高カリウム血症

手足のしびれや原因不明の脱力感。その何気ない不調は、もしかしたら体からの危険なサインかもしれません。高カリウム血症は、血液中のカリウム濃度が正常値を超えてしまう病気で、自覚症状がほとんどないまま静かに進行します。そのため「沈黙の病気」とも呼ばれ、放置すれば命に関わる不整脈や心停止を引き起こすこともあるのです。

健康診断の血液検査で初めて発覚することも少なくありません。この記事では、腎臓の機能低下や食事、お薬などが原因となる高カリウム血症について、その症状から検査、治療法までを詳しく解説します。ご自身の体を守るため、正しい知識を身につけましょう。

高カリウム血症の概要

高カリウム血症とは、血液中のミネラルの一種である「カリウム」の濃度が、正常な範囲(3.5〜5.0mmol/L)を超えて高くなってしまった状態のことです。

カリウムは、私たちの体が正常に機能するために欠かせない大切な栄養素です。具体的には、以下のような重要な働きを担っています。

  • 心臓や筋肉が規則正しく動くための調整
  • 体を動かすための命令をスムーズに伝えます。
  • 体の中の水分バランスを適切に保つ
  • 細胞の浸透圧を維持する役割があります。

このように、カリウムは生命維持に不可欠ですが、血液中に増えすぎると体に不調をきたすことがあります。特に心臓の働きに影響を及ぼし、脈が乱れる不整脈や、重症の場合には心臓が停止してしまう危険性もあるため注意が必要です。

高カリウム血症は、腎臓の機能低下や食事内容が主な原因です。また、お薬の副作用として起こることもあります。実際に、腎臓病に伴う貧血の治療で使うお薬の中には、副作用として高カリウム血症を引き起こす可能性が報告されているものもあります。

軽度のうちは自覚症状がほとんどなく、健康診断などの血液検査で初めて気づくことも少なくありません。そのため、知らないうちに進行している可能性のある病気と言えます。

また、まれに採血の仕方によって、実際よりもカリウム値が高く測定されてしまう「偽性高カリウム血症」という状態もあります。診断の際には、このような可能性も考慮して慎重に判断することが重要です。

高カリウム血症の種類

高カリウム血症と一言でいっても、原因によって種類が分かれます。 どの種類かを見極めることが、適切な対応への第一歩となります。 主に、本当にカリウム値が高い場合と、見かけ上の問題に分類されます。

まず、実際は病気ではない「偽性(ぎせい)高カリウム血症」があります。 これは、採血の際に赤血球が壊れるなどの理由で起こる状態です。 血液検査の数値だけが高く測定されるため、注意深く見分ける必要があります。

次に、実際に治療が必要となる高カリウム血症は、主に3つの原因に分けられます。

  • カリウムの摂取過多 食事やサプリメントから、体が必要とする以上のカリウムを摂取している状態です。
  • カリウムの排泄障害 腎臓の働きが弱まり、余分なカリウムを尿としてうまく排出できなくなっている状態です。
  • 体内での分布異常 大きなケガなどで体の細胞が壊れ、細胞内のカリウムが血液中に漏れ出してしまう状態です。

また、心不全などのお薬がカリウム値に影響を与えることもあります。 しかし、例えばサクビトリル/バルサルタンという心不全治療薬があります。 ある研究では、この薬は従来薬と比べて、高カリウム血症のリスクに大きな差はなかったと報告されています。 お薬の影響が心配な方は、自己判断で中断せず医師にご相談ください。

高カリウム血症の原因

血液中のカリウムが増えてしまう原因は、一つとは限りません。 いくつかの原因が、パズルのように組み合わさって起こることが多いです。 主に、次の3つの原因が考えられます。

1. 腎臓の働きが弱っている

高カリウム血症の最も多い原因は、腎臓の機能が低下することです。 腎臓は、体の中の余分なカリウムを尿として外に捨てる役割があります。 しかし、腎臓の働きが弱ると、この大切な役割を十分に果たせません。 その結果、カリウムをうまく排出できず、血液中にたまってしまいます。

2. カリウムの摂りすぎ

腎臓が健康な方なら、食事でカリウムを多めに摂っても問題ありません。 余分なカリウムは、腎臓がきちんと体の外に出してくれるからです。 しかし、腎臓の働きが弱っている場合は注意が必要です。 カリウムを多く含む食品(果物や野菜、イモ類など)を食べすぎると、高カリウム血症を引き起こすことがあります。

3. お薬の影響やその他の原因

飲んでいるお薬が、カリウム値を上げる原因になることもあります。

  • 血圧のお薬 一部の血圧を下げるお薬は、カリウム値を上げることが知られています。 しかし、ある研究では、慢性腎臓病の方がこのお薬をやめても、高カリウム血症のリスクとの間にはっきりとした関連は認められませんでした。 むしろ、心臓や腎臓を守る大切なお薬なので、自己判断でやめると病気が悪化する危険があります。
  • 貧血のお薬 腎臓の病気に伴う貧血の治療で使う新しいタイプのお薬(HIF-PHI阻害薬)は、高カリウム血症の発生率を高める傾向があることがわかっています。

このように原因はさまざまです。 心配なことがあれば、ご自身の判断でお薬をやめたりせず、まずは医師に相談することが何よりも大切です。

高カリウム血症の症状

高カリウム血症は、初期の段階では体に変化を感じにくい病気です。 「沈黙の病気」とも呼ばれ、自覚症状がないまま進行することがあります。 そのため、健康診断の血液検査で、偶然見つかることも少なくありません。

しかし、血液中のカリウム値がさらに高くなると、次のようなサインが現れます。 これらの症状は、カリウムが神経や筋肉の働きを乱すために起こります。

  • 手足のしびれや脱力感 手足がピリピリしたり、力が入りにくくなったりします。 例えば、ペットボトルの蓋が開けにくいと感じることもあります。
  • 吐き気やおう吐 胃がムカムカして、食欲がなくなることがあります。
  • 脈の乱れ(不整脈) 動悸がしたり、脈が飛んだり、リズムが速くなったりします。

特に注意が必要なのは、心臓への影響です。 カリウムは心臓の筋肉を動かす大切なミネラルですが、増えすぎると危険です。 重症の場合、命に関わる不整脈や、心臓が止まってしまうこともあります。

また、飲んでいるお薬が高カリウム血症に関係することもあります。 例えば、腎臓病に伴う貧血の治療薬(HIF-PHI阻害薬)の一部は、高カリウム血症を招きやすいことが研究で報告されています。

一方で、心不全や糖尿病の治療で使われるお薬(SGLT-2阻害薬など)は、高カリウム血症のリスクを大きく高めないという研究結果もあります。 症状が出にくい病気だからこそ、定期的な血液検査で体の状態を確認し、気になることがあればすぐに医師へ相談しましょう。

高カリウム血症の検査・診断

高カリウム血症は、初期の段階では自覚できる症状がほとんどありません。 そのため、体の状態を正しく知るための検査が、診断の第一歩となります。 健康診断などで偶然見つかることも多い病気です。

診断は、主に問診と2つの検査を組み合わせて慎重に行います。

1. 血液検査

最も基本的で、診断の要となる検査です。 腕などから採血を行い、血液中のカリウム濃度を直接測定します。 この数値(血清カリウム値)が、正常値(3.5〜5.0mmol/L)を超えているかを確認します。

ただし、採血の際に赤血球が壊れてしまうなどの理由で、実際よりも数値が高く出てしまう「偽性(ぎせい)高カリウム血症」という状態もあります。 そのため、診断は一度の検査結果だけでなく、必要に応じて再検査を行うなど、慎重に判断します。

2. 心電図検査

カリウムは、心臓の筋肉が正しく動くための電気信号に関わっています。 カリウムが増えすぎると、この電気信号に異常が生じることがあります。 心電図検査では、命に関わる危険な不整脈のサインが出ていないかを確認します。 これは、高カリウム血症の緊急性を判断するために非常に重要です。

3. 問診

検査の数値とあわせて、原因を探るために詳しくお話を伺います。

  • 普段の食事内容や持病 腎臓の病気がないか、カリウムを多く含む食品を摂りすぎていないかなどを確認します。
  • 服用中のお薬 お薬が原因となることもあるため、お薬手帳などをご持参ください。 例えば、糖尿病や心不全のお薬(SGLT-2阻害薬)についてです。 約8万人を対象とした複数の研究をまとめた報告では、このお薬は他の心臓や血圧のお薬と併用しても、高カリウム血症のリスクを大きくは増やさないことが示されています。

これらの情報をパズルのように組み合わせ、総合的に診断を下します。

高カリウム血症の治療

高カリウム血症の治療目標は、血液中のカリウムを安全な量まで下げ、心臓など体への負担を減らすことです。

治療法は、カリウム値の高さや原因によって異なります。 自己判断で対応するのではなく、医師と一緒に治療を進めることが大切です。

1. 原因へのアプローチ

まずは、カリウムが増えてしまった原因を取り除くことから始めます。

  • 食事の工夫 カリウムを多く含む食品や飲み物の摂りすぎに注意します。 野菜は茹でたり水にさらしたりすると、カリウム量を減らせます。
  • お薬の見直し 服用中のお薬が原因の場合、医師が変更や中止を慎重に検討します。

2. お薬を使った治療

食事の工夫だけでは改善が難しい場合は、お薬を使った治療に移ります。 腸の中でカリウムを捕まえて、便と一緒に体の外へ出すお薬が中心です。

3. 持病がある方のお薬選び

心臓や腎臓の病気をお持ちの場合、お薬の選択はさらに慎重に行います。 医師は、さまざまな研究結果をもとに、最適な治療法を判断しています。

  • 血圧のお薬(RAS阻害薬など) 心臓や腎臓を守る大切なお薬です。 ある研究では、このお薬を自己判断でやめてしまうと、かえって病気が悪化する危険性が指摘されています。 高カリウム血症が心配でも、必ず医師に相談してください。
  • 心不全のお薬(サクビトリル/バルサルタンなど) 従来のお薬に比べ、心臓を守る効果が期待できるお薬です。 高カリウム血症のリスクは、従来薬と同程度と報告されています。
  • 糖尿病や心不全のお薬(SGLT-2阻害薬など) 他の血圧の薬などと併用しても、高カリウム血症のリスクを大きく上げずに、心臓や腎臓への良い効果が期待できるという報告もあります。

治療は、患者さん一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイドです。 気になることは、どんな小さなことでも医師に相談しましょう。