陰嚢水瘤
お子さまやご自身の陰嚢(たまぶくろ)の大きさに、左右差やふくらみを感じたことはありませんか?痛みがないため、つい見過ごしてしまいがちですが、それは「陰嚢水瘤」という病気のサインかもしれません。
実はこの病気、新生児1,000人に約1人、学童期では約3.4人が発症すると報告されており、決して珍しいものではありません。大人になってから発症するケースも多く、近年の大規模な研究では遺伝的な体質が関係している可能性も示唆されています。
この記事では、子どもと大人で全く異なる陰嚢水瘤の原因から、ご家庭でできるセルフチェック、そして最新の治療法までを詳しく解説します。大切なご家族やご自身のために、正しい知識を身につけましょう。
陰嚢水瘤の概要
陰嚢水瘤(いんのうすいりゅう)とは、精巣(睾丸)を包む膜の中に、水のような液体がたまってしまう病気です。
液体がたまることで、片方あるいは両方の陰嚢(たまごの袋)が、ぷくっとふくらんで見えます。
この病気には、以下のような特徴があります。
- 主な症状は陰嚢の「腫れ」
ふくらみの大きさは、ピンポン玉くらいから、大人のこぶし大になることまで様々です。 - 痛みを伴わないことが多い
多くの場合、痛みや熱感はなく、ただ腫れているだけの状態です。そのため、ご本人も気づかないことがあります。 - 幅広い年齢層で見られる
生まれたばかりの赤ちゃんから大人まで、どの年代でも起こる可能性があります。
特に、陰嚢水瘤は赤ちゃんによく見られる病気のひとつです。
ある世界的な研究では、生後まもない赤ちゃん1,000人あたり約1人の割合で発生すると報告されています。
また、7歳から12歳の子どもでは、1,000人あたり約3.4人と報告されており、大きくなってから診断されるケースも少なくありません。
これは、一度治った後に再び水がたまったり、健診などで偶然見つかったりする場合があるためです。
精密な検査をしなければ見過ごされることもあるため、注意深い観察が大切です。
痛みがないからといってそのままにせず、陰嚢の大きさや形に変化を感じた場合は、お気軽に専門のクリニックへご相談ください。
陰嚢水瘤の種類
陰嚢水瘤は、水のたまり方の違いによって、主に2つのタイプに分けられます。 「交通性(こうつうせい)」と「非交通性(ひこうつうせい)」です。 どちらのタイプかによって原因や治り方が異なるため、見極めが大切です。
交通性陰嚢水瘤
お腹の中と、精巣を包む袋が細いトンネルでつながっているタイプです。 本来、赤ちゃんがお腹の中にいる間に閉じるはずの道が残っている状態です。 このタイプは、主に赤ちゃんや小さなお子さまに見られます。
- 特徴
立ったり泣いたりしてお腹に力が入ると、お腹の水が袋へ移動して大きくなります。 逆に、横になると水がお腹に戻るため、袋は小さくなります。 - 注意点
「鼠径(そけい)ヘルニア」という、腸が飛び出す病気を合併しやすいため注意が必要です。
非交通性陰嚢水瘤
お腹の中とはつながっておらず、袋の中だけで水がたまるタイプです。 袋の中で作られる水の量と、吸収される量のバランスが崩れることが原因です。 このタイプは、主に大人の方に見られます。
- 特徴
交通性とは違い、1日の中で大きさが変わることはほとんどありません。 - 原因
はっきりとした原因がわからないことが多いですが、ケガや炎症がきっかけになることもあります。
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種類 |
主な対象 |
原因 |
特徴 |
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交通性陰嚢水瘤 |
お子さま |
お腹と袋のつながりが残っている |
・袋の大きさが日によって変わる<br>・自然に治ることがある |
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非交通性陰嚢水瘤 |
大人の方 |
水の産生と吸収のバランスの乱れ |
・袋の大きさはあまり変わらない<br>・自然には治りにくい |
また、非常に稀なケースですが、女性にも似たような状態が起こることがあります。 「ヌック嚢腫(のうしゅ)」と呼ばれ、お腹と足の付け根がつながることで水がたまる病気です。 男性の交通性陰嚢水瘤と似た仕組みで、鼠径ヘルニアと間違われることも多いため、正確な診断がとても重要になります。
陰嚢水瘤の原因
陰嚢水瘤がなぜ起こるのか、その原因はお子さまと大人で大きく異なります。 それぞれの原因について、詳しく見ていきましょう。
お子さまの場合の原因
お子さまの陰嚢水瘤のほとんどは、生まれつきの体の構造が関係しています。 これは「交通性陰嚢水瘤」と呼ばれるタイプです。
- お腹と陰嚢(たまぶくろ)のつながり 赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるとき、精巣はお腹の中から陰嚢へと移動します。 その通り道として、「腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)」というお腹と陰嚢をつなぐトンネルができます。
通常、このトンネルは生まれる頃には自然に閉じて、お腹と陰嚢の交通はなくなります。 しかし、何らかの理由でこのトンネルが閉じずに残ってしまうことがあります。 すると、お腹の中にある液体がそのトンネルを通って陰嚢に流れ込み、水がたまってしまうのです。
大人の場合の主な原因
大人の場合は、はっきりとした原因がわからないことが少なくありません。 「非交通性陰嚢水瘤」が多く、主に以下の要因が考えられています。
- 炎症やケガ 精巣や精巣上体(精巣の隣にある組織)に炎症が起きたり、陰嚢を強くぶつけたりすることがきっかけになる場合があります。
- 他の病気や手術の影響 鼠径ヘルニアや精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)といった病気の手術が、影響することもあります。
- 遺伝的な体質 最近の研究で、遺伝的な体質も関係している可能性が示唆されています。 約36万人もの男性を対象とした海外の大規模な研究では、陰嚢水瘤の発症しやすさに関連する遺伝子が複数見つかりました。
この研究によると、体の設計図である遺伝子の個人差が、大人になってからの陰嚢水瘤の発症に関わっていると考えられています。 特に、お母さんのお腹の中で体が作られるときに重要な働きをする遺伝子が、大人になっても陰嚢の構造を正常に保つ役割を担っている可能性が示されています。
陰嚢水瘤の症状
陰嚢水瘤の最も代表的な症状は、痛みを伴わない陰嚢の腫れです。 精巣(睾丸)の周りに水がたまることで、袋がふくらんで見えます。 ご自身やお子さまに、以下のような症状がないか確認してみてください。
- 陰嚢の腫れ
大きさはピンポン玉くらいから、時にはテニスボール大になることもあります。 触った感触は、液体がたまった袋のような弾力のある柔らかさが特徴です。 - 痛みや不快感
基本的には痛みや熱感はありません。そのため気づきにくいこともあります。 ただし、水が非常に多くたまると、重さや圧迫感を感じることがあります。 歩くときに邪魔になったり、違和感を覚えたりする方もいらっしゃいます。 - 大きさの変化
お子さまの場合、朝は小さく、日中に活動すると大きくなる傾向があります。 これはお腹と袋がつながっている「交通性」というタイプで見られる特徴です。 一方、大人の場合は、一日を通して大きさがあまり変わらないことが多いです。
また、陰嚢水瘤には「透光性(とうこうせい)」という特徴的な所見があります。 暗い部屋で陰嚢にペンライトなどの光を当てると、赤く透けて見える現象です。 これは、袋の中身が水のような液体であるため、光が通り抜けることで起こります。
痛みがないからといって、つい様子を見てしまうかもしれません。 しかし、陰嚢が腫れる病気には、早めの治療が必要なものもあります。 自己判断はせず、少しでも気になる変化があれば専門のクリニックを受診しましょう。
陰嚢水瘤の検査・診断
陰嚢の腫れに気づいたら、まず病院で診察を受けることが大切です。 痛みがなくても、自己判断で様子を見るのは避けましょう。 病院では、主に以下の診察や検査を行い、正確な診断につなげます。
はじめに、目で見て、手で優しく触れる「視診」と「触診」を行います。 腫れの大きさや硬さ、弾力、痛みの有無などを確認する診察です。 陰嚢水瘤の場合、水風船のように弾力のある柔らかい感触が特徴です。
次に、診断をより確実にするために、詳しい検査に進みます。
- 透光性試験(とうこうせいしけん)
暗い部屋で、陰嚢にペンライトなどの光を当てる簡単な検査です。 袋の中身が水だけの場合、光が通り抜けて赤く透けて見えます。 これにより、腫れの中身が液体である可能性が高いと判断できます。 - 超音波(エコー)検査
診断の決め手となる、最も重要な検査です。 体にゼリーを塗り、超音波を出す機械を当てるだけで痛みはありません。 この検査で、陰嚢の中の状態を詳しく調べることができます。
- 袋の中にたまっているものが、本当に水(液体)かどうか
- 精巣そのものに、腫瘍などの病気が隠れていないか
- お腹の中の腸が入り込む「鼠径(そけい)ヘルニア」との区別
- お腹と袋がつながっている「交通性」のタイプかどうか
これらの検査は、陰嚢水瘤であると確定させるために行います。 それと同時に、精巣腫瘍など、他の病気を見逃さないためにも非常に重要です。 気になる症状があれば、必ず専門の医療機関を受診してください。
陰嚢水瘤の治療
陰嚢水瘤の治療は、年齢や症状の程度によって進め方が変わります。 また、ご本人がどのくらい腫れを気にしているかも大切な判断材料です。 主な治療の選択肢は、以下の3つに分けられます。
- 経過観察
治療はせず、定期的に診察しながら様子を見ます。 - 穿刺(せんし)吸引・硬化療法
針を刺して水を抜いたり、袋をくっつける薬を入れたりします。 - 手術
水のたまる原因を根本から取り除く治療法です。
経過観察(様子を見ること)
赤ちゃんや小さなお子さまの陰嚢水瘤は、この方法が基本です。 お腹と陰嚢をつなぐトンネルが、3〜5歳頃までに自然と閉じるためです。 そのため、急いで治療せず、定期的な診察で大きさの変化を確認します。
穿刺吸引・硬化療法
主に、手術が難しいご高齢の方など、大人の方に行われる治療法です。
- 穿刺吸引
陰嚢に細い針を刺し、たまっている液体を注射器で抜き取ります。 腫れは一時的に良くなりますが、液体がたまる袋は残ったままです。 そのため、時間が経つと再び水がたまり、再発することがほとんどです。 - 硬化療法
液体を抜いた後、袋の内側をくっつける薬(硬化剤)を注入します。 袋のスペースをなくすことで、水がたまらないようにする治療法です。
手術
根本的な解決を目指す場合、手術が最も確実な治療法となります。 特に大人の陰嚢水瘤は、自然に治ることがほとんど期待できません。
最近の約36万人もの男性を対象とした大規模な研究が注目されています。 この研究では、体の設計図である遺伝子の個人差が、大人になってからの陰嚢水瘤の発症に関わっている可能性が示唆されました。 お腹の中で体が作られる時期に働く遺伝子が、大人になっても陰嚢の正常な構造を保つ役割を担っていると考えられています。
そのため、一度バランスが崩れて水がたまるようになった大人の場合は、手術で原因を取り除くことが治療の基本となります。
- お子さまの手術
お腹と陰嚢をつなぐトンネルの根元を、糸で縛って交通を遮断します。 - 大人の手術
液体がたまっている袋(漿膜)そのものを切り取ったり、裏返して縫い合わせたりして、水がたまらないようにします。
どの治療法がご自身やお子さまに合っているか、医師とよく相談して一緒に決めていきましょう。










