急性ウイルス性肝炎

なんだか体がだるい、食欲もない…。その症状、単なる風邪や疲れだと見過ごしていませんか?「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓が、ウイルス感染によって悲鳴を上げているサインかもしれません。それが、急性ウイルス性肝炎です。

日本国内の調査では、原因の約32%をB型肝炎ウイルスが占める一方で、約34%は原因不明とされています。感染するウイルスの種類によってその後の経過は大きく異なり、中には命に関わる「劇症肝炎」に発展するケースも存在します。

ほとんどは安静にすることで回復に向かいますが、放置すると病気が長引く「慢性肝炎」になるウイルスもあります。この記事では、急性ウイルス性肝炎の5種類の原因ウイルスや症状、治療法を詳しく解説します。自分の状態を正しく知るための第一歩としてお役立てください。

急性ウイルス性肝炎の概要

ウイルスに感染することで、肝臓に急な炎症が起きる病気です。 肝臓は「沈黙の臓臓」と呼ばれ、とても我慢強いのが特徴です。 しかし、急にウイルスが侵入すると、さすがの肝臓も悲鳴を上げます。 そのサインとして、だるさや吐き気、黄疸といった症状が現れます。

原因となるウイルスは主に5種類です。

  • A型肝炎ウイルス
  • B型肝炎ウイルス
  • C型肝炎ウイルス
  • D型肝炎ウイルス
  • E型肝炎ウイルス

日本では、B型肝炎ウイルスによるものが約32%と最も多いです。 感染したウイルスの種類によって、症状や経過は大きく異なります。

ほとんどの場合、安静にしていれば特別な治療なしで回復に向かいます。 しかし、一部では症状が長引く「慢性肝炎」になることがあります。 ごくまれに「劇症肝炎(げきしょうかんえん)」という状態になることもあります。 これは命に関わる非常に危険な状態で、注意が必要です。

重症のB型肝炎では抗ウイルス薬が使われることもあります。 しかし、その効果が本当に高いのかは、まだ研究の途中です。 気になる症状があれば、まずは原因を特定するために受診しましょう。 自分の状態を正しく知ることが、適切な治療への第一歩です。

急性ウイルス性肝炎の種類

急性ウイルス性肝炎は、原因となるウイルスの違いで分類されます。 犯人であるウイルスの種類によって、その後の経過が大きく異なります。 そのため、どのウイルスに感染したかを特定することが治療の第一歩です。 日本で報告されている主な原因ウイルスは以下のとおりです。

  • A型肝炎ウイルス
  • B型肝炎ウイルス
  • C型肝炎ウイルス
  • D型肝炎ウイルス
  • E型肝炎ウイルス

2014年から2022年の国内の調査では、B型が約32%と最も多いです。 次にA型が約17%、E型が約12%と続きます(※)。 原因ウイルスを特定することで、今後の見通しを立てやすくなります。 ※参考:国立感染症研究所「急性肝炎の最近の動向」

ウイルスによっては、病気が長引く「慢性肝炎」になることがあります。 特に注意が必要なのは、B型とC型肝炎ウイルスです。 C型肝炎ウイルスの場合、約70~80%の人が慢性肝炎に移行します。 B型肝炎ウイルスが慢性化する割合は低いですが、油断はできません。 一方でA型やE型は、基本的には慢性化せず、自然に治ることが多いです。

ウイルスに感染してから症状が出るまでの潜伏期間も、下の表のように異なります。

ウイルスの種類

潜伏期間の目安

A型肝炎

約2週間~1か月半

B型肝炎

約1か月半~6か月

C型肝炎

約3週間~4か月

D型肝炎

約1か月~6か月

E型肝炎

約2週間~2か月

これらのウイルスの他にも、まれなウイルスが原因となることもあります。 気になる症状があれば、まずは原因を突き止めるために検査を受けましょう。

急性ウイルス性肝炎の原因

急性ウイルス性肝炎は、肝臓に炎症を起こすウイルスが体に入ることで発症します。 原因となるウイルスは複数あり、それぞれ感染の仕方が異なります。 どのウイルスが原因かを知ることが、適切な治療への第一歩です。

主な5種類の原因ウイルス

原因となる肝炎ウイルスは、主に以下の5種類に分けられます。

  • A型肝炎ウイルス
  • B型肝炎ウイルス
  • C型肝炎ウイルス
  • D型肝炎ウイルス
  • E型肝炎ウイルス

日本国内の調査(2014〜2022年)では、B型が約32%と最も多いです。 しかし、どのウイルスにも当てはまらない原因不明のケースも約34%存在します。

ウイルスの感染経路

ウイルスは、主に2つのルートで体の中に侵入してきます。 口から入る「経口感染」と、血液などを介する「血液・体液感染」です。

感染経路

主なウイルス

具体的な感染の例

経口感染<br>(口から入る)

A型、E型

・ウイルスに汚染された食べ物や水を口にする<br>・加熱が不十分なカキや豚・鹿のレバーを食べる

血液・体液感染

B型、C型、D型

・消毒が不十分な器具でのピアスや入れ墨<br>・注射器の使い回し<br>・血液がついたカミソリや歯ブラシの共有<br>・ウイルスを持つ人との性的な接触

D型肝炎は少し特殊で、B型肝炎ウイルスに感染している人にしか感染しません。 また、まれにエプスタイン-バーウイルスなど、一般的な肝炎ウイルス以外のウイルスが原因となることもあります。

急性ウイルス性肝炎の症状

急性ウイルス性肝炎の症状は、人によって現れ方が大きく異なります。 感染しても全く症状が出ない人もいれば、風邪と間違える人もいます。 症状の出方や順番を知っておくことが、早期発見につながります。

風邪とよく似た初期症状

多くの場合、感染から数週間後に次のような症状から始まります。 これは肝臓の炎症が始まったサインで、「前駆症状」とも呼ばれます。

  • 体のだるさ(全身倦怠感) 何もしていないのに、体が鉛のように重く感じられます。
  • 食欲がなくなる 好きだったものが食べたくなくなり、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
  • 発熱 37〜38度程度の、インフルエンザのような熱が出ることがあります。
  • お腹の右上の痛み 肝臓がある右のあばら骨の下あたりに、重苦しい痛みを感じます。

B型肝炎ウイルスが原因の場合は、関節の痛みやじんましんが出ることもあります。 これらの初期症状は、通常1週間ほどで少しずつ落ち着いてきます。

肝臓からの危険信号(特徴的な症状)

初期症状が出てから3日〜10日ほど経つと、より特徴的な症状が見られます。 これらは肝臓の機能が低下していることを示す、はっきりとしたサインです。

  • 黄疸(おうだん) 皮膚や目の白い部分が黄色っぽく見える状態です。 肝臓で処理されるべきビリルビンという黄色い物質が血液中に増えることで起こります。
  • 尿の色が濃くなる いつもの薄い黄色ではなく、紅茶やコーラのような濃い茶色の尿が出ます。
  • 便の色が白っぽくなる 便を茶色くする胆汁(たんじゅう)が流れにくくなり、クリーム色のような便になります。

まれに、症状が急激に悪化し「劇症肝炎(げきしょうかんえん)」になることがあります。 これは命に関わる危険な状態で、意識がはっきりしなくなることもあります。 気になる症状があれば自己判断せず、すぐに医療機関へ相談してください。

急性ウイルス性肝炎の検査・診断

急性ウイルス性肝炎が疑われる場合、まず原因を突き止めます。 犯人であるウイルスを見つけ、肝臓のダメージを調べるためです。 診断は、問診や診察、そして血液検査をメインに進めていきます。

まず問診で症状や食事内容、海外渡航歴などを詳しくお聞きします。 次にお腹を優しく触って、肝臓が腫れて痛むかなどを調べます。 診断を確定させるために、最も重要なのが血液検査です。

血液検査では、主に以下の項目をチェックします。

  • 肝酵素(AST, ALT) 肝臓の細胞が壊れると血液中に増える数値です。 肝臓がどれだけダメージを受けているかを示す悲鳴の大きさです。
  • ビリルビン 体や目が黄色くなる黄疸の原因となる黄色い物質です。 この数値が高いと、肝臓の機能が落ちているサインになります。
  • ウイルスマーカー どのウイルス(A型、B型など)が原因かを特定する検査です。 犯人捜しをするための、最も重要な手がかりとなります。
  • 血液凝固機能 血を固める力を調べ、重症化のサインがないかを確認します。 劇症肝炎という危険な状態になっていないかを知る大切な検査です。

これらの検査で診断が確定すると、治療の方針を決めていきます。 例えばB型肝炎の場合、抗ウイルス薬を使うか慎重に判断します。 薬を使っても必ずしも回復が早まるとは限らない、という研究報告もあります。 また、薬の種類によって効果に差が出ることも分かってきています。 そのため、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療が重要です。

急性ウイルス性肝炎の治療

急性ウイルス性肝炎の治療で最も大切なのは、肝臓を休ませることです。 多くの場合、特別な薬を使わなくても、体の回復力で自然に治ります。 治療の主役は、患者さん自身の「治ろうとする力」なのです。

基本は肝臓を応援する「支持療法」

まずは、ウイルスと戦って疲れた肝臓の負担を減らすことが第一歩です。 これを「支持療法」と呼び、からだ全体で肝臓の回復を応援します。

  • 安静にする 体を横にすると肝臓への血の巡りがよくなり、回復が早まります。 焦らず、ゆっくりと休むことが一番の薬になります。
  • 栄養をとる 食欲があれば、消化しやすいうどんやおかゆなどを中心に食べましょう。 肝臓が元気になるためのエネルギーを補給することが大切です。
  • 禁酒 アルコールは肝臓で分解されるため、大きな負担になります。 肝臓が完全に回復するまでは、お酒は絶対に飲まないでください。
  • 薬の調整 肝臓の機能が落ちているため、普段飲んでいる薬が効きすぎることがあります。 自己判断で薬を飲むのはやめて、必ず医師に相談しましょう。

ウイルスの種類や重さで変わる治療

基本の支持療法に加えて、ウイルスの種類や重症度で治療が変わります。

ウイルスの種類・状態

主な治療方針

多くの急性肝炎

安静と栄養補給を中心とした支持療法で回復を待ちます。

C型急性肝炎

7割以上が慢性化しやすいため、抗ウイルス薬での治療を考えます。

重症のB型急性肝炎

抗ウイルス薬(ヌクレオシド類似体)を使うことがあります。しかし、薬を使っても回復が早まるとは限らないという研究報告もあり、使用は慎重に判断します。

劇症肝炎

命に関わる危険な状態で、すぐに入院が必要です。集中治療や、場合によっては肝移植を検討します。

特にB型肝炎の抗ウイルス薬は、効果がまだはっきりと証明されていません。 薬を使わない方が早くウイルスが消えた、という研究結果もあるほどです。 そのため、薬を使うかどうかは、患者さんの状態をみて慎重に決めます。 気になることは医師とよく相談し、最適な治療法を選びましょう。