甲状腺乳頭がん

甲状腺にできるがんの90%以上を占める「甲状腺乳頭がん」。がんと聞くと不安になりますが、これは進行が非常にゆっくりなため「おとなしいがん」とも呼ばれ、適切に治療すれば10年後の生存率は約95%と良好な予後が期待できます。

しかし、男性より女性に多く、妊娠を機に見つかることもある身近な病気です。初期は自覚症状がほとんどなく、健康診断などで偶然発見されることが大半だからこそ、正しい知識が重要になります。「おとなしい」からと安心せず、放置すれば進行するリスクもゼロではありません。

この記事では、甲状腺乳頭がんの詳しい原因や症状、診断方法、そして手術だけでなくメスを使わない最新の治療法までを網羅的に解説します。ご自身や大切な人のために、ぜひ最後までご覧ください。

甲状腺乳頭がんの概要

甲状腺乳頭がんは、のどぼとけのすぐ下にある 甲状腺という臓器にできるがんの代表格です。 甲状腺にできるがんのうち、実に90%以上がこのタイプです。

このがんの大きな特徴は、進行がとてもゆっくりな点です。 そのため「おとなしいがん」とも呼ばれています。 適切に治療すれば、10年後の生存率は約95%と良好です。

甲状腺乳頭がんには、次のような特徴があります。

  • 性別による違い 男性よりも女性に多く見られる傾向があります。
  • 妊娠との関わり 妊娠中は体の変化で甲状腺が少し大きくなります。 そのため、妊娠を機にしこりが見つかることがあります。 実際に、妊娠中の女性に見つかるがんとしては、 2番目に多いと報告されています。 しかし、妊娠中に見つかった場合でも、 その後の経過は良好なことが多いです。

初期の段階では、ほとんど自覚症状がありません。 首のしこりや、健康診断のエコー検査で 偶然見つかることが大半です。 おとなしいとはいえ、放置は禁物です。 しこりに気づいたら、早めに専門の医療機関に相談しましょう。

甲状腺乳頭がんの種類

甲状腺乳頭がんと診断されても、実は一つではありません。 がん細胞の見た目や、性質によっていくつかの種類に分かれます。 どの種類かを知ることは、今後の治療計画の参考になります。

主に次の2つの方法で分類されます。

  • がん細胞の見た目(組織型) 顕微鏡でがん細胞の形や並び方を見て分類します。 大半は「古典的乳頭がん」という、 進行がゆっくりなタイプです。 まれに、少し性質の異なる特殊な見た目のものもあります。
  • 遺伝子の違い がん細胞が持つ体の設計図である「遺伝子」を調べます。 特にBRAF(ビーラフ)という遺伝子の変化が注目されます。

BRAF遺伝子の中でもBRAFV600Eという変化は、 がんの性質に関わることが知られています。 ある研究によると、お子さんや若い世代の患者さんでは、 この遺伝子変化が重要となる場合があります。

この変化があると、肺や骨など甲状腺から離れた場所へのがん転移と 関連があることが報告されています。 この研究では、お子さんや若い世代の患者さんのうち、 約3人に1人(33.12%)でこの遺伝子変化が見られました。

分類のしかた

特徴

細胞の見た目

(組織型)

・ほとんどは性質がおだやかな「古典的乳頭がん」

・まれに少し性質が異なる特殊なタイプもある

遺伝子の違い

・BRAF遺伝子に変化があるかないか

・BRAFV600Eという変化は、遠くへの転移と関連が報告されている

このように、がんの種類を詳しく調べることで、 一人ひとりに合った治療法を考えるための大切な情報が得られます。

甲状腺乳頭がんの原因

甲状腺乳頭がんがなぜできてしまうのか、 そのはっきりとした原因はまだわかっていません。 しかし、がんを発症しやすくなる要因がいくつか知られています。 これを「リスクファクター」と呼びます。

主なリスクファクターには、以下のものがあります。

  • 放射線に当たること 特に、体の細胞が活発に増えている子どもの頃に、 他の病気の治療などで首の周りに放射線を浴びた場合、 将来がんになる可能性が高まると報告されています。
  • 遺伝的な要因 ごくまれですが、親から子へと受け継がれる 特定の病気が、がんの発症と関わることがあります。 (例:家族性大腸腺腫症、ガードナー症候群など)
  • 性別と体の変化 甲状腺乳頭がんは、男性よりも女性に多く見られます。 特に妊娠中は、体の変化で甲状腺が大きくなりやすく、 しこり(結節)が見つかりやすくなります。 ある研究では、妊娠中の女性の2〜3%に、 甲状腺の結節が新たにできることが示されています。 また、年齢や出産経験、食事でのヨウ素の摂取状況も 結節のできやすさに関係すると考えられています。

これらの要因がなくても発症することはあります。 逆に当てはまるからといって、必ずがんになるわけではありません。

甲状腺乳頭がんの症状

甲状腺乳頭がんは、初期の段階では症状がほとんどありません。 「おとなしいがん」と呼ばれるように、静かに進行します。 そのため、健康診断の首の触診やエコー検査で 偶然しこりが見つかることが大半です。

しかし、がんが大きくなったり周りに広がったりすると、 次のようなサインが出ることがあります。

  • 首のしこり のどぼとけの周りや、首の横にできます。 痛みはないことがほとんどで、自分で触って気づく場合があります。
  • 声のかすれ 声を出すための大切な神経に、がんが影響して起こります。 風邪でもないのに、声がかすれる状態が続くときは注意が必要です。
  • 飲み込みにくさ・息苦しさ がんが食道や空気の通り道である気管を圧迫します。 特にあお向けに寝たときに、息苦しさを感じることがあります。

特に女性の場合、妊娠をきっかけにしこりが見つかることもあります。 ある研究では、妊娠した女性の2〜3%に、 甲状腺のしこりが新たにできると報告されています。 気になる症状があれば、一度専門の医療機関へご相談ください。

甲状-腺乳頭がんの検査・診断

首にしこりがあると気づくと、誰もが心配になるかと思います。 しかし、しこりのほとんどは、がんではない良性のものです。 落ち着いて、がんかどうかを確かめるための検査を受けましょう。 検査は、いくつかの段階を踏んで丁寧に進められます。

  • 触診(しょくしん) まず、医師が首を直接触ってしこりの状態を調べます。 しこりの大きさや硬さ、周りとの動き方などを確認します。 これは、がんの可能性を見極めるための大切な第一歩です。
  • 超音波(エコー)検査 診断の中心となる、とても重要な検査です。 痛みはなく、体の表面から音の跳ね返りを利用して、 しこりの正確な大きさや形、内部の様子を詳しく見ます。 最近では、このエコーでがんの位置を正確に確認しながら、 手術よりも体への負担が少ない治療も行われることがあります。
  • 穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん) がん細胞があるかどうかをはっきりとさせるための検査です。 エコーでしこりの場所を見ながら、とても細い針を刺し、 しこりの中から細胞を少しだけ吸い取って詳しく調べます。 この検査で、がんかどうかを高い精度で診断できます。

これらの検査に加えて、がんの広がりを調べることもあります。 そのために、CT検査や血液検査を追加で行う場合もあります。 一つひとつの検査を丁寧に行い、正確な診断につなげます。

甲状腺乳頭がんの治療

甲状腺乳頭がんの治療法は、決して一つではありません。 がんの大きさや場所、患者さんの年齢や体の状態、 そして何よりご本人の希望を大切にして決めていきます。

主な治療法には、次のものがあります。

  • 手術でがんを取り除く方法
  • 熱でがんを治す方法(熱焼灼療法)
  • お薬や放射線を使う方法
  • すぐに治療せず様子を見る方法(経過観察)

手術療法

がんを取り除くための、最も基本的な治療法です。 がんのある甲状腺や、周りのリンパ節を切り取ります。 手術でとても大切なのは、がんを取り除くだけでなく、 声に関わる神経や「副甲状腺」を守ることです。

副甲状腺は、血液中のカルシウムを調節する小さな臓器です。 これが傷つくと、手足のしびれなどが起きることがあります。 ある研究では、手術中に特殊な技術で副甲状腺を見つけやすくし、 傷つけずに残せる可能性が高まったと報告されています。

熱焼灼(ねつしょうしゃく)療法

メスを使わずに、体への負担を少なく治す方法です。 超音波でがんの場所を見ながら、とても細い針を刺し、 ラジオ波などの熱でがん細胞だけを焼き固めます。

ある研究では、この治療法と手術を比較したところ、 がんの進行を抑える効果に大きな差はないとされました。 一方で、熱焼灼療法には次のような利点も示されています。

  • 体への負担が少ない 傷が小さく、手術時間や入院期間も短くなります。
  • 合併症のリスクが低い 手術と比べて、重い合併症が起こる可能性が低くなります。
  • 費用を抑えられる可能性 治療にかかる全体の費用が少なくなることがあります。

この治療にはラジオ波(RFA)やマイクロ波(MWA)など、 いくつかの種類があります。 中でもラジオ波(RFA)は、安全性と効果の面で、 優れた選択肢の一つと考えられています。

その他の治療法と経過観察

手術や熱焼灼療法のほかに、次のような治療もあります。

  • 放射性ヨウ素内用療法 手術後に残ったかもしれない、目に見えないがん細胞を、 特別なカプセルを飲んで体の内側から攻撃する治療です。
  • 甲状腺ホルモン療法 甲状腺を全部取った後にホルモンを補ったり、 がんの再発を防いだりする目的でお薬を飲み続けます。

また、がんがとても小さくおとなしい場合は、 すぐに治療せず、定期的な検査で注意深く様子を見る 「経過観察」も大切な選択肢の一つです。

どの方法が最適かは一人ひとり異なります。 専門の医師とよく相談して、一緒に決めていきましょう。