卵巣茎捻転
突然の激しい下腹部痛や吐き気、発熱に、原因がわからず不安を感じていませんか?特に、お子さんの急な体調不良に、どう対応すべきか悩む保護者の方もいるかもしれません。
卵巣茎捻転は、卵巣がねじれることで突然の激痛を引き起こす、緊急性の高い病気です。超音波検査の感度が78.6%、特異度92.4%とされます。しかし診断には複数の要素からの総合的な判断が必要です。この記事では、この病気の原因や症状、診断から治療までを詳しく解説します。
この情報を通じて、もしもの時に適切な行動が取れるよう、冷静な判断の一助となるでしょう。早期の受診と診断が、卵巣の機能温存につながる可能性があります。
卵巣茎捻転の概要
卵巣茎捻転(らんそうけいねんてん)は、卵巣とそれを支える靭帯(じんたい)や血管などを含む「付属器(ふぞくき)」が、その根元でねじれてしまう病気です。このねじれによって卵巣への血液の流れ(血流)が滞り、突然の激しい腹痛を引き起こすことが特徴で、迅速な対応が求められる緊急性の高い状態だといえます。
ねじれた状態が続くと、卵巣に血液が届かなくなり、組織が壊死(えし:細胞が死んでしまうこと)してしまうおそれがあります。卵巣の機能(例えば、女性ホルモンを分泌する、卵子をつくるなど)を温存するためには、できるだけ早く病気を見つけて治療を開始することが極めて重要です※。
特に小児の場合、カラードップラー超音波検査という画像診断が、卵巣のねじれを調べるために広く用いられています。この検査は高い精度で捻転を見つけることができるものの、たとえ超音波で血流が確認されたとしても、完全にねじれがないとは言い切れません※。そのため、検査結果だけでなく、患者さんの症状や診察所見などを含めた医師の総合的な判断が、診断においては非常に大切です。
診断が難しいケースでは、造影超音波検査(ぞうえいちょうおんぱけんさ)といった新しい検査方法にも注目が集まっています。これは、従来の超音波検査ではわかりにくい血流の状態をより詳しく評価できるため、誤った診断による不要な緊急手術を減らせる可能性が期待されています※。
卵巣のねじれを元に戻す手術を受けた後、特に小児では、卵巣固定術(らんそうこていじゅつ)を行うことで、再びねじれてしまう(再発)リスクを低減できる可能性が示唆されています※。
卵巣茎捻転の種類
卵巣茎捻転は、ねじれる部位やその原因、そしてねじれの程度によっていくつかのタイプに分類されます。それぞれのタイプを知ることは、病気への理解を深めることにつながります。
卵巣茎捻転は、大きく以下の3つのタイプに分けられます。
・付属器捻転
・原発性卵巣茎捻転(POT)
・卵巣のう腫などが原因の捻転
また、ねじれの程度によっても「完全捻転」と「部分捻転」に区別されます。
付属器捻転
付属器捻転は、卵巣だけでなく、卵管(卵子を子宮へ運ぶ管)も一緒にねじれてしまうタイプです。特に小児の付属器捻転の場合、カラードップラー超音波検査は救急診療において第一選択として活用される重要な画像診断法です※。この検査は高い精度(特異度92.4%)で捻れを見つけることができます。
しかし、超音波で卵巣への血流が確認されたとしても、完全に捻れがないとは言い切れない場合もあります(感度78.6%)※。また、思春期の患者さんでは、小児期に比べて超音波検査の感度が低下する傾向にあり、診断には医師の総合的な判断がより一層重要になります※。
原発性卵巣茎捻転(POT)
原発性卵巣茎捻転(POT: Primary Ovarian Torsion)は、卵巣そのものに、ねじれの原因となるような明らかな病変(例えば卵巣のう腫など)が見当たらないのに捻れが起こるタイプです。比較的、小児に多く見られる種類のひとつとされています※。
初めての卵巣茎捻転の場合、ねじれを元に戻す手術(捻転解除術)と同時に、卵巣を腹壁に固定する「卵巣固定術」を行うことで、再び捻れてしまう「再発」のリスクを低減できる可能性があります※。ある報告では、捻転解除術のみを行った場合の再発率が17.3%であったのに対し、卵巣固定術を併用すると再発率が4.9%に低下する傾向が示されています※。
卵巣のう腫などが原因の捻転
卵巣茎捻転の中には、卵巣にできた良性の腫瘍である「卵巣のう腫」などが、その大きさや形状、重さの変化によって卵巣をねじれさせてしまうケースもあります。このタイプでは、病変自体が捻転の直接的な原因となるため、卵巣のう腫の治療も同時に考慮されることが多いです。
ねじれの程度の違い
卵巣茎捻転は、ねじれの程度によっても二つのタイプに分類されます。
・完全捻転: 卵巣への血液の流れが完全に遮断されてしまう状態です。
・部分捻転: ねじれが部分的で、血流が完全に途絶えていない状態を指します。
部分捻転は、症状が断続的に現れたり、超音波検査でも血流が確認されたりすることがあるため、診断が難しい傾向があります。このような診断の難しさを解消するため、現在では造影超音波検査(CEUS)という新しい検査法が、この部分捻転を含む診断精度の向上に貢献できるかどうかが注目されています。これにより、誤った診断による不要な緊急手術を減らせる可能性も期待されているところです※。
卵巣茎捻転の原因
卵巣は、子宮の左右に位置し、靭帯(じんたい)と呼ばれる細いひも状の組織でぶら下がるように支えられています。この構造から、卵巣やその周辺組織に何らかの変化が起こると、根元部分が回転してねじれてしまうことがあります。これが卵巣茎捻転が起こるメカニズムです。ねじれることで、卵巣へ血液を送る血管が圧迫され、血流が悪くなり、卵巣組織がダメージを受けてしまうと考えられています。
特に一度ねじれた卵巣は、病変がなくても再びねじれてしまう「再発」のリスクがあることがわかっています。小児の原発性卵巣茎捻転(卵巣自体に異常がないのに捻れるケース)では、ねじれを元に戻す手術(捻転解除術)のみを行った場合の再発率が17.3%であったのに対し、卵巣を腹壁に固定する「卵巣固定術」を併用すると、再発率が4.9%に低下する傾向が示されています※。
では、具体的にどのような要因が卵巣のねじれを引き起こすのでしょうか。主な原因は次のとおりです。
・卵巣の腫大(しゅだい): 卵巣嚢腫(のうしゅ)などにより卵巣が通常より大きく、重くなると、その重さで重心が変わり、ぶら下がっている卵巣が不安定になります。特に直径5センチメートルを超える嚢腫がある場合、捻転のリスクが高まると考えられています。
・妊娠: 妊娠中は、女性ホルモンの影響で骨盤内の靭帯が緩みやすくなります。また、子宮が大きくなることで卵巣の位置が通常とは異なる場所に移動し、ねじれのきっかけとなることがあります。
・卵巣過剰刺激症候群: 不妊治療において、排卵誘発剤の使用などにより卵巣に強い刺激が加わると、卵巣が著しく腫れ上がることがあります。この状態は、卵巣茎捻転を引き起こすリスクを高めます。
・急激な体動: 体を急に動かしたり、激しい運動をしたりした際に、腹腔内で卵巣が大きく動き、まれにねじれることがあります。これは単独で起こるよりも、他の要因と重なって発生することが多いでしょう。
・先天的な要因: 生まれつき卵巣を支える靭帯が長かったり、結合組織が緩かったりする体質の方もいます。このような場合、卵巣がより動きやすく、捻転しやすい傾向があるといえます。
卵巣茎捻転の症状
卵巣茎捻転が起こると、卵巣への血流が阻害されるため、特徴的な強い下腹部痛をはじめ、いくつかの身体的な反応が現れます。この病気は、放置すると卵巣の組織が壊死してしまう可能性があり、迅速な診断と治療が求められます※。
卵巣茎捻転が疑われる主な症状は次のとおりです。
・激しい下腹部痛
最も特徴的なのは、突然襲ってくる激しい下腹部痛です。痛みは、卵巣がある下腹部の片側に現れることが一般的です。これは、卵巣がねじれることで血流が妨げられ、卵巣組織が酸素不足に陥るためです。ねじれが一時的に解消されると痛みが和らぎ、再びねじれると強くなる、といった間欠的な痛みを訴える方もいます。
・吐き気・嘔吐
激しい痛みは自律神経を刺激し、吐き気や嘔吐を引き起こすことがあります。食欲不振を伴うケースも少なくありません。
・発熱
ねじれによって血流が途絶え、卵巣組織の一部が壊死(えし:細胞が死ぬこと)したり、感染症を併発したりすると発熱が見られます。ただし、発熱がなくても卵巣茎捻転の可能性は十分にあるため、症状の有無だけで判断することはできません。
特に小児、乳幼児は、お腹の痛みを明確に言葉で伝えられないため、保護者や周囲の人の注意深い観察が欠かせません。激しい不機嫌や食欲不振、いつもよりぐったりしているなど、普段と違う様子が見られたら、卵巣茎捻転の可能性も視野に入れ、速やかに医療機関を受診しましょう。思春期の患者さんの場合は、小児期に比べて超音波検査の診断精度が低下する傾向があるため、医師の総合的な判断がより重要になります※。これらの症状は、他の腹部の病気と似ていることも多いため、自己判断はせずに、必ず医師の診察を受けてください。
卵巣茎捻転の診断は、患者さんの緊急性を考慮し、症状や身体診察、そして画像検査の結果を総合的に判断して迅速かつ正確に行われることが求められます。
卵巣茎捻転が疑われる場合、まず患者さんの激しい下腹部痛や吐き気といった症状を詳しく伺い、お腹を触る診察で痛みの部位や圧痛を確認します。その後、体への負担が少ない超音波検査が広く実施されます。特に、卵巣へ血液が流れているかを評価できるカラードップラー超音波検査は、小児の卵巣や付属器の捻転において、高い確率で正確に診断できる(特異度92.4%)ため、救急現場で第一選択の画像検査として活用されています※。これは、従来のグレースケール超音波単独での診断に比べ、血流を可視化できるカラードップラーを併用することの重要性を示唆しています※。
しかし、超音波検査だけで卵巣茎捻転の全てがわかるわけではありません。例えば、超音波検査で卵巣に血流が保たれているように見えても、捻転を完全に否定できるわけではありません。実際には捻転している可能性も残るためです(感度78.6%)※。そのため、医師が卵巣茎捻転を強く疑う場合は、画像検査の結果のみに頼らず、患者さんの症状や診察所見と合わせて、すぐに手術が必要かどうかの判断を迅速に行うことが重要です。
これまでの超音波検査では、卵巣茎捻転の診断が難しいケースがあり、時には誤診や不必要な緊急手術につながるリスクも指摘されてきました※。このような課題を解決するため、造影剤を用いて血流の状態をより詳細に評価する「造影超音波検査(CEUS)」という新しい診断方法の有効性に関心が集まっています※。このCEUSは、従来の診断法に加えることで、血流評価を向上させ、診断精度を高めて不要な緊急手術を減らせる可能性が期待されています。現在、このCEUSが不適切な手術の割合をどれだけ削減できるかを検証するランダム化比較試験(COVARIAN試験)も進行しており、今後の診断精度の向上に貢献するかもしれません※。
このように、卵巣茎捻転の診断は単一の検査に頼るのではなく、患者さんの訴える症状、医師による身体診察、そして超音波検査などの画像診断の結果を多角的に、かつ迅速に評価することで成り立ちます。卵巣の機能温存のためにも、痛みを感じたらすぐに医療機関を受診し、これらの専門的な診断を仰ぐことが何よりも重要です。
卵巣茎捻転の治療
卵巣茎捻転の治療は、ねじれてしまった卵巣を元の位置に戻し、血流を再開させるための緊急手術が中心です。卵巣への血流が途絶えると、時間の経過とともに卵巣の組織が壊死するおそれがあるため、診断が確定したら速やかに治療を行うことが極めて重要です。
多くの場合、お腹に小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)が採用されます。この手術は、主に次の二つの目的があります。
・卵巣の温存: ねじれを解除し血流を再開させることで、卵巣を摘出せずに済むよう努めます。
・再発予防: 一度ねじれた卵巣は再発のリスクがあるため、予防策を講じることが検討されます。
手術の流れと卵巣の温存
手術では、まず腹腔鏡と呼ばれる細いカメラを挿入し、ねじれてしまった卵巣や卵管の状態を詳しく確認します。その後、医師は慎重に卵巣を元の位置に戻し、血流が再開するかどうかを丁寧に観察します。血流が戻り、卵巣が健康な状態を保てると判断された場合は、摘出せずに卵巣を温存します。これは、将来の妊娠や女性ホルモンの分泌など、卵巣が持つ大切な機能を守るために非常に重要なことです。
再発予防のための卵巣固定術
卵巣茎捻転は、一度発症すると再発する可能性も考えられます。そのため、予防策として「卵巣固定術(らんそうこていじゅつ)」が検討される場合があります。これは、卵巣を子宮や骨盤の内壁に縫い付けて固定する手術で、再びねじれてしまうリスクを減らすことを目指します。
特に、小児に多くみられる「原発性卵巣茎捻転(卵巣そのものに腫瘍などの病変がないのに捻れるタイプ)」の場合、この卵巣固定術の有効性が注目され、研究が進められています。ある報告によると、ねじれを元に戻す「捻転解除術(ねんてんかいじょじゅつ)」のみを行ったケースでは再発率が17.3%でしたが、捻転解除術と同時に卵巣固定術を行ったケースでは4.9%と、再発率が低い傾向にあることが示されました※。
ただし、この研究では統計学的な有意差(偶然ではないと科学的に言える差)が認められるまでには至っていません。そのため、現時点では、初回の卵巣茎捻転に対して「ルーチンな(常に全員に行う)」処置として卵巣固定術を強く推奨するには至りません※。しかし、卵巣固定術は、卵巣の血流やその後の発育に悪影響を及ぼすことなく再発リスクを低減できる可能性があり、再発を抑制するための有力な選択肢の一つとして期待されています。個々の患者さんの状態に合わせて医師と十分に話し合い、治療方針を決定することが大切です。
卵巣の摘出が必要なケース
残念ながら、卵巣のねじれが長時間続き、血流が完全に途絶えてしまった場合、卵巣の組織が壊死(えし:細胞が死んでしまうこと)することがあります。このような壊死した組織を体内に残しておくと、感染症などの合併症を引き起こすおそれがあるため、卵巣を摘出する必要が生じます。医師は、患者さんの卵巣の状態を慎重に評価し、温存が難しいと判断した場合にのみ、摘出を選択します。










