腎血管性高血圧症

薬を飲んでもなかなか下がらない、頑固な高血圧にお悩みではありませんか?その症状、もしかしたら加齢や生活習慣だけが原因ではないかもしれません。実は、腎臓へ血液を送る血管が狭くなることで起こる「腎血管性高血圧症」の可能性があるのです。

この病気は高血圧全体の2%未満と決して多くはありませんが、原因が明確なため治療によって改善が期待できる「治せる高血圧」として非常に重要です。特に、若い方の高血圧や、複数の薬を飲んでも血圧が安定しない場合には、この病気が隠れていることも少なくありません。

この記事では、あなたの高血圧が「治せる」タイプかもしれない、腎血管性高血圧症の原因から最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の状態を正しく知るための第一歩として、ぜひお役立てください。

腎血管性高血圧症の概要

腎血管性高血圧症は、腎臓へ血液を送る大切な血管(腎動脈)が狭くなることで、血圧が高くなってしまう病気です。

私たちの腎臓は、血液の量を監視して、血圧をちょうど良い高さに保つ役割も担っています。しかし腎臓への血管が狭くなると、腎臓に届く血液の量が減ってしまいます。すると腎臓は、「体全体の血圧が下がっている」と勘違いを起こします。この勘違いにより、血圧を上げるホルモン(レニン)を過剰に作り出し、全身の血圧を上げてしまうのです。

この病気は高血圧の患者さん全体の中では2%未満と、決して多くはありません。しかし、原因がはっきりしているため、治療によって改善が期待できる「治せる高血圧」として非常に重要です。

特に子どもの高血圧では、腎臓の血管の問題が隠れていることがあります。そのため、治療が可能な高血圧の原因として見逃せません。

腎血管性高血圧症のポイント

  • 腎臓へ血液を送る血管が狭くなることが原因 腎臓が「血圧が低い」と勘違いして、血圧を上げるホルモンを出します。
  • 治療でよくなる可能性がある高血圧 血管の狭い部分を広げることで、改善が期待できます。
  • 子どもからお年寄りまで発症する可能性がある 特に子どもの高血圧では、この病気を考えることが大切です。
  • 一般的な高血圧の薬が効きにくいことがある 薬を飲んでも血圧が下がりにくい場合は、詳しい検査が必要かもしれません。

腎血管性高血圧症の種類

腎血管性高血圧症は、原因によって主に2つのタイプに分けられます。 お年寄りの方に多い「動脈硬化性」と、子どもや若い世代に多い「線維筋性異形成(せんいきんせいいけいせい)」です。

どちらのタイプかによって治療方針が大きく変わるため、原因を正確に突き止めることが非常に重要になります。

種類

主な原因

かかりやすい年齢・性別

狭くなりやすい場所

動脈硬化性

動脈硬化(血管の老化)

50歳以上の中高年の方

腎臓へ向かう動脈の入り口部分

線維筋性異形成

血管の壁の異常

子どもや若い女性

腎臓へ向かう動脈の途中から奥の部分

動脈硬化性 長年の生活習慣などにより血管が古く硬くなる「動脈硬化」が原因です。 特に腎臓へ血液を送る太い血管の根元、つまり入り口部分が狭くなります。 ある調査では65歳以上の6.8%の方に、このタイプの腎動脈の狭さが見られたとの報告もあります。

線維筋性異形成 血管の老化とは関係なく、血管の壁のつくりに異常が起こる病気です。 血管を造影剤などで詳しく調べると、細い部分と太い部分が交互に現れ、まるで「数珠(じゅず)」のように見えるのが特徴です。

この2つが主な原因ですが、他にも様々な原因があります。 特に子どもの場合は、血管に炎症が起きる病気(血管炎)や、神経線維腫症(しんけいせんいしゅしょう)、お腹を強くぶつけた後のケガ(外傷)などが原因となることもあります。 これらは非常に珍しいですが、治療可能な高血圧の原因として見逃せません。

腎血管性高血圧症の原因

腎血管性高血圧症は、腎臓へ血液を送る腎動脈が狭くなることで起こります。 腎動脈が狭くなると、腎臓に届く血液の量が減ってしまいます。

すると腎臓は、「体全体が酸素不足だ」と勘違いを起こします。 この勘違いが引き金となり、血圧を上げるホルモン「レニン」が過剰に作られます。 その結果、全身の血管が縮み、血圧が上がってしまうのです。

腎動脈が狭くなる原因は、年齢によって大きく異なります。 主に大人に多い原因と、子どもや若い世代に多い原因に分けられます。

【大人(特に中高年の方)に多い原因】

  • 動脈硬化 生活習慣の乱れなどにより、血管が硬くもろくなる状態です。 腎血管性高血圧症の原因の中で、最も一般的なものとされています。

【子どもや若い方に多い原因】

  • 線維筋性異形成(せんいきんせいいけいせい) 血管の壁のつくりに異常が起こり、血管が狭くなる病気です。

【その他の原因】 子どもや若い方の高血圧では、次のような珍しい原因も考えられます。

  • 血管の炎症 高安動脈炎など、血管そのものに炎症が起きてしまう病気です。
  • 神経線維腫症(しんけいせんいしゅしょう) 体にこぶなどができる遺伝性の病気が、血管に影響を及ぼすことがあります。
  • ケガ(外傷性血管損傷) お腹を強くぶつけた後などに、腎動脈が傷ついて狭くなることがあります。
  • 血管のこぶ(動脈瘤) 血管にできたこぶが血流を妨げ、原因となる場合もあります。
  • 外からの圧迫 お腹の中のできもの(腫瘍)などが、腎動脈を外から圧迫することもあります。

腎血管性高血圧症の症状

この病気の最も大きな特徴は、血圧が高くなること以外に、はっきりとした自覚症状がほとんどない点です。そのため、多くの場合、ご自身では気づくことができません。健康診断などで偶然、高い血圧を指摘されて判明するケースが大半を占めます。

ただし、血圧が著しく高くなった場合には、頭痛やめまい、耳鳴りなどの症状が出ることがあります。また、この病気の影響で血液中の「カリウム」というミネラルが不足することもあります。カリウムが不足すると、手足に力が入らない、筋肉が痛む、脈が乱れるといった症状が現れる可能性があります。

症状が出にくいため、次のような状況に当てはまる場合は、腎血管性高血圧症の可能性を疑うことが重要です。特にお子さんの高血圧は、治療で改善が期待できる原因として見逃せない重要な手がかりです。

【腎血管性高血圧症を疑うサイン】

  • 急な高血圧の発症 30歳より若い、または50歳を過ぎてから急に血圧が高くなった。
  • 血圧の急な悪化 これまで安定していた血圧が、急にコントロール不良になった。
  • 治療への抵抗性 複数の血圧を下げる薬を飲んでも、なかなか血圧が下がらない。
  • お腹の血管音 お腹のあたりで「血管雑音」という異常な音がすると医師に言われた。
  • 原因不明の肺水腫 心臓に問題がないのに、肺に水がたまる状態を繰り返したことがある。

症状がないからと高い血圧を放置すると、腎臓の機能が徐々に悪化する危険があります。特に、健康診断などで尿にたんぱくが出ている(蛋白尿)と指摘された方は注意が必要です。ある大規模な研究では、蛋白尿を伴う高血圧の患者さんにおいて、血圧を140mmHg未満、特に130mmHg未満にしっかり管理することで、将来の腎機能の悪化を大きく防げる可能性が示唆されています。気になるサインがあれば、早めに医療機関を受診しましょう。

腎血管性高血圧症の検査・診断

腎血管性高血圧症が疑われる場合、原因を特定するためにいくつかの検査を行います。 体に負担の少ない検査から始め、必要に応じてより精密な検査へと進むのが一般的です。

どの検査を行うかは、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、医師が慎重に判断します。

検査の種類

どのような検査か

ドプラ超音波検査

体に優しい超音波を使い、腎臓の血流を調べます。体に負担が少ないため、最初に行われることが多い検査です。

MRA / CTA

MRAは磁気、CTAはX線と造影剤を使い撮影します。腎動脈の形を立体的に描き出し、狭い場所を特定します。

腎血管造影検査

診断を確定するための精密検査です。細い管(カテーテル)を血管に入れ、血流の様子を直接観察します。

ドプラ超音波検査 この検査は、体に負担がかからないため、診断の第一歩として非常に重要です。 特に小さなお子さんの場合でも、安心して受けられるため最初に選択されます。 超音波を使って、腎臓へ向かう血流が異常に速くなっていないかなどを確認します。

MRA / CTA 超音波検査だけでは判断が難しい場合や、さらに詳しい情報が必要な時に行います。 血管の立体的な地図を作るような検査で、狭くなっている場所や程度を正確に把握できます。 MRAとCTAはどちらも精度の高い検査ですが、患者さんの状態に応じて使い分けます。

腎血管造影検査 これは、診断を確定させるために行われる、より精密な検査です。 超音波やCTなど他の検査では見つけにくい、腎臓内部の細い血管の異常を発見できます。 この検査で原因がはっきりとすれば、最適な治療方針を正確に決めることができます。

腎血管性高血圧症の治療

腎血管性高血圧症の治療目標は、大きく分けて2つあります。 1つは血圧を適切な範囲に管理すること、もう1つは原因である腎動脈の狭さを改善することです。 治療法は、患者さんの年齢や原因、全身の状態などを丁寧にみて、総合的に判断して選んでいきます。

主な治療法には、以下の3つがあります。

  • お薬での治療(薬物療法)
  • カテーテルでの治療(血管内治療)
  • 手術での治療(外科手術)

お薬での治療(薬物療法)

治療の基本は、血圧を下げるお薬を使って血圧をコントロールすることです。 特に、血圧を上げる体内物質「レニン・アンジオテンシン系」の働きを抑える薬が中心となります。 例えば、カプトプリルというお薬は、高血圧や心不全の治療に広く使われているお薬の一つです。

ただし、腎臓へ血液を送る血管が両方とも狭くなっている方など、状態によってはお薬で腎臓の機能が悪化することもあります。 そのため、お薬は少ない量から慎重に始めていきます。

カテーテルでの治療(血管内治療)

お薬だけでは血圧のコントロールが難しい場合に行われる、体への負担が少ない治療法です。 足の付け根などの血管から、カテーテルという細い管を入れて治療します。 狭くなった腎動脈を、風船(バルーン)やステントという金属の筒で内側から広げます。

この治療は、血管の老化(動脈硬化)が原因の場合よりも、若い方の「線維筋性異形成」という病気が原因の場合に、より高い効果が期待できるとされています。 お子さんの場合も、まずはお薬で治療しますが、改善が難しい場合にはこのカテーテル治療が検討されます。

手術での治療(外科手術)

カテーテルでの治療が難しい場合や、他の治療で十分な効果が見られない場合に選択されます。 狭くなった血管の代わりに新しい血管をつなぐ「バイパス手術」などがあります。 体の状態をみて、どの治療が最も適しているかを慎重に判断します。