脳血管性認知症
物忘れや判断力の低下、もしかしたら「脳血管性認知症」が関係しているかもしれません。この認知症は、脳の血管にトラブルが起きることで発症し、症状が段階的に進行したり、日によって変動しやすいのが特徴です。
特に注目すべきは、脳血管性認知症の患者さんのうち約6%(約16人に1人)が「てんかん」を併発しているという事実です。さらに、てんかんを持つ方は認知症を発症するリスクが約2.83倍も高まることが研究で示されています。高血圧や糖尿病といった生活習慣病が脳の血管を傷つけ、認知症とてんかんが互いに影響し合っている可能性があるのです。
ご自身の脳の健康を守るため、少しでも気になる症状があれば、早期に医療機関へ相談することが重要です。この記事では、脳血管性認知症の全貌と、適切な対応について詳しく解説します。
脳血管性認知症の概要
脳血管性認知症は、脳の血管にトラブルが起きることで発症する認知症の一つです。脳の血管が詰まったり(脳梗塞)、破れて出血したり(脳出血)することで、脳の細胞が傷ついてしまいます。すると、私たちの考える力や記憶する力が弱くなってしまう病気です。
この病気は、症状が段階的に進行したり、日によって調子が良い時と悪い時があったりと変動しやすいことが特徴です。アルツハイマー型認知症とは異なる点の一つです。ご自身の脳の血管を健康に保つことが、認知機能を維持するためにとても大切だということを、私たちは常に意識したいですね。
実は、この脳血管性認知症の方の中には、てんかんと呼ばれる脳の病気を一緒に持つ方が少なくありません。てんかんとは、脳の電気信号が一時的に乱れることで、突然意識を失ったり、体がけいれんしたりする発作を起こす病気のことです。
さまざまな種類の認知症を抱える方のうち、約4%に発作やてんかんが見られることが分かっています。特に血管性認知症の方では、その割合が約6%と、他の認知症に比べて少し高くなる傾向があります。これは、認知症の患者さん全体では約25人に1人、脳血管性認知症の患者さんでは約16人に1人の割合でてんかんが見られるということになります。
さらに重要なことは、てんかんの症状がある方は、そうでない方に比べて認知症を発症するリスクがおよそ2.83倍も高まるという研究結果が示されています。てんかんと認知症は、お互いに影響し合って発症リスクを高める可能性があるのです。
日頃の健康管理が、脳血管性認知症の予防にはとても大切です。高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、脳の血管を傷つける大きな原因となります。少しでも認知機能の低下が気になる場合は、ご自身の脳を守るためにも、早めに医療機関へ相談し、適切な診断と対応を考えることが重要です。
脳血管性認知症の種類
脳血管性認知症には、脳の血管に起こるトラブルの仕方で、大きく2つのタイプがあります。
一つは、脳の血管が詰まってしまう「脳梗塞(のうこうそく)」。
もう一つは、血管が破れて出血する「脳出血(のうしゅっけつ)」と呼ばれるものです。
どちらのトラブルも、私たちの脳にとって大切な働きを邪魔してしまうことがあります。
まず「脳梗塞」は、脳の中を通る細い血管がふさがってしまう状態です。
これは、道路の脇にある大切な水路が詰まってしまい、その先の畑まで水が届かなくなるようなイメージです。
脳の細胞に酸素や栄養が行き届かなくなり、その部分の脳細胞が元気でなくなってしまいます。
この状態が長く続くと、脳の考える力や覚える力に障害が起こり、認知症につながることがあります。
次に「脳出血」は、脳の血管が破れてしまい、脳の中で血があふれてしまう状態です。
あふれ出た血は、周りの大切な脳の細胞を押しつぶしたり、傷つけたりしてしまいます。
こちらも脳の一部がダメージを受けることで、考える力や覚える力に影響が出てくることがあるのです。
このどちらかのトラブルが原因で、脳血管性認知症を発症する可能性は十分にあります。
さらに、脳血管性認知症と「てんかん」という病気には、深い関係があることがわかっています。
ある研究によると、脳血管性認知症の患者さんのうち、およそ6人に1人(約6%)がてんかんの発作を経験しているというデータがあります。
これは、脳の血管が傷ついたことが、脳の電気信号に影響を与え、てんかんの発作を起こしやすくするためだと考えられています。
私たち医師の立場からも、てんかんと認知症は「お互いに影響し合う」関係だということを強くお伝えしたいです。
てんかんを持つ人は、そうでない人と比べて認知症になるリスクが約2.83倍も高まることがわかっています。
つまり、てんかんの経験がある方は、将来的に認知症になりやすい傾向があるということです。
逆に、認知症の患者さんは、てんかんの発作を起こすリスクが約2.29倍高くなるという報告もあります。
このように、どちらかの病気があると、もう一方の病気にもかかりやすくなるという密接な関係があるのです。
だからこそ、ご自身の脳の健康を守るために、少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関へ相談し、適切な診断と対応を考えることがとても重要になります。
脳血管性認知症の原因
脳血管性認知症の直接的な原因は、脳の血管にトラブルが起きることです。
脳の血管が詰まってしまったり、破れて出血したりすることで、脳の細胞が傷ついてしまいます。
しかし、なぜ脳の血管にトラブルが起きるのでしょうか。
実は、そのトラブルを招きやすい「もと」となる病気や生活習慣があるのです。
特に、以下の5つの要因は、脳の血管を傷つけ、脳血管性認知症になるリスクを高くします。
これらは、血管をボロボロにしてしまう「悪者」だと考えてください。
・高血圧
・常に血管に強い圧力がかかり続ける状態です。
・例えるなら、細いホースに勢いよく水を流し続けると、ホースが傷みやすくなるのと同じです。
・血管の壁が厚く硬くなり、血液が流れにくくなります。
・糖尿病
・血液の中の糖分が多い状態が続く病気です。
・糖分が血管を傷つけ、もろくしてしまいます。
・血管がサビてしまうようなイメージです。
・脂質異常症(高コレステロール血症)
・血液中の「悪い脂質」が多い状態です。
・この脂質が血管の内側にベタベタとこびりつき、血管を狭く硬くします。
・道路にゴミがたまって道幅が狭くなるようなものです。
・喫煙
・タバコを吸うことで、血管がキュッと縮んでしまいます。
・血管が傷つきやすくなり、高血圧や糖尿病のリスクも高めます。
・肥満
・体重が増えすぎると、上記のような病気になりやすくなります。
・肥満そのものが、血管に負担をかける大きな原因です。
これらの「悪者」たちは、脳の血管にダメージを与え、最終的に脳の細胞が十分に働けなくなる原因となるのです。
さらに私たち医師の立場からも、脳血管性認知症の原因として注目すべき点があります。
それは「てんかん」という脳の病気との深い関係性です。
脳の血管が傷つくと、脳の電気信号に乱れが生じやすくなり、てんかんを発症するリスクも高まります。
ある研究によると、血管性認知症の方のうち、約6%の割合でてんかんがみられることが分かっています。
これは、血管性認知症の患者さん16人に1人がてんかんを経験している計算になります。
もっと重要なことは、てんかんを抱えている方は、そうでない方に比べて認知症になるリスクが約2.83倍も高まるということです。
これは、脳の血管の健康が、てんかんと認知症の両方の発症に深く関わっていることを示しています。
てんかんと認知症は、お互いに影響し合って発症リスクを高める「悪循環」にある可能性があるのです。
だからこそ、ご自身の血管の健康を守ることが、将来の脳の健康、ひいては認知症の予防にはとても大切です。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病をしっかり管理することが、脳血管性認知症だけでなく、てんかんの発症リスクを減らすことにもつながります。
今からでも遅くありません。ぜひ、日々の健康管理を見直してみてください。
脳血管性認知症の症状
脳血管性認知症の症状は、脳の血管がダメージを受けた場所によって、一人ひとり異なります。脳に血液を送る大切な血管が詰まったり、破れて出血したりすると、その部分の脳の細胞が傷ついてしまいます。その結果、傷ついた脳の機能がうまく働かなくなり、さまざまな症状が現れるのです。
具体的には、以下のような症状が見られることが多いです。
・物忘れ
・最近あった出来事を忘れてしまうことがあります。
・たとえば、さっき話した内容や、何をしようとしていたかを思い出せなくなるなどです。
・判断力の低下
・いつもなら簡単に決められたことが、難しく感じられることがあります。
・お金の計算がうまくいかない、買い物の選択に時間がかかるといった変化です。
・時間や場所がわからなくなる
・今が何月何日なのか、自分が今どこにいるのかが分からなくなる「見当識障害」が見られます。
・住み慣れた場所でも迷ってしまうことがあります。
特に、脳血管性認知症では、手足が麻痺したり、言葉をうまく話せなくなったりする「言語障害」など、脳梗塞や脳出血の後遺症と似た症状が同時に現れることがあります。これらは、脳の血管のトラブルが直接身体に影響を与えているサインです。また、歩き方が不安定になったり、トイレを我慢できずに失敗してしまう「排尿のコントロールがしにくい」といった症状が見られることもあります。
さらに、感情のコントロールが難しくなる方もいらっしゃいます。
急に怒りっぽくなったり、悲しくなったり、逆に笑い出したりと、感情の起伏が激しくなることがあります。これは、脳の感情を司る部分がダメージを受けているために起こる症状です。
私たち医師の立場からも、脳血管性認知症の患者さんにおいて、特に注意深く観察している症状の一つに「てんかん発作」があります。さまざまな種類の認知症を抱える患者さんのうち、てんかん発作の症状がある方は全体で約4%です。しかし、脳血管性認知症の患者さんでは、この割合が約6%と少し高くなることが分かっています。つまり、脳血管性認知症の患者さんのおよそ16人に1人がてんかんを経験している計算です。
てんかんと認知症は、お互いに影響し合う関係にあると考えられています。
脳血管性認知症をお持ちの方がてんかんを発症すると、認知症の症状が悪化したり、進行が早まったりする可能性もあります。
症状は段階的に現れることが多いため、日頃からご家族や周囲の方が、普段と違う言動や行動の変化に気づいたら、ためらわずに早めに医療機関へ相談することが大切です。
脳血管性認知症の検査・診断
脳血管性認知症を早く見つけて、適切な治療に進むことは非常に大切です。私たち医師は、この病気を正確に診断するため、そしてアルツハイマー型認知症など他の認知症と区別するために、いくつかの検査を行います。
主な検査や診断の流れは次のとおりです。
・詳しいお話(問診)と診察
・患者さんが困っていることや、いつから症状が出ているか、
これまでの病気、普段の生活の様子などを詳しく伺います。
・ご本人だけでなく、ご家族からのお話も大切な手がかりです。
・血圧や脈拍など、体の状態も確認します。
・認知機能の検査
・記憶力、判断力、計算する力など、脳の働きを調べる検査です。
・紙とペンを使った簡単な質問に答えてもらうことが多いです。
・認知症の疑いがあるか、どのくらい機能が低下しているかを確認します。
・脳の画像検査(MRIやCT)
・脳の中の様子を写真のように詳しく見る検査です。
・脳梗塞や脳出血の跡がないか、血管が詰まっていないかなどを探します。
・これらの情報が、診断の重要な手がかりとなります。
・血液検査
・糖尿病や高血圧、脂質異常症など、血管を悪くする原因がないかを調べます。
・他の病気が認知症のような症状を引き起こしている可能性も確認します。
私たち医師は、これらの検査結果を総合的に見て診断を下します。実は、認知症の診断は、専門家にとっても時に複雑なものです。たとえば、ある研究からは、認知機能が低下している場合でも、それが特定の病気によるものなのか、あるいは加齢による変化なのかを、診断に使うツールだけで明確に区別しきれていない場合もあることが示されています。
そのため、私たち医師は、検査結果だけでなく、患者さんの全体的な状態や生活の様子を注意深く見て、慎重に診断を進めることを非常に重要視しています。少しでも認知機能の低下が気になる場合は、早めに医療機関へ相談し、ご自身に合った対応を見つけることが大切です。
脳血管性認知症の治療
脳血管性認知症の治療は、病気の進行をこれ以上進ませないこと、そして今ある困った症状をできるだけ和らげることを一番の目標としています。私たち医師が特に大切にしているのは、原因となっている脳の血管の病気をしっかりと管理することです。
1. 脳の血管を守る治療
脳血管性認知症は、脳の血管にトラブルが起きることが原因です。そのため、血管を傷つける原因となる高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の治療が非常に重要になります。
・血圧のコントロール
・血管にかかる強い圧力を下げることで、血管のダメージを防ぎます。
・お薬を飲んだり、塩分を控えたりして血圧を良い状態に保ちます。
・血糖値のコントロール
・血液中の糖分が多いと血管が傷つきやすくなります。
・お薬や食事、運動で血糖値を正常に近づけることが大切です。
・コレステロールの管理
・血管の中に「悪い脂」がたまらないようにします。
・お薬や食事の見直しで、血管の詰まりを防ぎます。
これらの治療をしっかり続けることで、新たな脳梗塞や脳出血が起きるのを防ぎ、脳のダメージがさらに広がるのを食い止めることができます。
2. 困っている症状への治療
すでに現れている認知機能の低下や、精神的な症状、手足の麻痺といった体の症状に対しても、それぞれに合った治療を行います。
・お薬による治療
・記憶力や判断力の低下を少しでも良くするお薬を使うことがあります。
・不安な気持ちややる気のなさといった症状を和らげるお薬もあります。
・リハビリテーション
・体の動きが悪くなった方には、体操や歩行練習で体の機能を回復させます。
・言葉をうまく話せない方には、言葉の練習を行います。
・日常生活での困りごとを減らし、自分らしく過ごせるようにサポートします。
3. てんかんへの対応も重要です
私たち医師は、脳血管性認知症の方の治療において、もう一つ特に注意を払っていることがあります。それは、「てんかん」という脳の病気が一緒に起きることが少なくない、という点です。
ある研究によると、認知症の患者さん全体では約4%の方に、てんかんの発作が見られます。しかし、脳血管性認知症の患者さんでは、この割合が約6%と少し高くなることが分かっています。これは、おおよそ16人に1人の割合でてんかんを経験している、ということになります。
さらに重要なことに、てんかんを抱えている方は、そうでない方に比べて認知症になるリスクが約2.83倍も高まることが示されています。てんかんの発作が起きると、脳に負担がかかり、認知症の症状が悪化したり、進行が早まったりする可能性があります。
もし、けいれんや意識がぼんやりするといった「てんかんかな?」と思う症状が見られた場合は、ためらわずにすぐに医療機関へ相談してください。てんかんを適切に治療することも、脳血管性認知症全体のケアにとって非常に大切なのです。
ご本人だけでなく、ご家族も一緒に病気と向き合い、医療機関と力を合わせることで、より良い生活を送るための道筋が見えてきます。













