急性心膜炎

急性心膜炎

突然の胸の痛みや息苦しさを感じたとき、「少し休めば治るだろう」と軽く考えていませんか。その症状、もしかしたら心臓を優しく包む「心膜」に炎症が起きる「急性心膜炎」のサインかもしれません。特に、体を前にかがめると楽になり、仰向けになると痛みが強まるなら、注意が必要です。

急性心膜炎は決して稀な病気ではなく、ある報告では胸痛で救急外来を訪れた方の約5%に見られるとされています。放置すると、心臓の動きを圧迫する「心タンポナーデ」という命に関わる状態を引き起こすことも。

この記事では、急性心膜炎の詳しい原因や見逃してはいけない症状、そして最新の治療法までを解説します。あなたや大切な人の体を守るために、正しい知識を身につけましょう。

急性心膜炎の概要

心臓は、私たちの体で休むことなく働く非常に大切な臓器です。 その心臓全体を優しく包み込み、保護しているのが「心膜」です。 心膜は、薄い膜が2枚重なった袋のような構造をしています。

2枚の膜の間には、通常50ml以下の「心嚢液(しんのうえき)」があります。 この液体が潤滑油の役割を担い、心臓の滑らかな拍動を助けています。 急性心膜炎とは、この心膜に急な炎症が起こってしまう病気です。

炎症が起こると、膜から液体成分が染み出し、心嚢液が異常に増えます。 この溜まった水が心臓を外側から圧迫し、動きを妨げてしまうのです。 特に危険なのが、水が溜まりすぎて心臓を圧迫する「心タンポナーデ」です。

心臓が十分に膨らむことができず、全身に血液を送れなくなります。 これは命に関わることもあるため、緊急の対応が必要となる状態です。 また、心膜の炎症がすぐ内側にある心筋に及ぶこともあります。 この状態は「急性心筋心膜炎」と呼ばれ、心臓の機能低下につながります。

急性心膜炎のポイント

  • どこの病気?
  • 心臓を覆っている「心膜」という袋状の膜の炎症です。
  • 何が起こる?
  • 炎症により、心膜の間に水(心嚢液)が溜まります。
  • 注意が必要な状態
  • 水が溜まりすぎ、心臓を圧迫する「心タンポナーデ」です。

急性心膜炎は、胸痛で救急外来を訪れる方のうち、原因が心筋梗塞などではない患者さんの約5%に見られるという報告もあります。 決して稀な病気ではないため、胸の違和感を軽視しないことが重要です。

急性心膜炎の種類

ひとくちに急性心膜炎といっても、実はいくつかの種類に分けられます。 これは、炎症によって心臓の周りに溜まる液体の性質がどう違うか、 また、炎症がどの範囲まで広がっているかによって分類されるのです。

ご自身の状態を正しく理解するために、これらの違いを知っておきましょう。

溜まる液体の性質による分類

炎症が起きると、心膜から液体が染み出してきます。 その液体の見た目や成分によって、心膜炎の状態を判断します。 原因によって溜まる液体の種類も変わってくる傾向があります。

液体の種類による分類

特徴

線維素性(せんいそせい)心膜炎

急性心膜炎で比較的よく見られるタイプです。炎症により、少し粘り気のある液体が溜まります。

漿液性(しょうえきせい)心膜炎

ウイルス感染や自己免疫の病気が原因の時に見られます。サラサラとした透明な液体が溜まるのが特徴です。

化膿性(かのうせい)心膜炎

細菌などの感染が原因で、膿(うみ)が溜まった状態です。高熱を伴うことが多く、緊急の治療が必要です。

出血性(しゅっけつせい)心膜炎

血液の成分を含む赤い液体が溜まります。結核やがん、胸のケガなどが原因となることがあります。

炎症の広がりによる分類

心膜の炎症が、周りの組織にまで影響を及ぼすことがあります。 炎症がどこまで広がっているかによって、呼び方が変わります。

  • 急性心膜炎
  • 炎症が心臓をおおう膜(心膜)だけにとどまっている状態です。
  • 急性心筋心膜炎
  • 炎症が、心膜のすぐ内側にある心臓の筋肉(心筋)にまで広がった状態です。心臓のポンプ機能に影響が出ることがあります。
  • 急性縦隔心膜炎(じゅうかくしんまくえん)
  • 炎症が、心臓のさらに外側にある肺や気管などがある空間(縦隔)にまで及んだ状態です。より重症なケースと言えます。

このように、急性心膜炎は一つではありません。 医師はこれらの種類を正確に見きわめ、原因を特定していきます。 そして、一人ひとりの状態に合わせた最適な治療法を考えていくのです。

急性心膜炎の原因

急性心膜炎は、様々なことがきっかけで心臓の膜に炎症が起こります。 しかし、実は最も多いのは、詳しい検査をしても原因が特定できない、 「特発性(とっぱつせい)」と呼ばれるケースなのです。

原因がわからないと聞くと、不安に感じてしまうかもしれません。 ですが、原因がわからなくても治療法はあり、多くは回復に向かいます。 原因が特定できる場合には、主に以下のようなものが考えられます。

原因の分類

具体的な例

感染によるもの

・ウイルス感染<br> 最も多い原因の一つです。風邪などを引き起こす身近なウイルスが心膜に感染し、炎症を起こします。<br>・細菌感染<br> 肺炎などを起こす細菌が、血液の流れに乗って心臓にたどり着き、原因となることがあります。<br>・結核菌感染<br> 過去の病気と思われがちですが、現在でも注意が必要な原因の一つです。

感染以外の病気によるもの

・心臓やその周りの病気<br> 急性心筋梗塞や肺の病気、胸膜炎などが、すぐ隣にある心膜に影響を及ぼすことがあります。<br>・からだ全体の病気<br> – 自己免疫疾患: 本来体を守るはずの免疫が、誤って自分の心膜を攻撃してしまう病気です(関節リウマチなど)。<br> – 代謝の病気: 腎臓の機能が落ちて体に毒素が溜まる尿毒症(にょうどくしょう)や、痛風などが挙げられます。<br> – 腫瘍(がん): 肺がんや乳がんが心膜に広がることや、心膜自体に腫瘍ができることも原因です。

その他の原因

・けがや治療の影響<br> 胸を強く打つなどの外傷や、心臓の手術、胸への放射線治療がきっかけとなることがあります。<br>・薬の影響<br> ある種の薬の副作用として起こる場合もあります。

このように、急性心膜炎の原因は非常に多岐にわたります。 胸の痛みが続くなど、気になる症状がある場合は自己判断せず、 原因をきちんと調べるためにも早めに医療機関を受診しましょう。

急性心膜炎の症状

急性心膜炎になると、体は様々なサインを出して異常を知らせます。 最も特徴的なのは胸の痛みですが、風邪に似た症状で始まることもあり、 心臓の病気だと気づきにくい場合もあるため、注意が必要です。

特徴的な胸の痛み

急性心膜炎の痛みは、他の心臓病とは少し違った特徴を持っています。 ご自身の症状と照らし合わせて、チェックしてみてください。

  • 痛み方 急に始まる鋭い痛みや、チクチク、ズキズキする痛みが典型的です。 人によっては、締め付けられるような鈍い痛みの場合もあります。
  • 痛む場所 胸の真ん中あたりに痛みを感じることが多いです。 そこから首や左肩、腕、肩甲骨にかけて痛みが広がることがあります。
  • 痛みが強くなる動き ・仰向けで寝る ・深く息を吸う ・咳をする これらの動作で痛みが強くなるのは、炎症を起こした心膜が、 動くことで周りの組織とこすれて、刺激されるためです。
  • 痛みが楽になる姿勢 座って体を前にかがめると、痛みが少し楽になることがあります。 これは心臓が胸の壁から離れ、心膜への刺激が減るためです。 この姿勢による痛みの変化は、急性心膜炎を疑う重要なサインです。

胸の痛み以外のサイン

胸の痛み以外にも、心臓の周りで起きている炎症が原因で、 以下のような全身の症状が現れることがあります。

  • 息苦しさ、呼吸のしにくさ 心臓を包む袋に水が溜まり、心臓や肺の動きを邪魔するために起こります。
  • 発熱やだるさ、悪寒 体がウイルスや細菌と戦っているサインです。 風邪の症状とよく似ているため、胸の痛みを伴う場合は要注意です。
  • 乾いた咳 心膜の炎症が、すぐ近くにある気管や気管支に影響して出ることがあります。

これらの症状の出方には個人差があり、軽い違和感だけの方もいます。 しかし、「姿勢を変えると痛みが変わる胸の痛み」や息苦しさを感じたら、 自己判断はせずに、速やかに医療機関を受診するようにしてください。

急性心膜炎の検査・診断

胸の痛みといった症状で受診されると、まず丁寧にお話をお伺いします。 その後、原因や心臓の状態を正確に知るため、検査を進めていきます。 これらの検査は、診断を確定し、適切な治療法を選ぶ上で欠かせません。

まず、医師が聴診器を胸にあて、心臓の音を注意深く聞きます。 このとき、「心膜摩擦音」という特徴的な音が聞こえることがあります。 これは炎症で表面がざらついた心膜同士が、心臓の動きでこすれる音です。 この音が聞こえれば、急性心膜炎を強く疑う重要な手がかりになります。

診断を確定するために、主に以下の検査を組み合わせて行います。

  • 心電図検査 心臓が動く時に発生する、ごく弱い電気信号を波の形で記録します。 急性心膜炎では、ほとんどの波形に特有の変化が見られることがあります。 似たような胸痛を起こす心筋梗塞など、他の病気との区別にも役立ちます。
  • 心エコー検査(心臓超音波検査) 診断において非常に重要な、中心的な役割を果たす検査です。 超音波を使い、心臓の動きや水の溜まり具合をリアルタイムで観察します。 心臓を圧迫する「心タンポナーデ」という危険な状態でないか評価できます。
  • 胸部X線検査(レントゲン) 心臓の周りに溜まった水の量が多いと、心臓の影(心陰影)が大きく見えます。 心臓だけでなく、肺に炎症が及んでいないかなども同時に確認します。
  • 血液検査 体内でどのくらいの炎症が起きているかを、CRPという数値で確認します。 また、炎症が心臓の筋肉に及んでいないかを、心筋トロポニンという数値で調べます。 病気の活動性や重症度を客観的に評価するために行います。

これらの基本的な検査の結果を総合的に判断し、診断を下します。 場合によっては、心膜の厚さなどをさらに詳しく調べるために、 CTやMRIといった画像検査を追加することもあります。

急性心膜炎の治療

急性心膜炎の治療は、まず安静にして心臓を休ませることが大切です。 その上で、炎症や痛みを抑える治療と、原因に対する治療を進めます。 治療法は患者さんの状態や原因によって異なり、主に3つの方法があります。

薬による治療

多くの場合、お薬を使って炎症を抑え、つらい症状を和らげていきます。 原因がはっきりしている場合は、その原因を直接たたくお薬も使います。

薬の種類

どのようなお薬か

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

痛みや熱、炎症を抑えるための基本となるお薬です。アスピリンなどが使われます。

コルヒチン

炎症を鎮める効果があり、特に病気の再発を防ぐ目的で使われることがあります。

ステロイド薬

炎症を抑える力がより強力なお薬です。他の薬で効果が十分でない場合などに使います。

原因に応じたお薬

細菌が原因なら抗菌薬(抗生物質)を使うなど、根本の原因を取り除くためのお薬です。

心臓の水を抜く処置(心膜穿刺)

心臓の周りに水が溜まりすぎ、心臓の動きを圧迫することがあります。 この危険な状態を「心タンポナーデ」と呼び、緊急の対応が必要です。 胸から細い針を刺し、溜まった水を直接抜き取る処置を行います。 この処置を「心膜穿刺(しんまくせんし)」といい、速やかな改善が期待できます。

手術による治療

お薬や心膜穿刺で良くならない場合や、何度も再発を繰り返す場合、 心膜の一部を外科的に切り取る手術(心膜切開術)を検討します。 この治療が必要になるケースは、比較的まれです。

どの治療法を選ぶかは、原因や症状の重さによって一人ひとり違います。 担当の医師とよく相談しながら、最適な治療方針を決めていきましょう。