A型肝炎
海外旅行の後や、外食が続いた後に感じる急な発熱やだるさ。単なる疲れやかぜだと思っていませんか?その症状、もしかしたらウイルスに汚染された飲食物が原因の「A型肝炎」かもしれません。
衛生的な日本では無関係と思われがちですが、数年ごとに流行し、2018年には年間900例以上も報告されています。国内でもカキや寿司などが原因となることもあり、決して他人事ではないのです。多くは自然に回復しますが、ごくまれに命を脅かす「劇症肝炎」に至るケースもあります。
この記事では、A型肝炎の意外な感染経路から見逃しやすい初期症状、そしてワクチンで確実に防げる予防法までを詳しく解説します。自分と大切な家族を守るために、正しい知識を身につけましょう。
A型肝炎の概要
A型肝炎とは、A型肝炎ウイルスが体内に入ることで起こる病気です。 ウイルスに汚染された食べ物や水を口から摂取することで感染します。 その後、ウイルスが肝臓にたどり着いて炎症を引き起こします。
世界中に見られる病気ですが、衛生環境で発生状況は大きく異なります。 特に上下水道が十分に整っていない地域では感染リスクが高いです。 日本では海外の流行地域へ旅行した際に感染する例が多く見られます。
A型肝炎の主な特徴を以下にまとめます。
- 原因 A型肝炎ウイルスが付いた食べ物や飲み物を口にすることです。
- 経過 多くの場合、自分の力で自然に治る「自己限定的」な経過をたどります。 しかし、まれに症状が重くなる「劇症肝炎」に進むことがあります。
- 治療 特別な治療薬はなく、安静にして体の回復を待つことが基本です。
- 予防 ワクチン接種が非常に有効で、病気の発生を大幅に減らしています。
日本では年間の報告数が100例を下回る年もあります。 しかし、数年ごとに流行し、2018年には900例以上が報告されました。 ご高齢の方や他の肝臓病を持つ方は重症化しやすいため特に注意が必要です。 幸い、A型肝炎はワクチンでしっかり予防することが可能です。
A型肝炎の種類
A型肝炎は「A型肝炎ウイルス」という一つのウイルスが原因です。 しかし、症状の現れ方によっていくつかの状態に分けられます。
ウイルスの遺伝子には少しずつ違いがあり7つの型に分類されます。 ですが、病気の目印となる「血清型」というタイプは1種類です。 そのため、どの型のウイルスでも症状やワクチンの効果は変わりません。
患者さんにとっては、症状の出方による分類の方が重要です。 主に3つのタイプに分けられます。
- 不顕性感染(ふけんせいかんせん) ウイルスに感染しても、はっきりした症状がほとんど出ない状態です。 特に小さなお子さんの場合は、気づかないうちに治ることが多いです。
- 急性肝炎(きゅうせいかんえん) 熱やだるさ、黄疸(おうだん)などのはっきりした症状が出る状態です。 大人が感染すると、この急性肝炎になることが一般的です。 多くは安静にすることで自然に回復へ向かいます。
- 劇症肝炎(げきしょうかんえん) ごくまれですが、肝臓の機能が急激に低下する非常に危険な状態です。 命に関わることもあり、高齢の方や他の肝臓病を持つ方は注意が必要です。 まれに、体の防御システムが自分の肝臓を攻撃する自己免疫性肝炎を引き起こすこともあります。
A型肝炎の原因
A型肝炎は、「A型肝炎ウイルス」が体に入ることで起こります。 このウイルスは感染した人の便の中に多く含まれています。 ウイルスが何らかの形で口から入ることで感染が広がります。
主な感染経路には、次のようなものがあります。
- ウイルスに汚染された食べ物や飲み物 ウイルスが含まれた生水や、その水で作られた氷を口にすることです。 海外では冷凍のベリー類が原因で集団感染が起きた例もあります。 日本では、カキなどの二枚貝や寿司などが原因と推定されています。
- ウイルスが付いた手指からの感染 感染した人がトイレの後に手を十分に洗わないとウイルスが残ります。 その手でドアノブなどを触り、別の人がそれに触れることで感染します。 ウイルスが付いた手で口や鼻を触ることでも感染の危険があります。
口から入ったウイルスは、お腹を通って血液に入り肝臓へ向かいます。 実は、ウイルス自体が直接肝臓を壊すわけではありません。 増えたウイルスに対し、体の防御システム(免疫)が攻撃を始めます。 この免疫が、ウイルスがいる肝臓の細胞まで攻撃してしまうのです。 その結果、肝臓に炎症が起きて「肝炎」という状態になります。
A型肝炎ウイルスは、酸や乾燥に強く、しぶとい性質を持っています。 しかし熱には弱く、85℃で1分以上しっかり加熱すれば感染力を失います。 まれに、性的な接触が感染の原因になることも報告されています。
A型肝炎の症状
A型肝炎ウイルスが体に入っても、すぐに症状が出るわけではありません。 ウイルスが体に入ってから症状が出るまでの期間は平均で4週間ほどです。 しかし、個人差が大きく、2週間から7週間と幅があります。
初期の症状は、かぜやインフルエンザとよく似ています。 そのため、A型肝炎だと気づきにくいことも少なくありません。
<初期にあらわれやすい症状>
- 急な発熱 38℃を超える高熱や、強い寒気をともなうことがあります。
- 体の痛み 頭痛や、全身の筋肉が痛くなることがあります。
- だるさ 強いだるさ(全身倦怠感)を感じます。
その後、肝臓の炎症が本格的になると、次のような症状が現れます。 これらは肝臓の機能が低下しているサインです。
<肝炎にともなう主な症状>
- お腹の症状 食欲がなくなる、吐き気、嘔吐、お腹の右上の痛みなどです。
- 黄疸(おうだん) 白目や皮膚が黄色っぽく見える状態です。
- 尿や便の変化 尿の色が濃い茶色になったり、便の色が白っぽくなったりします。
症状の現れ方は、年齢によって大きく異なるのがA型肝炎の特徴です。 5歳以下のお子さんでは、多くの場合症状が出ないか、出ても軽症です。 一方、大人が感染すると70%以上で黄疸が出るなど、症状が強く出ます。
ほとんどの場合は安静にすることで自然に回復へ向かいます。 しかし、まれに「劇症肝炎」という非常に危険な状態になることがあります。 特に50歳以上の方や、他の肝臓病を持つ方は重症化しやすいため注意が必要です。 A型肝炎は慢性化しませんが、症状が数ヶ月続くこともあります。
A型肝炎の検査・診断
熱やだるさ、そして皮膚や白目が黄色くなる黄疸が出たら要注意です。 A型肝炎の可能性を考え、早めに医療機関で検査を受けましょう。 海外だけでなく、国内での食事が原因になることも珍しくありません。
A型肝炎の診断は、主に次の3つのステップで進められます。
- お医者さんとのお話(問診) いつからどんな症状があるか、最近食べたものなどを詳しくお伺いします。 海外旅行の経験や、周りに同じような症状の人がいないかも重要です。
- 体のチェック(診察) お腹を触って、肝臓が腫れていないかなどを丁寧に確認します。 A型肝炎では、半数以上の人で肝臓の腫れが見られます。
- 血液検査 診断を確定するために、最も大切な検査です。 血液から、肝臓の状態とウイルスの証拠を調べます。
- 肝機能検査 肝臓の細胞が壊れると、ASTやALTという酵素が血液中に漏れ出します。 これらの酵素は「肝臓の悲鳴」のようなもので、数値が高いほどダメージが大きいことを示します。 A型肝炎では、この数値が1,000IU/Lを超えることもあります。
- 抗体検査 A型肝炎ウイルスに感染した直後に作られる「IgM-HA抗体」を調べます。 これは「ウイルスと今まさに戦っている証拠」となる特別なタンパク質です。 この抗体が陽性(プラス)であれば、A型肝炎と確定診断されます。
A型肝炎は自然に治ることが多いですが、まれに重症化することもあります。 劇症肝炎や、自分の免疫が肝臓を攻撃する自己免疫性肝炎に進む危険性もゼロではありません。 そのため、血液検査による正確な診断がとても大切です。
ただし、感染してすぐの時期は、約5〜10%の方で抗体が検出されないことがあります。 症状が続くのに検査で異常がない場合は、1〜2週間後に再検査を行うことが勧められます。
A型肝炎の治療
A型肝炎ウイルスを直接やっつけるための特効薬はありません。 そのため治療は、体が持つ回復力でウイルスが自然にいなくなるのを助けることが中心になります。
治療の基本は「安静」と、つらい症状を和らげる「対症療法」です。 この2つが、肝臓の回復を後押しする大切な柱となります。
基本となる治療法
- 安静にする 肝臓の働きが戻るまで、体をゆっくり休めることが一番の治療です。 肝臓に十分な血液を送り、回復する力を高めることが目的です。
- 対症療法 熱や吐き気、だるさなどの症状を和らげるお薬を使います。 食事がとれず脱水が心配なときは、点滴で水分や栄養を補給します。
- 食事 食欲がないことも多いですが、消化がよく栄養のある食事が大切です。 おかゆやうどんなど、肝臓に負担をかけないものを選びましょう。
肝臓の状態を示す血液検査の数値が著しく悪い場合は入院が必要です。 また、症状が重く食事が全くとれないときも入院治療の対象となります。
重症化した場合の治療
ごくまれに、肝臓の機能が急激に低下する「劇症肝炎」という重い状態になることがあります。 その場合は、血液中の有害な物質を取り除く血漿交換(けっしょうこうかん)や、血液透析(けつえきとうせき)といった専門的な治療を行います。
最近の研究では、重症のA型肝炎にステロイド薬が有効な場合があるとの報告もあります。 しかし、まだ一般的な治療として確立されているわけではありません。 あくまでも治療の基本は、体が回復するのを助ける対症療法となります。










