トキソプラズマ症

「世界人口の約40%がすでに感染している」—これは、トキソプラズマという寄生虫が引き起こす感染症の話です。多くの場合、症状がないため気づくことさえありません。加熱が不十分な肉料理や、可愛がっているペットのネコから、知らぬ間に私たちの体に入り込んでいるかもしれないのです。

ほとんどの人にとっては無害でも、妊娠中の方や、病気の治療などで体の抵抗力が落ちている方にとっては話が別です。お腹の赤ちゃんに深刻な影響が出たり、重い症状を引き起こしたりする危険性が潜んでいます。「自分は大丈夫」と思っていませんか?

この記事では、身近に潜むトキソプラズマ症の正体と、あなたと大切な家族を守るために知っておくべき知識を詳しく解説します。

トキソプラズマ症の概要

トキソプラズマ症は、「トキソプラズマ」という、 とても小さな寄生虫が体の中に入ることで起こる感染症です。 この寄生虫は、ヒトだけでなく、多くの哺乳類や鳥類にも感染します。

この感染症は、決して珍しいものではありません。 2018年から2022年の研究報告をまとめた調査によると、 世界中の約40%もの人々が感染しているとされています。 ほとんどの人は、感染したことに気づかずに生活しています。

健康な方が感染しても、多くの場合、症状は出ません。 症状が出たとしても、軽い風邪のように少し熱が出たり、 リンパ節が腫れたりする程度で、自然に治ることが大半です。 そして一度感染すると、トキソプラズマは体の中で静かに潜伏します。

しかし、以下のような方々は特に注意が必要です。

  • 妊娠中の方
  • 病気の治療などで体の抵抗力(免疫)が弱っている方
  • 例:HIVに感染している方、抗がん剤治療中の方など

体の抵抗力が弱っていると、おとなしくしていた寄生虫が 再び活発になり(再活性化)、重い症状を引き起こすことがあります。 また、妊娠中のお母さんが初めて感染すると、 お腹の赤ちゃんに影響が出る可能性があるため、正しい知識が大切です。

トキソプラズマ症の種類

トキソプラズマ症は、いつ感染したかによって、 大きく2つの種類に分けられます。 それは、生まれる前に感染する「先天性」と、 生まれてから感染する「後天性」です。

1. 先天性トキソプラズマ症

お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんが感染するタイプです。 妊娠中のお母さんが初めてトキソプラズマに感染すると、 「胎盤」という赤ちゃんとお母さんをつなぐ管を通して、 赤ちゃんに寄生虫が移ってしまうことで起こります。

妊娠の早い時期に感染するほど、 赤ちゃんへの影響が大きくなる傾向があります。 そのため、妊娠中の女性は特に注意が必要です。

2. 後天性トキソプラズマ症

生まれてから、生活の中でトキソプラズマに感染するタイプです。 ほとんどの人のトキソプラズマ症は、この後天性にあたります。 後天性トキソプラズマ症は、その人の健康状態によって、 症状の現れ方が大きく3つに分かれます。

後天性トキソプラズマ症のタイプ

主な特徴

健康な人の感染

ほとんどの人は感染しても症状が出ません。

風邪のような軽い症状が出ても自然に治ります。

眼トキソプラズマ症

寄生虫が目の「網膜」という部分で炎症を起こします。

視力が落ちたり、目のかすみを感じたりします。

体の抵抗力が弱い人の感染

最も注意が必要なタイプです。

過去の感染で眠っていた寄生虫が再び活動し、

脳や肺などに重い症状を引き起こすことがあります。

HIVに感染している妊婦の方では約4割が感染済みという

報告もあり、予防が非常に大切になります。

このように、多くの場合、トキソプラズマ症は心配いりません。 しかし、体の抵抗力が弱い状態では、 深刻な事態につながる可能性があることを知っておきましょう。

トキソプラズマ症の原因

トキソプラズマ症は、トキソプラズマという、 目に見えない小さな寄生虫が体に入ることで起こります。 この寄生虫は、主に口から入ることで感染します。 空気や、皮膚にふれるだけではうつりません。

主な感染ルートは、大きく分けて2つあります。 正しい知識を身につけて、しっかり予防しましょう。

  • 食べ物からの感染 十分に火が通っていないお肉(特に豚肉や羊肉)や、 シカなどの野生動物のお肉を食べることが原因です。 生肉をさわった手や調理器具をよく洗わずに、 他の食べ物を調理することも感染につながります。
  • ネコのフンや土からの感染 感染したネコのフンには、トキソプラズマの卵の ようなものが含まれていることがあります。 ガーデニングや公園の砂場で遊んだ後は、 食事の前に必ず手をきれいに洗いましょう。

感染は決して特別なことではありません。 2022年までの研究をまとめた調査によると、 妊婦さんや体の抵抗力が弱い方では、 約4割が感染した経験を持つと報告されています。

一方で、感染のしやすさと血液型(Rh式など)は、 関係がないことも研究でわかっています。 誰にでも感染する可能性があるからこそ、 日々の生活での予防がとても大切なのです。

トキソプラズマ症の症状

トキソプラズマに感染しても、ほとんどの人は症状が出ません。 症状が出たとしても、風邪のように少し熱が出たり、 首のリンパ節が腫れたりする程度で、自然に治ることが大半です。

しかし、症状がないからこそ、気づかないうちに感染し、 体の中に寄生虫が静かに潜んでいるケースが多くあります。 2022年までの研究をまとめた調査では、妊婦さんや、 病気で体の抵抗力が弱っている方の約4割が感染済みでした。

このように、感染していること自体は珍しくありません。 しかし、体の状態によっては重い症状につながるため、 どのような症状があるのかを知っておくことが大切です。

感染した人

主な症状

健康な大人や子ども

ほとんど症状はありません。

出ても、熱やだるさ、リンパ節の腫れなど、

風邪に似た軽い症状で自然に治ります。

お腹の赤ちゃん

(先天性トキソプラズマ症)

頭に水がたまる水頭症や、視力に影響が出ることがあります。

脳の一部が硬くなる脳内石灰化などもみられます。

生まれてすぐは無症状でも、成長してから症状が出ることもあります。

体の抵抗力が弱っている方

(日和見感染症)

過去の感染で眠っていた寄生虫が再び活動し(再活性化)、

意識がはっきりしなくなったり、けいれんを起こしたりします。

肺炎や目の炎症など、重い症状につながることがあります。

このように、トキソプラズマ症の症状は人によって大きく違います。 特に、体の抵抗力が弱っている方や妊娠中の方は、 重い症状を防ぐためにも、感染予防をしっかり行いましょう。

トキソプラズマ症の検査・診断

トキソプラズマ症が疑われる場合、いくつかの検査を行います。 中心となるのは、血液で「抗体」を探す血液検査です。 抗体とは、体の中に寄生虫が入ってきたときに作られる、 体を守るための特別な物質のことです。

血液検査(抗体検査)

この検査で、トキソプラズマに感染しているかがわかります。 また、いつ頃感染したのかも、ある程度推測することが可能です。 調べる抗体には、主に2つの種類があります。

  • IgM抗体 感染してすぐの時期(急性期)に作られる抗体です。 この抗体が見つかると、最近感染した可能性があります。
  • IgG抗体 感染から少し時間が経ってから作られ、長く体の中に残ります。 この抗体は、過去に感染したことがあるという「しるし」です。

特に妊娠中の方は、この検査がとても重要になります。 妊娠中に初めて感染すると、赤ちゃんに影響が出るためです。 2022年までの調査では、妊婦さんの約4割が IgG抗体を持っていたと報告されています。

その他の専門的な検査

血液検査の結果や症状によっては、さらに詳しい検査が必要です。 体の状態に合わせて、以下のような検査を検討します。

検査の対象となる方

主な検査方法

検査でわかること

お腹の赤ちゃん

(感染の疑い)

羊水検査

お腹の羊水を少し採り、寄生虫のかけら(遺伝子)がないか調べます。

赤ちゃんへの感染を確認しますが、100%確実な方法ではありません。

生まれた赤ちゃん

血液検査

生まれつき感染していないか調べます。

お母さんからの抗体が消えるのを待ってから検査することもあります。

脳の症状が疑われる方

髄液検査

脳や背骨の周りにある液体を調べます。

寄生虫が脳に影響していないかを確認します。

これらの検査結果を総合的に見て、診断を確定させます。 心配なことや気になる症状があれば、まずは医師に相談してください。

トキソプラズマ症の治療

健康な方がトキソプラズマに感染しても、治療は不要なことが多いです。 体の守る力(免疫)が働き、自然に治ることがほとんどだからです。 しかし、体の状態によっては、お薬を使った治療が必要になります。

治療が必要になるのは、主に次のような方々です。

  • 体の抵抗力が弱っている方 例:HIVに感染している方、抗がん剤を使っている方など
  • 妊娠中に初めてトキソプラズマに感染したお母さん
  • 生まれつき感染している赤ちゃん(先天性トキソプラズマ症)
  • 健康な方でも、症状が重かったり長引いたりする場合

特に体の抵抗力が弱っている方は、注意が必要です。 過去の感染で体の中に眠っていた寄生虫が再び活動を始め、 脳や肺などに重い症状を引き起こすことがあるためです。 ある調査では、HIVに感染している妊婦さんの約4割が、 すでにトキソプラズマに感染済みだったと報告されています。

治療では、トキソプラズマが増えるのを抑えるお薬を使います。 しかし、海外で標準的に使われるお薬の一部は、 日本ではトキソプラズマ症の治療薬として国に認められていません。 そのため、専門の医師が慎重に判断した上で、 特別な形で治療が行われることがあります。 治療方針は一人ひとりの状態によって大きく異なるため、 まずは専門の医師に相談することがとても大切です。