腎細胞がん

健康診断の結果を見て「自分は大丈夫」と思っていませんか?腎細胞がんは「静かながん」とも呼ばれ、初期には自覚できる症状がほとんどありません。そのため、多くは健康診断などで偶然発見される、誰にとっても決して他人事ではない病気です。

統計によると、男性は女性の約2.7倍かかりやすいとされ、50歳を過ぎるとリスクは高まります。喫煙や肥満といった身近な生活習慣が、気づかぬうちに発症の引き金になっているかもしれません。

この記事では、腎細胞がんの具体的な症状や原因、そして近年大きく進歩している最新の薬物療法までを詳しく解説します。正しい知識を得ることが、ご自身や大切な家族を守る第一歩です。

腎細胞がんの概要

腎細胞がんは、お腹の背中側に左右一つずつある腎臓にできるがんです。 腎臓は血液をろ過して、老廃物や余分な水分をおしっことして出すフィルターの役目をしています。

この腎臓の中でも、尿をつくる本体部分を「腎実質(じんじっしつ)」といいます。 この腎実質の細胞ががんになったものが腎細胞がんです。 尿の通り道にできる「腎盂(じんう)がん」とは性質が違うため、治療法も区別されます。 一般的に「腎臓がん」という場合は、ほとんどがこの腎細胞がんを指します。

腎細胞がんの特徴

かかりやすい性別

男性(女性の約2.7倍といわれます)

かかりやすい年齢

50歳ごろから増え始め、高齢になるほど多くなる傾向があります

腎細胞がんの治療は日々進歩しており、特に薬物療法は大きく変わってきています。 以前はスニチニブやパゾパニブといったお薬が中心でした。 近年では、人が本来もつ免疫の力を利用してがんと戦う「免疫チェックポイント阻害薬」も使われます。

新しい薬を組み合わせる治療法も活発に研究されています。 例えば、ペムブロリズマブという薬にエパカドスタットという薬を加えても、がんが小さくなる割合は従来のお薬と大きな差がなかったという報告があります。 より良い治療法を目指して、今もさまざまな研究が続けられているのです。

腎細胞がんの種類

腎細胞がんと診断されても、実はがんは一つではありません。 顕微鏡で見たときのがん細胞の顔つき(組織型)によって、いくつかの種類に分けられます。 この種類によってがんの性格や治療法が変わるため、どのタイプかを知ることはとても重要です。

腎細胞がんの主な種類は、以下のようになっています。

がんの種類(組織型)

割合

特徴

淡明細胞型(たんめいさいぼうがた)

約70~80%

最も多いタイプです。細胞の中が明るく透き通って見えるため、この名前がついています。

乳頭状(にゅうとうじょう)

約10~15%

指のような形でモコモコと大きくなる特徴があります。

嫌色素性(けんしきそせい)

約5%

細胞と細胞の境目がはっきりと見えるのが特徴です。

その他

約5%

集合管がんなど、非常にまれな種類も含まれます。

特に、最も多い「淡明細胞型」は、治療法の研究が活発に行われています。 がんが他の場所に広がっている場合、体のもつ免疫の力を利用する薬などが使われます。

最近では、たくさんの治療法を比較した研究も行われています。 その結果、「ペムブロリズマブ」と「レンバチニブ」というお薬を組み合わせる治療が、がんが大きくならずにいられる期間を延ばすのに、特に良い結果を示したと報告されています。

一方で、新しい薬の組み合わせが必ずしもうまくいくわけではありません。 例えば、ペムブロリズマブに別の薬を加えても、これまでのお薬と比べてがんが小さくなる割合は大きく変わらなかったという研究結果もあります。 このように多くの研究を経て、より効果的な治療法が日々探されているのです。 がんの種類を正確に特定することが、一人ひとりに合った治療を選ぶための大切な第一歩となります。

腎細胞がんの原因

腎細胞がんがなぜできてしまうのか、そのはっきりとした原因はまだわかっていません。 しかし、これまでの多くの研究から、がんになりやすくなる危険な要因(リスク因子)がいくつか明らかになっています。

ご自身の生活習慣や健康状態と照らし合わせてみましょう。

  • 生活習慣が関係するもの
  • 喫煙 タバコの煙に含まれる多くの有害な物質が血液の中に入ります。 そして、腎臓でこされる時に、腎臓の細胞を傷つけてしまいます。
  • 肥満 太りすぎると、体の中のホルモンのバランスが崩れやすくなります。 これが、がん細胞が増えるのを手助けしてしまうことがあります。
  • 高血圧 血圧が高い状態が続くと、腎臓のフィルター役の血管に負担がかかります。 この負担が、細胞のがん化につながると考えられています。
  • 病気や治療に関係するもの
  • 長期間の人工透析 透析を長く受けていると、腎臓に「嚢胞(のうほう)」という水の袋ができやすくなります。 まれに、この嚢胞からがんが発生することがあります。
  • 遺伝的な要因 ご家族に腎細胞がんの方がいる場合や、特定の遺伝子の病気がある場合、リスクが高まることが知られています。

また、がんの性質を比べることで、原因を探る研究も進んでいます。 例えば、体の免疫の力を利用するお薬の治療をやめた後、がんが大きくならずにいられた期間を調べた研究があります。 その結果、皮膚がんの一種(メラノーマ)では約43ヶ月だったのに対し、腎細胞がんは約10ヶ月と短いことがわかりました。 この違いは、がんが発生する仕組みがそれぞれ違うことを示唆しているのかもしれません。 こうした研究が、将来の原因の解明につながると期待されています。

腎細胞がんの症状

腎細胞がんは「静かながん」とも呼ばれ、初期の段階では自覚できる症状がほとんどありません。 そのため、健康診断の超音波(エコー)検査などで、偶然見つかることが大半です。

しかし、がんが大きくなってくると、体はさまざまなサインを出し始めます。 以下のような症状に気づいたら、決して放置せず、早めに医療機関に相談しましょう。

腎臓やその周りにあらわれる症状

  • 血尿 おしっこに血が混じる症状です。見た目でわかる赤い尿だけでなく、検査で初めてわかるものもあります。
  • 背中や腰の痛み がんが大きくなり、周りの神経や組織を圧迫することで痛みが出ます。なかなか治らない腰痛には注意が必要です。
  • お腹のしこり お腹を触ったときに、普段はない硬いかたまりとして感じられることがあります。

全身にあらわれる症状

  • 原因不明の発熱 がん細胞が出す物質の影響で、風邪でもないのに熱が続くことがあります。
  • 食欲不振や体重減少 がんが体の栄養をたくさん使ってしまうため、食欲がなくなったり、急に体重が減ったりします。
  • 貧血やだるさ 腎臓は血液を作るホルモンも出しており、その機能が落ちると貧血になり、だるさを感じやすくなります。

治療によっておこる症状

がんそのものだけでなく、治療によって体に変化がみられることもあります。 例えば、お薬による治療(標的療法)を受けた方を調べた研究があります。 その結果、一定の割合で腎臓の働きに影響が出ることが報告されました。

治療による腎臓への影響

発生率

腎機能の低下

約17%

たんぱく尿

約29%

たんぱく尿とは、おしっこにタンパク質が漏れ出てしまう状態のことです。 幸い、これらの多くは軽いもので、適切に対応すれば大きな問題にはなりません。 治療中に気になる症状があれば、どんな小さなことでも医師に伝えることが大切です。

腎細胞がんの検査・診断

腎細胞がんは静かながんのため、多くは健康診断などで偶然見つかります。 お腹の超音波(エコー)検査などで「腎臓に何かある」と言われたら、がんかどうかを確かめるための詳しい検査が始まります。

検査の目的は、診断を確定し、がんの進行度を正確に知ることです。 がんの場所や大きさ、性質などをパズルのように組み合わせて、一人ひとりに合った治療法を探していきます。

がんの姿をとらえる画像検査

まず、がんの大きさや位置、周りへの広がりなどを調べる画像検査です。 カメラで写真を撮るように、体の中の様子を詳しく観察します。

検査の種類

この検査でわかること

超音波(エコー)検査

体への負担が少なく、腎臓にしこりがあるかを確認する最初の検査です。

CT検査

診断を確定するための中心的な検査です。体を輪切りにした画像で詳しく評価します。

MRI検査

CTだけでは診断が難しい場合や、CTで使うお薬にアレルギーがある時に行います。

CT検査では多くの場合、「造影剤」というお薬を腕の血管から注射します。 このお薬を使うと、がんの血の流れがよくなり、がんの姿がはっきりと映し出されるため、より正確な診断が可能になります。

診断を確定し治療方針を決める検査

画像検査だけでは判断が難しい場合や、治療法を決めるためには、さらに詳しい検査が必要です。

  • 生検 体の外から細い針を刺し、がん組織の一部を直接取ってきます。 その組織を顕微鏡で詳しく観察し、がんの顔つき(種類)を確定させます。
  • 血液検査・尿検査 体全体の健康状態を把握するために行います。 特に、腎臓の働きを示す「腎機能」は、治療法を決める上で非常に重要です。

なぜなら、治療法によっては腎臓に影響が出ることがあるからです。 例えば、お薬の治療(標的療法)を受けた方を調べた研究では、約29%の方に「たんぱく尿」という腎臓への負担を示すサインが見られたと報告されています。 多くは軽いものですが、安全に治療を進めるためには、治療開始前の腎臓の元気度を正確に知っておくことが不可欠なのです。

腎細胞がんの治療

腎細胞がんの治療法は、がんの進み具合や種類、そして患者さんご自身の体の状態などを合わせて考え、医師と一緒に決めていきます。 治療にはいくつかの選択肢があり、一人ひとりに合った最適な方法を選びます。

治療法の種類

主な対象となるがん

治療の概要

手術

転移がなく、腎臓にとどまっているがん

がんの部分だけ、あるいは腎臓ごと取り除きます。

薬物療法

手術が難しいがん

他の場所に転移しているがん

お薬でがんの成長を抑えたり、体の免疫で攻撃したりします。

放射線治療

骨や脳に転移したがん

転移したがんによる痛みなどの症状を和らげるために行われます。

その他の治療

小さながんなど

がんを凍らせて壊す「凍結療法」や、すぐに治療せず経過を見る「監視療法」などがあります。

近年、特に大きく進歩しているのが、お薬を使った「薬物療法」です。 手術が難しい場合や、がんが他の場所に広がっている場合は、この薬物療法が治療の中心となります。

  • 分子標的薬 がん細胞が大きくなるために必要な「栄養」や「通り道」をじゃまするお薬です。 多くの研究をまとめた報告では、このお薬で治療した方のうち、約17%に腎臓の働きが少し落ちる変化が、約29%におしっこにタンパク質が混じる変化が見られました。 しかし、これらの多くは軽いもので、適切に対応しながら治療を進められます。
  • 免疫チェックポイント阻害薬 私たちの体に本来備わっている「免疫」という見張り役が、がん細胞をしっかり攻撃できるように手助けするお薬です。 転移がある腎細胞がんでは、このお薬と分子標的薬を一緒に使うことが増えています。 特に「ペムブロリズマブ」と「レンバチニブ」というお薬の組み合わせは、がんが大きくなるのを抑える効果が高いことが報告されています。

新しいお薬や治療法は常に研究されていますが、必ずしも従来の治療より優れているとは限りません。 例えば、ある新しい組み合わせの治療法が、既存の治療法と比べて有効性に大きな差がなかったという研究結果もあります。 そのため、専門の医師が最新の知識に基づき、一人ひとりの状態に最も適した治療法を慎重に選ぶことがとても大切なのです。