甲状腺機能亢進症

「たくさん食べているのに体重が減っていく」「安静にしていても心臓がドキドキして、疲れがとれない」。もし、そんな原因不明の体調不良に心当たりがあるなら、それは単なるストレスや疲れではないかもしれません。のどぼとけの下にある「甲状腺」の働きに異常が生じているサインの可能性があります。

甲状腺機能亢進症は、体の新陳代謝を司るアクセルが常に踏みっぱなしになる病気です。特に20代から40代の女性に多く見られますが、実は生活の質に深く関わる問題を引き起こすことも。ある研究では、この病気によって男性の勃起不全リスクが約9倍、女性の性的機能障害リスクが約4倍にも高まることが報告されています。

この記事では、その原因や種類、そしてご自身の状態に合った治療法までを詳しく解説します。放置せず、正しい知識を得ることが、健やかな毎日を取り戻すための第一歩です。

甲状腺機能亢進症の概要

のどぼとけのすぐ下には、蝶が羽を広げたような形をした「甲状腺」という臓器があります。 この甲状腺から分泌されるのが「甲状腺ホルモン」です。

甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を活発にする働きがあります。 新陳代謝とは、古い細胞が新しいものに入れ替わる働きのことです。 具体的には、以下のような重要な役割を担っています。

  • 全身の細胞の活動を促す
  • 心臓や胃腸の働きを調整する
  • 体温を適切に保つ

甲状腺機能亢進症とは、この甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。 体の活動スイッチが常にオンになり、必要以上にエネルギーを消費してしまいます。 そのため、安静にしていても心臓がドキドキしたり、汗をかきやすくなったりします。 また、たくさん食べているのに体重が減る、髪が抜けやすくなるといった症状も現れます。

この病気は20代から40代の女性に比較的多く見られますが、他の年代や男性でも発症します。 また、生活の質に影響する問題を引き起こすこともあります。 ある研究報告では、この病気の男性はそうでない方と比べ、勃起不全のリスクが約9倍高かったとされています。

女性の場合も、性的機能障害のリスクが約4倍高まることが示唆されています。 これらの問題は治療によって改善が見込めるため、気になる症状があれば放置せず、専門の医療機関へ相談することが大切です。

甲状腺機能亢進症の種類

甲状腺ホルモンが多くなる原因は、一つではありません。 原因によっていくつかの種類に分けられ、治療法も異なります。 そのため、どの種類なのかを正確に見極めることが大切です。

代表的な種類には、以下のようなものがあります。

  • バセドウ病 甲状腺機能亢進症で最も多い原因です。 体を守る免疫システムが、誤って自分の甲状腺を攻撃します。 その結果、ホルモンを過剰に作り出してしまいます。
  • 無痛性甲状腺炎 甲状腺に一時的に炎症が起こる病気です。 蓄えられた甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出してしまいます。 多くの場合、痛みはなく、自然に治ることが特徴です。
  • 亜急性甲状腺炎 ウイルス感染などがきっかけと考えられています。 甲状腺の炎症により、首の痛みや発熱をともないます。
  • 機能性甲状腺結節(プランマー病) 甲状腺にできたしこり(結節)が、甲状腺ホルモンを過剰に作り出します。

また、名前が似ていますが「副甲状腺機能亢進症」という全く別の病気があります。 これは、血液中のカルシウム濃度を調整する「副甲状腺」の病気です。 この病気の中には、腎臓の病気が原因で起こる「三次性副甲状腺機能亢進症」や、ホルモン値は正常でもカルシウム値が高い「ノルモホルモン性原発性副甲状腺機能亢進症」といった特殊なタイプがあります。 これらの診断には、4DCTやFCH PET/CTといった精密な画像検査が必要になることもあります。 ある研究では、FCH PET/CTは4DCTよりも原因となる病変を見つける感度が高いことが示されています。

このように原因は様々ですので、専門医による診断が重要です。

甲状腺機能亢進症の原因

甲状腺ホルモンが多くなる原因は、一つだけではありません。 原因によって治療法が大きく異なるため、まずは原因を正しく突き止めることが大切です。 主な原因は、ホルモンの「作られすぎ」と「漏れ出し」の2つのタイプに分けられます。

ホルモンが作られすぎるタイプ

体の必要以上に、甲状腺ホルモンがどんどん作られてしまう状態です。

  • バセドウ病 最も多い原因で、体を守る免疫の勘違いによって起こります。 免疫が、自分の甲状腺を「もっとホルモンを出せ」と命令する物質を作ってしまいます。 その結果、甲状腺が休むことなく働き続けてしまうのです。
  • 機能性甲状腺結節(プランマー病) 甲状腺の中に、勝手にホルモンを作り出すしこりができる病気です。 このしこりが、体の状態とは無関係にホルモンを出し続けます。

ホルモンが漏れ出すタイプ

甲状腺に炎症が起き、蓄えられていたホルモンが血液中に漏れ出してしまう状態です。 無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎などがこれにあたります。

混同されやすい別の病気

名前が似ていますが「副甲状腺機能亢進症」という全く異なる病気があります。 これは血液中のカルシウム濃度を調節する「副甲状腺」の病気です。 腎臓の病気が原因で起こる三次性副甲状腺機能亢進症など、原因は様々です。 この病気の診断には、4DCTやFCH PET/CTといった精密な画像検査が必要になることもあります。 ある研究では、FCH PET/CTは4DCTよりも原因を見つける感度が高いことが示されています。 原因は人それぞれですので、専門医による正確な診断がとても重要です。

甲状腺機能亢進症の症状

甲状腺ホルモンが過剰になると、体の代謝を司るアクセルが踏みっぱなしの状態になります。 そのため、じっとしていても体は常にエネルギーを消費し続け、全身に様々なサインが現れます。

ご自身やご家族に当てはまるものがないか、以下のリストで確認してみましょう。

【全身にあらわれるサイン】

  • 食事量は増えても体重が減る 常にエネルギーを燃やしているため、食べた分以上にカロリーを消費してしまうことがあります。
  • 疲れやすく、体がだるい 休んでいる時でさえ体力を消耗しているため、慢性的な疲労感に悩まされます。
  • 汗をかきやすく、暑がりになる 体内で熱が作られ続けるため、体温を下げるために汗の量が増え、暑さに敏感になります。
  • 心臓のドキドキ(動悸)や頻脈 心臓も過剰に働き続けるため、安静時でも脈が速くなったり動悸を感じたりします。

【見た目や精神面にあらわれるサイン】

  • イライラして落ち着きがなくなる 神経が過敏な状態になり、精神的に不安定になったり、集中力が続かなくなったりします。
  • 髪の毛が抜けやすくなる 新陳代謝が活発になりすぎることで、髪の毛が生え変わるサイクルが乱れることが原因です。
  • 首の付け根(のどぼとけの下)の腫れ 原因となる甲状腺そのものが腫れることで、首元が膨らんで見えることがあります。
  • 目がとびだしたように見える(眼球突出) 特にバセドウ病の場合、目の奥の組織に炎症が起こり、目が前に押し出されることがあります。

また、この病気はデリケートな悩みにも関係します。 複数の研究をまとめた分析によると、この病気の方はそうでない方と比べ、男性の勃起不全のリスクが約9倍、女性の性的機能障害のリスクが約4倍も高まることが報告されています。 これらの問題は、病気の治療によって改善が見込めるため、決して一人で悩まないでください。

症状の出方には個人差があり、全てが出るわけではありません。 もし複数の項目に心当たりがあれば、早めに専門の医療機関へ相談することが大切です。

甲状腺機能亢進症の検査・診断

甲状腺機能亢進症が疑われる場合、原因を正確に突き止めることが重要です。 そのため、問診や診察に加え、いくつかの検査を組み合わせて診断を行います。 一つの検査結果だけで判断するのではなく、総合的に評価することが大切です。

診断の基本となるのが血液検査です。 血液中の甲状腺ホルモン(FT3、FT4)とTSHというホルモンの量を測ります。 甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモンが高く、TSHが低くなるのが一般的です。 また、原因がバセドウ病かを調べるため、TSH受容体抗体(TRAb)も確認します。

次に行われることが多いのが甲状腺超音波(エコー)検査です。 超音波を使い、甲状腺の大きさや形、血流の様子などを画像で観察します。 バセドウ病では血流が増加するなど、病気の種類を推測する手がかりになります。 しこり(結節)の有無も確認できる、体に負担の少ない検査です。

検査の種類

主に調べること

血液検査

甲状腺ホルモンやTSH、自己抗体の量を測定し、甲状腺の働きすぎやその原因を探ります。

超音波検査

甲状腺の大きさや形、血流、しこりの有無を画像で確認します。

放射性ヨウ素

摂取率検査

甲状腺の活動状態を評価し、病気の種類の特定に役立ちます。

CT/PET-CT検査

しこりの性質を詳しく調べたり、似た病気との区別が必要な場合に行われることがあります。

必要に応じて、さらに詳しい検査が行われます。 例えば、名前が似ている「副甲状腺機能亢進症」という全く別の病気もあります。 この病気の診断では、4DCTやFCH PET/CTといった精密な画像検査が必要です。 ある研究報告では、FCH PET/CTは4DCTよりも原因病変を見つける感度が高いことが示されています。

これらの検査結果を総合的に見て、診断を確定します。 病気の原因や時期によっては、典型的なパターンを示さないこともあります。 そのため、複数の検査をふまえて慎重に判断することがとても大切です。

甲状腺機能亢進症の治療

甲状腺機能亢進症の治療は、原因や患者さんの状態に合わせて選びます。 主に3つの治療法があり、それぞれの特徴を理解することが大切です。

  • 薬物療法 甲状腺ホルモンが作られるのを抑える「抗甲状腺薬」を飲む治療です。 多くの場合、この治療から開始し、定期的に通院しながら薬の量を調整します。
  • アイソトープ治療 放射線を出すヨウ素が入ったカプセルを1回だけ飲む治療法です。 甲状腺がヨウ素を取り込む性質を利用し、働きすぎの細胞だけを減らします。
  • 手術療法 甲状腺の腫れが大きい場合や、薬の副作用で治療が続けられない時などに選択されます。 原因となっている甲状腺の一部、または全部を手術で取り除きます。

それぞれの治療法には、良い点と注意すべき点があります。

治療法

メリット

デメリット・注意点

薬物療法

手術が不要で、手軽に始められます。

長期間の服用が必要になることが多く、副作用(かゆみ、肝機能障害など)に注意が必要です。

アイソトープ治療

1回の内服で治療が終わることが多いです。

治療後に甲状腺機能が低下することがあります。妊娠中や授乳中の方は受けられません。

手術療法

短い期間で確実な効果が期待できます。

入院が必要で、手術に伴う合併症(声のかすれなど)のリスクがあります。

また、名前が似ていますが「副甲状腺機能亢進症」という全く別の病気もあります。 これは、特に腎臓の病気を長く患っている方にみられることがある病気です。 血液中のカルシウム濃度を調整する「副甲状腺」が原因となります。

この病気の中には、ホルモン値は正常でもカルシウム値が高いタイプもあります。 このような場合でも、原因となっている副甲状腺を取り除く手術が有効です。 ある研究のまとめでは、この手術による治癒率は93%と報告されています。

どの治療法が最適かは、専門医とよく相談し、納得した上で決めることが大切です。