外傷性視神経症

転んだり事故にあったりして、頭を強くぶつけた経験はありませんか。その一瞬の衝撃が、目から脳へ映像を送る大切な「視神経」を傷つけ、あなたの視力を奪ってしまうかもしれない恐ろしい病気が「外傷性視神経症」です。

特に眉毛の外側を強くぶつけた際に起こりやすく、軽い怪我だと思っても、水面下では深刻な事態が進行している可能性があります。ある研究では、頭に強い衝撃を受けた方の半数以上に視野の異常が見つかったとの報告もあり、決して他人事ではありません。

この病気の最も恐ろしい点は、ステロイド治療や手術など、いまだ確立された治療法がないという現実です。この記事では、あなたの視力を守るために知っておくべき原因や症状、そして現在の治療法について詳しく解説します。もしもの時に備え、正しい知識を身につけましょう。

外傷性視神経症の概要

転んだり事故にあったりして、頭を強くぶつけることがあります。 その衝撃が、目から脳へ映像を送る大切な神経を傷つけます。 これが「外傷性視神経症」という、視力に関わる重大な病気です。

特に、眉毛の外側のあたりを強くぶつけた際に起こりやすいです。 ぶつかった場所から離れた視神経が、間接的なダメージを受けます。 その結果、急に目が見えにくくなったり、視野が狭くなります。

この病気は、頭に強い衝撃が加わる外傷性脳損傷(TBI)でも見られます。 ある研究では、TBIの患者さんの最大8%で報告されています。 さらに詳しく調べると、半数以上で視野の異常が見つかることもあります。

この病気のポイントは以下のとおりです。

  • どんな病気? 頭をぶつけた衝撃で、目と脳をつなぐ「視神経」が傷つく病気です。
  • 原因となりやすい状況 交通事故や転倒などで、特に眉毛の外側を強くぶつけたときです。
  • 主な症状 ぶつけた直後から、急に視力が落ちたり視野が狭くなったりします。

現在、ステロイドというお薬を大量に点滴する方法があります。 また、神経の圧迫を取り除くための手術が行われることもあります。 しかし、これらの治療で視力が回復するという証拠は乏しいです。 むしろお薬の大量投与は、体に良くない影響をおよぼす可能性も報告されています。 そのため、確立された治療法がないのが現状です。

外傷性視神経症の種類

外傷性視神経症は、けがの仕方によって2つの種類に分けられます。 どのように視神経が傷ついたかで、分類が異なります。 それぞれのタイプを知っておくことが大切です。

  • 直接型(直接損傷) 事故などで尖ったものが目に刺さり、視神経を直接傷つけるタイプです。 例えば、ガラスの破片などが目の奥まで届いてしまうような状況です。 このタイプでは、視神経が直接切れたり、強く押しつぶされたりします。
  • 間接型(間接損傷) おでこや眉のあたりを強くぶつけて起こるタイプです。 目に直接何かが刺さったわけではありません。 しかし、ぶつかった強い衝撃が頭の骨を伝わっていきます。 その結果、奥深くにある視神経が押しつぶされて傷つくのです。 外傷性視神経症のほとんどが、この間接型にあたります。

また、似た状態に「眼窩(がんか)症候群」という病気があります。 これは目の奥での出血が、視神経を圧迫する状態です。 視力低下の原因になりますが、別の病気として区別されます。 視力を守るため、緊急の処置が必要になる場合があります。

種類

主な原因

神経がどうなるか

直接型

尖ったものが目に刺さる

視神経が直接、切れたり押しつぶされたりする

間接型

おでこや眉のあたりを強くぶつける

ぶつかった衝撃が骨を伝わり、視神経を傷つける

外傷性視神経症の原因

外傷性視神経症は、頭や顔への強い衝撃が主な原因です。 交通事故や転倒、スポーツ中の事故などで起こることがあります。 また、殴られるなどの暴行によっても発症する可能性があります。

近年では、ピクルボールというスポーツが原因の報告もあります。 競技中にボールや道具が顔に当たり、発症するケースです。 このように、特別な事故だけでなく身近な場面でも注意が必要です。

強い衝撃が加わると、視神経がなぜ傷つくのでしょうか。 視神経は「視神経管」という、とても細い骨のトンネルを通っています。 このトンネルの中で、次のような問題が起きてしまうのです。

  • 骨折による圧迫 視神経管が骨折し、骨のかけらが神経を圧迫します。
  • 出血による圧迫 神経の周りで出血し、血のかたまりが神経を圧迫します。
  • 神経の直接的な傷 衝撃そのもので、視神経が押しつぶされて傷つきます。
  • むくみによる圧迫 神経がむくむ(腫れる)ことで、トンネルの中で圧迫されます。

この病気は、顔の骨が折れる「顔面骨折」などと同時に起こります。 特に事故や暴行といった、鈍い外力が加わる場合に多いです。 そのため、顔に強い衝撃を受けた際は、目の見え方も確認しましょう。

外傷性視神経症の症状

頭や顔を強くぶつけた後に、目の見え方に変化はありませんか? 顔のけがが軽く見えても、視力に重大な影響が出ることがあります。 特に、眉毛の外側あたりを打った直後からの変化は要注意です。

けがの強さによって、症状のあらわれ方はさまざまです。 少しでも当てはまることがあれば、すぐに専門医に相談しましょう。

  • 急な視力の低下 「なんとなく暗く見える」という軽いものから始まります。 「光をまったく感じられない」という重い症状まであります。 左右の目で見え方を比べると、違いに気づきやすいです。
  • 見える範囲(視野)の異常 見ている世界の一部が欠けてしまうことがあります。 ・中心暗点 見たいものの真ん中だけ、黒い影がかかったように見えます。 ・求心性視野狭窄 トンネルの中から外を見るように、周りから視野が狭くなります。 ・水平半盲 視野の上半分か下半分が、カーテンで隠されたように見えません。
  • その他のサイン 色の見え方がおかしくなったり、感覚が鈍くなることもあります。 ・色覚の異常 片方の目だけ、色が褪せて見えることがあります。 ・顔の感覚のまひ 目の周りの皮膚の感覚が、鈍くなることも報告されています。 これは、顔の神経が傷ついたサインかもしれません。

これらの症状は、けがをした直後から出ることがほとんどです。 もし意識がはっきりしない場合は、本人は症状を訴えられません。

ある研究では、頭に強い衝撃を受けた方の半数以上に視野の異常が見つかったと報告されています。 はっきりした症状がなくても、検査をすると異常が見つかるのです。 そのため、顔や頭を強くぶつけたら、必ず専門医の診察を受けてください。

外傷性視神経症の検査・診断

顔や頭を強くぶつけた後、もし見え方がおかしいと感じたら。 外傷性視神経症の可能性を考え、すぐに検査を受けることが大切です。 ここでは、どのような検査で診断するのかを詳しく解説します。

まず、医師は顔の状態を丁寧に診察します。 特に眉毛の外側あたりに、ぶつけた跡がないかを確認します。 次に、ペンライトの光を使い、左右の瞳の反応を比べます。 これは「対光反射」という、視神経の状態を知るための検査です。

視神経に異常があると、光を当てた瞳の動きが正常と異なります。 意識がはっきりしない方でも、この検査で状態を評価できます。 そのため、救急の現場では非常に重要な手がかりとなります。

眼科では、さらに専門的な検査で詳しく調べていきます。

  • 視力・視野検査 けがをした後、どのくらい視力が落ちたかを確認します。 また、見える範囲(視野)が欠けたり狭くなったりしていないか調べます。
  • 眼底検査 目の奥にある視神経の状態を、直接カメラで観察します。 視神経が出血したり、むくんだりしていないかを確認します。 けがから数週間経つと、視神経の色が白っぽく変化することもあります。

これらの検査に加えて、CT検査による画像診断が欠かせません。 3D画像で、視神経が通る骨のトンネル(視神経管)を見ます。 骨折や血のかたまりで、神経が圧迫されていないかを調べます。 顔面の骨折を正確に評価するために、CT検査はとても重要です。

外傷性視神経症の診断は、これらの結果を総合的に判断します。 眼科だけでなく、脳神経外科や耳鼻咽喉科と連携することも多いです。 複数の専門医が協力し、最適な治療方針を決めていきます。

外傷性視神経症の治療

頭を強くぶつけた後の視力低下は、とても心配な状況です。 傷ついた視神経を守るため、すぐに治療を始める必要があります。 治療の目的は、これ以上悪くならないようにすることです。

治療には、主に薬を使う方法と手術による方法があります。 しかし、どの治療が一番良いか、世界中でまだ結論は出ていません。 そのため、治療法は慎重に選ばれる必要があります。

薬による治療(薬物療法)

以前は、神経の腫れを抑えるステロイドという薬が使われました。 この薬を点滴で大量に使う方法が、広く行われてきました。 しかし、最近の研究で、その効果には疑問が持たれています。

ある大規模な研究では、視力の回復に役立つ証拠は見つかりませんでした。 それどころか、体に深刻な影響を与え、死亡率を高める可能性も報告されています。 そのため、現在はこの治療を積極的に行わない傾向にあります。

手術による治療(手術療法)

もう一つの方法は、手術で神経の圧迫を取り除くことです。 視神経は「視神経管」という細い骨のトンネルを通っています。 骨折などでこのトンネルが狭くなった場合に行われる手術です。

内視鏡を使い、神経を圧迫する骨のかけらを取り除きます。 これを「視神経管開放術」と呼びます。 しかし、この手術も必ず視力が回復するという証拠は乏しいのが現状です。

治療法

内容

注意点

薬物療法

神経の腫れを抑えるステロイド薬などを使います。

効果が証明されておらず、重い副作用のリスクも指摘されています。

手術療法

骨のかけらを取り除き、神経の圧迫をなくします。

手術をしても、視力が回復するとは限りません。

このように、確立された治療法がないのがこの病気の難しい点です。 だからこそ、専門家チームによる判断がとても重要になります。 眼科や脳神経外科、耳鼻咽喉科の医師が協力します。 CT画像などを詳しく分析し、最適な治療方針を決めていくのです。

けがの後、すぐに専門の医療機関を受診することが、視力を守る第一歩です。