約20万人に1人という、非常に稀な確率で発症するとされる「酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)」。私たちの体の中には、不要な物質を片付ける“お掃除係”が存在しますが、この病気はその働きが生まれつき弱いために、特定の脂質が肝臓や肺、脾臓などに溜まってしまう遺伝性の疾患です。
お子さんのお腹がぽっこりと膨らんでいたり、風邪でもないのに咳や息切れが続いたりといったサインに、不安を感じていませんか?かつては「ニーマン・ピック病A型・B型」とも呼ばれたこの病気ですが、現在では酵素を補充する治療法が確立され、未来の遺伝子治療の研究も進んでいます。
この記事では、ASMDの詳しい原因から症状の見分け方、最新の治療法までをわかりやすく解説します。ご自身やご家族の状況と照らし合わせながら、病気への正しい理解を深めていきましょう。
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の概要
私たちの体は、たくさんの小さな細胞が集まってできています。 その細胞の中には、不要になったものを片付けるお掃除係がいます。
この病気は、お掃除係が使う道具の一つが生まれつき弱いため、 「スフィンゴミエリン」という脂質をうまくお掃除できません。 その結果、お掃除されなかった脂質が体のあちこちに溜まります。
特に肝臓や脾臓(ひぞう)、肺などに溜まりやすいのが特徴です。 発症する確率はとても低く、約20万人に1人といわれています。 この病気は「ライソゾーム病」というグループの一つです。
- 病気の名前 酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)
- 原因 スフィンゴミエリンを分解する酵素の働きが弱いこと
- 結果 肝臓、脾臓、肺などの細胞に脂質が溜まり、様々な症状が出る
最近の研究では、細胞のドアの役割をする部分の異常が、 この病気に関係していることがわかってきました。 このドアは「イオンチャネル」と呼ばれ、栄養などを出し入れします。
特に塩分などを通す「塩化物チャネル」の不具合が、 細胞内に物質が溜まる原因の一つと考えられています。 このドアの働きを調節する薬が、将来の治療に役立つと期待されます。
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の種類
この病気は、症状があらわれる時期や体のどこに症状が出るかで、 主に3つの種類に分けられます。 以前は「ニーマン・ピック病」のA型、B型などと呼ばれていました。
それぞれの種類によって、症状のあらわれかたや進みぐあいが異なります。 どのタイプにあてはまるかで、今後の見通しや治療方針も変わります。
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種類(タイプ)
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主な特徴
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A型(乳児内臓神経型)
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・赤ちゃんの早い時期(生後半年以内)から症状が出ます。
・肝臓や脾臓がはれ、お腹が大きくふくらみます。
・神経にも影響し、体の発達がゆっくりになることがあります。
・症状の進みかたが速いのが特徴です。
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B型(慢性内臓型)
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・神経の症状はほとんど見られないか、あっても軽いです。
・主に肝臓や脾臓のはれ、咳や息切れなどの肺の症状が出ます。
・大人になってから気づかれることもあり、症状はゆっくり進みます。
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A/B型(慢性内臓神経型)
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・A型とB型の両方の特徴をあわせ持つタイプです。
・お腹の臓器の症状と、神経の症状がみられます。
・症状の重さや進み方は人によって大きく異なります。
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ここで、よく似た名前の「ニーマン・ピック病C型(NPC)」という病気があります。 これは、酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症とは原因が違う別の病気です。
このNPCでは、治療法の研究が世界中で進められています。 患者さんを対象にした長期間の研究では、「アリモクロモール」というお薬が、 病気の進行をゆるやかにする可能性があると報告されました。 難しい病気に対する新しい治療法の開発が、今も続けられています。
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の原因
この病気は、生まれつき持っている体の設計図である、 「遺伝子」に変化があることで起こる病気です。
私たちの体の中には「SMPD1」という遺伝子があります。 この遺伝子は、ある特定の酵素をつくるための設計図です。 酵素とは、体の中の化学反応を助けるタンパク質の一種です。
この病気の患者さんでは、SMPD1遺伝子の設計図に、 生まれつき間違いがあるため、酵素がうまく作られません。 あるいは、作られても働きがとても弱い状態になります。
体の中では何が起きている?
この病気でうまく働かない酵素は、 「酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)」と呼ばれます。 ASM酵素の仕事は、「スフィンゴミエリン」という脂質を分解することです。
ASM酵素が十分に働かないと、スフィンゴミエリンが分解されません。 そして、細胞の中にあるお掃除袋(リソソーム)に溜まります。 その結果、肝臓や脾臓、肺などの働きが悪くなってしまいます。
このように、たった一つの遺伝子の異常で起こる病気のことを、 「単一遺伝子疾患」と呼びます。 このタイプの病気は、遺伝子治療の研究が進めやすいとされます。
どのように遺伝するの?
この病気は「常染色体潜性(劣性)遺伝」という形式で伝わります。 人は遺伝子を父と母から1つずつ、ペアで受け継ぎます。 この病気は、両親から受け継いだ遺伝子の両方に、 変化がある場合にだけ発症するのが特徴です。
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両親の状態
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子どもに遺伝する確率
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両親ともに保因者※
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・**25%**の確率で病気を発症します。
・**50%**の確率で親と同じ保因者になります。
・**25%**の確率で病気を発症せず、保因者にもなりません。
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※保因者とは 遺伝子のペアの片方だけに変化がある人のことです。 もう片方が正常に働くため、ご自身に症状は現れません。
この病気のように原因が一つに特定されている単一遺伝子疾患は、 遺伝子治療という新しい治療法に適していると考えられています。 患者さん自身の血液のもとになる細胞(造血幹細胞)を使い、 遺伝子を修正して体に戻す治療法の研究も進められています。
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の症状
この病気では、お掃除できなかった脂質が体のどこに溜まるかで、 あらわれる症状が変わります。 そのため、人によって症状の出かたや重さが大きく異なります。
症状は全身におよびますが、特に気づかれやすいサインがあります。 お子さんの様子で、気になることがないかチェックしてみましょう。
▼ こんなサインに気づいたら相談を
- お腹の症状 肝臓や脾臓(ひぞう)が大きくなるため、お腹がぽっこりふくらみます。 ミルクを飲む量が減ったり、吐きやすくなったりすることもあります。
- 呼吸の症状 風邪でもないのに、咳が出たり息切れしたりしやすくなります。 肺に脂質が溜まることで、呼吸が少し苦しくなることがあります。
- 成長や発達について 同じくらいの年の子と比べて、体の成長がゆっくりに感じます。 首のすわりや寝返りなど、運動の発達に遅れが見られることもあります。
- その他の変化 ぶつけていないのに青あざができやすいなど、血が止まりにくくなります。 貧血になることで、顔色が悪かったり、いつもだるそうにしたりします。
最近の研究では、痛みを感じやすくなる可能性も指摘されています。 細胞のお掃除袋(リソソーム)には、痛みなどを伝えるドアがあります。 このドアの働きが乱れると、痛みに敏感になることがあるのです。
これらの症状は、一つだけあらわれることも、いくつか重なることもあります。 少しでも気になることがあれば、専門の医師に相談することが大切です。
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の検査・診断
この病気が疑われる場合、いくつかの検査を組み合わせて診断します。 お子さんの体に何が起きているかを正確に知るための大切なステップです。 どのような検査をするのか、一つずつ見ていきましょう。
まず、体の状態を大まかに把握するための検査から始めます。 お医者さんが体の中のヒントを探すための、最初の入り口です。
- 血液検査 採血をして、血液の中の成分を調べます。 肝臓の働きを示す数値や、脂質の量に異常がないかを確認します。 また、血を固める血小板という成分が減っていないかも見ます。
- 画像検査 体の内部を写真のように写し出して、臓器の状態を見ます。 お腹の超音波(エコー)検査では、肝臓や脾臓の腫れを調べます。 咳や息切れがあれば、胸のX線やCT検査で肺の状態を詳しく見ます。
これらの検査で病気の疑いが強まったら、診断を確定させます。 病名をはっきりとさせるための、特に重要な検査が次の2つです。
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検査の種類
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どのような検査か
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酵素活性測定
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血液などを使って、原因となる酵素の働きがどれくらい弱いかを測ります。この酵素の働きが基準より大幅に低いことが、診断の決定的な手がかりになります。
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遺伝子検査
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この病気の原因であるSMPD1という遺伝子に変化がないかを調べます。原因が一つに特定できる「単一遺伝子疾患」なので、この検査で診断が確定します。
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この病気のような単一遺伝子疾患は、遺伝子治療の研究がしやすいです。 将来、新しい治療法につながる可能性も期待されています。 これらの検査結果を総合的に判断し、専門の医師が最終的な診断をします。
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の治療
この病気の治療は、お掃除係の働きを助けることが目標です。 体に足りないお掃除道具(酵素)を補い、症状を和らげます。 そして、病気の進み方をゆるやかにすることを目指します。
現在、中心となる治療法は「酵素補充療法」です。 それに加え、未来に向けた新しい治療法の研究も進んでいます。 それぞれの治療法について、詳しく見ていきましょう。
今すぐできる治療法
- 酵素補充療法 不足しているお掃除道具「酸性スフィンゴミエリナーゼ」を、 点滴で直接体に補充する治療法です。 「オリプダーゼ アルファ」というお薬が使われます。 この治療で、肝臓や肺にたまった脂質を分解できます。 お腹の腫れや、咳・息切れなどの症状が改善すると報告されています。
- 骨髄移植 酵素補充療法が開発される前に行われていた治療法です。 健康な方の骨髄を移植することで、酵素を作れる細胞を増やします。 お腹の症状だけでなく、神経の症状の進行を抑える効果も期待されます。
未来のための新しい治療法
この病気は、原因となる遺伝子が一つに特定されています。 このような「単一遺伝子疾患」は、新しい治療法の研究が進めやすいです。 将来、治療の選択肢が増えることが期待されています。
- 遺伝子治療 患者さん自身の血液のもとになる細胞(造血幹細胞)を取り出します。 その細胞に、酵素の正しい設計図(遺伝子)を入れ、体に戻す方法です。 この治療法の研究は活発ですが、安全性を高めるための研究も重要です。
- 新しいお薬の開発 よく似た別の病気(ニーマン・ピック病C型)の研究がヒントになります。 その病気では、「アリモクロモール」というお薬が、 病気の進行をゆるやかにする効果を示したと報告されました。 このお薬が、この病気にも役立つかどうかの研究が進められています。
どの治療法を選ぶかは、お子さん一人ひとりの状態によって異なります。 ご家族だけで悩まず、主治医とよく相談しながら決めていきましょう。