精索静脈瘤
「なかなか子どもを授からない…」その原因は、男性側にあるかもしれません。実は、成人男性のおよそ15%に見られる「精索静脈瘤」は、男性不妊の最も一般的な原因の一つとされています。決して珍しい病気ではないのです。
この病気の怖い点は、痛みなどの自覚症状がほとんどないことです。気づかないうちに精巣の血流が悪化し、大切な精子をつくる機能が静かに損なわれているかもしれません。自分は大丈夫だと思っていても、将来の家族計画に大きな影響を及ぼす可能性があります。
しかし、精索静脈瘤は適切な治療で改善が期待できます。この記事では、ご自身の状態を知るためのサインや、最新の治療法まで詳しく解説します。将来のために、今知っておくべき知識を身につけ、大切な一歩を踏み出しましょう。
精索静脈瘤の概要
精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)とは、精巣(睾丸)から心臓へ血液を戻す血管(静脈)が、こぶのようにふくらむ病気です。 足に血管が浮き出てこぶのようになる下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)と、同じような状態が精巣の周りで起こります。
この病気は成人男性のおよそ15%に見られ、決して珍しいものではありません。 多くの場合、痛みなどの自覚症状がないため、気づかずに過ごしている方が多いのが特徴です。
しかし、症状がないからといって放置してよいわけではありません。 精索静脈瘤は、男性不妊の最も一般的な原因の一つとされています。 ふくらんだ血管に血液がたまることで、精巣に悪影響を与えてしまうためです。
- 精巣の温度が上昇する
- 血液がたまると精巣の温度が上がり、熱に弱い精子をつくる機能が低下します。
- 血流が悪くなる
- 精巣に酸素や栄養が届きにくくなり、老廃物がたまりやすくなります。
- 精巣へのダメージ
- 逆流した血液に含まれる物質が、精子に直接的なダメージを与える可能性もあります。
このような状態が続くと、精子の数が減ったり、運動率が低下したりします。 ただ、適切な治療で改善が期待できます。 ある信頼性の高い研究では、手術を受けた人と受けなかった人を比較しました。 その結果、手術を受けた人の方が、精子の数や運動能力、正常な形の精子の割合が明らかに改善したと報告されています。 痛みや不快感がなくても、将来の妊娠を考えている方は、一度専門の医療機関に相談してみましょう。
精索静脈瘤の種類
精索静脈瘤は、お医者さんが触って確かめる診察によって、その重症度を分類します。 血管にできたこぶの状態に応じて、大きく3つのグレード(段階)に分けられます。 診察では、お腹にぐっと力を入れてもらう「バルサルバ試験」という方法も用います。
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グレード |
状態の目安 |
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グレード1(軽度) |
普通に立っているだけではわかりません。お腹に力を入れたときに、やっと触ってわかる程度の軽いふくらみです。 |
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グレード2(中等度) |
普通に立っている状態で、お医者さんが触ればすぐにわかるこぶがある状態です。 |
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グレード3(重度) |
触らなくても、見ただけで血管がうねうねと浮き出ているのがわかる状態です。 |
このように、診察で確認できるグレード1〜3を「臨床的(りんしょうてき)精索静脈瘤」と呼びます。 一方で、触ってもわからず、超音波(エコー)検査で初めて見つかるタイプもあります。 これを「亜臨床型(サブクリニカル)精索静脈瘤」と呼び、いわば隠れたタイプです。
この分類は、今後の治療方針を決めるために非常に重要です。 特に、触ってわかる「臨床的精索静脈瘤」は、精子をつくる機能に影響を与えやすいと考えられています。 信頼性の高い複数の研究を分析した報告でも、このタイプの手術は効果的であることが示されました。 手術を受けた人は、受けなかった人と比べて精子の数や運動能力などが明らかに改善したという結果でした。 自分の状態がどのグレードに当てはまるかを知ることが、適切な治療への第一歩となります。
精索静脈瘤の原因
精索静脈瘤がなぜ起こるのか、その原因はまだ完全にはっきりとわかっていません。 しかし、主に生まれつきの体の構造が関係していると考えられています。 生活習慣などが直接の原因になることは、基本的には少ないとされています。
主な原因は、次の2つです。
1. 静脈にある「弁」のトラブル
心臓へ血液を戻す血管(静脈)には、血液の逆流を防ぐための「弁」があります。 この弁が、生まれつきうまく機能しなかったり、弱かったりすることがあります。 弁がしっかりと閉じないと、重力に負けて血液が逆流してしまいます。 逆流した血液が、精巣の周りの静脈にたまることで、こぶのようにふくらみます。
2. 血管の通り道の特徴
精索静脈瘤は、体の左側にできることが圧倒的に多いのが特徴です。 これには、左右で血管の構造が異なっていることが、大きく関係しています。
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左側にできやすい理由 |
具体的な説明 |
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静脈の合流する角度 |
左側の精索静脈は、腎臓の静脈にほぼ直角につながっています。そのため、血液の流れに圧力がかかりやすく、逆流が起こりやすいのです。 |
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くるみ割り現象 |
左の腎静脈が、お腹の大きな動脈二本に挟まれることがあります。くるみが割られるように圧迫されることで、血流が滞りやすくなります。 |
ごくまれに、お腹の中にできた腫瘍などが静脈を圧迫することが原因となる場合もあります。 これを「二次性(にじせい)精索静脈瘤」と呼びます。
このように、血管の仕組みや構造によって血液の逆流が起こります。 血液がたまると、精巣の温度が上がったり、酸素が不足したりします。 この状態が、精子をつくる機能に影響を与えると考えられているのです。 実際に、血流を改善する手術によって精子の状態が良くなることが、多くの研究で報告されています。
精索静脈瘤の症状
精索静脈瘤は、ほとんどの場合で痛みなどの自覚症状がありません。 そのため、健康診断などで偶然見つかることも珍しくない病気です。 しかし、進行すると体にいくつかのサインが現れることがあります。 ご自身に当てはまるものがないか、チェックしてみましょう。
【精索静脈瘤の主な症状チェックリスト】
- □ 陰嚢(いんのう)や足の付け根に、鈍い痛みや重い感じがある
- □ 長時間立っていたり、運動したりすると症状が強くなる
- □ 横になると症状が和らぐ、またはなくなる
- □ 陰嚢の見た目が、うねうねと血管が浮き出ている
- □ 左右の精巣(せいそう)の大きさが違うように感じる
- □ パートナーとの間で、なかなか子どもを授からない
痛みや不快感
精巣の周りに、鈍い痛みやずっしりと重い不快感を覚えることがあります。 報告によると、痛みを感じる人は全体の2%から10%ほどです。 血管のこぶに血液がたまってしまうことで、このような症状が起こります。 特に、長時間立っているなど、お腹に力がかかる状況で悪化しやすいです。
見た目の変化と精巣の大きさ
症状が進むと、陰嚢の表面に血管がボコボコと浮き出て見えます。 これは、静脈がこぶのようにふくらんでいるサインです。 また、病気がある側の精巣の発育が悪くなることもあります。 血液の逆流による温度上昇などの影響で、反対側より小さくなるのです。
最も重要な症状「男性不妊」
精索静脈瘤で最も注意すべきなのが、男性不妊との深い関わりです。 痛みなどがなくても、精子をつくる機能が低下している場合があります。 精巣の温度が上がることで、熱に弱い精子がダメージを受けるためです。 実際に、精子の質に以下のような影響が出ることがわかっています。
- 精子濃度の低下
- 精子の数が少なくなります。
- 精子運動率の低下
- 元気に動く精子が減ってしまいます。
- 正常形態率の低下
- 正常な形の精子が少なくなります。
信頼性の高い複数の研究を分析した報告でも、これらの傾向は明らかです。 精子の質の低下が、結果として妊娠しにくさにつながることがあります。
精索静脈瘤の検査・診断
精索静脈瘤が疑われる場合、いくつかの検査を組み合わせて診断します。 痛みなどの症状がなくても、体の内側で何が起きているかを知るための大切なステップです。 主に、医師の診察、超音波検査、精液検査の3つが中心となります。
1. 医師による診察(視診・触診)
まずはお話をうかがい、医師が直接、陰嚢(いんのう)の状態を確認します。 立った状態で、血管がこぶのようにふくらんでいないかを見たり、触ったりします。 このとき、「お腹にぐっと力を入れてください」とお願いすることがあります。 これは「バルサルバ法」といい、血液の逆流を強めて隠れたこぶを見つけやすくする方法です。
2. 超音波(エコー)検査
診断をはっきりとさせるために、超音波(エコー)検査は非常に重要です。 「カラードップラー」という特別な機能を使うことで、血液の流れを色で映し出せます。 これにより、血管の太さや、血液が心臓に戻らず逆流していないかを正確に確認できます。 体に負担がかからず、痛みもないので、安心して受けられる検査です。
3. 精液検査
将来お子さんを考えている方や、不妊との関わりが心配な方には精液検査を行います。 精索静脈瘤は、自分では気づかないうちに精子の質に影響を与えていることがあるためです。
【精液検査で調べる主な項目】
- 精子濃度
精液の中に、十分な数の精子がいるか調べます。 - 精子運動率
元気にまっすぐ泳いでいる精子が、どのくらいいるかを確認します。 - 精子正常形態率
正常な形をした精子の割合を調べます。
これらの検査で精子の状態を正確に把握することが、治療への第一歩です。 複数の信頼できる研究を分析した報告でも、手術などの適切な治療を受けることで、精子の数や運動能力、正常な形の割合が明らかに改善することが示されています。
精索静脈瘤の治療
精索静脈瘤が見つかっても、すぐに手術が必要なわけではありません。 症状やご本人の希望によって、治療の方針は大きく変わります。 主に「経過観察」「手術」の2つの選択肢から考えていきます。
1. 経過観察(様子を見る)
特別な治療をせず、定期的に診察を受けて様子を見る方法です。 痛みなどの症状がなく、精巣の大きさに左右差もみられない場合。 また、すぐにお子さんを望んでいない場合などは、この方法が選ばれます。
2. 手術による治療
一方で、積極的な治療として手術が勧められる場合もあります。 ご自身の状況が当てはまるか、チェックしてみましょう。
【手術が勧められるケースの例】
- 不妊に悩んでいる
精子の状態が悪く、なかなかお子さんを授からない場合。 - 痛みや不快感が強い
日常生活に支障が出るほどの、鈍い痛みや重い感じがある場合。 - 精巣の大きさに差がある
病気がある側の精巣が、明らかに小さくなっている場合。 - 男性ホルモンの低下
血液検査で、男性ホルモンの数値が低くなっている場合。
特に、男性不妊に対する手術の効果は、多くの研究で確かめられています。 信頼性の高い研究報告では、手術を受けた人と受けなかった人を比べました。 その結果、手術を受けた人の方が精子の数や運動能力、正常な形の割合が明らかに改善したことが示されています。
手術の方法はいくつかありますが、現在は「顕微鏡下低位結紮術」が主流です。 これは、手術用の顕微鏡を使い、問題のある血管だけを正確にしばる方法です。 リンパ管や動脈など、大切な組織を傷つけにくいため、体への負担が少なく、再発も少ないという利点があります。
どの治療法を選ぶかは、ご自身の体の状態やライフプランによって決まります。 一人で悩まず、まずは専門の医師とよく相談することが大切です。










