本人とご家族、医師や管理栄養士などの医療チーム、そして学校や地域社会が一体となり、多層的な支援体制を築いていくことが不可欠です※。

食事療法と並行して、定期的な検査で体の状態を管理し、合併症に備えることも治療の重要な柱となります。

具体的には、血液検査で体内の毒性物質「ガラクトース-1-リン酸」の値をチェックし、ろ紙血で5mg/dL以下を目標にコントロールします。

あわせて、発達の状態や神経症状の有無、女性の場合は卵巣機能、骨密度などを定期的に評価します。

また、日常生活で見落としがちな注意点として、医薬品の成分が挙げられます。

薬によっては、成分をつなぎ固める「賦形剤」として乳糖が使われている場合があるため、薬を処方してもらう際や市販薬を購入する際は、必ず医師や薬剤師に相談する習慣をつけてください。