甲状腺機能低下症
「最近なんだか疲れやすい」「理由もなく気分が落ち込む」。年のせいや気のせいだと片付けているその不調、もしかしたら「甲状腺機能低下症」が原因かもしれません。甲状腺は体の新陳代謝を司る「アクセル」の役割を担っており、この機能が低下すると心身に様々なサインが現れます。
例えば、乳がん治療の経験がある方や、ある種の不整脈の薬を服用している方では発症リスクが高まることが報告されています。この記事では、見過ごされがちな症状から原因、そして適切な治療法までを詳しく解説します。ご自身の体からのメッセージを正しく受け止め、健やかな毎日を取り戻すための一歩としてお役立てください。
甲状腺機能低下症の概要
甲状腺は、のどぼとけのすぐ下にある臓器です。 蝶が羽を広げたような形をしており、甲状腺ホルモンを作ります。
甲状腺ホルモンは、体の活動を活発にする「新陳代謝」を促します。 血液に乗って全身に運ばれ、いわば体のアクセルのような役割です。
【甲状腺ホルモンの主な働き】
- エネルギーを作り出す 全身の細胞に働きかけ、エネルギーを作り出し、体温を適切に保ちます。
- 心臓や胃腸の働きを調節する 体の各臓器が元気に活動できるよう、働きをサポートします。
- 子どもの成長や発達を促す 特に、お子さんの心と体の成長には、なくてはならないホルモンです。
「甲状腺機能低下症」とは、この甲状腺ホルモンが少なくなる病気です。 体のアクセルが十分に踏み込めない状態となり、様々な不調が現れます。
がんの治療で使われるお薬が原因となることも報告されています。 特にお子さんのがん治療に用いる一部の薬剤で、甲状腺機能が低下する可能性が指摘されています。 この分野は現在も研究が進められており、今後の解明が期待されます。
甲状腺機能低下症の種類
甲状腺機能低下症は、どの部分に原因があるかで種類が分かれます。 原因の場所によって、その後の経過や対応が異なるため大切です。
甲状腺そのものが原因の「原発性」
甲状腺自体に問題があり、ホルモンを十分作れない状態です。 甲状腺機能低下症のほとんどが、この「原発性」にあたります。
- 慢性甲状腺炎(橋本病) 最も多い原因です。本来は体を守る免疫が、間違って自分の甲状腺を攻撃し、炎症が続いて機能が落ちてしまいます。
- 手術や放射線治療によるもの 甲状腺の病気で手術を受けたり、放射線治療を受けたりした後に機能が低下することがあります。 特に、乳がん治療で首の周り(鎖骨上窩)に放射線を当てた場合、甲状腺機能低下症のリスクが約1.7倍に高まるとの報告もあります。
脳からの指令が原因の「中枢性」
甲状腺に「ホルモンを作りなさい」と指令を出す脳の部分に問題が起きるタイプです。 脳の下垂体や視床下部の腫瘍、頭部のけがなどが原因となります。
その他、注意したい種類
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種類 |
特徴 |
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薬剤性 |
特定の薬の副作用で起こります。ある不整脈の薬では、使用者の約14%に甲状腺機能低下症がみられたという報告もあります。 |
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一過性 |
出産後や、昆布などヨウ素の多い食品の摂りすぎで、一時的に機能が低下することがあります。 |
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潜在性 |
症状はないものの、血液検査で異常が見つかる状態です。「かくれ甲状腺機能低下症」とも呼ばれ、心臓周りの脂肪が増えることと関連があるとも指摘されています。 |
甲状腺機能低下症の原因
甲状腺機能低下症が起こる原因は、一つだけではありません。 原因は、甲状腺そのものにある場合と、脳からの指令に問題がある場合に分けられます。
最も多い原因は「慢性甲状腺炎(橋本病)」と呼ばれる病気です。 これは、体を守るはずの免疫が、間違って自分の甲状腺を攻撃してしまう自己免疫疾患の一つです。
また、他の病気を治すための治療が、原因となることもあります。 ご自身の治療歴を確認し、当てはまる場合は注意が必要です。
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原因となる治療 |
具体的な内容 |
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甲状腺の治療後 |
甲状腺の手術で甲状腺を取り除いた後や、バセドウ病の治療で行う放射性ヨード治療の後などです。 |
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放射線治療 |
乳がんなどの治療で首の近く(鎖骨上窩)に放射線をあてた場合、甲状腺がダメージを受けることがあります。 ある研究では、乳がんを経験した方はそうでない方と比べて、甲状腺機能低下症のリスクが約1.5倍高まると報告されています。 |
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薬の影響 |
特定の薬が原因となることがあります。 ・**不整脈の薬:**ある不整脈の薬では、使用者の約14%に甲状腺機能低下症がみられたとの報告があります。 ・**がん治療薬:**小児がんの治療で使う一部の薬も原因となることがあり、現在も研究が進められています。 |
このほか、昆布などに含まれる「ヨウ素」を過剰に摂ることでも起こります。 このように原因は様々ですので、気になることがあれば医師に相談することが大切です。
甲状腺機能低下症の症状
甲状腺ホルモンは、体を活発にする「元気のスイッチ」です。 このスイッチがオフに近づくと、心と体に様々なサインが出ます。
症状はゆっくり進むため、「年のせいかな?」と感じることも多いです。 しかし、見過ごすと他の病気につながる可能性もあるため注意が必要です。 以下のサインに心当たりがないか、ご自身で確認してみましょう。
【心と体にあらわれるサイン】
- 全身のサイン 原因不明のだるさや疲れやすさ、寒がり、むくみなどが現れます。 特に、朝起きた時の顔や手足のむくみが特徴的です。 食事量は変わらないのに、体重が増えやすくなることもあります。
- 見た目のサイン 肌がカサカサと乾燥し、汗をかきにくくなります。 髪の毛が抜けやすくなったり、眉毛の外側が薄くなったりします。 声がかすれる、低い声になるといった変化も見られます。
- 心のサイン やる気が出ない、気分が落ち込むといったうつ病に似た症状が出ます。 また、物忘れが増えたり、日中に強い眠気を感じたりもします。
これらの症状は一つひとつは珍しくありません。 しかし、複数のサインが同時に現れる場合は注意が必要です。
また、症状がはっきりしない「潜在性甲状腺機能低下症」もあります。 「かくれ甲状腺機能低下症」とも呼ばれ、気づきにくいのが特徴です。 この状態でも、心臓の周りに脂肪がつきやすくなることが研究で指摘されています。 心臓の病気につながる可能性もあるため、軽視はできません。
さらに、他の病気の治療が原因となることもあります。 例えば、ある不整脈の薬(アミオダロン)を飲んでいる方では、約14%に甲状腺機能低下症がみられたという報告もあります。 気になるサインがあれば、自己判断せず専門の医療機関へ相談しましょう。
甲状腺機能低下症の検査・診断
「疲れやすい」「むくみが気になる」といった症状がある場合、原因を正確に突き止めるためにいくつかの検査を行います。 診断は、問診、血液検査、超音波検査などを組み合わせて慎重に進めます。
まず、問診で症状やこれまでの病気、お薬について詳しく伺います。 特に、服用中のお薬の情報は、診断の重要な手がかりとなります。 例えば、不整脈の治療薬(アミオダロン)が原因で、甲状腺機能が低下することがあります。 ある研究では、この薬を飲んでいる方の約14%に甲状腺機能低下症が見られたとの報告もあります。 ご自身の状態を正確に伝えることが、適切な診断への第一歩です。
次に、診断の中心となる検査を行います。
- 血液検査 甲状腺ホルモンの量を直接調べ、機能の状態を評価します。
- 甲状腺ホルモン(FT4、FT3) 体の活動を支えるホルモンです。この値が低いと機能低下が疑われます。
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH) 脳から出る「ホルモンを出せ」という指令です。甲状腺の働きが悪いと、脳は指令を強めるためこの値が高くなります。
- 自己抗体(TPOAb、TgAb) 原因が慢性甲状腺炎(橋本病)かどうかを調べるために測定します。
- 甲状腺超音波(エコー)検査 首に超音波をあて、甲状腺の大きさや形、しこりの有無を画像で確認します。
これらの検査結果から、総合的に診断を確定します。
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検査結果のパターン |
診断 |
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TSH:高い FT4:低い |
甲状腺機能低下症 ホルモンが明らかに不足しており、治療が必要です。 |
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TSH:高い FT4:正常 |
潜在性甲状腺機能低下症 「かくれ甲状腺機能低下症」の状態で、治療の必要性は慎重に判断します。 |
気になる症状があれば、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。
甲状腺機能低下症の治療
甲状腺機能低下症の治療は、不足した甲状腺ホルモンを補うことが基本です。 お薬でホルモンの量を適切に保ち、つらい症状の改善を目指します。
治療の中心は、甲状腺ホルモンそのものであるお薬を飲むことです。 「レボチロキシンナトリウム(商品名:チラーヂン®S)」を毎日飲みます。 お薬は、体への吸収を考え、寝る前に飲むことが多くなっています。
【治療の進め方】
- 少量から開始 まずは少ない量から飲み始め、体を慣らしていきます。
- 定期的な血液検査 血液検査で甲状腺ホルモンの値を確認し、効果を確かめます。
- 量の調整 検査結果を見ながら、その方に合ったお薬の量に調整します。
- 治療の継続 適切な量が見つかったら、その量を長く飲み続けることが大切です。
また、原因に合わせた対応も重要になります。 例えば、不整脈のお薬(アミオダロン)が原因となることがあります。 ある研究では、この薬を飲む方の約14%で機能低下が見られました。 お子さんのがん治療薬(インターフェロン-αなど)が原因のこともあります。
昆布などに含まれる「ヨウ素」の摂りすぎが原因の場合は、食事の見直しだけで機能が回復することもあります。
症状が軽い「潜在性甲状腺機能低下症」では、すぐに治療せず様子を見ることもあります。 自己判断でお薬をやめず、気になることは必ず医師に相談しましょう。













