若年発症型両側性感音難聴

「最近、会話の中で聞き返すことが増えた」「テレビの音量が大きいと家族に指摘された」。そんな経験はありませんか?単なる疲れや年のせいだと見過ごしがちなその変化は、実は40歳より前に発症する「若年発症型両側性感音難聴」という病気のサインかもしれません。

この病気は遺伝子の変化を原因とし、両耳の聞こえが少しずつ悪化していくのが特徴です。進行が非常に緩やかなため自分では気づきにくく、全国で約720人いると推計されていますが、診断に至っていない方も少なくないと考えられます。

この記事では、気づきにくい症状のサインや、腎臓の異常といった他の病気との意外な関連性、そして補聴器や人工内耳による最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の聞こえと向き合うための、最初のステップにしてください。

若年発症型両側性感音難聴の概要

若年発症型両側性感音難聴とは、主に40歳より前に発症し、両方の耳の聞こえが少しずつ悪くなっていく病気です。音を感じ取る部分に、何らかの問題が起きることで発症します。

この病気には、次のような特徴があります。

  • 聞こえの悪化がゆっくり進む 急に聞こえなくなるのではなく、徐々に進行するため、ご自身では変化に気づきにくいことがあります。
  • 聞こえにくさの程度は様々 少し聞こえにくい軽度のものから、日常生活に支障が出る重度のものまで個人差が大きいです。
  • 耳鳴りやめまいが起こることもある 難聴が進行するにつれて、キーンという耳鳴りや、ふらつくようなめまいを伴う場合があります。

日本の難聴患者さんのうち、約1%がこの病気によるものとされています。全国には約720人いると推計されており、決してまれな病気ではありません。

多くは聞こえの問題だけですが、中には他の症状を伴う特殊なタイプもあります。例えば「分枝鰓腎症候群(ぶんしさいじんしょうこうぐん)」という病気です。この場合、聞こえにくさに加え、生まれつき耳の周りに小さな穴(耳介前陥凹)があったり、腎臓の働きに異常が見られたりします。

このように、難聴以外の症状にも注意が必要な場合があります。言葉の発達や普段の生活に大きく関わるため、聞こえの変化を感じたら、早めに専門の医療機関へ相談することが大切です。

若年発症型両側性感音難聴の種類

若年発症型両側性感音難聴は、大きく2つのタイプに分けられます。聞こえにくさだけが症状として現れるタイプと、他の症状も一緒に現れるタイプです。原因となる遺伝子の違いによって、どちらのタイプになるかが変わります。

1. 聞こえの症状だけが現れるタイプ(非症候群性)

このタイプでは、聞こえにくくなる音の高さに特徴が見られます。どの高さの音が聞こえにくいかは、原因の遺伝子によって異なります。

原因遺伝子(一例)

聞こえにくくなりやすい音の高さ

ACTG1遺伝子

キーンというような高い音

TECTA遺伝子、WFS1遺伝子

人の声のような真ん中くらいの音や、低い音

CDH23遺伝子

すべての高さの音

COCH遺伝子

ふわふわするようなめまいを伴うことがある

2. 他の症状も一緒に現れるタイプ(症候群性)

難聴に加えて、体の他の部分にも症状が現れるタイプです。代表的なものに「分枝鰓腎(ぶんしさいじん)症候群(BORSD)」があります。

この症候群には、主に3つの特徴があります。

  • 鰓(えら)の異常 首のあたりに、生まれつき小さなくぼみや穴(瘻孔)が見られることがあります。
  • 耳の異常 耳の前に小さなくぼみがあったり、耳の形が少し違ったりします。難聴の種類も、感音難聴だけでなく、音が伝わりにくい伝音難聴や、その両方が混ざった混合難聴の場合もあります。
  • 腎臓の異常 腎臓の働きが弱かったり、形が通常と異なったりします。

このような症候群の場合、耳鼻咽喉科の医師だけでなく、腎臓の専門家など、様々な分野の医師がチームとなって協力し、治療を進めていくことがとても重要です。正確な診断のためにも、聞こえの問題以外に気になる症状があれば、必ず医師に伝えるようにしましょう。

若年発症型両側性感音難聴の原因

この病気の主な原因は、音の聞こえに関わる遺伝子の変化です。私たちの体を作る設計図である遺伝子の一部に変化があることで、音を感じ取る部分がうまく働かなくなり、聞こえにくさが生じます。

原因となる遺伝子の種類によって、症状の現れ方が異なります。大きく分けて2つのタイプに分けられます。

1. 他の症状も一緒に現れるタイプ(症候群性)

難聴に加えて、体の他の部分にも症状が現れるタイプです。

症候群の例

原因遺伝子(例)

主な特徴

分枝鰓腎(ぶんしさいじん)症候群

EYA1、SIX1

・聞こえの問題

・耳の周りや首に小さなくぼみや穴

・腎臓の形の異常や働きの低下

Pendred(ペンドレッド)症候群

SLC26A4

・聞こえの問題

・甲状腺が腫れる(特に20代以降)

・めまいやふらつきを伴う

分枝鰓腎症候群では、腎臓の働きが少しずつ悪化し、将来的に透析などが必要になる可能性もあるため、耳鼻咽喉科と腎臓内科の連携がとても大切です。

2. 聞こえの症状だけが現れるタイプ

このタイプでは、遺伝子の変化が聞こえに関する部分だけに影響します。遺伝の仕方にも、いくつかのパターンがあります。

  • 常染色体優性遺伝 ご両親のどちらかが難聴の場合、お子さんに50%の確率で遺伝する可能性があります。
  • 常染色体劣性遺伝 ご両親は難聴でなくても、それぞれが難聴の遺伝子を一つずつ持っている場合、お子さんが難聴をもって生まれることがあります。

例えばOTOFという遺伝子の変化は、この劣性遺伝のタイプです。この場合、音を感じる細胞から脳へ信号を送る「バトンタッチ」がうまくいかなくなります。そのため、新生児聴覚スクリーニング検査を通過してしまうこともあるので注意が必要です。

このように、原因となる遺伝子は多岐にわたります。詳しい診断のために遺伝子検査が行われることもあり、正確な原因を知ることが、将来の適切な対策につながります。

若年発症型両側性感音難聴の症状

主な症状は、両方の耳の聞こえが少しずつ悪くなっていくことです。進行がゆっくりなため、ご自身では気づきにくく、家族や友人から指摘されて初めて自覚する方も少なくありません。

難聴の程度や進行速度は人それぞれですが、原因によっては特徴的な症状が現れることがあります。

聞こえに関する特徴的な症状

音の聞こえ方にも、以下のような特徴が見られる場合があります。

  • 言葉の聞き分けが難しい 音は聞こえているのに、話の内容がはっきりと聞き取れないことがあります。これは、音を感じる細胞から脳へ信号を送る部分に問題があるタイプ(聴覚シナプトパシー)で見られます。
  • 聞こえ方が日によって変わる 体調によって、聞こえ方が良くなったり悪くなったりと変動することがあります。
  • 体温が上がると聞こえにくくなる 熱が出たときなど、体温が0.5℃ほど上がるだけで、一時的に聞こえが急に悪くなるタイプもあります。解熱すれば数時間で元に戻ることがほとんどです。

聞こえ以外の体のサイン

難聴に加えて、体の他の部分にサインが現れることもあります。

  • めまいやふらつき 難聴が進行するにつれて、耳鳴りやめまいを伴うことがあります。聞こえにくさよりも先に、歩き方がぎこちなくなるなど、体のバランスに関わる症状で気づかれる場合もあります。
  • 耳の周りの特徴 生まれつき耳の形が変わっていたり、耳の前に小さなくぼみや穴(耳瘻孔)が見られたりすることがあります。
  • 腎臓の異常 聞こえの問題とあわせて、腎臓の働きに異常が見つかる場合があります。定期的な検査が重要になることもあります。

生まれた直後の新生児聴覚スクリーニングでは問題なしとされても、3歳ごろまでに聞こえにくさがはっきりしてくるケースもあります。お子さんの言葉の発達や音への反応で気になることがあれば、早めに専門の医療機関へご相談ください。

若年発症型両側性感音難聴の検査・診断

「聞こえにくいかも」と感じたら、耳鼻咽喉科で聴力を調べることが第一歩です。この病気の診断は、いくつかの検査を組み合わせて総合的に判断されます。

基本となる検査

まずは、ご自身の状態を詳しく知るための基本的な検査から始めます。

  • 問診 いつから聞こえにくいか、めまいなどの症状はあるか、ご家族に同じような方がいるかなどを丁寧にお伺いします。
  • 標準純音聴力検査 静かな部屋でヘッドホンを着け、「ピー」という音が聞こえたらボタンを押す検査です。どの高さの音が、どのくらい聞こえにくいかを客観的に評価します。病気がゆっくり進むため、定期的に検査を受けて変化を追うことが大切です。

必要に応じて行う詳しい検査

症状や状況に合わせて、さらに詳しい検査を追加することがあります。

  • 画像検査(CT検査など) 音を感じ取る耳の内部の構造に、形としての異常がないかを確認します。
  • 遺伝子検査 原因となっている遺伝子を特定するために行われることがあります。
  • 平衡機能検査(体のバランスを調べる検査) めまいを伴う場合、体のバランスを保つ機能に問題がないか調べます。特に「頸部前庭誘発筋電位(けいぶぜんていゆうはつきんでんい:cVEMP)検査」は重要です。これは、音の刺激に対する首の筋肉の反応を見る検査です。
    実は、生まれつき聞こえに問題があるお子さんは、体のバランス機能にも異常が隠れているリスクが高いことがわかっています。このcVEMP検査は、そうした異常を早期に見つけるのに役立つ、信頼性の高い検査です。

これらの検査結果を総合し、けがや薬の副作用といった他の原因を除外して、最終的に診断を確定します。

若年発症型両側性感音難聴の治療

現在の医療では、失われた聴力を完全に取り戻す根本的な治療法はまだ確立されていません。そのため治療の目的は、今ある聞こえの力を最大限に活かし、日常生活やコミュニケーションの質を高めることです。

治療の基本は、聴力の程度に応じた聞こえのサポートです。

治療法

対象となる方(目安)

特徴

補聴器

軽度〜重度の難聴の方

音を大きくして聞こえを補助する医療機器です。聴力の状態に合わせて細かく調整します。

人工内耳

重度の難聴で、補聴器の効果が不十分な方

聞こえの神経を電気で直接刺激し、音の情報を脳に伝える医療機器です。手術が必要です。

原因となる遺伝子の種類によっては、人工内耳が特に有効な場合があります。例えばOTOF遺伝子が原因の場合、音の信号を脳へ伝える部分に問題があるため、音を大きくする補聴器の効果は限定的です。一方、人工内耳は問題の部分を飛び越えて直接神経を刺激するため、聞こえの改善が期待できます。

これらの機器によるサポートと並行して、言葉の発達やコミュニケーション能力を育むための聴覚リハビリテーションも非常に重要です。特に、お子さんの言語発達のためには、できるだけ早い段階から専門家による介入プログラムに参加することが勧められます。

また、腎臓や甲状腺などに症状が現れるタイプでは、耳鼻咽喉科医だけでなく、腎臓内科医や内分泌科医など、複数の専門家が連携して治療にあたります。

日常生活では、聴力を守るために以下の点に注意しましょう。

  • 大きな音が出る環境を避ける
  • ヘッドホンなどの音量に気をつける
  • 頭を強くぶつけるスポーツは避けるよう勧められることがある
  • 発熱で聴力が悪化するタイプもあるため、体調管理に気をつける

ご自身の状態に合わせた最適な治療法については、主治医とよく相談しましょう。