ネフローゼ症候群

「最近、顔や足のむくみが気になる」「トイレの尿がビールのように泡立っている」。何気なく見過ごしているそのサインは、もしかすると腎臓が悲鳴をあげている「ネフローゼ症候群」の症状かもしれません。

ネフローゼ症候群は、血液をきれいにする腎臓のフィルターが壊れ、体に必要なタンパク質が1日に3.5g以上も尿へ漏れ出してしまう病気です。タンパク質が失われると、全身のむくみだけでなく、感染症にかかりやすくなったり、血液が固まりやすくなったりと、様々な不調を引き起こします。

この記事では、ネフローゼ症候群の詳しい原因から症状、最新の治療法までを分かりやすく解説します。ご自身の体の変化に気づき、適切な対処をするためにも、ぜひ最後までご覧ください。

ネフローゼ症候群の概要

ネフローゼ症候群は、腎臓の働きに問題が起こる病気の一つです。 腎臓には、血液をきれいにするためのフィルターの役割を持つ部分があります。 このフィルターの目が粗くなり、体に必要なタンパク質が尿に漏れ出します。 タンパク質が大量に失われると、体に様々な不調が起こり始めます。

血液中のタンパク質が減ることで、以下のような症状が現れます。

  • むくみ(浮腫)
  • 血液中の水分を保つタンパク質が減り、水分が血管の外に漏れ出します。
  • その結果、まぶたや足など、全身がむくんでしまいます。
  • 脂質異常症
  • 減ったタンパク質を補おうと肝臓が働き、コレステロールなども増えます。
  • 血液が固まりやすくなる
  • 血液をサラサラに保つタンパク質も尿に漏れ、血の塊ができやすくなります。
  • 感染症にかかりやすくなる
  • 免疫に関わるタンパク質も失われ、体の抵抗力が弱まってしまいます。

ネフローゼ症候群は、腎臓自体に原因がある「一次性」と、他の病気が原因の「二次性」に分けられます。 まれに遺伝子が原因で、生まれつき発症する「先天性ネフローゼ症候群」もあります。 ある研究では、LAMB2という遺伝子の異常を持つ患者さん110人のうち、約8割が先天性のネフローゼ症候群であったと報告されています。 この研究では、遺伝子の壊れ方のタイプによって、1歳になる前に腎臓の機能が大きく低下するケースがあることも示唆されました。

ネフローゼ症候群の種類

ネフローゼ症候群は、原因によって大きく2つのタイプに分けられます。 腎臓自体に問題が起きている「一次性」と、他の病気が原因の「二次性」です。 なぜなら、どちらのタイプかによって治療の方針が大きく変わるためです。

腎臓そのものが原因の「一次性」

腎臓の血液をろ過するフィルター部分「糸球体(しきゅうたい)」に、直接的な問題が起きて発症するタイプです。 正確な診断には、腎臓の組織を少しだけ採って顕微鏡で詳しく調べる「腎生検(じんせいけん)」という検査が必要になります。

一次性ネフローゼ症候群には、主に以下のような種類があります。

  • 微小変化型ネフローゼ症候群
  • 子どものネフローゼ症候群で最も多いタイプです。
  • 家族の協力体制が、治療に良い影響を与えるという研究報告もあります。
  • 巣状分節性糸球体硬化症(そうじょうぶんせつせいしきゅうたいこうかしょう)
  • 糸球体の一部が硬くなってしまう病気です。
  • 膜性腎症(まくせいじんしょう)
  • 大人のネフローゼ症候群で多く見られます。
  • 膜性増殖性糸球体腎炎
  • 糸球体の細胞が増え、フィルターの膜が厚くなります。

他の病気や薬が原因の「二次性」

何らかの病気や、使用している薬などが引き金となって発症するタイプです。 この場合、原因となっている病気の治療を行うことが、腎臓の状態を改善する上で非常に重要です。

原因となるもの

具体例

自己免疫疾患

自分の体を異物と間違えて攻撃してしまう病気です。

(例:全身性エリテマトーデス)

代謝の病気

糖尿病によって腎臓が悪くなる「糖尿病性腎症」が代表的です。

感染症

B型肝炎やC型肝炎ウイルスなどが原因になることがあります。

薬剤・ワクチン

一部の痛み止めなど。

ごく稀に新型コロナワクチンがきっかけで発症した例も報告されています。

悪性腫瘍

肺がんや胃がん、白血病などが原因となることもあります。

遺伝子の病気

生まれつきの遺伝子の特徴が原因の場合もあります。

ネフローゼ症候群の原因

ネフローゼ症候群の原因は、一つではありません。 腎臓そのものに問題が起こる場合と、他の病気が原因の場合があります。 原因を正確に突き止めることが、適切な治療への大切な第一歩です。

多くの場合、体を守るはずの「免疫」の誤作動が関係しています。 免疫が、腎臓でフィルター役を担う「足細胞」という部分を攻撃します。 その結果、フィルターが壊れてしまい、タンパク質が漏れ出してしまうのです。

また、他の病気や薬が原因となって、二次的に発症することもあります。 この場合は、原因となっている病気の治療を行うことが非常に重要です。 思い当たる病気や普段飲んでいる薬があれば、必ず医師に伝えてください。

ごく稀ですが、新型コロナワクチン接種がきっかけになることも報告されています。 これは、ウイルスの通り道となる部分の働きが過剰になるためと考えられます。 もともとネフローゼ症候群の経験がある方では、再発の可能性も指摘されています。

ネフローゼ症候群の症状

ネフローゼ症候群になると、体は様々なSOSサインを出してくれます。 最もわかりやすく、多くの人が最初に気づく変化が「むくみ(浮腫)」です。 腎臓のフィルター機能が弱まり、大切なタンパク質が尿に漏れることで起こります。

血液中のタンパク質には、血管の中に水分を保つという大切な役割があります。 このタンパク質が減ると、水分が血管の外へじわじわと漏れ出してしまいます。 その結果、体のあちこちがむくんでしまうのです。

  • むくみやすい場所
  • 朝は顔、特に皮膚が薄い「まぶた」が腫れぼったくなります。
  • 日中は重力で水分が下がり、足のすねなどがむくみます。
  • 指で押すと、へこんだ跡がしばらく残るのが特徴です。
  • 体重が急に増える
  • 食事量は変わらないのに、体の中に水分がたまるためです。
  • 1週間で2〜3kg増えるなど、急激な変化が見られます。

体の水分バランスが崩れると、全身に不調があらわれます。 だるさや疲れやすさ、食欲不振などもその一つです。 お腹に水がたまると、お腹が張ったり下痢をしたりすることもあります。

腎臓の異常は、毎日出る尿にもはっきりとあらわれます。

  • 尿の泡立ち
  • 尿にタンパク質が多く混じるため、細かく泡立ちます。
  • ビールのように泡立ち、時間がたっても消えにくいのが特徴です。
  • 尿の量が減る
  • 水分が体の外に出にくくなるため、トイレの回数や量が減ります。

まれですが、遺伝子が原因の生まれつきのタイプ(先天性ネフローゼ症候群)では、腎臓だけでなく目の症状などがあらわれることも報告されています。 また、一度良くなった方でも、感染症やごく稀にワクチン接種をきっかけに再発するとの報告もあります。

【体からのSOSサインをチェック】 □ 朝起きると、まぶたが腫れぼったい □ 靴下の跡がくっきり残り、なかなか消えない □ 足のすねを指で押すと、へこんだままになる □ 食事量は同じなのに、急に体重が増えた □ トイレの尿が、石鹸のように細かく泡立つ □ なんとなく体がだるく、疲れやすい

これらのサインは、腎臓が助けを求めている証拠かもしれません。 一つでも当てはまる場合は、早めに医療機関へ相談してください。

ネフローゼ症候群の検査・診断

ネフローゼ症候群が疑われるとき、まず体の状態を正確に知る検査をします。 これらの検査は、診断を確定し、治療方針を決めるための大切な手がかりです。 主に「尿検査」と「血液検査」を行い、原因を詳しく調べることもあります。

尿検査

体からのSOSサインが出ている尿を調べる、最も基本となる検査です。 腎臓のフィルターがどれだけ壊れているか、詳しく確認します。

  • 尿たんぱくの量
  • 1日にどれくらいのタンパク質が漏れているかを測定します。
  • 1日に3.5g以上のタンパク質が尿に出ていることが診断基準の一つです。
  • 尿沈渣(にょうちんさ)
  • 尿を遠心分離機にかけ、底にたまった成分を顕微鏡で調べます。
  • 赤血球や細胞の塊など、腎臓の状態を知るヒントがないか確認します。

血液検査

血液中の成分を調べることで、体の内側で何が起きているかを探ります。 尿検査と合わせて、診断をより確実なものにします。

  • アルブミン値の低下
  • 血液中の大切なタンパク質「アルブミン」の量を調べます。
  • この値が3.0g/dL以下に減っていることも、重要な診断基準です。
  • その他の項目
  • コレステロールなどの脂質が増えていないかを確認します。
  • 免疫に関わるタンパク質(免疫グロブリン)も調べます。
  • この値が低いと、感染症にかかりやすくなるため注意が必要です。

腎生検(じんせいけん)

原因を特定し、最適な治療法を見つけるための精密検査です。 背中から腎臓に細い針を刺し、ごく少量の組織を採って顕微鏡で観察します。

この検査でネフローゼ症候群の種類がわかり、治療方針が決まります。 ごく稀ですが、ワクチン接種がきっかけで発症や再発の報告もあります。 そのような場合でも、腎臓の状態を正確に知るために腎生検は重要な検査です。

ネフローゼ症候群の治療

ネフローゼ症候群の治療目標は、大きく分けて2つです。 まず腎臓の炎症を抑え、尿にタンパク質が漏れ出るのを止めること。 そして、その良い状態をできるだけ長く維持することです。

治療は主に、原因に働きかける「薬物療法」が中心となります。 それと同時に、むくみなどのつらい症状を和らげる「対症療法」も行います。

薬物療法

治療の主役となるのは「副腎皮質ステロイド」というお薬です。 このお薬は、腎臓で起きている炎症という火事を鎮める消防士のような役割をします。 まずは十分な量で炎症をしっかり抑え込み、症状が落ち着いたら時間をかけてゆっくり減らしていきます。

しかし、ステロイドだけでは効果が不十分なこともあります。 再発を繰り返したり、薬を減らせなかったりする場合には、「免疫抑制薬」という応援部隊を併用します。

ある研究では、ステロイドが効きにくく再発を繰り返す大人の患者さんに「リツキシマブ」という免疫抑制薬を使ったところ、約9割の方で症状が落ち着いた(完全寛解した)と報告されています。 これは偶然の結果ではなく、お薬の効果である可能性が高いと考えられています。

  • 主な免疫抑制薬
  • シクロスポリン
  • タクロリムス
  • シクロホスファミド
  • リツキシマブ

どのお薬をどのタイミングで使うかは、患者さん一人ひとりの状態に合わせて慎重に判断します。

対症療法

薬で原因を治療すると同時に、今出ている症状を和らげることも大切です。

  • むくみに対して
  • 塩分を制限します(1日6g未満が目安)。
  • 塩分は体に水分を溜め込む性質があるため、食事の工夫が重要です。
  • 安静にし、おしっこを出しやすくするお薬(利尿薬)も使います。
  • 高血圧に対して
  • 塩分制限に加え、血圧を下げるお薬(降圧薬)で腎臓への負担を減らします。
  • 血液が固まりやすくなることに対して
  • 血液をサラサラにするお薬(抗凝固薬)を使い、血の塊(血栓)ができるのを防ぎます。

お子さんの治療で大切なこと

お子さんが治療を受ける場合、ご家族のサポートがとても重要になります。 ある研究では、家族が中心となって看護に参加することで、お子さんの生活の質(QoL)が改善し、入院期間も短くなったという結果が示されました。 生活の質(QoL)とは、その子らしく元気に過ごせているか、という指標のことです。 ご家族の不安も含め、医療チームが一緒に支えていきます。