膀胱尿管逆流現象

お子さんが熱を伴う尿路感染症を繰り返し、心配に感じていませんか。熱を伴う尿路感染症のお子さんのうち30〜50%には、尿が腎臓へ逆戻りする「膀胱尿管逆流現象」が隠れているといわれています。放置すると腎機能に影響する可能性があり、不安を抱えているかもしれません。

この記事では、膀胱尿管逆流現象がなぜ起こるのか、その原因から症状、検査方法までを詳しく解説します。抗菌薬による予防内服や手術といった、具体的な治療の選択肢についても理解を深められます。

本記事を読むことで、病気への正しい知識と治療の流れを把握できます。お子さんの腎臓を長期的に守るため、ご家族が納得して治療法を選択する上での一助となります。

膀胱尿管逆流現象の概要

膀胱尿管逆流現象とは、一度膀胱にたまった尿が、尿管をさかのぼり腎臓へと逆戻りしてしまう状態を指します。

通常、尿管は膀胱の壁を斜めに貫いているため、膀胱に尿がたまると内圧で尿管の出口が自然に閉じる仕組みになっています。この「逆流防止弁」の機能が、生まれつき未熟な場合に膀胱尿管逆流現象が起こります。そのため、特にお子さんによく見られる病気です。

逆流を放置すると、膀胱内の細菌が尿とともに腎臓まで運ばれ、熱を伴う尿路感染症(腎盂腎炎)を繰り返しやすくなります。

腎臓はダメージを受けると再生しない臓器であり、感染を繰り返すことで腎臓の表面に傷跡(腎瘢痕)が残ります。このダメージが積み重なると、将来的に腎臓の機能が低下する「逆流性腎症」となり、高血圧や末期腎障害につながる可能性があります。

このため、治療の目的は尿路感染症を防ぎ、腎臓を守ることに置かれます。

選択肢の一つとして、抗菌薬を毎日少量飲み続ける予防内服がありますが、これにはメリットとデメリットの両面があります。

ある複数の研究をまとめた報告によると、抗菌薬の予防内服は尿路感染症の再発リスクを下げることが示されています※。

しかしその一方で、いざ尿路感染症にかかった際に薬が効きにくい「薬剤耐性菌」が原因である確率が、予防内服をしていない場合と比べて約7倍に高まることもわかっています※。

また、腎臓へのダメージ(腎瘢痕)を直接防ぐ効果については、はっきりとした結論が出ていません※。

このように、腎臓への長期的な影響を避けるためには、早期発見と一人ひとりの状態に合わせた慎重な治療管理が欠かせません。

膀胱尿管逆流現象の種類

膀胱尿管逆流現象は、その原因から「原発性」と「継発(けいはつ)性」の2つに大別されます。

どちらのタイプかによって治療のアプローチが全く異なるため、原因を正確に見極めることが、お子さんの腎臓を守るための第一歩となります。

1. 原発性膀胱尿管逆流

原発性膀胱尿管逆流は、生まれつき尿管と膀胱のつなぎ目にある「逆流防止弁」の機能が未熟なために起こるタイプです。膀胱尿管逆流現象のほとんどがこのタイプで、特に小さなお子さんに見られます。

お子さんの成長に伴って尿管が長くなったり、膀胱の筋肉が発達したりすることで、逆流防止の仕組みが自然と完成し、逆流が消失するケースが多くあります。

このタイプには、以下のような特徴が知られています。

・多くは成長とともに自然に改善が期待できる

・遺伝的な関与が指摘されており、兄弟姉妹で27%、親子間では35%の確率で逆流が見つかるとの報告もある

・逆流の程度(グレード)が低いほど、自然に治りやすい傾向がある

2. 継発性膀胱尿管逆流

継発性膀胱尿管逆流は、他の病気や手術などが引き金となり、後天的に発生するタイプです。尿の通り道が狭くなったり、排尿機能に問題が生じたりして膀胱の内圧が異常に高まることで、本来備わっている逆流防止の仕組みが機能しなくなります。

原因となる病気や状態の例を下表に整理します。

原因となる病気や状態 | なぜ逆流が起こるのか(メカニズムの例)

下部尿路の閉塞 (後部尿道弁など) | ・尿の出口が塞がれ、膀胱の内圧が慢性的に高くなるため

神経因性膀胱 (排尿を司る神経の障害) | ・排尿時に膀胱が過剰に収縮し、異常な高圧になるため ・排尿と括約筋の弛緩がうまく連携できないため

その他 ・膀胱憩室(ぼうこうけいしつ) ・過去の膀胱手術の影響 など | ・膀胱の壁にできた“こぶ”(憩室)が尿管の出口を圧迫するため ・手術によって尿管と膀胱のつなぎ目の構造が変化するため

このタイプでは、逆流を引き起こしている根本的な原因を取り除かなければ改善が見込めません。そのため、まずは原因となっている病気の治療が最優先されます。

膀胱尿管逆流現象の原因

膀胱尿管逆流現象の原因は、尿の逆流を防ぐ仕組みが生まれつき十分に発達していない「原発性」のものが大半を占めます。

私たちの体には、尿が膀胱から腎臓へ逆戻りしないよう、尿管と膀胱のつなぎ目に精巧な「逆流防止弁」の仕組みが備わっています。これは、尿管が膀胱の壁のなかを斜めに走ることで、膀胱に尿がたまるとその圧力で自然に尿管の出口がフタのように閉じる構造になっているためです。

膀胱尿管逆流現象の多くは、この仕組みが生まれつき十分に発達していないことが原因で起こります。

この生まれつきの構造には遺伝的な要因が関わるとみられており、ご家族に逆流を持つ方がいる場合は、お子さんにも見つかる確率が高くなることがわかっています。

具体的な確率は以下のとおり報告されています。

・兄弟姉妹間での発症率:約27%

・親子間での発症率:約35%

ただし、どの遺伝子が関係しているかといった具体的なことまでは、まだ解明されていません。

また、少数ではありますが、生まれつきの問題ではなく、他の病気や手術などがきっかけで逆流が起こるケース(継発性)も存在します。

例えば、尿路結石の内視鏡手術の際に尿管へ留置するステント(管)が、意図せず逆流を引き起こし、体の痛みや排尿時の不快感につながることがあると報告されています。※

膀胱尿管逆流現象の症状

膀胱尿管逆流現象そのものに、気づきやすい特有の症状はほとんどありません。多くの場合、膀胱内の細菌が尿とともに腎臓へと逆流し、「尿路感染症」を引き起こすことで初めて病気の存在が明らかになります。

実際に、熱を伴う尿路感染症と診断されたお子さんのうち、実に30〜50%にこの病気が隠れているといわれています。

なぜか熱を繰り返す、おしっこをするときに痛がるなど、お子さんのサインを見逃さないことが早期発見につながります。

症状の現れ方は年齢によって大きく異なり、特に自分の言葉で不調を伝えられない乳幼児の場合は、保護者の方の注意深い観察が欠かせません。

年齢ごとの主な症状のサインを下表に整理します。

年齢 | 主な症状のサイン

乳幼児 | ・風邪でもないのに38.5℃以上の熱が出る ・わけもなく機嫌が悪く、ぐずる ・ミルクの飲みが悪い、食欲がない ・嘔吐や下痢を繰り返す ・なんとなく元気がない、顔色が悪い ・体重がなかなか増えない

年長児 | ・トイレが近い(頻尿) ・おしっこをするときに痛がる(排尿時痛) ・急におもらしをするようになる(尿失禁) ・背中や脇腹のあたり(腎臓がある場所)を痛がる

また、症状が出る前に発見されるケースもあります。

近年は産科の超音波(エコー)検査の精度が向上しており、お腹のなかの赤ちゃんの腎臓に腫れ(水腎症)が見つかることがあります。これがきっかけとなり、出生後の詳しい検査で膀胱尿管逆流現象が診断されることも増えています。

膀胱尿管逆流現象の検査・診断

膀胱尿管逆流現象が疑われる場合、尿の逆流を直接映像でとらえる検査を軸に、腎臓の状態を調べる検査を組み合わせて診断を確定します。

診断の要となるのが、排尿時膀胱尿道造影(VCUG)です。

この検査では、おしっこの出口から細くやわらかい管(カテーテル)を膀胱までそっと入れ、そこから造影剤を注入します。そして、お子さんがおしっこをする様子をレントゲンで撮影し、尿が尿管や腎臓へ逆戻りしていないかをリアルタイムで確認します。

お子さんへの負担が気になるかもしれませんが、逆流の有無と、その程度(グレード)を正確に評価するためには欠かせない検査です。

VCUGで確認された逆流の程度は、国際的な基準にもとづいて以下の5段階に分類されます。

グレード | 状態の目安

Grade Ⅰ | 尿管の下の方だけに逆流がみられる

Grade Ⅱ | 腎臓まで逆流するが、尿管や腎臓の広がり(拡張)はない

Grade Ⅲ | 尿管や腎臓に軽度~中等度の広がりがみられる

Grade Ⅳ | 尿管や腎臓に中等度の広がりと、尿管の蛇行がみられる

Grade Ⅴ | 尿管や腎臓に高度の広がりと、尿管の著しい蛇行がみられる

このグレードは治療方針を決める上で重要な指標となり、一般的にグレードが高いほど自然に治る可能性が低くなります。

また、腎臓への影響を多角的に評価するため、以下のような検査も行います。

・腹部超音波(エコー)検査

体に負担の少ない検査で、腎臓の形や大きさ、尿の通り道が腫れていないか(水腎症の有無)などを確認します。

・DMSA腎シンチグラム

腎臓の細胞に集まる特殊な薬を注射し、腎臓がどれくらい機能しているか、また過去の感染によってできた傷跡(腎瘢痕)がないかを詳細に調べる検査です。腎臓のダメージの程度を正確に把握するために行われます。

これらの検査結果を総合的に分析し、診断を確定します。

逆流の程度(グレード)、腎臓のダメージ(腎瘢痕)の有無、お子さんの年齢などを考慮して、一人ひとりに最適な治療方針を慎重に決めていきます。

例えば、抗菌薬を毎日飲む予防内服は尿路感染症の再発リスクを減らす効果が期待できる一方で、腎臓の傷跡(腎瘢痕)を防ぐ効果ははっきりしていません※。

だからこそ、これらの検査で得られた客観的な情報をもとに、お子さんの腎臓を長期的に守るための最適な道筋を見極めることが何よりも大切なのです。

膀胱尿管逆流現象の治療

膀胱尿管逆流現象の治療方針は、お子さんの腎臓を将来にわたって守ることを最大の目標とし、大きく分けて「保存的治療」と「手術的治療」の2つの選択肢から検討します。

治療の柱は、腎臓にダメージを与える熱を伴う尿路感染症(腎盂腎炎)を防ぐことです。

特に逆流の程度が軽いグレードⅠ〜Ⅱの場合、成長とともに約8割が3年以内に自然に治ることが期待できるため、多くはまず「保存的治療」から開始します。

これは、抗菌薬を毎日少量飲み続けることで、尿路感染症の発症を予防する方法です。

ただし、この予防内服にはメリットとデメリットの両面があります。

複数の研究をまとめた報告によると、抗菌薬の予防内服は尿路感染症の再発リスクを確かに下げることが示されています※。

一方で、いざ尿路感染症にかかった際に薬が効きにくい「薬剤耐性菌」が原因である確率が、予防内服をしていない場合と比べて約7倍に高まることもわかっています※。

また、治療の大きな目的である腎臓の傷(腎瘢痕)を直接防ぐ効果については、はっきりとした結論が出ていません※。

そのため、保存的治療を行っても尿路感染症を繰り返す場合や、逆流の程度が重い場合には、逆流を根本的に止める「手術的治療」を検討します。

手術を検討する具体的なケースは以下のとおりです。

・抗菌薬の予防内服を続けても、熱を伴う尿路感染症を繰り返す

・逆流の程度が重い(特にグレードⅢ以上)

・DMSA腎シンチグラムなどの検査で、すでに腎臓の機能低下や傷(腎瘢痕)が確認されている

・成長しても逆流が自然に治らない

主な手術には、体への負担が少ない「内視鏡下注入術」と、根治性が高い「尿管膀胱新吻合術」の2種類があります。それぞれの特徴を下表に整理します。

治療法 | どのような手術か | メリット | デメリット・注意点

内視鏡下注入術 | 膀胱の内側から尿管の出口に薬(デフラックスなど)を注入し、壁を盛り上げることで逆流を防ぐ | ・体への負担が非常に少ない ・日帰りや短期入院で治療できる | ・長期的な成功率は尿管膀胱新吻合術に劣る場合がある ・複数回の注入が必要になることがある

尿管膀胱新吻合術 | 尿管を一度膀胱から切り離し、逆流防止の仕組みが働くように正しい位置につなぎ直す | ・成功率が約98%と非常に高く、根本的な解決が期待できる | ・開腹または腹腔鏡で行うため、内視鏡治療より体への負担が大きい

このように、治療法の選択は、逆流の程度、お子さんの年齢、尿路感染症の頻度、腎臓のダメージ具合、そしてご家族の考え方などを総合的に考慮して、一人ひとりに最適なプランを組み立てる必要があります。

どの治療法にも利点と欠点があるため、担当の医師と十分に話し合い、納得のいく形で治療を進めていくことが何よりも大切です。