レーベル遺伝性視神経症
急な視力低下に見舞われ、その原因がわからず不安を感じていませんか?レーベル遺伝性視神経症(LHON)は、遺伝子の変異により視神経が障害され、進行性の視力喪失を招く希少な病気です。
本記事では、LHONの病態や原因、具体的な症状や検査・診断方法を解説します。また、2024年7月時点の研究で平均0.32LogMARの視力改善が示されたイデベノン治療など、現在の治療法についても詳しくご紹介します。
ご自身の状況と照らし合わせながら読み進めることで、病気への理解が深まり、適切な治療やサポートを受けるための具体的な一歩を踏み出すきっかけになるはずです。
レーベル遺伝性視神経症の概要
レーベル遺伝性視神経症(LHON)は、急激な視力低下を招く遺伝性の希少疾患です。この病気は、目から脳へと視覚情報を伝える重要な役割を担う視神経が障害され、視機能が少しずつ失われていく進行性の疾患です。多くの場合、症状は片方の眼に現れ、数週間から数カ月で反対側の眼にも同様の症状が出ることが特徴です。
LHONが発症するメカニズムは、細胞のエネルギー生産を担うミトコンドリアの遺伝子に変異が生じることです。これにより、ミトコンドリア病の一つとして分類されます。この遺伝子変異によって、光を脳に伝える網膜の神経節細胞が正常に機能しなくなり、視神経が傷つき、視力喪失につながります。
LHONのおもな症状は、次のとおりです。
・中心視野障害: 見ているものの中心部分がぼやけたり、暗く見えたりします。
・色覚異常: 色の識別が難しくなったり、特定の色が分かりにくくなったりします。
・視力低下: 一度低下した視力は、自然に回復することはまれで、多くの場合、回復が難しいとされています。
現在のところ、LHONに対する確立された治療法は限られています。しかし、近年、イデベノンという薬剤が、患者さんの視力改善に役立つ可能性が研究で示されています。
イデベノンは、細胞内でエネルギーを生み出すコエンザイムQ10(ユビキノン)の合成アナログであり、視神経を保護する作用が期待されています。
2024年7月7日時点の系統的レビューとメタ分析では、PubMed、Cochrane、Embaseの3つの主要データベースから抽出された5つの研究(375人の患者データを含む)が評価されました。この分析結果から、イデベノンを投与した患者さんの視力は、投与しない患者さんと比較して、LogMAR(ログマー:視力を測る国際的な尺度の一つで、数字が小さいほど視力が良いことを示します)で平均0.32改善したことがわかりました。これは、一般的な視力表で約1.5行から5行分の視力改善に相当します※。
この報告は、LHON治療の新たな選択肢として大きな期待を集めています。
LHONは進行性の疾患であるため、早期に正確な診断を受け、病気の特性を深く理解することが重要です。適切な医療的サポートを受けることで、患者さん自身やご家族が病気と向き合い、より良い生活を送るための大きな助けとなるでしょう。
レーベル遺伝性視神経症の種類
レーベル遺伝性視神経症は、私たちの体にある細胞一つひとつの中に存在する「エネルギー工場」ともいえるミトコンドリアのDNAに、特定の遺伝子変異が生じることで発症します。この遺伝子変異は、視覚情報を脳に送る大切な役割を担う視神経の細胞に異常をもたらし、視力低下を引き起こすと考えられています。
ミトコンドリアは、細胞が活動するために必要なエネルギー(ATP)を生み出す重要な器官です。そのミトコンドリアのDNAに変異が起こると、エネルギーを効率よく作れなくなり、特にエネルギー消費の多い視神経の細胞がダメージを受けやすくなります。このダメージが蓄積することで、視神経が正常に機能しなくなり、結果として急激な視力喪失へとつながるのです。
この病気の原因となるおもな遺伝子変異は、次のとおりです。
・MT-ND4遺伝子変異
・MT-ND1遺伝子変異
・MT-ND6遺伝子変異
・MT-ND4L遺伝子変異
これらの遺伝子変異は、ミトコンドリア内でエネルギーを作る過程に不可欠なタンパク質の働きに影響を与えます。これにより、視神経の細胞に必要なエネルギーが不足し、光を感じて脳に情報を送る網膜神経節細胞が変性(傷ついて機能が失われること)し、急速な視力喪失が特徴的なミトコンドリア疾患の一つといえるでしょう※。
どの遺伝子変異が原因であるかによって、病気の進行の速度や症状の現れ方に個人差が見られる可能性があります。ご自身の原因となっている遺伝子タイプを知ることは、病気への理解を深め、今後の見通しを立てる上で重要な一歩となるでしょう。
レーベル遺伝性視神経症の原因
レーベル遺伝性視神経症の原因は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの遺伝子変異にあります。この変異により、特に視神経の細胞がエネルギー不足に陥り、機能障害を起こすことで発症します。
私たちの体を作る一つひとつの細胞には、「ミトコンドリア」と呼ばれる小さな器官が存在します。ミトコンドリアは、細胞が活動するために必要なエネルギー(ATP)を生み出す重要な役割を担う工場のようなものです。レーベル遺伝性視神経症では、このミトコンドリアのDNAに特定の遺伝子変異が起こることで、エネルギーを十分に作れなくなります。
ミトコンドリアの機能が低下すると、特に多くのエネルギーを消費する細胞に影響が出やすくなります。視神経、特に光の情報を脳に送る網膜神経節細胞は、常に活発に情報を処理するため、大量のエネルギーを必要とします。ミトコンドリアの機能不全によってエネルギー供給が滞ると、これらの視神経細胞は正常に機能できなくなり、やがて傷つき、視力低下を引き起こすと考えられています。このようなメカニズムから、レーベル遺伝性視神経症は、急速な視力喪失を特徴とするミトコンドリア病の一つとされています※。
この病気の原因となるミトコンドリアDNAは、母親の卵子を通じてのみ子どもに受け継がれるため、「母系遺伝」という形式をとります。つまり、父親から子どもに遺伝することはありません。しかし、ミトコンドリアDNAに変異を持っていても、必ずしも全員が発症するわけではありません。このような現象は「不完全浸透率」と呼ばれ、遺伝子変異があっても発症しない人がいることを意味します。
発症のきっかけには、遺伝的要因だけでなく、以下のような環境要因も関与する可能性が指摘されています。
・喫煙:細胞に酸化ストレスを与え、ミトコンドリア機能をさらに低下させる可能性があります。
・過度な飲酒:全身の代謝に影響を与え、ミトコンドリアにストレスをかけることが考えられます。
・特定の薬剤の使用:ミトコンドリアの働きに悪影響を及ぼす可能性があります。
これらの環境要因がミトコンドリアにさらなる負荷をかけ、視神経細胞のエネルギー不足を悪化させることで、発症の引き金となることがあると考えられています。ご自身やご家族がこの病気の遺伝子変異を持っている場合、これらの環境要因を避けることが、発症リスクを低減するための一つの方法となるでしょう。
レーベル遺伝性視神経症の症状
レーベル遺伝性視神経症(LHON)のおもな症状は、急激な視力低下です。この病気は、光の信号を脳に送る重要な役割を担う網膜神経節細胞が傷つき、機能しなくなることで視力低下が引き起こされます※。
LHONの症状は、通常、まず片方の目に現れます。多くの場合、まるで霧がかかったように、あるいは暗闇に包まれたように感じ始めます。その後、数週間から数カ月のうちに、もう一方の目にも同じような視力低下が広がっていくことが特徴です。多くの場合、痛みは伴いません。これは、視神経自体が痛みを感じる神経とは異なるためと考えられます。
具体的には、以下のような症状が見られます。
・中心視野障害: 見ているものの中心部分がぼやけたり、暗く見えたりする「中心暗点(ちゅうしんあんてん)」と呼ばれる症状が現れます。これにより、読書やスマートフォンの画面を見る、人の顔を認識する、テレビの字幕を読むなど、視線の中心を必要とする作業が困難になります。まるでターゲットの中心だけが消えたように感じる人もいます。
・色覚異常: 鮮やかに見えていた色が見分けにくくなったり、特定の色、特に赤や緑の区別がつきにくくなったりします。信号の色を誤認してしまう、洋服のコーディネートに困るといった日常生活での影響が出る可能性があります。
・視力低下の進行: 視力低下の速度や程度には個人差がありますが、発症すると急速に視力が落ちていくことがほとんどです。一度低下した視力は、残念ながら自然に回復することはまれで、多くの場合、回復が難しいとされています。
これらの症状は、脳へ視覚情報を伝える視神経がダメージを受け、その機能が失われることによって生じます。日々の生活の中で「以前と違う」「見えにくい」と感じることがあれば、早めに眼科を受診し、専門医に相談することが大切です。
レーベル遺伝性視神経症の検査・診断
レーベル遺伝性視神経症(LHON)は、光の信号を脳に送る網膜神経節細胞が障害されることで、急速な視力低下を引き起こすミトコンドリアの病気です。この進行性の疾患に対し、早期に正確な診断を受けることは、患者さん自身が病状を深く理解し、今後の生活設計や医療的なサポート体制を整えるための重要な一歩となります※。
LHONの診断は、主に次の3つのステップで行われます。
・医師による詳しい問診
・専門的な精密眼科検査
・遺伝子検査
これらの検査を通じて、医師は患者さんの病状を詳しく把握し、一人ひとりの状況に合わせた治療や支援計画を立てることを目指します。
1. 問診
問診では、医師が患者さんやご家族から次のような情報を詳しく伺います。
・いつ頃から視力低下が始まったか
・どのくらいの速さで視力が低下したか
・ご家族の中に、同じような視力低下を経験した方がいるか
LHONは遺伝性の病気であるため、ご家族の病歴は診断に欠かせない情報です。過去にさかのぼって、ご家族の視力の変化についてお話しいただくこともあります。
2. 眼科検査
眼科検査は、視機能の状態や目の奥の変化を調べるために行われます。LHONに特徴的な兆候を見つけるための大切な検査です。おもな眼科検査は次のとおりです。
視力検査
視力検査では、現在の視力がどのくらい低下しているかを測ります。LHONでは、一般的に両眼に急激な視力低下が見られることが特徴です。
視野検査
視野検査では、見えている範囲(視野)に異常がないかを調べます。LHONでは、特に中心部分が見えにくくなる「中心暗点(ちゅうしんあんてん)」と呼ばれる症状が現れることが多いです。これにより、読書やスマートフォンを見る際に、視線の中心がぼやけたり、見えなくなったりすることがあります。
眼底検査
眼底検査では、目の奥にある網膜や視神経の状態を直接観察します。病気の初期には、光を脳に伝える視神経が集まる部分(視神経乳頭:ししんけいにゅうとう)がわずかに腫れて見えることがあります。しかし、病気が進行し時間が経つと、この視神経が白っぽく萎縮している様子が確認されるようになります。
光干渉断層計(OCT)
光干渉断層計(OCT)は、網膜の断面を非常に精密に画像化する検査です。特に、網膜から視神経へと続く「視神経線維層(ししんけいせんいそう)」の厚さや変化を詳細に評価できます。LHONでは、この視神経線維層の障害が特有の兆候として現れるため、病気の診断に役立つ情報が得られます。
3. 遺伝子検査
血液を採取して行われる遺伝子検査は、LHONの確定診断に不可欠です。この検査では、LHONの原因となる特定のミトコンドリア遺伝子の変異(G11778A、G3460A、T14484Cなど)があるかどうかを確認します。これらの遺伝子変異が見つかることで、最終的な診断が確定されます。
これらの検査結果を総合的に判断し、医師がレーベル遺伝性視神経症であると診断します。早期に診断することで、患者さんは病気と向き合い、適切な情報に基づいた生活上のサポートをスムーズに開始できるようになるでしょう。
レーベル遺伝性視神経症の治療
レーベル遺伝性視神経症の治療は、進行する視力低下を食い止め、失われた視機能の改善を期待するものです。この病気は、光の信号を脳に送る網膜神経節細胞が変性し、急速な視力喪失につながるミトコンドリア疾患であり、その根本的な治療法はまだ限られています※。しかし、近年は治療研究が進み、特にミトコンドリアの機能をサポートする薬剤「イデベノン」が注目されています。
イデベノンによる治療
イデベノンは、細胞のエネルギー生産に関わるコエンザイムQ10(ユビキノン)の働きを助ける合成アナログです。視神経を構成する網膜神経節細胞を保護し、その機能を維持する「神経保護作用」が期待されています。
イデベノンがレーベル遺伝性視神経症の治療に有効である可能性は、最新の研究によって具体的に示されています。2024年7月7日時点の系統的レビューとメタ分析では、PubMed、Cochrane、Embaseの主要データベースから抽出された5つの研究(臨床試験3件、後ろ向きコホート研究2件)計375人の患者データを評価しました。この分析の結果、イデベノンを投与された患者さんでは、投与されなかった患者さんと比べて、視力が平均でLogMAR(ログマー:視力を測る国際的な尺度の一つで、数字が小さいほど視力が良いことを示します)値-0.32改善したことが報告されています※。この視力改善は、一般的な視力表で約1.5行から5行分に相当するといえます。
この報告から、イデベノンはレーベル遺伝性視神経症に対する有効な治療選択肢の一つと考えられ、期待を集めています。
治療を進める上での大切なこと
レーベル遺伝性視神経症の治療は、イデベノンのような薬剤治療だけでなく、日々の生活習慣を見直すことも重要です。
・早期治療の開始: 治療効果を最大限に引き出すためには、病気が発症したらできるだけ早く治療を始めることが大切です。医師と相談し、一人ひとりに合わせた治療計画を立てていきましょう。
・生活習慣の改善: 禁煙やバランスの取れた食生活は、病状の進行を抑える上で重要です。ミトコンドリアの機能に負担をかける可能性のある喫煙や過度な飲酒を控え、体への負担を減らす生活を心がけましょう。
・定期的な受診: 視力の変化や病状を詳しく診てもらうためにも、定期的に眼科を受診することが欠かせません。治療薬の効果や副作用がないかを確認し、必要に応じて治療計画を調整していきます。
患者さん一人ひとりの病状や生活環境は異なるため、主治医と一緒に最適な治療方法を見つけ、継続して取り組むことが大切です。













