ガラクトース血症

生まれてすぐの赤ちゃんに行われる「新生児マススクリーニング検査」。もし、この検査で「精密検査が必要です」と告げられたら、多くのご両親は大きな不安を抱くことでしょう。その原因の一つが、母乳などに含まれる糖をうまく分解できない、生まれつきの病気「ガラクトース血症」です。

この病気は、最も重いタイプで90万人に1人という頻度ですが、発見が遅れると赤ちゃんの成長に深刻な影響を及ぼす可能性があります。この記事では、ガラクトース血症の4つのタイプとその原因、そして食事療法を中心とした治療法について詳しく解説します。正しい知識が、お子さんの未来を守る第一歩です。

ガラクトース血症の概要

ガラクトース血症は、生まれつきの体質による病気です。 母乳や牛乳に含まれる「乳糖」を分解してできる、 「ガラクトース」という糖をうまく処理できません。

私たちの体には、食べ物を分解する「酵素」があります。 この酵素の働きが生まれつき弱いために起こるのです。 分解されなかったガラクトースは体の中に溜まります。 そして肝臓の不調や、感染症にかかりやすくなります。

この病気のポイントは以下の3つです。

  • 原因 体の中の「酵素」という働きものの力が弱いことが原因です。
  • 発見 日本では、生まれてすぐの赤ちゃんに行う検査で見つかります。 これを「新生児マススクリーニング検査」と呼びます。
  • 治療 原因となるガラクトースを食事から除くことが基本です。 乳糖を含まない特殊なミルクなどを使用します。

治療を続けていても、言葉の発達に影響が出ることがあります。 しかし、早い段階から専門家のサポートを受けることで、 その後の言葉の成長を助けられる可能性が示唆されています。

ある研究では、専門家による言葉の介入を早期に受けた子は、 受けなかった子に比べて、言語療法の必要性が低い結果でした。 早期発見と、適切な治療やサポートを続けることが大切です。

ガラクトース血症の種類

ガラクトース血症は、原因となる酵素の違いで分けられます。 どの酵素の働きが弱いかによって、症状や重さが異なります。 そのため、タイプを正しく知ることが治療の第一歩です。

主に4つのタイプに分けられ、原因となる酵素名で呼ばれます。

種類

原因となる酵素

主な特徴

見つかる頻度(およそ)

I型(古典型)

GALT

最も症状が重くなりやすいタイプです。哺乳力の低下や体重減少、肝臓の不調など、様々な症状が出ることがあります。

90万人に1人

II型

GALK

主な症状は、目のレンズがにごる白内障です。I型のような全身の重い症状は現れにくいとされています。

10万人に1人未満

III型

GALE

とてもまれなタイプです。日本では、症状が現れない「末梢型」という種類のみが確認されています。

非常にまれ

IV型

GALM

比較的あたらしく発見されたタイプです。白内障がみられることもありますが、症状が出ない場合もあります。

8万人に1人

このように、同じガラクトース血症という名前でも、 タイプによって注意すべき点や治療の方針は大きく違います。

生まれてすぐの検査で病気の可能性がわかった際には、 どのタイプなのかを正確に調べることがとても重要です。 赤ちゃんのその後の健康管理に直接つながるからです。

ガラクトース血症の原因

ガラクトース血症は、体の設計図である「遺伝子」に、 生まれつき変化があることで起こる病気です。

私たちの体は、食べ物をエネルギーに変えるために、 「酵素」という働きものを使っています。 この酵素を作るための遺伝子の情報が少し違うのです。

特に、重い症状が出やすい古典型ガラクトース血症は、 主にGALTという遺伝子の変化が原因で起こります。 この変化により、ガラクトースを分解する力が弱まります。

原因となる酵素は、主に以下の4種類が知られています。 どの酵素の働きが弱いかによって、病気のタイプが異なります。

  • GALT I型(古典型ガラクトース血症)の原因となる酵素です。
  • GALK II型の原因となる酵素です。
  • GALE III型の原因となる酵素です。
  • GALM IV型の原因となる酵素です。

この病気は、「常染色体潜性(劣性)遺伝」で伝わります。 これは、ご両親がともに原因遺伝子を1つずつ持つ場合に、 お子さんに病気が現れる可能性がある遺伝形式です。 ご両親が保因者の場合、お子さんが発症する確率は4分の1です。

酵素がうまく働かないと、分解されなかった物質が溜まります。 これが肝臓や脳、目に影響を与え、様々な症状を引き起こします。 また、将来の妊娠に関わる「早発卵巣不全」の原因になることも、 研究によって指摘されています。

現在の食事療法だけでは、認知機能や神経系の問題など、 長期的な合併症を完全に防げないこともわかってきました。 そのため、早期発見と継続的な専門家のサポートが重要です。

ガラクトース血症の症状

ガラクトース血症の症状は、原因となる酵素のタイプで違います。 特に症状がはっきりと出やすいのは、I型とII型です。 赤ちゃんの様子で気づけるサインを知っておくことが大切です。

I型の症状

最も重い症状が出やすいタイプです。 生まれてすぐの赤ちゃんに、次のような症状が出ることがあります。

  • ミルクの飲みが悪い 哺乳する力が弱く、いつもより飲む量が少ない状態です。
  • ミルクを吐いてしまう(嘔吐) 飲んだミルクを、噴水のように吐き戻してしまうことです。
  • 体重が増えない 栄養をうまく吸収できず、体重がなかなか増えません。
  • 元気がなくぐったりしている ぐずったり泣いたりする元気もなく、ぐったりしています。

治療が遅れると、肝臓の働きが悪くなることもあります。 すると、皮膚や白目が黄色くなる「黄疸(おうだん)」が出ます。 また、重い感染症(敗血症など)にもかかりやすくなります。

さらに、言葉の発達がゆっくりになるリスクも指摘されています。 ある研究では、専門家による言葉のサポートを早く受けた子は、 受けなかった子と比べて、言語療法の必要性が低い結果でした。 早期からの専門家によるサポートが大切になる場合があります。

II型・IV型の症状

II型やIV型の主な症状は、目のレンズが白く濁る「白内障」です。 白内障は、子どもの視力に大きな影響を与える可能性があります。 治療できる子どもの失明の、主な原因の一つとも言われています。

  • 目の黒い部分が白っぽく濁って見える
  • 視線が合いにくい

このようなサインに気づいたら、早めに専門医へ相談しましょう。 ガラクトース血症のような病気が、白内障の原因になるからです。

III型の症状

日本では、ほとんど症状が出ないタイプしか確認されていません。

このように症状は様々ですが、その多くは生まれてすぐの検査で、 発見のきっかけをつかむことができます。

ガラクトース血症の検査・診断

ガラクトース血症は、多くの場合、生まれてすぐに行われる 「新生児マススクリーニング検査」で発見のきっかけが見つかります。 赤ちゃんの症状が出る前に、病気を早く見つけるための検査です。 かかとから、ほんの少しの血液を採って調べます。

この検査で「さらに詳しい検査が必要です」となった場合は、 次のような精密検査に進み、病気の有無や種類を調べます。

  • ボイトラー法 最も症状が重いI型の原因酵素(GALT)が、 きちんと働いているかを調べる検査です。 検査で特殊な光が出ない場合、酵素の働きに異常があると判断します。
  • 酵素法 血液の中に、分解されなかった「ガラクトース」などが、 どれくらい溜まっているかを直接はかる検査です。

検査項目

基準値の目安

ガラクトース

3.0mg/dL 未満

ガラクトース-1-リン酸

12.0mg/dL 未満

*基準値は検査機関により多少異なります。

  • 遺伝子解析 どのタイプのガラクトース血症なのかを確定させるために、 原因となっている遺伝子を詳しく調べます。 この結果が、その後の治療方針を決める上で重要になります。

また、ガラクトース血症では目の「白内障」に注意が必要です。 白内障は、治療できる子どもの失明の主な原因の一つです。 将来の視力を守るため、早期の診断と治療がとても大切になります。 そのため、目の状態を調べる検査もあわせて行います。

これらの検査結果と、赤ちゃんの体の状態を総合的にみて、 医師が最終的にガラクトース血症かどうかを診断します。

ガラクトース血症の治療

ガラクトース血症の治療の基本は、食事から原因物質を除くことです。 母乳や牛乳に含まれる乳糖やガラクトースを控える「食事療法」です。 新生児マススクリーニング検査で病気の可能性がわかったら、 すぐに治療を始めることが、赤ちゃんの健康を守るために重要です。

治療の方法は、病気のタイプによって目標が異なります。

病気のタイプ

主な治療方針

I型

生涯にわたり、乳糖やガラクトースを厳しく制限します。体への影響を最小限にするため、特殊なミルクを使います。

II型

主な症状である白内障の予防や改善が目標です。食事から乳糖を取りのぞく治療を行います。

III型

日本で見つかっている「末梢型」という種類では、特別な治療は必要ないことが多いです。

IV型

赤ちゃんの時期を過ぎると、食事の制限をゆるめられることがあります。治療方針は、まだ研究が進められています。

この食事療法は、現在確立されている唯一の治療法です。 しかし、食事を厳しく管理しても、成長にともなう合併症を、 完全には防げないという課題もわかってきました。

そのため、世界中の研究者が新しい治療法の開発に取り組んでいます。 将来、より良い治療法が生まれることが期待されています。

  • 足りない酵素を補う治療 酵素補充療法など、体で足りない働きものを薬で補います。
  • 体に悪い物質を減らす治療 体にたまってしまう有害な物質が作られるのを防ぐ薬です。
  • 食事療法の負担を軽くする治療 遺伝子の設計図に働きかける薬などで、 生涯にわたる食事制限の必要性をなくすことを目指します。

このように、一人ひとりの状態に合わせた早期の治療が大切です。 そして、将来の新しい治療法にも期待が寄せられています。