急性肝性ポルフィリン症

原因不明の激しい腹痛に、何度も悩まされていませんか?その症状、もしかすると他の病気と間違われやすい、遺伝性のまれな病気「急性肝性ポルフィリン症」かもしれません。特に若い世代の女性に多く、ある日突然、人生を一変させるほどの激痛に襲われるのが特徴です。

興味深いことに、この病気の原因となる物質は、全く別の分野である「がん治療」の新たな希望として研究が進められています。この記事では、その謎に包まれた病気の正体から、米国や欧州で年間約5,000人が発作を経験するという症状、そして最新の治療法までを、一つひとつ丁寧に解き明かしていきます。

急性肝性ポルフィリン症の概要

急性肝性ポルフィリン症(AHP)は、遺伝によって起こるまれな病気です。 ある日突然、おなかに激しい痛みが起こる「急性発作」が特徴です。 しかし、原因の遺伝子を持っていても、発作を起こさず過ごす人もいます。

この病気は、血液の赤い色のもと「ヘム」が肝臓でうまく作れないことで起こります。 ヘムが不足すると、体は材料(アミノレブリン酸など)を過剰に作ってしまいます。 この作りすぎた物質が神経を傷つけ、様々な症状を引き起こすのです。

興味深いことに、原因物質のポルフィリンはがん治療で注目されています。 放射線治療の効果を高める「放射線力学的療法」への応用が研究中です。 これは、がん細胞の放射線への感受性を高める可能性がある治療法です。

この病気の主な特徴は以下の通りです。

  • 遺伝性の病気である 親から子へ受け継がれる可能性があります。
  • 急な激しい腹痛をくり返す 発作が起きると、おなかに耐えがたいほどの痛みが起こります。
  • 若い世代の女性に多い 特に、働き盛りの年代や出産を考える年代の女性にみられます。

このように、症状の現れ方が人によって大きく異なる複雑な病気です。

急性肝性ポルフィリン症の種類

急性肝性ポルフィリン症(AHP)は、実は4つの異なる種類に分けられます。 原因となる遺伝子の違いによって、病気のタイプが分類されているのです。

私たちの体は、血液の赤い色のもと「ヘム」を複数の段階を経て作ります。 各段階では「酵素」という、特定の仕事をするたんぱく質が働いています。 AHPは、この酵素のどれか一つの働きが弱いことで起こる病気です。

どの酵素の働きが弱いかによって、以下の4つのタイプに分類されます。

種類

略称

① 急性間欠性ポルフィリン症

AIP

② 遺伝性コプロポルフィリン症

HCP

③ 異型ポルフィリン症

VP

④ ALA脱水酵素欠損ポルフィリン症

ADP

種類によって、症状の現れ方が少しずつ異なることが重要です。 どのタイプでも激しいお腹の痛みなど、神経に関わる症状が出やすいです。 しかし、HCPとVPでは、日光に当たった皮膚に水ぶくれができることもあります。

ちなみに、この病気の原因物質「ポルフィリン」は医療分野で注目されています。 がん治療で使われる放射線の効果を高める働きが期待されているのです。 これは「放射線力学的療法」と呼ばれ、がん細胞を攻撃しやすくするのです。 新しい治療法として、現在も研究が進められています。

急性肝性ポルフィリン症の原因

この病気は、体の設計図である遺伝子の情報が生まれつき違うことが原因です。 しかし、遺伝子に違いがあっても、必ず症状が出るとは限りません。 静かに日常生活を送っている方も多くいます。

病気が起こる仕組みは、体の中にある「ヘム工場」のトラブルで説明できます。 ヘムは血液の赤い色のもとになる、とても大切な物質です。

  • ① 酵素の働きが弱まる ヘムを作る工場では、たくさんの「酵素」という働きものが仕事をしています。 この病気では、遺伝子の影響で特定の酵素の元気がなく、働きが弱まります。
  • ② 有害な物質が溜まる ヘムが足りないと体は慌てて、「ALAS1」というリーダーにたくさん作らせます。 その結果、ヘムになる手前の物質「ALA」や「PBG」が工場にあふれます。
  • ③ 神経が傷つけられる あふれたALAやPBGは、行き場をなくして体の中に溜まります。 これらの物質が神経を傷つけることで、おなかの激しい痛みが起こるのです。

ちなみに、病気の原因となるポルフィリンという物質は、がん治療で注目されています。 放射線治療の効果を高める「放射線力学的療法」への応用が研究中です。 ポルフィリンは放射線のエネルギーを受け取り、がん細胞への攻撃力を高めます。 このように、病気の原因物質が、別の分野で医療の進歩に役立つこともあります。

急性肝性ポルフィリン症の症状

急性肝性ポルフィリン症の症状は、ある日突然やってくる「発作」が特徴です。 しかし、その現れ方は人によって大きく異なり、お腹の痛みだけではありません。

体の中に溜まった有害な物質が、神経を傷つけることで様々な症状が起こります。 米国と欧州の報告では、年間約5,000人が1回以上の発作を経験しています。 ご自身の体に現れるサインを見逃さないために、以下の症状を確認しましょう。

【主な症状のチェックリスト】

  • おなかの症状 急な激しい腹痛が最も特徴的です。 吐き気や嘔吐、便秘なども起こります。
  • からだの症状 手足の痛みやしびれ、力が入りにくい感覚です。 背中や胸に痛みを感じることもあります。 尿の色が赤褐色や黒っぽくなることがあります。
  • こころの症状 強い不安感や混乱、気分の落ち込みが見られます。 実際にはないものが見えたり聞こえたりもします。
  • ひふの症状(一部のタイプのみ) 日光に当たった部分に水ぶくれができます。

これらの症状は命に関わる状態につながることもあり、注意が必要です。 発作がおさまっても、慢性的な痛みやだるさが続く方も少なくありません。

ちなみに、この病気の原因物質ポルフィリンは、がん治療で注目されています。 放射線治療の効果を高める「放射線力学的療法」への応用が研究中です。 ポルフィリンが、がん細胞を放射線に弱くする働きを持つ可能性があるのです。

急性肝性ポルフィリン症の検査・診断

この病気は、お腹の痛みや吐き気など様々な症状が出ます。 他の病気と間違えられやすく、診断がとても難しいことが特徴です。 そのため、正しい治療を始めるには、正確な診断が欠かせません。

診断は、主に3つのステップで慎重に進められます。 お医者さんとのお話、尿の検査、そして遺伝子の検査です。 これらの検査で、病気の正体に少しずつ迫っていきます。

診断のきっかけとなる症状の確認

まず、医師があなたの症状について詳しくお話を聞きます。 原因不明の激しい腹痛を繰り返している場合、この病気が疑われます。 受診する際は、以下の点を伝えられるようにしておくとスムーズです。

【お医者さんに伝えるポイント】

  • 繰り返す激しい腹痛 他に原因が見つからない、お腹の強い痛みが特徴です。
  • 赤ワインのような色の尿 尿の色がこげ茶色や赤っぽくなることがあります。
  • 手足のしびれや脱力感 力が入りにくくなったり、ピリピリとした痛みを感じたりします。
  • こころの不調 急に不安になったり、混乱したりすることもあります。

病気を特定するための主な検査

症状から病気が疑われる場合、診断を確定させるために検査をします。 特に、尿の検査は診断の決め手となる非常に重要なものです。

検査の種類

調べること

尿検査

尿の中に、病気の原因となる物質が増えていないか調べます。<br>「ALA」や「PBG」という物質が、発作中に急激に増えるのが特徴です。

遺伝子検査

血液を採って、生まれ持った体の設計図(遺伝子)を確認します。<br>病気の原因となる遺伝子の変化を見つけ、診断を確定させます。<br>また、4つある病気のどのタイプなのかも特定できます。

血液・便検査

血液や便に含まれるポルフィリンという物質の種類や量を調べます。<br>病気のタイプを特定するための手がかりになります。

ちなみに、診断の決め手となる「ALA」という物質は、医療の別の分野で注目されています。 子宮頸がんになる手前の病変に対する治療法として、研究が進んでいます。 病気の原因物質が、他の人を救う治療につながる可能性があるのです。

急性肝性ポルフィリン症の治療

急性肝性ポルフィリン症の治療は、主に3つの目的で行われます。 つらい発作を鎮める治療、発作を予防する治療、症状を和らげる治療です。 どの治療法を選ぶかは、患者さんの状態によって異なります。

急性発作の治療と予防

発作が起きた際は、原因物質の産生を抑える治療が中心となります。 また、発作を繰り返す方には、予防的な治療も選択肢になります。

  • ヘミン製剤 体内で不足している「ヘム」を点滴で直接補う治療法です。 ヘムが満たされると、神経を傷つける物質の過剰な産生が止まります。 これにより、激しいお腹の痛みなどの症状の改善を目指します。
  • siRNA製剤 発作を繰り返す場合に用いる、月1回の皮下注射による予防薬です。 有害物質を作る「設計図(mRNA)」に直接働きかけ、その量を減らします。 このお薬によって、発作が起きにくい状態を維持することを目指します。

対症療法と日常生活での注意

激しい腹痛や吐き気など、個々の症状を和らげる治療も重要です。 痛み止めや吐き気止めなどのお薬を、症状に合わせて使用します。 また、発作の引き金となる特定の薬剤や極端な食事制限を避けることも大切です。

興味深いことに、この病気の原因物質「ALA」は、別の病気の治療に応用されています。 子宮頸がんになる手前の病変に対する「ALA-PDT療法」がその一つです。 ALAを体に吸収させ、特殊な光を当てて異常な細胞だけを壊す治療法です。 研究では、この治療が安全で効果的な選択肢となる可能性が示されています。

どの治療法を選択するかは、患者さん一人ひとりの状態によって異なります。 ご自身の状態に合った治療法を、主治医とよく相談しながら決めていきましょう。