急性腎障害

ある日突然、あなたの腎臓が機能を停止するかもしれません。わずか数時間から数日という驚くべき速さで腎機能が悪化する「急性腎障害」。体の老廃物を排出し、水分バランスを保つ生命維持に不可欠な臓器が、沈黙のまま危険な状態に陥ることがあります。

以前は「急性腎不全」と呼ばれていましたが、より早期の発見と治療が重要であることから、現在は「急性腎障害」という名称が使われています。この名称の変更理由にこそ、この病気と向き合う上で最も大切なヒントが隠されています。

この記事では、急性腎障害の3つのタイプとその原因、見逃しやすい初期症状から最新の治療法までを詳しく解説します。手遅れになる前に、正しい知識でご自身の体を守るための第一歩を踏み出しましょう。

急性腎障害の概要

急性腎障害とは、数時間から数日という非常に短い期間で、 急激に腎臓の働きが悪くなってしまう状態を指します。

以前は「急性腎不全」という名前で呼ばれていました。 しかし、より早い段階で発見し、治療につなげることが重要なため、 現在は「急性腎障害」という名称が使われています。

腎臓には、私たちの体にとって大切な働きがあります。

  • 体のゴミ(老廃物)を尿として体の外に出す
  • 水分や塩分、ミネラルの量をちょうどよく保つ
  • 血圧をコントロールしたり、血液を作るホルモンを出す

急性腎障害になると、これらの機能がうまく働かなくなり、 体に老廃物や余分な水分がたまってしまいます。

この病気は、脱水や特定の薬など、様々な原因で起こります。 例えば、新型コロナ治療薬のレムデシビルも心配されました。 しかし複数の研究をまとめた分析では、この薬が急性腎障害の リスクを大きく上げる可能性は低いと報告されています。

このように原因を早期に特定し、適切な治療を行えば、 腎機能の回復が期待できる病気です。

急性腎障害の種類

急性腎障害は、原因が体のどこにあるかによって、 大きく3つの種類に分けられます。

原因の場所を正しく特定することが、 適切な治療への一番の近道となります。

  • 腎前性(じんぜんせい)急性腎障害
  • 腎性(じんせい)急性腎障害
  • 腎後性(じんごせい)急性腎障害

それぞれの特徴は、以下の表のとおりです。

種類

原因の場所

具体的な原因の例

腎前性

腎臓へ血液を送る段階

・脱水症<br>・大量の出血<br>・心不全

腎性

腎臓そのもの

・腎臓の血管の病気<br>・糸球体腎炎<br>・薬剤による障害

腎後性

腎臓から尿を出す段階

・前立腺肥大症<br>・尿路結石<br>・骨盤内の腫瘍

腎性急性腎障害は、腎臓自体がダメージを受けるタイプです。 お薬の副作用が原因となることもあります。

例えば、新型コロナ治療薬のレムデシビルも心配されました。 しかし、複数の研究を分析した報告(メタアナリシス)では、 この薬で急性腎障害のリスクが大きく上がる可能性は低いとされています。

腎機能が著しく低下した場合は、透析などの治療が必要です。 この治療には持続的腎代替療法(CRRT)や血液透析(HD)などがあります。

どの方法が生存率の面で優れているかについては、 まだはっきりとした結論は出ていません。 複数の研究を分析した報告でも、これらの治療法で 生存率に大きな差はないとされています。 患者さんの状態に合わせて最適な方法が選ばれます。

急性腎障害の原因

急性腎障害の原因は、問題がどこで起きているかによって、 大きく3つのタイプに分けられます。

腎臓そのものだけでなく、体の他の部分の不調が、 めぐりめぐって腎臓に影響を与えることも多いのです。

  • 腎前性(じんぜんせい)
  • 腎臓へ血液を送る段階でのトラブルです。
  • 腎臓も栄養や酸素を運ぶ血液がなければ働けません。
  • 脱水や大量出血、心不全などで血流が減ると、 腎臓は「栄養不足」に陥り、機能が低下します。
  • 腎性(じんせい)
  • 腎臓そのものが直接ダメージを受けるタイプです。
  • 腎臓のフィルター(糸球体)が炎症を起こしたり、 特定の薬剤が腎臓の細胞を傷つけたりします。
  • お薬と腎臓の関係は複雑です。
  • 例えば、新型コロナ治療薬のレムデシビルは、 当初、腎臓への影響が心配されていました。
  • しかし複数の研究を分析した信頼性の高い報告では、 この薬が急性腎障害のリスクを大きく上げる 可能性は低いと結論づけられています。
  • 腎後性(じんごせい)
  • 腎臓で作られた尿の通り道がふさがるタイプです。
  • 尿管結石や前立腺肥大症などで尿の流れがせき止められ、 腎臓に尿が逆流して水圧でダメージを受けます。

このように原因は多岐にわたるため、 どこに原因があるかを正確に見極めることが、 適切な治療への第一歩となります。

急性腎障害の症状

急性腎障害の症状は、静かに始まることが多く、 初期の段階ではご自身で気づきにくいかもしれません。

しかし、体は確実にSOSのサインを出しています。 どのような変化に注意すればよいか確認しましょう。

【急性腎障害でみられる主な症状】

  • おしっこの変化 おしっこの量が急に減ったり、全く出なくなったりします。 ただし、量は変わらないこともあるため油断はできません。 尿の色が「コーラ」のように濃くなることもあります。
  • 体のむくみ(浮腫) 体に余分な水分がたまり、足や手、顔がむくみます。 指で押した跡がなかなか戻らない、急に体重が増えた、 なども重要なサインです。
  • 全身の症状 体にゴミ(老廃物)がたまることで、だるさや吐き気、 食欲不振といった症状が現れます。

これらの症状がさらに進むと、肺に水がたまり息苦しくなったり、 意識がもうろうとしたりする危険な状態に陥ります。

お薬の影響が心配になる方もいらっしゃるかもしれません。 例えば、新型コロナの治療で使われるレムデシビルは、 腎臓への影響が心配された時期がありました。

しかし、複数の信頼できる研究結果をまとめた分析では、 この薬が急性腎障害のリスクを著しく上げる可能性は 低いと報告されています。

このように症状は多岐にわたるため、 もし気になる変化があれば、自己判断せずに 早めに医療機関へ相談することが何よりも大切です。

急性腎障害の検査・診断

急性腎障害が疑われる場合、原因を特定するために、 いくつかの検査を組み合わせて診断を進めます。

体の中で何が起きているのかを正確に把握するため、 以下の検査が重要になります。

検査の種類

主に調べること

血液検査

腎臓の働き、体のゴミ(老廃物)、ミネラルのバランス

尿検査

尿の量や色、成分、腎臓からのSOSサイン

画像検査

腎臓や尿の通り道の形、詰まりの有無

血液検査

血液検査は、腎臓の働きを数字で見るための基本です。 体にたまった老廃物(クレアチニンや尿素窒素)や、 ミネラル(特にカリウム)の数値を確認します。

カリウムは増えすぎると心臓に影響が出るため危険です。 急性腎障害では、これらの数値が高くなる傾向があります。

また、お薬が原因となることもありますが、 過度に心配する必要がないケースもあります。 例えば、新型コロナ治療薬のレムデシビルが、 腎臓に影響を与えるのではと懸念された時期がありました。

しかし、複数の信頼できる研究結果をまとめた分析では、 この薬が急性腎障害のリスクを大きく上げる可能性は 低いと報告されています。 これは5つの研究、約3000人のデータを分析した結果です。

尿検査

尿は、腎臓の状態を教えてくれる「お便り」です。 量が急に減る、全く出なくなるのは危険なサインです。 ただし、尿の量は変わらないタイプの急性腎障害もあります。

画像検査

超音波(エコー)やCT検査で、腎臓を直接観察します。 腎臓の大きさや形、尿の通り道(尿管など)が、 結石や腫瘍でふさがれていないかを確認します。 特に「腎後性」の原因を見つけるのに役立ちます。

これらの検査結果を総合的に判断し、診断を確定します。

急性腎障害の治療

急性腎障害の治療で最も大切なのは、原因を突き止め、 その火種を速やかに消すことです。

それと同時に、弱ってしまった腎臓を助け、 体の中の環境を安定させる治療を進めます。 治療は主に、以下の3つの柱で行われます。

  • 原因に対する治療 根本的な問題を取り除く、最も重要な治療です。 脱水が原因なら点滴で水分を補給します。 尿路の詰まりが原因なら、管を通して尿の流れを確保します。 薬が原因と考えられる場合は、その使用を中止・変更します。
  • 全身の状態を整える治療(保存的治療) 腎臓の負担を減らし、回復を後押しする治療です。 食事での塩分やカリウム、タンパク質の制限や、 水分量の調整などを行います。 また、腎臓を守るための研究も進んでいます。 例えば手術の際にデクスメデトミジンという薬を使うと、 術後の短期的な腎機能の数値が改善する可能性があります。 これは腎臓を守る効果が期待されるものです。
  • 腎臓の代わりをする治療(腎代替療法) 腎機能が著しく低下し、体のバランスを保てなくなった時の 「助っ人」となる治療法で、血液浄化療法(透析)などです。 患者さんの状態に合わせて、最適な方法が選ばれます。

治療法の種類

特徴

血液透析(HD)

週に数回、病院で機械を使い血液をきれいにします。

腹膜透析(PD)

自宅で、自分のお腹の膜を利用して血液をきれいにします。

持続的腎代替療法(CRRT)

主に集中治療室で、24時間かけてゆっくり血液をきれいにします。

どの治療法が最も優れているかについては、 まだはっきりとした結論は出ていません。 複数の研究を分析した報告でも、これらの治療法で 生存率に大きな差はないとされています。