糖質代謝異常症

ごはんやパンは大切なエネルギー源ですが、その「当たり前」が生まれつき困難な子どもたちがいます。食べたものをうまく力に変えられない「糖質代謝異常症」は、国の「指定難病」にも認定されている、専門的なケアが必要な病気です。

ミルクを飲んだ後にぐったりする、体重がなかなか増えない…。それは単なる体質ではなく、病気のサインかもしれません。この病気は遺伝子が主な原因で、放置すればお子さんの発達に影響がおよぶ可能性もあります。

この記事では、糖質代謝異常症の主な種類からご家庭で注意すべき症状、そして最新の治療法までを詳しく解説します。大切なお子さんの「もしも」に気づき、適切な対応につなげるために、ぜひご一読ください。

糖質代謝異常症の概要

ごはんやパンなどに含まれる「糖質」は、私たちが活動するための大切なエネルギー源です。

食べ物からとった糖質は、体の中でエネルギーに変わったり、余った分は貯金のように蓄えられたりします。この一連の働きを「代謝」と呼びます。

糖質代謝異常症は、この代謝の仕組みがうまく働かなくなる病気の総称です。糖質をエネルギーに変えるために必要な「酵素」という物質が、生まれつきうまく機能しないことが原因で起こります。

糖質の代謝がうまくいかないと、体に様々な影響が出ます。近年の研究では、糖質の代謝異常が体の中の「炎症」と深く関わることがわかってきました。糖尿病も、慢性的な炎症が関連する代謝の病気として知られています。

この病気は、お子さんにみられることが多く、一部は国の「小児慢性特定疾病」や「指定難病」に指定されています。

糖質の主な働き

分かりやすい説明

エネルギー源

体を動かしたり、脳が考えたりするためのガソリンになります。

貯蔵

使いきれなかった分は、グリコーゲンという形で肝臓や筋肉に貯金されます。

この病気では、上記のような糖質の正常な働きが妨げられます。そのため、早期に気づき、適切な対応を始めることがとても大切です。

糖質代謝異常症の種類

「糖質代謝異常症」は、どの糖の代謝に問題があるかで、いくつかの種類に分けられます。原因となる糖の種類によって、体に現れる影響や注意すべき食べ物が異なります。

代表的な糖質代謝異常症には、主に以下の4つがあります。

  • 糖原病(とうげんびょう) エネルギーの貯金である「グリコーゲン」を、肝臓や筋肉でうまく使えない病気です。
  • ガラクトース血症 母乳や牛乳に含まれる「ガラクトース」という糖を分解できない病気です。
  • 遺伝性フルクトース不耐症 果物やはちみつに多い「フルクトース(果糖)」を分解する力が弱い病気です。
  • ピルビン酸代謝異常症 糖をエネルギーに変える過程で働く「ピルビン酸」の代謝がうまくいかない病気です。

これらの病気は生まれつきのものがほとんどです。しかし、広い意味での代謝の異常は、もっと身近な病気とも深く関わっています。

例えば、血糖値が高くなる糖尿病も糖の代謝に関する病気です。最近の研究では、糖尿病と、痛風の原因になる高尿酸血症が互いに影響し合っていることが明らかになっています。

これら2つの病気は、体の中の「炎症」や「酸化ストレス」といった共通の仕組みを介して、互いの症状を悪化させる双方向の関係にあると考えられています。このように、体の代謝システムは非常に複雑につながり合っているのです。

糖質代謝異常症の原因

糖質代謝異常症の主な原因は、体の設計図である「遺伝子」の変化にあります。

私たちの体は、食べ物からとった糖質をエネルギーに変えるために、「酵素」という働きものを使います。この酵素の作り方は、すべて遺伝子に情報として書き込まれています。

糖質代謝異常症は、この遺伝子の情報にもともと変化があることが原因です。そのため、特定の酵素がうまく作られなかったり、作られても正しく機能しなかったりして発症します。多くの場合、ご両親から変化のある遺伝子をそれぞれ受け継いだときに起こります。

どの酵素に問題があるかによって、病気の種類も異なります。

  • 糖原病 エネルギーの貯金であるグリコーゲンを作ったり、分解したりする酵素に問題があります。
  • ガラクトース血症 牛乳や母乳に含まれるガラクトースという糖を、分解するための酵素に問題があります。
  • 遺伝性フルクトース不耐症 果物や砂糖に多いフルクトースという糖を、分解するための酵素に問題があります。

しかし、糖の代謝は非常に複雑で、遺伝子だけの問題とは限りません。最近の研究では、甲状腺ホルモンのような体内のホルモンバランスが、糖の代謝に影響を与える可能性も指摘されています。

また、生まれ持った遺伝的な特徴と、日々の生活習慣などの環境要因が組み合わさり、体の状態に影響をおよぼすこともわかっています。このように原因は一つではなく、様々な要因が関わっているのです。

糖質代謝異常症の症状

糖質代謝異常症は、食べたものをエネルギーに変える力が弱い病気です。そのため、症状は原因となる糖質をとったときに現れやすいのが特徴です。特に赤ちゃんは、母乳やミルクに含まれる糖質がうまく使えず症状が出ることがあります。

糖質代謝異常症でみられることがある主なサインには、以下のようなものがあります。

  • 哺乳する力が弱い
  • 体重がなかなか増えない
  • 皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)
  • ぐったりする、けいれん、意識がもうろうとする (脳のエネルギー不足による低血糖症状)
  • 発達や成長がゆっくりになる

また、病気の種類によって、より特徴的な症状が異なります。

病気の種類

主な症状の例

糖原病

・おなかがふくらむ(使えないエネルギーの貯金が肝臓にたまるため)

・空腹時にぐったりする(貯金を下ろして使えないため)

・筋肉の力が弱く、運動すると痛む

ガラクトース血症

・ミルクを飲んだあとの不機嫌、嘔吐、下痢

・目が白くにごる(白内障)

・治療が遅れると知的な発達に影響が出ることがある

遺伝性フルクトース不耐症

・果物や砂糖をとったあとにぐったりする(低血糖)

・汗をたくさんかく、ふるえ、けいれん

・長く続くと肝臓や腎臓の働きが悪くなる

ピルビン酸代謝異常症

・筋肉の力が弱い

・けいれんや発達の遅れ

・体のバランスをとるのが難しいなど、神経に関わる症状

重い感染症(敗血症など)にかかると、体は炎症などによって血糖のコントロールが普段より難しくなります。この病気の患者さんでは、その影響がより強く出てしまうため注意が必要です。

また、ピルビン酸代謝異常症のように神経に影響が出る病気もあります。これは、エネルギー不足によって神経細胞がダメージ(酸化ストレス)を受けやすくなるためです。神経を守るための研究も進められています。症状は一人ひとり異なりますので、気になることがあれば専門の医療機関にご相談ください。

糖質代謝異常症の検査・診断

糖質代謝異常症の診断は、症状や生活の様子を聞くことから始まります。そして、いくつかの検査を組み合わせて、原因を慎重に突き止めていきます。

まずは血液や尿を調べる基本的な検査から行い、体の中の状態を確認します。病気の種類によって、必要な検査は異なります。

主な検査の方法

糖質代謝異常症を診断するためには、以下のような検査を段階的に行います。

検査の種類

どのような検査か

新生児マススクリーニング

生後すぐの赤ちゃんのかかとから、ごく少量の血液をとって調べる検査です。ガラクトース血症など、一部の病気を症状が出る前に見つけられます。

血液検査・尿検査

血液や尿の中に異常な糖がないか、肝臓や筋肉の働きは正常かなどを調べます。特に、おなかが空いているときの血糖値が低いことは大切な手がかりです。

負荷テスト

原因と考えられる糖分を含んだ飲み物を飲んでもらいます。その後、時間をおいて血液を調べ、体の反応を詳しく見る検査です。

遺伝子検査

病気の原因となる「体の設計図(遺伝子)」を調べます。この検査によって、病気の種類をはっきりと特定し、診断を確定させることができます。

組織検査(生検)

診断を確定するために、肝臓や筋肉の一部を少しだけ採取し、酵素の働きなどを直接調べることがあります。

これらの検査で病気を正確に診断することは、とても重要です。なぜなら、糖の代謝に問題があると、感染症など他の病気にかかったときに、体の状態が急に悪化することがあるからです。

例えば、重い感染症(敗血症など)になると、健康な人でも血糖のコントロールが難しくなります。この病気のお子さんでは、その影響がより強く出てしまう危険があるのです。研究でも、血糖値の異常は病気の経過を悪くするサインだと報告されています。

そのため、検査で早く正確に病気を知り、適切な対応を始めることが、お子さんの体を守るために何よりも大切になります。

糖質代謝異常症の治療

糖質代謝異常症の治療は、原因となる糖質を食事から除く「食事療法」が中心です。生涯にわたって続ける必要がありますが、早くから治療を始めることで、症状を抑えられます。

具体的な食事療法は、病気の種類によって異なります。

病気の種類

食事療法のポイント

糖原病

血糖値を安定させることが大切です。ゆっくりと体に吸収される未調理のコーンスターチ(トウモロコシのでんぷん)などを利用します。

ガラクトース血症

母乳やミルクの乳糖が原因のため、乳糖を含まない特殊なミルクに切り替えます。離乳後も、牛乳や乳製品を避ける必要があります。

遺伝性フルクトース不耐症

果物や砂糖(ショ糖)に含まれるフルクトースを厳しく制限します。野菜や果物が減るため、ビタミン不足にならないよう注意が必要です。

食事療法だけでは補えない部分は、薬でサポートします。例えば、不足しがちなビタミンを補う薬や、けいれんなどの症状を和らげる薬を使うことがあります。

最近の研究では、糖の代謝異常が体内で「酸化ストレス(体のサビつき)」や「炎症(小さな火事)」を起こすことが分かってきました。

そのため、食事療法と並行して、これらの反応を抑えるアプローチも注目されています。例えば、ポリフェノールやプロバイオティクス、イラクサなどのハーブが、炎症を抑える助けになる可能性について研究が進んでいます。

治療は専門の医師や管理栄養士と相談しながら、一人ひとりの状態に合わせて進めることが大切です。