生理ではない時期の出血や、レバーのような塊が混じるほどの過多月経。「いつものこと」「更年期だから」と、つい見過ごしてはいませんか。そのサインは、子宮の内側が厚くなる「子宮内膜増殖症」という病気かもしれません。
この病気で最も知っておくべきなのは、将来「子宮体がん」につながる危険性です。実は、細胞の状態によって、がん化のリスクが低いタイプと、約30%ががんに進行するとされる「前がん病変」のタイプに分かれます。ご自身がどちらのタイプかを知ることが、今後の治療を決める上で非常に重要になります。
この記事では、子宮内膜増殖症の原因から、がんのリスクを左右する種類の違い、そしてあなたに合った治療法までを詳しく解説します。大切な体を守るため、まずは病気への正しい理解から始めましょう。
子宮内膜増殖症の概要
子宮内膜増殖症は、赤ちゃんを育てる部屋である子宮の内側をおおう「子宮内膜」が、必要以上に厚くなってしまう病気です。
主な原因は、女性ホルモンのバランスが乱れてしまうことにあります。「エストロゲン」というホルモンの働きが過剰になることが引き金です。これにより、月経(生理)以外の時に出血したり、経血の量が異常に多くなったりすることがあります。
この病気で最も大切なのは、将来「子宮体がん」というがんに進む可能性があるかどうかです。細胞の状態によって、大きく2つのタイプに分けられます。
- 異型(いけい)のないタイプ 細胞の形は正常で、がんになる可能性は低い(約1%)と考えられています。
- 異型(いけい)のあるタイプ 細胞にがんになる可能性のある変化(異型)が見られる状態です。「前がん病変」とも呼ばれ、約30%が子宮体がんに進むとされます。
この病気のリスクを高める大きな要因の一つに「肥満」があります。実際に、肥満の方が手術で体重を減らしたところ、病状が改善したという研究報告も存在します。
しかし、この研究データはまだ十分とは言えず、減量が治療としてどのくらい効果的かについては、さらなる検証が必要な段階です。
子宮内膜増殖症は、子宮体がんにつながる可能性もある病気です。気になる症状があれば、早めに婦人科を受診し、正確な診断を受けましょう。
子宮内膜増殖症の種類
子宮内膜増殖症の診断で最も大切なのは、細胞の種類を正確に見極めることです。 子宮内膜から採取した細胞を顕微鏡で調べ、その「顔つき」に異常があるかを見ます。 この細胞の顔つきの違いを、専門用語で「異型(いけい)」の有無と呼びます。 この分類は、将来のがんのリスクや治療方針を決める重要な分かれ道となります。
異型のない子宮内膜増殖症
こちらは、細胞の形自体は正常ですが、その数だけが増えている状態です。 女性ホルモンの影響で、子宮の内膜が必要以上に厚くなっている状態です。 このタイプが、がんに進行する可能性は低いと考えられています(約1%)。 そのため、多くは定期的な経過観察で様子を見たり、自然に治ることもあります。
子宮内膜異型増殖症
こちらは、増えている細胞の中に、正常とは明らかに違う顔つきの細胞がいます。 この「異型」のある細胞は、将来がんに変化する可能性を秘めたサインです。 「子宮体がんの前がん病変」、つまり、がんの一歩手前の状態と考えられます。 何もしないと約30%が子宮体がんに進むとされ、積極的な治療が必要になります。 最近では「子宮内膜上皮内腫瘍(EIN)」という名前で呼ばれることもあります。
ご自身の細胞がどちらのタイプかを知ることが、今後の治療を決める上で最も大切です。
|
種類
|
細胞の顔つき(異型の有無)
|
がんになる可能性
|
主な対応
|
|
異型のない子宮内膜増殖症
|
なし(正常な細胞が増えている)
|
低い(約1%)
|
経過観察やホルモン療法
|
|
子宮内膜異型増殖症(EIN)
|
あり(がんになる前の変化)
|
高い(約30%)
|
積極的な治療が必要
|
このように、細胞レベルの小さな違いが、その後の対応を大きく左右します。 だからこそ、婦人科での正確な組織検査が非常に重要になるのです。
子宮内膜増殖症の原因
子宮内膜増殖症が起こる主な原因は、女性ホルモンのバランスが崩れてしまうことです。 私たちの体には、子宮の内側を整える2つの大切なホルモンがあります。
- エストロゲン(卵胞ホルモン) 子宮内膜を厚くして、妊娠に備える働きをします。
- プロゲステロン(黄体ホルモン) エストロゲンの働きを調整し、内膜が厚くなりすぎるのを防ぐ、ブレーキ役を担います。
通常、この2つのホルモンは、うまくバランスを取りながら子宮内膜の厚さを調整しています。 しかし、何らかの理由でエストロゲンの働きだけが強くなると、ブレーキが効かなくなります。 その結果、子宮内膜は必要以上に厚くなってしまうのです。
このホルモンバランスが乱れる具体的な要因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 排卵がうまくいかないこと ブレーキ役のプロゲステロンが十分に分泌されません。
- 閉経が近い時期(更年期) ホルモン分泌が不安定になり、バランスがゆらぎやすくなります。
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの病気 排卵しにくいため、エストロゲンの影響が長く続きます。
- 肥満 脂肪の細胞からもエストロゲンが作られるためです。
特に「肥満」は、子宮内膜増殖症の主要なリスク因子の一つと考えられています。 脂肪組織は、卵巣とは別にエストロゲンを作り出す働きを持っているためです。 そのため、肥満の方はエストロゲンの影響をより強く、長く受けやすい状態になります。
ある研究では、肥満の方が減量のための手術を受けた後、病状が改善したという報告もあります。 しかし、このデータはまだ十分とは言えず、減量が治療としてどのくらい効果的かについては、さらなる検証が必要な段階です。
このように、原因は一つとは限りません。 生活習慣や体質、年齢などが複雑に関わり合って、ホルモンバランスの乱れを引き起こします。
子宮内膜増殖症の症状
子宮内膜増殖症のサインで最も多いのは、出血に関する異常です。 女性ホルモンのバランスが崩れると、子宮の内側をおおう内膜は厚くなります。 厚くなりすぎた子宮内膜は、もろく不安定な状態になり、はがれやすくなります。 そのため、月経(生理)以外の時でも、出血に関するトラブルが起こりやすくなるのです。
特に注意したい主な症状は「不正出血」と「過多月経」の2つです。 ご自身の状態と比べて、チェックしてみてください。
- 不正出血 月経の期間ではない時に、性器から出血が見られる状態を指します。 だらだらと少量の出血が続いたり、茶色いおりものが出たりします。 月経が終わったはずなのに、また出血が始まることもサインの一つです。
- 過多月経 月経時の出血量が、異常に多くなる状態のことです。 厚くなった子宮内膜が一度に剥がれ落ちるため、経血にレバーのような塊が混じることがあります。 ナプキンが1時間もたない、昼間でも夜用のナプキンを使うといった状態は要注意です。
このような出血が長く続くと、体は慢性的な鉄不足に陥り、貧血になります。 貧血になると、全身に酸素を運ぶ力が弱まり、以下のような症状も現れ始めます。
- めまい、ふらつき、立ちくらみ
- 階段を上るだけで動悸や息切れがする
- いつも体がだるい、疲れがとれない
- 顔色が悪く、まぶたの裏側が白っぽくなる
これらの症状を「いつものこと」「歳のせい」と見過ごさないことが大切です。 ほかにも、月経の周期が乱れる月経不順や、生理痛がひどくなることもあります。 気になる症状があれば、放置せずに婦人科を受診しましょう。
子宮内膜増殖症の検査・診断
不正出血やひどい生理痛など、気になる症状がある場合、自己判断は禁物です。 子宮内膜増殖症の診断は、将来のがんのリスクを正確に見極めるために行います。 そのため、いくつかの検査を組み合わせて、慎重に診断を確定していきます。
検査は、主に次の3つのステップで進められます。
- 問診 医師があなたの体の状態を正しく知るための、大切な対話の時間です。 いつから症状があるか、月経の周期や量、過去の病気についてお聞かせください。
- 経腟超音波(エコー)検査 腟から細い器具を入れ、子宮の内部をモニターに映して観察する検査です。 この検査で最も重要なのは、「子宮内膜」がどのくらい厚くなっているかです。 子宮内膜増殖症では、本来は薄いはずの内膜が、布団のように厚くなります。 この厚みが、さらに詳しい検査に進むべきかどうかの、一つの目安になります。
- 子宮内膜の組織検査(生検) 診断を確定させるために、最も重要となる検査です。 子宮の内側から、子宮内膜の組織をほんの少しだけ採取します。 採取した組織を顕微鏡で詳しく観察し、「細胞の顔つき」を調べます。 がんになる可能性を秘めた「異型(いけい)」という細胞がないかを確認します。
これらの検査結果を総合的に判断し、最終的な診断を下します。
|
検査の種類
|
何を調べるか
|
診断の目安や目的
|
|
経腟超音波(エコー)検査
|
子宮内膜の厚さ
|
・閉経前:8mm以上
・閉経後:5mm以上
※この厚さを超える場合、詳しい組織検査が必要です。
|
|
子宮内膜の組織検査
|
細胞の顔つき(異型の有無)
|
・病気の診断を確定させるためです。
・異型の有無で、将来のがんのリスクや治療方針が大きく変わります。
|
特に組織検査は、あなたの今後の治療方針を決めるための、非常に大切な情報となります。 これらの検査によって病気の種類を正確に把握することが、適切な治療への第一歩です。
子宮内膜増殖症の治療
子宮内膜増殖症の治療法は、いくつかの大切なポイントを元に決めていきます。 一番重要なのは、細胞の「顔つき」にがんになる可能性のある「異型」があるかです。 その上で、将来妊娠を希望するか、年齢、症状の強さなどを一緒に考えていきます。 あなたに合った治療法を、医師と一緒に見つけていきましょう。
主な治療法は、次の3つに分けられます。
|
治療法
|
主な対象となる方
|
治療の目的
|
|
経過観察
|
・異型がなく、症状も軽い方
・閉経が近い方
|
・自然に治る可能性を待つ
|
|
薬物療法
|
・異型がない方
・妊娠を希望する異型がある方
|
・薬で内膜の増殖を抑える
・妊娠の可能性を残す
|
|
手術療法
|
・異型がある方
・薬の効果がない、出血が多い方
|
・がん化のリスクを根本からなくす
|
薬物療法(ホルモン療法)
薬物療法では、子宮内膜が厚くなるのを抑える「黄体ホルモン」という薬を使います。 これは、増殖のアクセル役であるエストロゲンの働きに、ブレーキをかける治療です。 飲み薬のほか、子宮の中に直接ホルモンを放出する器具(LNG-IUS)を入れる方法もあります。
近年の研究では、飲み薬の中でも「MPA」という薬が効果的であると報告されています。 さらに、糖尿病の治療で使われる「メトホルミン」を一緒に使うことで、より高い効果が期待できる可能性も示されました。
妊娠を希望する方にとって、ホルモン療法は大切な選択肢です。 もし治療後に再発した場合でも、再びホルモン療法を行うことで、約8割の方が改善したという研究結果があります。 ただし、手術と比べると再発のリスクは高くなるため、治療後も定期的な検査を続けることがとても重要です。
手術療法
がんになる可能性のある「異型」がある場合、最も確実な治療法が手術です。 子宮をすべて取り除く「子宮全摘出術」が基本的な治療法となります。 これにより、将来がんになるリスクを根本からなくすことができます。 薬の効果が見られない場合や、出血が多くて生活に支障が出る場合、閉経後の方にも手術が選ばれます。
どの治療法が最適かは、お一人おひとりの体の状態やライフプランによって異なります。 ご自身の希望を医師に伝え、よく相談しながら、納得のいく治療法を選んでいきましょう。