舌の外傷・損傷

食事中にうっかり舌を噛んでしまった経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。「たいしたことない」と軽く考えがちですが、その小さな傷が思わぬトラブルにつながる危険性をはらんでいます。舌は細い血管が密集した特別な場所のため、小さな傷でも大量に出血したり、大きく腫れたりしやすいのです。

特に注意すべきは、舌の腫れが空気の通り道を狭め、息苦しさを引き起こすケースです。また、口の中は細菌が多いため、傷口からの感染リスクも無視できません。ある研究では、感染予防のための適切な処置の重要性も示されています。

この記事では、舌のけがの種類や原因、ご家庭でできる正しい応急手当から、病院を受診するべき危険なサイン、専門的な治療法までを詳しく解説します。いざという時のために、適切な知識を身につけておきましょう。

舌の外傷・損傷の概要

食事中にうっかり舌を噛んだり、転んだりして起こる舌のけがは、とても身近なトラブルの一つです。舌は筋肉のかたまりで、たくさんの細い血管が集まっている特別な場所です。そのため、他の場所のけがとは少し違う特徴があります。

特に注意したい舌のけがの特徴は、次の3つです。

  • 出血しやすい 小さな傷でも、思ったより血がたくさん出て驚くことがあります。
  • 腫れやすい けがをした部分がぷくっと腫れやすく、食事や会話がしにくくなります。
  • 息苦しさにつながる可能性 傷が深かったり、腫れがひどかったりすると危険なサインです。 のどの空気の通り道が狭くなり、息苦しくなることがあります。

多くは軽い傷で自然に治りますが、出血が止まらない時や傷が深い時は病院での治療が必要です。また、口の中にはたくさんの細菌がいるため、傷口から感染を起こすことも少なくありません。

ある研究では、口の中のけがによる感染症の治療では、傷をきれいにする処置と合わせて、抗菌薬(細菌の増殖を抑えるお薬)を2日から5日ほどの短い期間だけ使うことが効果的であるとされています。心配な症状があれば、自己判断せずにお医者さんに相談しましょう。

舌の外傷・損傷の種類

「舌のけが」とひとことで言っても、いくつかの種類に分けられます。けがの種類によって、ご自身でできる対処法や病院での治療も変わります。

舌のけがは、主に「原因」と「傷の状態」の2つの視点から分類します。

原因による分類

何が原因でけがをしたかによる分け方です。

  • 咬傷(こうしょう) 食事中や転んだ時などに、誤って自分の歯で舌を噛んでしまうけがです。
  • 鈍的外傷(どんてきがいしょう) 事故やスポーツで顔を強くぶつけて起こるけがです。 舌だけでなく、あごの骨が折れる「顔面骨折」を伴うこともあります。 その場合、歯の根を傷つけないよう注意しながら、ネジなどで顎を固定する専門的な治療が必要になることもあります。
  • 穿通性外傷(せんつうせいがいしょう) 箸や歯ブラシなどが刺さることで起こるけがです。 入り口は小さくても、奥深くまで傷ついている可能性があり注意が必要です。
  • その他の外傷 熱い食べ物によるやけど(熱傷)や、薬品にふれる化学損傷などがあります。

傷の状態による分類

傷の見た目や深さによる分け方です。

傷の種類

特徴

裂創(れっそう)

ぱっくりと切れてしまった傷

刺創(しそう)

何かが刺さった、点のようなくぼみのある傷

剥離創(はくりそう)

舌の表面がベロっとめくれてしまったような傷

部分的切断

舌の一部がちぎれそうになっている状態

これらの「原因」と「傷の状態」は組み合わさって起こります。例えば、「転んだ時(鈍的外傷)に舌を噛んでしまい(咬傷)、ぱっくり切れた(裂創)」といった具合です。ご自身のけががどの種類かを知ることが、適切な対処への第一歩となります。

舌の外傷・損傷の原因

舌のけがは、日常生活のふとした瞬間から、大きな事故まで、さまざまなことが原因で起こります。主な原因を、大きく3つの場面に分けて見ていきましょう。

1. 日常生活での「うっかり」

ご自身の歯であやまって舌を噛んでしまうケースです。

  • 食事中や会話中 急いで食べたり、おしゃべりに夢中になったりして噛んでしまいます。
  • 歯ブラシなど 歯磨き中に、歯ブラシの先がのどの奥に当たってしまうこともあります。
  • けいれん発作 てんかんなどの病気で、無意識に舌を強く噛んでしまうことがあります。

2. 事故やスポーツでの「強い衝撃」

転んだり、どこかに強くぶつかったりすることで、口の中や舌を傷つけてしまうケースです。

  • 転倒や転落 特に小さなお子さんが、走り回っていて転んだ時によく見られます。
  • 交通事故やスポーツ 顔を強くぶつけると、舌だけでなくあごの骨を折ることもあります。

3. お口の中に隠れた「原因」

お口の中の状態が、舌を繰り返し傷つける原因になることもあります。

  • とがった詰め物や歯 治療した歯の一部や、欠けたり割れたりした歯が舌に当たります。

けがの原因が何であれ、傷口から細菌が入る「感染」には注意が必要です。歯が原因であごが腫れる感染症の研究では、短い期間の抗菌薬(細菌を抑える薬)と膿を出す処置を組み合わせる治療が有効とされています。舌のけがの場合も、感染を防ぐために適切な処置が大切になります。

舌の外傷・損傷の症状

舌をけがしたとき、多くの場合は痛み、出血、腫れという3つの症状があらわれます。舌はとても敏感で、血管がたくさん集まっている場所です。そのため、小さな傷でも強く痛んだり、血がたくさん出たりすることがあります。

けがの程度によっては、舌だけでなく、口の中や顔にまで影響が及ぶことも少なくありません。ご自身の状態を確認するために、以下のチェックリストを見てみましょう。

主な症状のチェックリスト

  • 痛み 舌は味を感じるだけでなく、感覚も鋭敏です。 食事や会話のたびに、しみるような強い痛みを感じることがあります。
  • 出血 唾液と血が混ざるため、実際の出血量より多く見えがちです。 慌てず清潔なガーゼなどで圧迫することが大切ですが、止まらない場合は注意が必要です。
  • 腫れ けがをした部分がぷくっと腫れることで、うまく話せなくなります。 また、食べ物や飲み物を飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害が起こることもあります。
  • 呼吸のしづらさ 特に注意が必要な危険なサインです。 舌の根元が大きく腫れると、空気の通り道(気道)を狭めてしまい、息苦しくなることがあります。
  • 舌以外のけが 転倒などで顔を強くぶつけた場合、舌以外もけがをしているかもしれません。 唇や頬の内側の傷、歯の欠けや折れ、あごの骨折などを伴うこともあります。

舌のけがは、見た目の傷の大きさだけでは、深さや内部の損傷具合が分かりにくいことがあります。ある研究では、口周りのけがの診断において、MRI検査が有効である可能性が示されています。MRIは放射線を使わず、舌のような軟らかい組織の状態を詳しく調べるのに役立ちます。気になる症状があれば、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。

舌の外傷・損傷の検査・診断

舌をけがして病院に行くと、まずはお医者さんが傷の状態を直接見て確認します。これを「視診(ししん)」といい、診断の第一歩です。お口の中だけでなく、顔全体に他にけががないかも丁寧に調べます。

お医者さんが目で見て確認するポイント

  • 舌の傷の状態 傷の大きさや深さ、出血が止まっているかを確認します。
  • お口の中全体 舌だけでなく、唇や頬の内側、歯ぐきに傷がないか見ます。
  • 歯やあごの状態 歯が欠けたりグラグラしていないか、あごの骨は大丈夫かを確かめます。

見ただけでは分からない骨の状態などを詳しく調べるために、レントゲンやCTといった写真をとる検査を行うことがあります。これらの検査は、あごの骨折などを見つけるのに役立ちます。

また、MRIという別の検査方法もあります。MRIは、舌のような柔らかい部分(軟部組織)の様子を詳しく見るのが得意です。ある研究では、放射線を使わないMRI検査は、特に繰り返し検査が必要な若い方にとって、体への負担を減らす利点があるとされています。

最近では技術が進み、骨と柔らかい組織を同時に評価できる特殊なMRIも登場しています。これらの検査結果を総合的に見て、一人ひとりに合った治療法を決めていきます。

舌の外傷・損傷の治療

舌をけがしてしまったら、まずは慌てずに落ち着いて対処することが大切です。けがの程度によって、ご家庭でできることと、病院での治療が必要な場合があります。

ご家庭でできる応急手当

まずは、ご家庭でできる応急手当を行いましょう。

  • 血を止める(圧迫止血) 清潔なガーゼやハンカチで傷口を直接、5分以上ぎゅっと強めに押さえます。 唾液で血が多く見えがちですが、しっかり押さえることで多くの出血は止まります。
  • 口の中を清潔にする うがいをして、口の中の汚れや血を優しく洗い流しましょう。 これにより、傷口からばい菌が入ってしまう「感染」のリスクを減らせます。

病院での専門的な治療

応急手当をしても血が止まらない時や、傷が深い時は、すぐに病院を受診してください。病院では、傷の状態を詳しく確認し、次のような治療を行います。

  • 洗浄・消毒 ばい菌が入って化膿しないように、傷口の汚れをきれいに洗い流します。
  • 縫い合わせる(縫合) 傷が深い場合や、出血が続く場合は、傷口を縫い合わせる処置が必要です。 多くの場合、自然に体の中で溶ける糸を使うため、後で糸を抜く必要はありません。
  • お薬の処方(抗菌薬) 口の中はばい菌が多いため、感染を防ぐためにお薬が処方されることがあります。 傷の処置と合わせ、ばい菌の増殖を抑えるお薬(抗菌薬)を2日から5日ほどの短い期間だけ使うことが効果的だとする研究報告もあります。

治療後は、刺激の少ない柔らかい食事を心がけ、口の中を清潔に保つことが、傷の早い回復につながります。