卵巣嚢腫

健康診断で卵巣嚢腫を指摘され、漠然とした不安を抱いていませんか。卵巣嚢腫は卵巣にできる袋状のできものです。初期には自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに進行していることが多い疾患とされています。すべてが良性というわけではなく、中には卵巣がんへ移行する可能性を秘めたタイプもわずかながら存在する可能性があります。例えば、Struma ovariiと呼ばれる稀なタイプの卵巣嚢腫では、約5%が悪性化する可能性が報告されています[※]。

この記事では、卵巣嚢腫の概要、主な種類、原因、現れる症状、そして検査・診断から治療方法までを詳しく解説します。

ご自身の状態を深く理解し、適切な知識を得ることで不安を軽減できます。前向きに治療と向き合うための具体的なステップが見えてくるでしょう。

卵巣嚢腫の概要

卵巣嚢腫とは、女性特有の臓器である卵巣に発生する、液体や脂肪などが詰まった袋状のできものの総称です。卵巣の中に水や粘液、脂肪、髪の毛といった内容物が溜まり、卵巣が大きく腫れてしまう状態を指します。

この卵巣嚢腫の多くは良性であり、悪性腫瘍(卵巣がん)ではありません。しかし、中には悪性化する可能性を秘めたタイプや、卵巣がんへの進展が懸念されるケースもわずかながら存在します。例えば、稀なタイプの卵巣胚細胞腫瘍である「Struma ovarii(ストルマ・オバリー、卵巣腺腫)」では、約5%が悪性の「悪性Struma ovarii」へと移行する可能性が報告されています※。

なぜ気づきにくい?卵巣嚢腫の発見経緯

卵巣嚢腫のやっかいな点は、多くの場合、初期にはほとんど自覚症状がないことです。そのため、気づかないうちに嚢腫が大きくなっていることも少なくありません。健康診断や婦人科検診で受けた超音波検査(エコー検査)で、偶然発見されるケースが大半を占めます。

年齢層別の傾向と症状の現れ方

卵巣嚢腫は、すべての年代の女性に見られる疾患です。特に閉経前の年代で発見される傾向がありますが、

卵巣嚢腫の種類

卵巣嚢腫は、その内容物や発生する細胞の種類によって、主に3つのタイプに分けられます。ご自身にできている卵巣嚢腫の種類を理解することは、今後の治療方針や経過観察の選択肢を考える上で、非常に重要なステップとなります。

卵巣嚢腫のおもな種類は次のとおりです。

種類 | 発生源 | 内容物・特徴

上皮性腫瘍(じょうひせいしゅよう) | 卵巣の表面をおおう細胞 | ・水っぽい(漿液性)または粘り気がある(粘液性)液体がたまる ・比較的よく見られるタイプ

胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう) | 卵子のもととなる細胞 | ・脂肪や髪の毛、歯、骨など、さまざまな組織が混在する ・良性の「成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)」が代表的

子宮内膜症性嚢胞(しきゅうないまくしょうせいのうほう) | 卵巣にできた子宮内膜に似た組織 | ・月経のたびに出血を繰り返し、古い血液がたまる ・通称「チョコレート嚢胞」とも呼ばれる

それぞれのタイプの卵巣嚢腫について、詳しく見ていきましょう。

上皮性腫瘍

上皮性腫瘍は、卵巣の表面を覆う細胞から発生する卵巣嚢腫です。中には水のようにサラサラとした液体(漿液)が溜まる「漿液性(しょうえきせい)嚢胞腺腫」や、粘り気のある液体(粘液)が溜まる「粘液性(ねんえきせい)嚢胞腺腫」などがよく見られます。これらは比較的発見されることの多いタイプと考えられています。

胚細胞腫瘍

胚細胞腫瘍は、卵子のもとになる細胞から発生するタイプです。代表的なものは、良性の「成熟嚢胞性奇形腫(せいじゅくのうほうせいきけいしゅ)」で、一般的には「皮様嚢腫(ひようのうしゅ)」とも呼ばれています。この嚢腫の中には、脂肪の他に髪の毛や歯、骨といった体のさまざまな組織が含まれているのが特徴です。

また、胚細胞腫瘍のなかでも、非常に珍しいタイプとして「Struma ovarii(ストルマ・オバリー、卵巣腺腫)」が存在します。この特殊なStruma ovariiは、約5%が悪性化する可能性も報告されています※。良性のStruma ovariiは、悪性のタイプと比較して診断時の年齢中央値が高く、閉経後の女性に多く見られる傾向にあります※。さらに、良性のStruma ovariiでは腹部の膨満感やしこり(腫瘤)といった自覚症状を伴うことが多い一方、悪性のStruma ovariiでは症状が出ないケースも少なくありません※。

子宮内膜症性嚢胞

子宮内膜症性嚢胞は、子宮の内側にあるはずの子宮内膜に似た組織が、卵巣にできてしまうことで発生する嚢腫です。月経のたびに、この卵巣内の子宮内膜組織からも出血が繰り返され、古い血液が卵巣内に溜まって嚢腫となるメカニズムです。血液が古くなって黒っぽく変色するため、通称「チョコレート嚢胞」とも呼ばれています。

卵巣嚢腫の原因

卵巣嚢腫は、その種類によって発生する原因はさまざまですが、複数の要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。多くの卵巣嚢腫は良性であり、原因を特定できない場合もあります。なぜ卵巣嚢腫ができるのか、その背景には主に次の理由があります。

・ホルモンバランスの乱れ

女性の体内では、卵巣から分泌されるホルモンが卵子の成熟や排卵、子宮内膜の増殖といった周期的な変化をコントロールしています。このホルモンバランスが一時的に乱れることで、卵巣の働きに影響を及ぼし、嚢腫ができやすくなることがあります。特に排卵の仕組みに深く関わる「機能性嚢腫(きのうせいのうしゅ)」は、このホルモンバランスの変動が主な原因です。排卵後にできるはずの黄体(おうたい)がうまく退縮しなかったり、卵胞(らんぽう)が成熟しきれずに液体が溜まったりして形成される良性の嚢腫を指します。

・子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)

本来、子宮の内側を覆っている「子宮内膜」とよく似た組織が、卵巣など子宮以外の場所で増殖してしまう病気が子宮内膜症です。この組織が卵巣にできた場合、生理のたびに子宮内膜と同じように増殖と出血を繰り返します。しかし、子宮内と違い出血した血液の排出先がないため、古い血液が卵巣内に溜まり、嚢腫を形成します。これが「子宮内膜症性嚢胞(しきゅうないまくしょうせいのうほう)」、通称「チョコレート嚢胞」と呼ばれるものです。子宮内膜症の患者さんでは、周期的な痛みや卵巣機能の低下による不妊への不安、そして病気の再発に対する懸念から、うつ病や不安感を抱くリスクが高まることも指摘されています※。

・細胞の異常な増殖

卵巣の表面にある細胞や、卵子の元となる胚細胞(はいさいぼう)などが、何らかの原因で異常に増殖することで嚢腫ができることがあります。このタイプの嚢腫には、卵子の元となる胚細胞が異常に増殖し、髪の毛、皮膚、歯、骨といった体のさまざまな組織が嚢腫の中に混在してできる良性腫瘍である「皮様嚢腫(ひようのうしゅ)」などが含まれます。

・遺伝的要因

非常に稀なケースではありますが、特定の遺伝的体質が卵巣嚢腫の発生に関わっていることもあります。血縁者に卵巣嚢腫や卵巣がんの経験者がいる場合は、診察の際に医師にその旨を伝えてください。

卵巣嚢腫の原因は、単独で発生するだけでなく、複数が重なり合って引き起こされることもあります。ご自身の体の状態や気になる症状がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。

卵巣嚢腫の症状

卵巣嚢腫の症状は、その種類や大きさによってさまざまですが、多くの場合、初期段階ではほとんど自覚症状が現れません。そのため、病気が進行して嚢腫が大きく育つにつれて、初めて体に異変を感じるようになるケースが一般的です。

嚢腫が大きくなると、周囲の臓器を圧迫したり、ホルモンバランスに影響を及ぼしたりすることで、様々な不調が体に現れることがあります。具体的な症状は以下のとおりです。

・下腹部や腰の痛み、違和感 嚢腫が周囲の膀胱や腸などを圧迫することで、重苦しい痛みや鈍い痛みが持続することがあります。特に子宮内膜症を伴う卵巣嚢腫(チョコレート嚢胞)では、月経周期に合わせて痛みが強くなるなど、周期的な痛みが特徴的にみられる場合があります。子宮内膜症は、周期的な痛みだけでなく、卵巣機能の低下による不妊の懸念、そして病気の再発に対する不安を抱くことと関連しており、うつ病や不安の発生率が高まることも指摘されています※。

・お腹の張りや圧迫感 嚢腫が大きくなるにつれて、まるで妊娠しているかのようにお腹が膨らんだり、以前より衣服がきつく感じたりすることがあります。

・頻尿や便秘 肥大した嚢腫が膀胱や腸を直接圧迫することで、トイレが近くなったり、便通が悪くなって便秘になりやすくなったりすることがあります。

・月経異常 卵巣機能への影響からホルモンバランスが乱れ、生理周期の乱れ、経血量の変化、あるいは生理痛の悪化などを引き起こすことがあります。

・不正出血 生理期間ではない時期に、性器からの出血が見られることもあります。

・不妊 卵巣の機能に何らかの影響が及ぶことで、妊娠しにくい状態になるケースがあります。特に子宮内膜症性の卵巣嚢腫は、不妊との関連が深く指摘されています※。妊娠を希望する若い患者さんにとっては、不妊の懸念が大きな精神的負担となる可能性もあります※。

・急性腹症 嚢腫の「茎(卵巣と子宮をつなぐ部分)」がねじれて血流が途絶える「茎捻転(けいねんてん)」や、嚢腫そのものが破裂した場合には、突然の激しい下腹部痛が起こります。これらの状態は緊急手術が必要となることもある、非常に危険な病態です。

これらの症状は、卵巣嚢腫だけでなく他の疾患でもみられることがあります。しかし、気になる症状が続く場合は、自己判断せず、早めに婦人科を受診することが重要です。特に、突然の激しい痛みや、吐き気を伴う腹痛がある場合は、すみやかに医療機関を受診してください。

卵巣嚢腫の検査・診断

卵巣嚢腫が見つかったとき、「これは一体何なのか?」「悪性ではないか?」といった漠然とした不安を感じる方もいるかもしれません。卵巣嚢腫の検査・診断は、この不安を解消し、ご自身の状態を正確に把握して、適切な次のステップへと進むための大切なプロセスです。問診から始まり、超音波検査やMRIなどの画像検査、血液検査を組み合わせて、嚢腫の有無、種類、大きさ、悪性の可能性などを総合的に評価します。

まず、診察室では医師が患者さんの症状や月経の状態、これまでの病歴などを詳しくうかがいます。例えば、下腹部の痛みや張り、生理不順など、気になる症状があれば詳しく伝えてください。その後、内診や触診で、卵巣に腫れがないか、硬さやしこりの有無などを丁寧に確認します。

主な検査方法は、次のとおりです。

・超音波検査(エコー検査)

最初に行われることが多く、手軽に受けられる検査の一つです。膣から超音波プローブを挿入する経腟超音波検査や、お腹の上から行う経腹超音波検査があります。この検査では、卵巣の大きさや形、嚢腫があるか、嚢腫の中に液体が溜まっているのか、それとも固形成分が含まれているのかといった、内部の状態まで確認できます。

・MRI検査

超音波検査だけでは診断が難しい場合や、卵巣嚢腫が悪性である可能性をより詳しく調べる必要がある場合に検討されます。MRIは、嚢腫の内部構造や周囲の膀胱、腸など他の臓器との位置関係を詳細に捉えることができます。この詳しい情報から、嚢腫が良性か悪性かを判断する上で重要な手がかりが得られます。

・CT検査

卵巣嚢腫が悪性である疑いがある場合や、もし悪性であった場合に、体の他の臓器へ広がっていないか(転移がないか)を確認する目的で選択されることがあります。

・血液検査

血液検査では、卵巣嚢腫が悪性かどうかを判断する補助として、CA125などの腫瘍マーカーを測定することがあります。腫瘍マーカーの値が高い場合、悪性の可能性を示唆しますが、良性の病気でも上昇することがあるため、腫瘍マーカーだけで診断が確定するわけではありません。

また、将来の妊娠を考えている方や、卵巣の機能について評価が必要な場合には、AMH(抗ミュラー管ホルモン)というホルモンの値を測定することがあります。AMHは、卵巣に残っている卵子の数を推定する「卵巣予備能(らんそうよぼうのう)」の指標の一つです。卵巣予備能の評価は、特に将来の妊娠を希望される方にとって、治療方針を検討する上で大切な情報となります。例えば、両側の卵巣嚢腫の手術では、止血方法の違いによって術後の卵巣予備能(AMHレベル)に影響が出る可能性も指摘されているため、術前から卵巣予備能を把握しておくことは、将来の妊娠を見据えた治療選択において重要な意味を持つといえるでしょう※。

これらの検査結果は、一つひとつを単独で評価するのではなく、すべてを総合的に判断して、卵巣嚢腫の種類や悪性の可能性、症状の程度などを評価します。その上で、経過観察にするのか、それとも手術などの積極的な治療に進むのかを、患者さんご自身の意向も踏まえて決定していくことになります。

卵巣嚢腫の治療

卵巣嚢腫の治療は、嚢腫の種類や大きさ、症状の有無、悪性の可能性、さらには患者さんの年齢や妊娠の希望といった、多様な要素を総合的に考慮し決定されます。主な治療法は、大きく分けて「経過観察」と「手術療法」の二つです。

経過観察

良性の可能性が高く、小さくて自覚症状がない卵巣嚢腫は、原則として定期的な超音波検査で経過を観察します。なぜなら、多くの良性嚢腫は自然に小さくなったり、大きさが変わらずに経過したりするためです。そのため、数カ月おきに定期的な検診を受け、嚢腫のサイズや状態に変化がないかを確認します。

手術療法

一方、嚢腫が大きくなってきた場合や、痛みなどの症状が現れた場合、あるいは悪性の疑いがある場合には、手術による治療が検討されます。手術の方法は、主に「開腹手術」と「腹腔鏡手術」があります。術式としては、嚢腫の部分だけを取り除く「卵巣嚢腫摘除術(らんそうのうしゅてきじょじゅつ)」と、卵巣全体を摘出する「卵巣摘出術(らんそうてきしゅつじゅつ)」に分けられます。

ここで、非常に稀なタイプの卵巣嚢腫である「Struma ovarii(ストルマ・オバリー、卵巣腺腫)」について補足します。このタイプの嚢腫は、約5%が悪性化する可能性も報告されており、悪性のStruma ovarii(MSO)と診断された場合、卵巣嚢腫摘除術(嚢腫のみを摘出する手術)では、嚢腫の被膜が破れることで腫瘍が腹腔内に散らばり、再発のリスクが高まると考えられています。そのため、再発リスクを低く抑えるには、卵巣全体と卵管を摘出する「片側または両側卵管卵巣摘出術」が有効である可能性が示されています※。妊娠を希望する方の場合、卵巣機能の温存は非常に重要な要素です。その場合、手術前に医師とメリット・デメリット、そして将来の妊娠への影響について、時間をかけて十分に話し合うことが大切です。

さらに、腹腔鏡下手術における止血方法の選択も、卵巣機能の温存に影響を与えることがあります。特に両側の卵巣に嚢腫があり、両側の嚢腫を摘出する場合、電気メスで止血するよりも「止血剤」を用いる方が、術後の卵巣予備能(卵巣に残された卵子の数を推定する指標であるAMHレベル)の低下が少ない傾向にあると報告されています※。これは、止血剤が卵巣組織への熱損傷を抑え、卵子の元となる卵胞へのダメージを軽減する働きが期待できるためです。将来の妊娠を考えている患者さんにとって、このような細かな手術手技の選択も、卵巣機能の温存という点で重要な情報となり得ます。

このように、卵巣嚢腫の治療法は多岐にわたり、最適な選択は患者さん一人ひとりの状況によって異なります。ご自身の希望や将来設計も踏まえ、専門の医師と十分に話し合い、納得した上で治療方針を決定することが重要です。