膵石症

食事やお酒を楽しんだ後、みぞおちや背中に原因不明の激しい痛みが走る…。その繰り返す痛み、もしかしたら胃ではなく、膵臓にできた「石」が原因の「膵石症(すいせきしょう)」かもしれません。

この病気は、放置すると激痛だけでなく消化不良や体重減少、さらには糖尿病を引き起こす危険性もはらんでいます。特に、最大の原因は長年の飲酒習慣とされ、ある調査では慢性膵炎の約7割がアルコールによるものと報告されています。お酒を飲む習慣のある方は決して他人事ではありません。

この記事では、膵石症とはどのような病気なのか、詳しい症状や原因、そして最新の治療法までを分かりやすく解説します。ご自身の体からのサインを見逃さないためにも、ぜひ最後までご覧ください。

膵石症の概要

膵石症(すいせきしょう)は、膵臓(すいぞう)の中に石ができる病気です。 この石は膵石(すいせき)と呼ばれ、さまざまな不調を引き起こす原因となります。 まずは、私たちの体で膵臓がどんな働きをしているのかを知りましょう。

膵臓は胃の裏側にある、長さ15cmほどの細長い臓器です。 目立たない場所にありますが、生命維持に欠かせない2つの役割を担っています。

  • 外分泌機能 食べ物の消化を助ける「膵液(すいえき)」という消化液を作ります。 膵液は、タンパク質や脂肪、炭水化物を分解する強力な力を持っています。
  • 内分泌機能 血糖値を下げるインスリンなど、体の調子を整えるホルモンを作ります。 これらのホルモンは血液中に直接送り出され、全身の調整に役立ちます。

膵石は、主に膵液が通る管である「膵管(すいかん)」の中にできます。 石によって膵管が詰まると、強力な膵液の流れがせき止められてしまいます。 行き場を失った膵液が膵臓にあふれると、膵臓自身を消化し始めます。

この状態が長く続くと、膵臓に繰り返し炎症が起こるようになります。 これが「慢性膵炎(まんせいすいえん)」という病気です。 慢性膵炎は、膵石症が引き起こす最も代表的な合併症の一つです。

慢性膵炎が進行すると、膵臓の機能は少しずつ失われていきます。 その結果、激しい腹痛や背中の痛み、栄養をうまく吸収できない消化不良、 そして血糖値のコントロールができなくなる糖尿病などを引き起こすのです。

膵石症の種類

膵石症は、膵臓のどこに石ができるかによって種類が分かれます。 石の場所を特定することは、今後の治療方針を決めるうえで非常に重要です。 ご自身の状態を正しく理解するために、それぞれの特徴を知っておきましょう。

膵石は、主に2つのタイプに分類されます。

  • 膵管内膵石(すいかんないすいせき) 膵臓の中には、膵液(すいえき)が通る膵管という管があります。 この膵管の中に石ができるタイプで、膵石症のほとんどがこれにあたります。 膵管は、中央を走る太い「主膵管」と、そこから枝分かれする細い「分枝膵管」に分かれています。 太い主膵管に石ができると、膵液の流れが大きくせき止められます。 そのため、お腹や背中に激しい痛みを引き起こすことが多いです。 一方、細い分枝膵管の石は、初期には症状が出ないこともあります。
  • 膵実質内膵石(すいじっしつないすいせき) 膵臓の組織そのもの(実質)に石ができる、比較的まれなタイプです。 実質とは、膵液を作る細胞などが集まっている部分を指します。 長年の炎症によって膵臓の組織が硬くなり、カルシウムが沈着してできます。 このタイプは、膵管内膵石と同時に見つかることも少なくありません。

下の表で、それぞれの特徴を比べてみましょう。

種類

石ができる場所

特徴

注意すべき点

膵管内膵石

膵液が通る管(膵管)の中

・膵石症のほとんどがこのタイプ

・主膵管と分枝膵管に分かれる

・膵液の流れが滞りやすい

・激しい腹痛や背部痛の原因になる

膵実質内膵石

膵臓の組織そのもの(実質)

・比較的まれなタイプ

・慢性膵炎の進行と関連が深い

・膵臓自体の機能低下を示唆する

・消化不良や糖尿病に繋がりやすい

このように、石ができる場所によって、症状の現れ方や病気の進行度が異なります。 超音波検査やCT検査などで石の位置を正確に把握することが、適切な治療への第一歩となるのです。

膵石症の原因

膵臓の中に硬い石ができてしまうなんて、不思議に思いますよね。 膵石ができる直接のきっかけは、膵液の成分が固まってしまうことです。

本来サラサラと流れるはずの膵液が、なぜ固まってしまうのでしょうか。 その背景には、膵臓に長く炎症が続く「慢性膵炎」が深く関わっています。

最も多い原因はアルコールの飲み過ぎ

膵石症を引き起こす慢性膵炎の最大の原因は、長年の飲酒習慣です。 日本で行われた調査では、慢性膵炎の約7割がアルコールによるものと報告されています。

アルコールを飲むと、膵液を作る細胞が過剰に刺激されてしまいます。 その結果、膵液に含まれるタンパク質の濃度が高くなり、粘り気が増します。

このドロドロになった膵液が膵管の中で固まり、石の「芯」となります。 その芯に血液中のカルシウムがくっついて石灰化することで、硬い膵石になるのです。 「少ししか飲まないから大丈夫」と思っていても、毎日の習慣は注意が必要です。

アルコール以外の原因

アルコールを飲まない方でも、膵石症になることがあります。 飲酒以外では、以下のような原因が考えられます。

  • 特発性(とくはつせい) はっきりとした原因がわからないタイプです。 生活習慣の乱れなどが、隠れた原因になっている可能性も考えられます。
  • 遺伝性(いでんせい) 遺伝子の特徴により、膵炎を繰り返し起こしやすい体質の方です。 ご家族に膵炎になった方がいる場合は、この可能性も考えられます。
  • 脂質異常症(ししついじょうしょう) 血液中の中性脂肪が非常に高い状態が続くと、膵臓に負担がかかります。 これが膵炎を引き起こし、慢性化する中で膵石ができることがあります。
  • 自己免疫性(じこめんえきせい) 体を守るはずの免疫システムが、誤って自分の膵臓を攻撃してしまう病気です。 この病気によって膵臓に炎症が続き、膵石が形成されることがあります。

このように、膵石ができる原因は一つではありません。 しかし、生活習慣、特に飲酒が大きく関わっていることをぜひ知っておいてください。

膵石症の症状

膵石症の症状は、石の場所や大きさによって本当にさまざまです。 石があっても全く症状がなく、静かにしていることもあります。 一方で、日常生活が送れないほどの強い症状が出ることもあります。

最も多いサインは「お腹と背中の痛み」

膵石症で最も代表的な症状は、お腹や背中に現れる激しい痛みです。 みぞおち(おへその少し上)あたりに、キリキリと差し込むような痛みを感じます。 この痛みは背中まで突き抜けるように感じられることも少なくありません。

この痛みには、以下のような特徴があります。

  • 痛みが起こるタイミング 食事、特に脂肪分の多い食事やお酒を飲んだ後、数時間して現れやすいです。
  • 痛みの持続 数時間から、時には数日間にわたって続くこともあります。

膵石が膵液の通り道である膵管をふさぐと、膵液が流れなくなります。 行き場を失った膵液で膵臓がパンパンに腫れ上がり、炎症を起こすのです。 これが、激しい痛みの正体です。

消化不良が引き起こす体の変化

痛みの他にも、膵臓の消化機能が落ちることで様々な症状が現れます。 ご自身の体調と見比べて、当てはまるものがないか確認してみましょう。

  • 吐き気や嘔吐 膵臓の炎症が、すぐ近くにある胃を刺激することで起こります。
  • 下痢や脂肪便(しぼうべん) 脂肪を分解する膵液が出ないため、消化不良で下痢になります。 便が白っぽく、水に浮き、脂でテカテカ光る「脂肪便」は特徴的なサインです。
  • 体重の減少 食欲がなくなったり、食べても栄養をうまく吸収できなかったりするためです。

全身に現れる危険なサイン

膵石症が進行し、膵臓全体の機能が低下すると全身に影響が及びます。 血糖値を下げるインスリンが作れなくなり、糖尿病になったり悪化したりします。 また、石が胆汁の流れをせき止めると、体が黄色くなる黄疸(おうだん)も現れます。

一方で、全く症状がなく、健康診断のエコー検査で偶然見つかることも多いです。 症状がないからと安心せず、気になることがあれば必ず専門医に相談しましょう。

膵石症の検査・診断

膵石症が疑われる場合、まずは詳しい問診と診察から始めます。 いつから、どんな痛みが、どのくらいの強さで続いているかなど、 ご自身の言葉で伝えることが、正確な診断への第一歩になります。

その上で、膵臓やその周りの状態を客観的に調べるために、 体の負担が少ないものから順に、以下のような検査を進めていきます。

ステップ1:基本的な検査

体の内部で何が起きているか、まずは血液や尿から手がかりを探します。

  • 血液検査・尿検査 膵臓が炎症を起こすと、アミラーゼという消化酵素が血液や尿に漏れ出します。 この数値を調べることで、膵臓のダメージの程度を把握することができます。

ステップ2:画像で石を探す検査

次に、画像検査で実際に膵臓の中を見て、石の有無や場所を確認します。

  • 腹部超音波(エコー)検査 お腹にゼリーを塗り、超音波を出す機械をあてて内部を観察します。 体に害がなく手軽なため、最初に行われることが多い検査です。 膵臓の腫れや、膵液の通り道である膵管の広がり、大きな石を見つけます。
  • CT検査 X線を使って体を輪切りにした画像を撮影し、膵臓を詳しく調べます。 エコーでは見えにくい小さな石や、石の正確な位置、数を把握するのに優れています。

ステップ3:膵管を詳しく見る精密検査

上記の検査で診断が難しい場合や、治療方針を決めるために、 より専門的な検査を行うことがあります。

  • MRI(MRCP)検査 磁気の力を利用して、膵管や胆管の状態を立体的に映し出します。 放射線を使わないため、被ばくの心配がないのが大きな特徴です。
  • 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP) 口から入れたカメラで、膵管の出口まで進みます。 そこから細い管を入れて薬を注入し、膵管の形を鮮明に撮影します。 詳しい情報が得られる反面、体への負担も考慮して慎重に行われます。

これらの検査結果をパズルのように組み合わせ、総合的に判断することで、 膵石症の診断が確定します。 どの検査を行うかは一人ひとりの状態によって異なりますので、 医師と相談しながら進めていきましょう。

膵石症の治療

膵石症の治療目標は、2つあります。 まず、今あるお腹や背中のつらい痛みを和らげることです。 そして、膵臓の機能をこれ以上悪化させないことです。

治療法は、膵石の大きさや場所、症状の強さなどを考え合わせ、 一人ひとりの状態に合った最適な方法を慎重に選びます。 大きく分けて、以下の3つの選択肢があります。

治療の種類

どんな治療?

どんな人に向いている?

保存的治療

薬や食事で膵臓を休ませる

・症状が比較的軽い方

・石が小さく、症状が出ていない方

内視鏡的治療

体の外からの衝撃波や、口からのカメラで石を取り除く

・痛みが強く、石を取り除く必要がある方

外科的治療

お腹を開ける手術で石を取り除く

・内視鏡での治療が難しい方

・膵管の形に問題がある方

症状を和らげる「保存的治療」

症状が比較的軽い場合は、まず膵臓への負担を減らす治療から始めます。 痛みを抑えるお薬や、消化を助ける膵酵素薬を飲む薬物療法が中心です。

また、膵臓を刺激しないよう、脂肪分の多い食事を控える食事療法も大切です。 膵臓をしっかり休ませ、炎症が静まるのを待つことが目的です。

石を取り除く「内視鏡的治療」

痛みの原因である膵石を直接取り除く、現在の中心的な治療法です。 多くの場合、以下の2つの方法を組み合わせて行われます。

  • 体外衝撃波結石破砕術(ESWL) 体の外から衝撃波という特殊なエネルギーを膵石に集中させます。 狙いを定めて石だけを砂のように細かく砕く治療法です。
  • 内視鏡的採石術(ERCP) 口から入れた胃カメラを使って、膵液の出口から細い管を入れます。 ESWLで砕いた石を、バスケットのような器具でかき出します。

最後の選択肢となる「外科的治療」

内視鏡治療で石を取り除くのが難しい場合に、手術が考えられます。 石が非常に大きい場合や、膵管がひどく狭くなっている場合などです。

お腹を開けて膵管を切開し、直接石を取り出す手術などがあります。 体への負担も大きいため、本当に必要かを慎重に判断します。 どの治療法が最適か、専門の医師とよく相談して決めていきましょう。