ゴーシェ病

原因不明のお腹のふくらみや骨の痛み、疲れやすさに悩んでいませんか。もしかしたらそれは、日本では約33万人に1人という非常にまれな病気、「ゴーシェ病」のサインかもしれません。

ゴーシェ病は、生まれつき体の”リサイクル工場”の働きが弱く、不要な物質が細胞にたまってしまうことで起こります。かつては神経症状がないとされていたタイプでも、近年の研究で大人の患者さんの約13%に神経症状がみられることがわかってきました。

この記事では、ゴーシェ病の詳しい原因や症状、診断方法から最新の治療法までをわかりやすく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、正しい知識を得るための一歩としてお役立てください。

ゴーシェ病の概要

ゴーシェ病は、体の細胞の中で不要な物質を分解する機能が、生まれつきうまく働かない病気の一つです。

私たちの細胞には「ライソゾーム」という、いわば”リサイクル工場”のような場所があります。ここでは「グルコセレブロシド」という物質が、酵素の力で分解され、再利用されます。

しかしゴーシェ病では、この分解を担う「グルコセレブロシダーゼ」という酵素の働きが弱くなっています。そのため、分解されるはずのグルコセレブロシドが細胞内にどんどん蓄積してしまうのです。

この物質がたまった細胞は「ゴーシェ細胞」と呼ばれ、主に肝臓や脾臓(ひぞう)、骨髄(こつずい)にみられます。日本ではおよそ33万人に1人の割合で発症する、非常にまれな病気です。

ゴーシェ病は全身の病気ですが、お口の中に症状が現れることもあります。ある研究では、ゴーシェ病の子どもは歯ぐきに炎症が起きやすいことが示されました。

これは、病気の影響で唾液の分泌が減少し、唾液に含まれる炎症を引き起こす物質(サイトカイン)が増えるためと考えられています。そのため、お口の中の衛生状態が悪化しやすくなるのです。

ゴーシェ病の種類

ゴーシェ病は、症状の現れ方によって、大きく3つのタイプに分けられます。 特に、脳や神経の症状があるかどうか、また症状が進む速さで分類します。 それぞれのタイプで、発症しやすい年齢や体の状態が異なります。

  • I型(非神経型) ゴーシェ病の中で最も多くみられるタイプです。 基本的には神経の症状は伴わないとされています。 肝臓や脾臓(ひぞう)の腫れによるお腹のふくらみや、 貧血、骨の痛みなどが主な症状として現れます。
  • II型(急性神経型) 生まれてまもない赤ちゃんに発症する、最も重いタイプです。 体の動きが硬くなる、けいれんが起こるなど、 重い神経の症状が急激に進行するのが特徴です。
  • III型(亜急性神経型) 主に子どもの頃に発症するタイプです。 I型と似た症状に加えて、目の動きがおかしいなど、 神経の症状がゆっくりと時間をかけて現れます。

タイプ

発症時期の目安

主な症状

神経症状の有無と進行

I型

小児期~成人期

肝臓や脾臓の腫れ、骨の異常、貧血など

基本的にはないとされる

II型

乳児期

肝臓や脾臓の腫れなど

急激に進行する重い症状

III型

小児期

I型と似た症状

ゆっくりと進行する症状

しかし、これまでの「I型は神経症状がない」という考え方は変わりつつあります。 近年の研究により、I型の患者さんでも大人になってから神経の症状が出ることがあります。

ある系統的な研究では、大人のゴーシェ病患者さんの約13%に神経症状がみられました。 その中で最も多かったのは、パーキンソン病のような症状(パーキンソニズム)です。 これは、どのタイプでも神経の状態を注意深く見ていく必要があることを示しています。

また、ゴーシェ病の原因となる遺伝子の変化の種類によっても、症状が異なります。 特定の遺伝子変化は、より重く、早い段階での神経症状と関連することがわかっています。 このため、定期的な診察で全身の状態を詳しく確認することが非常に重要です。

ゴーシェ病の原因

ゴーシェ病は、体の設計図である「遺伝子」の変化が原因で起こる病気です。 具体的には「グルコセレブロシダーゼ」という酵素を作る遺伝子の変化が関係します。

体の中の「お掃除工場」のトラブル

私たちの細胞には「ライソゾーム」という、古くなった物質を分解するお掃除工場があります。

  1. 酵素の働きが弱くなる ゴーシェ病では遺伝子の変化により、グルコセレブロシダーゼという酵素が不足します。 この酵素は、お掃除工場で「グルコセレブロシド」という物質を分解する役割を担います。
  2. 不要な物質がたまる 酵素がうまく働かないため、分解されるはずのグルコセレブロシドがお掃除工場にたまります。 この状態が続くと、細胞の働きに影響が出てきます。
  3. ゴーシェ細胞の出現 グルコセレブロシドがたまった細胞は「ゴーシェ細胞」と呼ばれます。 この細胞が肝臓や脾臓(ひぞう)、骨髄(こつずい)に増えることで、さまざまな症状を引き起こすのです。

遺伝の仕組みについて

ゴーシェ病は「常染色体潜性(せんせい)遺伝」という形式で遺伝する病気です。 人は父親と母親から遺伝子を1つずつ受け継ぎ、2つで1セットになっています。

  • 原因遺伝子 両親から受け継いだ2つの遺伝子の、両方に変化がある場合にゴーシェ病を発症します。
  • 保因者(ほいんしゃ) 片方の遺伝子にのみ変化がある場合、症状は現れません。この状態の人を「保因者」と呼びます。
  • 発症する確率 ご両親がともに保イン者の場合、お子さんがゴーシェ病になる確率は25%(4分の1)です。

母親(保イン者)

母親(保イン者)

父親(保イン者)

ゴーシェ病になる

(25%)

保イン者になる

(25%)

父親(保イン者)

保イン者になる

(25%)

症状は出ない

(25%)

新しい治療法に向けた研究

近年、病気の原因に直接アプローチする研究が進んでいます。 その一つに「遺伝的基質還元療法」という考え方があります。

これは、たまってしまう物質(グルコセレブロシド)が作られる量を、遺伝子の段階で抑える治療法です。 遺伝子の働きを抑える技術や、薬を目的の細胞に届けるナノテクノロジーなどが応用されています。

この治療法はまだ研究段階ですが、将来の選択肢を広げるものとして期待されています。

ゴーシェ病の症状

ゴーシェ病の症状は、病気の原因となる「ゴーシェ細胞」が体のどこにたまるかによって、一人ひとり異なります。

主に「体の症状」と「神経の症状」に分けられます。 どのようなサインが現れるのか、具体的にみていきましょう。

体にあらわれる主な症状

体のさまざまな場所にゴーシェ細胞がたまることで、以下のような症状がみられます。

  • おなかのふくらみ 肝臓や脾臓(ひぞう)という臓器にゴーシェ細胞がたまり、大きくなることでおなかがぽっこりとふくらみます。
  • 血液の異常 血液を作る骨髄にゴーシェ細胞がたまると、貧血になりやすく、疲れやすさを感じることがあります。 また、血を固める成分(血小板)が減るため、鼻血が出やすくなったり、青あざができやすくなったりします。
  • 骨の異常 骨にゴーシェ細胞がたまると、骨がもろくなり、骨折しやすくなることがあります。 骨に強い痛みを感じたり、お子さんの場合は成長が遅れたりすることも報告されています。

大人になってから気づく神経の症状

以前は、神経の症状は特定のタイプに限られると考えられていました。 しかし、最近の研究で、大人になってから神経の症状が現れることがあるとわかってきました。

ある系統的な研究によると、大人のゴーシェ病患者さんの約13%に、何らかの神経症状がみられたと報告されています。

<大人になってからみられることがある神経の症状>

  • パーキンソニズム 最も多く報告されている症状です。手足がふるえたり、体の動きがゆっくりになったりします。
  • 目の動きの異常 眼球の動きに異常がみられることがあります。
  • その他の症状 手足のしびれ(末梢神経障害)や、けいれん、体のバランスがとりにくくなることもあります。

このように、ゴーシェ病の症状は非常に多岐にわたります。 気になる症状があれば自己判断せず、専門の医療機関に相談することが非常に重要です。

ゴーシェ病の検査・診断

お腹のふくらみや骨の痛みなど、気になる症状がある場合、ゴーシェ病の可能性を考えて検査を進めます。診断は、いくつかの検査を丁寧に行い、総合的に判断することが大切です。

診断の決め手となるのは、血液を調べる検査です。 主に次の2つの方法で、ゴーシェ病かどうかを確定します。

  • 酵素活性測定 血液の中にある白血球などを使い、酵素の働きを調べます。 ゴーシェ病の原因となる「グルコセレブロシダーゼ」という酵素が、 どのくらい元気に働いているかを確認するのです。 この酵素の働きが弱い場合、ゴーシェ病の可能性が高いと判断します。
  • 遺伝子検査(DNA分析) 体の設計図である遺伝子に、病気の原因となる変化がないかを調べます。 この検査で診断が確定し、病気のタイプを予測する上でも重要な情報が得られます。

これらの血液検査に加えて、体の状態をより詳しく知るために、症状に合わせた検査も行います。

検査の種類

何を調べるための検査か

画像検査

レントゲンや超音波(エコー)で骨や内臓の状態をみます。特にI型のゴーシェ病では、骨に異常が出やすいことが知られています。

神経学的検査

手足のふるえや目の動きなど、神経に関する症状を調べます。大人の患者さんの約13%に神経症状がみられたという報告もあります。

骨髄検査など

骨の中にある血液を作る工場(骨髄)を少しだけ取り、顕微鏡で調べます。「ゴーシェ細胞」という特徴的な細胞がいるかを確認します。

これらの検査結果をすべて合わせて、専門の医師がゴーシェ病の診断を最終的に確定させます。 気になる症状があれば、まずは専門の医療機関で相談することが、治療への大切な第一歩です。

ゴーシェ病の治療

ゴーシェ病の治療は、病気のタイプや症状に合わせて行います。 主な目的は、細胞にたまる不要な物質を減らすことです。 そして、貧血や骨の痛みなど、つらい症状を和らげます。

現在、中心となる治療法には主に次の2つがあります。

  • 酵素補充療法(ERT) 体の中で足りなくなった酵素を、点滴で定期的に補います。 工場の働き手が足りない時に、助っ人を送るような治療です。 肝臓や脾臓の腫れ、貧血などの症状の改善が期待できます。
  • 基質還元療法(SRT) たまってしまう物質が、体の中で作られること自体を抑えます。 こちらは飲み薬による治療法です。 そもそも工場で不要なものが作られないようにする考え方です。

ゴーシェ病、特にI型では骨がもろくなる症状が問題になりがちです。 ある研究では、酵素補充療法とビタミンD、特別な食事を組み合わせることで、 骨の健康を守れる可能性が示されました。 この「統合療法」で、骨の密度を保ち、新たな骨折などを防ぐ効果が期待されます。

さらに、未来の治療法として新しい研究も進んでいます。 その一つが「遺伝的基質還元療法(gSRT)」です。 これは、物質を作る体の設計図(遺伝子)に直接働きかけます。 そして、不要な物質が作られるのを根本から抑えることをめざします。 「ナノテクノロジー」という小さなカプセルで薬を届ける技術も応用され、 将来の治療の選択肢を広げるものとして期待されています。

これらの治療法は主にI型とIII型の患者さんに行われます。 残念ながら、進行が速いII型には確立された治療法がまだありません。 どの治療法がご自身に合うか、専門の医師とよく相談することが大切です。