腎盂尿管がん

「一度きりの血尿だから」「痛みもないし大丈夫」。そんな風に、体のサインを見過ごしていませんか?その症状、もしかしたら腎盂尿管がんの警告かもしれません。このがんは、膀胱がんに比べて患者数が約20分の1とまれですが、見つかった方の約20%に膀胱がんが発生するという、非常に注意が必要な病気です。

腎臓と膀胱をつなぐ尿の通り道にできるこのがんは、腎臓そのものにできる「腎臓がん」とは全くの別物。初期症状がほとんどなく、気づかないうちに進行する恐れがあります。この記事では、腎盂尿管がんの正しい知識と、見逃してはいけないサイン、そして最新の治療法までを詳しく解説します。

腎盂尿管がんの概要

腎盂尿管(じんうにょうかん)がんは、腎臓で作られたおしっこの通り道にできるがんです。私たちの体には腎臓が左右に一つずつあり、おしっこを作る工場のような働きをしています。

腎臓で作られたおしっこは、まず「腎盂」という受け皿に集められます。そこから「尿管」という細い管を通り、膀胱(ぼうこう)へと運ばれていきます。この腎盂と尿管の内側は「尿路上皮(にょうろじょうひ)」という粘膜でおおわれています。腎盂尿管がんは、この尿路上皮から発生するがんです。

注意したいのは、腎臓そのものにできる「腎臓がん(腎細胞がん)」とは違う病気だということです。発生する場所もがんの種類も異なるため、検査や治療の方法も変わってきます。

また、腎盂尿管がんが見つかった方の約20%に、膀胱がんが発生するといわれています。これは、腎盂から膀胱まで、同じ尿路上皮でつながっているためです。

腎盂尿管がんのポイント

  • できる場所 腎臓と膀胱をつなぐ、おしっこの通り道(腎盂と尿管)です。
  • 発生のまれさ 膀胱がんに比べると患者さんの数は少なく、約20分の1程度です。
  • かかりやすい人 男性に多く見られ、ご高齢になるほどかかりやすくなる傾向があります。
  • がんと間違いやすい病気 腎盂に腫瘍が見つかっても、すべてががんとは限りません。まれに、体の免疫が関係する「IgG4関連疾患」という病気で腫瘍ができることもあります。この病気は画像検査だけではがんと見分けるのが難しいため、正確な診断には詳しい検査がとても重要になります。

腎盂尿管がんの種類

腎盂尿管がんは、がんの性質によって大きく2つの種類に分けられます。 がんの「顔つき」である悪性度や、再発のしやすさなどを総合的に評価し、治療方針を決めるための大切な分類です。

  • 高リスクのがん 悪性度が高く、勢いがあり進行しやすいタイプのがんです。 再発する可能性も高いと考えられます。
  • 低リスクのがん 悪性度が低く、比較的おとなしい性質のがんです。 ゆっくりと進行し、転移のリスクも低いとされます。

このリスク分類によって、治療法が大きく変わります。

高リスクのがんでは、がんを完全に取り除くことが最も重要になります。 そのため、がんがある側の腎臓と尿管をすべて摘出する「腎尿管全摘除術」が標準的な治療です。 近年では、体の負担を少なくするために、ロボットの支援でより精密な手術を行うことも増えています。

一方、低リスクのがんでは、腎臓の働きをできるだけ残すことを目指します。 がんの部分だけを切り取る「腎温存手術」が選択肢となります。 ある研究では、条件が合えば腎温存手術は、腎尿管全摘除術と同じくらいの治療効果が期待できると報告されています。 さらに、手術後の腎臓の働きも良好に保たれる可能性が示されています。

どの治療法を選ぶかは、がんの種類や場所、患者さんの体の状態などを総合的にみて、医師と相談しながら慎重に決定していきます。

腎盂尿管がんの原因

腎盂尿管がんがなぜできるのか、その正確な原因はまだはっきりとわかっていません。 しかし、これまでの研究から、がんになる可能性を高めるいくつかの原因(危険因子)が明らかになっています。

主な原因として、以下のものが知られています。

  • 喫煙 最も大きな原因と考えられています。 タバコの煙に含まれる悪い物質が血液に溶け込み、おしっことして排出されます。 その過程で、おしっこの通り道である腎盂や尿管の粘膜が、長期間にわたり傷つけられます。 この刺激が続くことで、がんが発生しやすくなるのです。
  • 特定の化学物質や薬 染料や化学薬品などを扱うお仕事に、長く従事している方は注意が必要です。 また、過去に使用されていた一部の痛み止めなども、原因の一つとされています。
  • 長引く炎症 尿路結石などによって、腎盂や尿管の粘膜が長い間、物理的な刺激を受け続けることも、がんの発生に関係していると考えられます。

また、注意したいのは、腎盂にこぶが見つかっても、すべてががんとは限らない点です。 まれに「IgG4関連疾患」という、体の免疫システムの異常が原因で、がんによく似たこぶができることがあります。 この病気は、CTなどの画像検査だけではがんと見分けるのが難しいことがあります。 しかし、がんとは治療法が全く異なるため、正確に診断することがとても重要になります。 血液検査で特定の数値(血清IgG4値)を調べることなどが、診断の助けになります。

腎盂尿管がんの症状

腎盂尿管がんは、初期の段階では症状がほとんど現れません。 そのため、気づかないうちに進行してしまうことがあるがんです。 健康診断の尿検査で、異常を指摘されて見つかることも少なくありません。

がんが進行してくると、次のようなサインが現れることがあります。

  • 目で見てわかる血尿(肉眼的血尿) 最も多く見られるサインです。 おしっこがピンク色や赤色、茶色っぽく見えるのが特徴です。 多くの場合、排尿時に痛みを伴わないため、軽く考えがちです。 一度きりで血尿が止まっても、安心せずに受診することが大切です。
  • 腰や背中、脇腹の痛み がんが大きくなり、おしっこの通り道をふさいでしまうことがあります。 すると、腎臓が腫れてしまい(水腎症)、腰や背中に痛みを感じます。 この痛みは、尿管結石のように急に強くなったり、おさまったりを繰り返すこともあります。

注意したいのは、これらの典型的な症状が全く出ないケースもあることです。 ある報告では、血尿や痛みなどの症状がないまま、別の検査で偶然がんによく似たこぶが見つかった例もあります。 症状がないからといって、がんの可能性がゼロとは言い切れないのです。

症状のチェックリスト

ご自身の体調を振り返ってみましょう。

□ 赤やピンク、茶色のおしっこが出たことがある □ 腰や背中、脇腹に原因不明の痛みがある □ 健康診断の尿検査で「尿潜血(+)」と指摘された

これらのサインが一つでも当てはまる場合は、自己判断で様子を見ずに、早めに泌尿器科を受診するようにしましょう。

腎盂尿管がんの検査・診断

腎盂尿管がんが疑われる場合、いくつかの検査を段階的に行います。 がんの有無や性質、進行度を正確に把握するための大切なステップです。 体に負担の少ない検査から始め、必要に応じて詳しい検査に進みます。

主な検査の流れと、その目的は以下の通りです。

検査の種類

主な目的

尿検査

尿に血液やがん細胞が混じっていないかを調べる

超音波(エコー)検査

腎臓の腫れ(水腎症)や腫瘍の有無を確認する

CT検査

腫瘍の正確な位置、大きさ、広がり、転移の有無を調べる

尿管鏡検査

内視鏡で直接観察し、組織を採取して確定診断を行う

各検査の詳しい内容

  • 尿検査(尿細胞診) 尿を採取し、顕微鏡でがん細胞が剥がれ落ちていないか調べます。 患者さんの負担が少なく、簡単に行える基本的な検査です。
  • 超音波(エコー)検査 お腹の表面から超音波をあて、腎臓の内部を画像で確認します。 腫瘍で尿の流れがせき止められ、腎臓が腫れていないか調べます。
  • CT検査 X線を使って体の断面を撮影し、がんの正確な位置や広がりを見ます。 造影剤という薬を使うと、がんがより鮮明に映し出されます。 リンパ節や他の臓器への転移がないかも詳しく評価できます。
  • 尿管鏡検査と生検 がんかどうかを確定させるための、最も重要な検査です。 尿道から細い内視鏡を入れ、腎盂や尿管の内部を直接観察します。 がんが疑われる組織の一部を採取(生検)し、診断を確定させます。 この検査は麻酔が必要なため、入院して行うことが一般的です。

正確な診断が未来を決める

画像検査で腫瘍が見つかっても、それが必ずしもがんとは限りません。 まれに「IgG4関連疾患」という免疫の病気で、がんによく似たこぶができることがあります。 ある報告では、血尿などの典型的な症状がない方でもこの病気が見つかっています。 がんとは治療法が全く異なるため、血液検査で特定の数値(血清IgG4値)を調べるなどして、正確に見分けることが非常に重要になります。

これらの精密な検査によってがんの進行度を正確に診断することが、その後の適切な治療方針を決めるための大切な第一歩となるのです。

腎盂尿管がんの治療

腎盂尿管がんの治療は、がんを取り除き、再発を防ぐことが目標です。 治療法は、がんの進行度や悪性度、患者さんの体の状態をみて決めます。 治療の大きな柱は「手術」と「お薬を使った治療(薬物療法)」です。

手術:がんを取り除く基本の治療

手術は、がんを体から取り除くための最も基本的な治療法です。 がんがある側の腎臓と尿管をすべて摘出する「腎尿管全摘除術」が標準です。 お腹を大きく切る手術の他に、傷が小さい腹腔鏡手術なども選択できます。

手術の種類

特徴

腎尿管全摘除術

がんのある腎臓と尿管をすべて取り除く、標準的な手術です。

腎温存手術

がんがおとなしいタイプの場合に、腎臓を残すことを目指す手術です。

お薬の治療:再発を防ぎ、がんの進行を抑える

手術の前後に再発を防いだり、進行したがんを治療したりします。 お薬には、主に2つのタイプがあります。

  • がん細胞を攻撃するお薬(化学療法) がん細胞が増えるのを抑えて、直接ダメージを与えます。 研究では、手術後にこのお薬を使うと、再発を防ぎ、元気に過ごせる期間を延ばす効果が期待できると報告されています。
  • 免疫を助けるお薬(免疫療法) 体が本来持っている、がん細胞と戦う力(免疫)を強めます。 このお薬だけで手術後の再発を防ぐ効果は、まだはっきりとわかっていません。 しかし、化学療法と組み合わせることで、より良い効果が期待できる可能性があり、現在も研究が進んでいます。

どの治療法を選ぶかは、患者さん一人ひとりの状態によって異なります。 担当の医師とよく相談し、納得できる治療を受けることが大切です。