イヌ回虫症

公園の砂場遊びのあと、ペットと触れ合ったあと、きちんと手を洗っていますか?もし、原因のわからない咳や目のかすみ、だるさといった不調が続いているなら、その原因はごく身近な環境に潜んでいるのかもしれません。

イヌ回虫症は、イヌやネコに寄生する回虫の卵が、知らず知らずのうちに人の口から入ることで起こる病気です。体内に入った幼虫は成虫になれず、行き場をなくして体をさまよい、肝臓や目などで炎症を引き起こすのです。

この記事では、意外と知られていないイヌ回虫症の詳しい症状や感染経路、治療法を解説します。ご自身の状況と照らし合わせ、不安の解消にお役立てください。

イヌ回虫症の概要

イヌ回虫症は、主にイヌやネコのお腹にすむ寄生虫、 「回虫」の卵が人の体に入ることで起こる病気です。

動物から人にうつるため「人獣共通感染症」のひとつで、 世界中で見られる、決して珍しくない病気なのです。

感染の主な原因は、回虫の卵を口から取り込むことです。 例えば、以下のような場面で感染する可能性があります。

  • 汚染された土や砂 回虫の卵がいる公園の砂場で遊んだ手で、 そのままお菓子を食べる
  • 加熱が不十分な食べ物 動物のレバーなどを、よく火を通さずに食べる

人の体は、回虫にとって本来のすみかではありません。 そのため、体内に入った幼虫は大人になることができず、 行き場をなくして体内をさまよい始めます。

幼虫は体のさまざまな場所へと動き回り、最終的に、 人の組織の中で死んでしまいます。 この時に体の防御反応が働き、炎症が起こることで、 咳や腹痛、目のかすみといった症状が現れるのです。

イヌ回虫症の種類

「イヌ回虫症」という名前から、イヌだけが原因と思われがちです。 しかし、実はネコにすむ回虫が原因で発症することもあります。

この病気を引き起こす寄生虫は、主に以下の2種類です。 どちらも「トキソカラ」というグループの仲間になります。 そのため、専門的にはまとめて「トキソカラ症」と呼ばれています。

  • イヌ回虫(トキソカラ・カニス) 主にイヌのお腹の中にすんでいる回虫です。 人に感染するトキソカラ症の多くが、この種類によるものです。
  • ネコ回虫(トキソカラ・カチ) 主にネコのお腹の中にすんでいる回虫です。 ネコのフンによって、公園の砂場などが汚染されることがあります。

人の体は、これらの回虫にとって本来のすみかではありません。 このような生物が最終的に成長し、子孫を残す場所を「終宿主」と呼びます。

人は終宿主ではないため、体内に入った幼虫は大人になれません。 行き場をなくした幼虫は、体のさまざまな場所へと移動します。 この状態は「異常な幼虫遊走」とも呼ばれ、最終的に人の組織の中で死んでしまうのです。

種類

主にすんでいる動物

特徴

イヌ回虫

イヌ

人への感染が報告されるものの多くがこのタイプです。

ネコ回虫

ネコ

公園の砂場などがフンで汚染される原因になります。

原因となる回虫は異なりますが、どちらに感染しても、 人の体の中で起こる基本的なメカニズムは同じです。

イヌ回虫症の原因

イヌ回虫症は、回虫の卵を知らずに口から取り込むことで起こります。 感染したイヌやネコのフンには、目に見えないほど小さな卵が含まれています。

この卵が土や砂を汚染し、私たちの生活の身近な場所に潜んでいます。 主な感染経路には、以下のようなものがあります。

  • 汚染された土や砂に触れる 公園の砂場などで遊んだ手で、お菓子を食べたり、 目をこすったりすることで、卵が体内に入ることがあります。
  • 加熱が不十分な食べ物 動物のレバーなどを生に近い状態で食べると、 そこに潜んでいた幼虫が体内に入ってしまう危険があります。
  • 動物とのふれあい 感染したイヌやネコの毛に卵が付いていることも考えられます。 動物と触れ合った後は、必ず手を洗いましょう。

また、お母さんイヌから子犬へもうつることが知られています。 これは、妊娠中に分泌される特別なホルモンが原因です。 このホルモンの影響で、母犬の体内で眠っていた幼虫が目を覚まします。 そして、お腹の中の赤ちゃんや母乳を通して子犬に感染するのです。

イヌ回虫症の症状

人の体は、イヌ回虫にとって本来のすみかではありません。 そのため、口から入った幼虫は大人になることができず、 行き場をなくして体内をさまよい始めます。

幼虫は血液の流れに乗り、体のさまざまな場所へと移動します。 例えば、肝臓や肺、目、脳、筋肉などにたどり着きます。 そして、最終的に人の組織の中で死んでしまいます。 この時に体の防御反応が働き、炎症が起こるのです。 この炎症が、咳や腹痛といった症状の正体です。

幼虫がどの場所にたどり着くかによって、現れる症状は異なります。

幼虫が移動する場所

考えられる症状の例

内臓(肝臓・肺など)

・熱が出る<br>・咳や息苦しさを感じる<br>・お腹が痛くなる<br>・食欲がなくなる、だるい<br>・じんましんが出る

目

・視力が下がる、目のかすみ<br>・目の前に黒い点が飛ぶ(飛蚊症)<br>・目の痛みを感じる

神経(脳など)

・けいれん発作が起きる<br>・頭痛が続く<br>・てんかんなどと間違われることもあります

筋肉

・体のあちこちが痛む(筋肉痛)

ただし、体の中に入った幼虫の数が少ない場合や、 その人の体の抵抗力が強い場合は症状が出ないことも多いです。 気になる症状があれば、自己判断せず医療機関に相談しましょう。

イヌ回虫症の検査・診断

イヌ回虫症の診断は、いくつかの検査を組み合わせて慎重に行います。 まず、お医者さんがあなたの生活について、詳しくお話を聞きます。

  • 動物とのふれあい 犬や猫を飼っているか、最近触れ合ったかなどを確認します。
  • 生活の様子 公園の砂場などで遊んだことがあるか、よく行く場所を伺います。
  • 食事の内容 鶏や牛のレバーなど、お肉を生で食べたことがあるかを聞きます。

これらの質問は、感染の可能性を探るための重要な手がかりになります。 次に、体の中で何が起きているかを確認するための検査を進めます。

検査の種類

調べること

血液検査

寄生虫などが体に侵入した際に増える<br>「好酸球」という白血球の数値を調べます。

画像検査

レントゲンやCT、超音波(エコー)を使って<br>幼虫が原因で肺や肝臓に炎症の影がないか確認します。

そして、診断を確定するためには、血液で「抗体」があるかを調べます。 人の体はイヌ回虫の本来のすみかではないため、幼虫は大人になれません。 そのため、便の中に卵が出てくることはほとんどなく、便検査では見つかりにくいのです。

そこで、血液を調べて、イヌ回虫と戦うために体が作った「抗体」という証拠を探します。 この抗体が見つかれば、イヌ回虫症であると確定的な診断ができます。

イヌ回虫症の治療

イヌ回虫症の治療は、症状や幼虫がいる場所で方法が変わります。 人の体は回虫が大人になれる環境ではないため、幼虫はやがて死にます。 そのため、症状がなければ特別な治療をせず様子を見ることも多いです。

しかし、咳や腹痛、目のかすみなどの症状がある場合は治療が必要です。 治療の目的は、幼虫の活動を止め、症状を和らげることです。 主に、お薬を使った治療が行われます。

治療の中心となるのは、次の2種類のお薬です。

  • 駆虫薬(くちゅうやく) 体の中をさまよっている幼虫を直接やっつけるお薬です。 「アルベンダゾール」というお薬がよく使われます。
  • ステロイド薬 幼虫によって引き起こされる体の過剰な反応(炎症)を抑える薬です。 特に、目の炎症は視力に影響するため、慎重な治療が必要です。

症状や幼虫がいる場所によって、これらの治療法を使い分けます。

症状の状態

主な治療法

治療の目的

内臓の症状が重い

・駆虫薬(アルベンダゾール)

体内の幼虫をやっつけ、症状を和らげるためです。

目に症状がある

・ステロイド薬<br>・レーザー治療

目の炎症を抑えて視力を守るためです。<br>レーザーで直接、幼虫を退治することもあります。

治療は一度で終わらないこともあり、お医者さんと相談しながら、 症状に合わせて治療を進めていくことが大切です。 気になる症状があれば、自己判断せずに医療機関へご相談ください。