交通事故やスポーツでの衝突など、胸を強くぶつけた経験はありませんか。その衝撃が、命に関わる「血胸」という状態を引き起こすことがあります。血胸とは、胸の中に血液がたまり、肺を圧迫して呼吸困難を招いたり、大量出血によるショック状態に陥ったりする危険な病態です。
実は、血胸の原因はケガだけではありません。この記事では、外傷だけでなく、病気や医療行為によっても起こりうる血胸の原因と見逃してはならない症状を詳しく解説します。最新の治療では追加処置の確率が18.2%から10.7%へ低下したという報告もあり、その進歩についても紹介します。万が一の事態に備え、正しい知識を身につけましょう。
血胸の概要
血胸(けっきょう)とは、肺と胸の壁の間にある「胸腔(きょうくう)」という空間に、血液がたまってしまう状態を指します。
主な原因は交通事故や転落など、胸を強くぶつけるケガです。この衝撃で胸の中にある血管や肺、心臓などが傷ついて出血し、その血液が胸腔にあふれてしまいます。
胸腔に血液がたまると、体には命に関わる2つの問題が起こります。
- 循環の問題 出血により体全体をめぐる血液が減少し、血圧が下がってショック状態に陥ることがあります。
- 呼吸の問題 たまった血液が肺を圧迫します。その結果、肺がうまくふくらめなくなり、息苦しくなります。
治療では、胸にチューブを入れ、たまった血液を体の外へ出す「胸腔ドレナージ」が基本です。
最近の研究では、この処置と同時に胸の中を洗浄する方法が注目されています。洗浄を行うと、追加の処置が必要になる確率が18.2%から10.7%へ低下したという報告もあります。
この方法は入院期間の短縮も期待でき、患者さんの負担軽減につながる可能性があります。このように、血胸は速やかに適切な処置が必要となる危険な状態です。
血胸の種類
血胸は、胸の中に血液がたまる状態ですが、その原因によっていくつかの種類に分けられます。原因を正しく見つけることが、適切な治療への第一歩となります。
血胸は、主に以下の3つの原因で分類されます。
- 外傷性(がいしょうせい)血胸 交通事故やスポーツでの衝突、転落などで胸を強くぶつけた際に起こります。折れたあばらの骨が肺や血管を傷つけてしまうことも、原因の一つです。
- 医原性(いげんせい)血胸 お医者さんの治療が原因で起こる血胸です。例えば、首や胸の太い血管へ点滴の管を入れる処置の際などに、血管を傷つけて発生することがあります。
- 自然(しぜん)血胸 はっきりとしたケガがないのに、突然起こる血胸です。多くは肺にできた「ブラ」や「ブレブ」と呼ばれる、風船のように弱くなった部分が破れることが原因です。
どの種類の血胸であっても、単に血液がたまるだけではありません。
最近の研究では、たまった血液の成分が、肺をおおう膜(胸膜)の細胞に影響を与えることが示唆されています。具体的には、細胞のアンテナのような部分(一次繊毛)の働きに関わる遺伝子に、変化が起きる可能性が指摘されています。
この変化は、細胞が正常に動く能力を低下させることにもつながるかもしれません。血胸が体に及ぼす影響を、細胞レベルで解明する重要な手がかりとして注目されています。
血胸の原因
血胸が起こる原因は一つではありません。 原因を正確に見極めることが、適切な治療への第一歩となります。 原因は、主に以下の3つのパターンに分けられます。
1. けが(外傷)によるもの
最も多い原因は、交通事故や転落などで胸を強く打つことです。 これを「鈍的外傷(どんてきがいしょう)」と呼びます。 強い衝撃で折れたあばらの骨が、肺や血管を傷つけて出血します。
また、刃物などが胸に刺さる「穿通性外傷(せんつうせいがいしょう)」も、 胸の中の血管や心臓を直接傷つけ、血胸の原因となります。
2. 病気によるもの
もともと持っている病気が原因で、突然出血することもあります。 特に注意が必要なのは、以下のような命に関わる病気です。
- 血管の病気 大動脈の壁が裂ける「大動脈解離」や、 血管にできたこぶが破れる「大動脈瘤破裂」などがあります。
- 肺の病気 肺がんが進行して血管を破ったり、 肺に穴が開く「自然気胸」の際に血管が切れたりします。
3. 医療行為によるもの
検査や治療が原因で起こる血胸を「医原性(いげんせい)」と呼びます。 例えば、首や胸の太い血管に点滴の管を入れる処置の際や、 肺や心臓の手術の合併症として起こることがあります。
手のひらの汗を止めるための胸腔鏡手術でも、 まれに血胸が起こる可能性が報告されています。
このように原因はさまざまですが、どの原因であっても、 たまった血液自体が体に影響を及ぼす可能性が指摘されています。 最近の研究では、血液の成分が肺を覆う膜の細胞にある、 アンテナのような部分の働きを乱すことが示唆されています。 この変化は、細胞が正常に動く能力を損なうかもしれません。
血胸の症状
血胸の症状は、胸の中にたまった血液の量によって大きく変わります。 出血がごくわずかな場合は、はっきりとした症状が出ないこともあります。
しかし、血液の量が増えるにつれて、体は危険なサインを出しはじめます。 ケガの後などに、次のような症状がないか注意深く確認してください。
【主な症状】
- 息切れや呼吸のしづらさ たまった血液が肺を圧迫し、うまくふくらめなくなるために起こります。
- 胸の痛み ケガをした部分だけでなく、胸全体に広がるような痛みを感じます。
- 呼吸が速く、浅くなる 体が酸素不足を補おうとして、無意識に呼吸のリズムが変化します。
さらに出血が多くなると、体の中をめぐる血液そのものが足りなくなり、 命に関わる「ショック状態」という危険な状態に陥ることがあります。
【出血が多いときの危険なサイン(ショック状態)】
- 意識がもうろうとする、強いふらつきやめまい
- 顔色が悪くなり、皮膚が青白く冷たい汗をかく
- 血圧が急に下がり、脈が弱く速くなる
- 強い不安感におそわれる
血胸は、胸部への強い衝撃だけでなく医療行為がきっかけで起こることもあります。 しかし、例えば手のひらの汗を治療する胸腔鏡手術という内視鏡手術では、 151人の患者さん全員で血胸の合併症は報告されなかったという研究結果もあります。 手術によってリスクは異なるため、過度に心配しすぎる必要はありません。
もし胸を強くぶつけた後などに少しでも気になる症状があれば、 たとえ症状が軽くても、すぐに医療機関を受診するようにしてください。
血胸の検査・診断
血胸が疑われる場合、医師はまず体の状態を注意深く調べます。 次に、いくつかの検査を組み合わせて、正確な診断へと進めていきます。
診察では、聴診器で胸の音を聞いたり、胸を優しく叩いたりします。 胸の中に液体がたまっていると、普段とは違う鈍い音がするためです。 その後、画像を使って胸の中の状態をより詳しく確認します。
【主な画像検査】
- 胸部X線検査(レントゲン) 胸の中を撮影し、血液がたまっているかを確認する基本の検査です。 血液がたまっている部分は、画像上で白くぼんやりと写ります。
- 超音波検査(エコー) 超音波を使い、胸の中に液体がたまっている様子をリアルタイムで確認します。 特に救急の現場で、素早く状態を把握するためにとても役立ちます。
- 胸部CT検査 体を輪切りにしたような詳細な画像から、出血の量や場所を調べます。 原因となっている血管の傷などを特定する上で、非常に重要な検査です。
これらの検査で血胸の可能性が高いと判断された場合、診断を確定させるために「胸腔穿刺(きょうくうせんし)」という検査を行うことがあります。これは、胸に細い針を刺して中の液体を抜き取る検査です。
抜き取った液体が血液であり、その「血液の濃さ(ヘマトクリット値)」が、ご自身の血液の半分以上の濃さであれば、血胸であると確定診断されます。
なお、針を刺す検査を行う際は、超音波やCTで胸の中を見ながら、安全な位置を確認して行います。ある研究報告では、超音波で位置を確認しながら針を進める方が、CTで確認する方法と比べて、検査に伴う合併症のリスクが低い可能性も示されています。
血胸の治療
血胸の治療は、胸の中にたまった血液の量や出血の原因、 そして患者さん自身の状態を総合的にみて慎重に決められます。
治療の大きな目的は、次の2つです。
- たまった血液を体の外へ出し、肺の圧迫を取り除いて呼吸を楽にすること
- 出血を止めて、体の状態を安定させること
治療法は、主に3つの選択肢があります。
- 経過観察 出血がごくわずかで、自然に止まっている場合は、 体が血液を吸収するのを待つことがあります。
- 胸腔ドレナージ たまった血液の量が多い場合に行われる、最も一般的な治療です。 局所麻酔をした後、胸にチューブを入れて血液を体の外に出します。
最近の研究では、この処置と同時に胸の中を洗浄する方法が注目されています。 洗浄を行うと、後から追加の処置が必要になる確率が、 18.2%から10.7%へ低下したという報告もあります。 入院期間の短縮も期待でき、患者さんの負担を減らすことにつながります。
- 手術 胸腔ドレナージをしても出血が止まらない場合に手術を検討します。 チューブを入れた直後に1000ml以上の大量の血液が出る場合や、 1時間に100ml以上の出血が続く場合などが手術の目安です。
手術で出血している血管を直接ふさぎます。 心臓のロボット手術後に血胸が起こり、 再手術が必要になったという報告もあります。 このように、大きな手術の後に起こる場合もあります。
このほか、出血によって体内の血液が不足している場合は、 点滴や輸血で補うことも、命を守る上で非常に大切な治療です。