エプーリス

ある日突然、歯ぐきにできた「こぶ」。痛みはないけれど、舌で触ると気になる…。それは「エプーリス」と呼ばれる歯ぐきのできものかもしれません。実は20代から40代の女性に多く、妊娠をきっかけに発症することもあります。

その正体はほとんどが良性ですが、ごくまれに悪性の腫瘍と見分けがつかないケースも。放置して大きくなると、歯並びやあごの骨にまで影響を及ぼす恐れがあります。

この記事では、そんなエプーリスの種類ごとの特徴や原因、そして再発させないための治療法について詳しく解説します。自己判断せず、まずは正しい知識を得ることが大切です。

エプーリスの概要

エプーリスという言葉を、初めて聞く方も多いかもしれません。 これは歯ぐきにできる、良性の「こぶ」や「ふくらみ」のことです。 「歯肉腫(しにくしゅ)」とも呼ばれ、歯ぐきの上にできるできものを指します。

エプーリスには、次のような基本的な特徴があります。

  • できる場所 主に上のあごの歯ぐき、特に歯と歯の間にできやすい傾向があります。
  • 見た目 形や色はさまざまです。丸いものや平たいものがあります。 また、赤っぽいものから歯ぐきと同じ色のものまであります。
  • できやすい人 20代から40代の方、特に女性に多く見られるといわれています。

エプーリスは基本的に「がん」ではない良性のできものです。 しかし、見た目が似ている他の悪性の病気の可能性もあるため、自己判断は禁物です。

実は、エプーリスは人間だけの病気ではありません。 犬の口の中にもよくでき、犬のがんは人間のものと性質が似ています。 そのため、光を使って腫瘍の種類を正確に見分ける研究が進められています。 こうした研究が、将来のより良い診断方法の開発につながる可能性があります。

エプーリスの種類

エプーリスと一言でいっても、実はいくつかの種類に分けられます。 原因や見た目の特徴が、種類によってそれぞれ異なります。 どのタイプかによって治療の方針も変わるため、正しく見分けることが大切です。

主なエプーリスの種類と特徴は、以下のとおりです。

種類

見た目・硬さ

特徴

線維性(せんいせい)エプーリス

・歯ぐきと同じような色<br>・硬さは弾力があるゴムのよう

・最もよく見られるタイプです。<br>・合わない入れ歯や歯石などが、長い間歯ぐきを刺激し続けることでできます。

血管性(けっかんせい)エプーリス

・赤色が強く、やわらかい<br>・表面はツルツルしている

・血管がたくさん集まっているため、歯みがきなどの少しの刺激で出血しやすいです。<br>・妊娠中の女性にできやすく、「妊娠性エプーリス」とも呼ばれます。

巨細胞性(きょさいぼうせい)エプーリス

・暗い赤色や紫色<br>・やわらかく、出血しやすい

・歯を支えるあごの骨から発生することがあります。<br>・他のタイプより、大きくなるスピードが速い傾向にあります。

このほか、生まれたばかりの赤ちゃんに見られる「先天性エプーリス」などもあります。

このように、エプーリスは種類によって性質が大きく異なります。 どの種類かを正確に見分けることは、適切な治療のために非常に重要です。 これは人間の病気に限った話ではありません。

例えば、犬の口にできる腫瘍の研究でも、種類を正確に区別することが、 その後の経過を見通すために重要であると報告されています。 どの種類かを正しく診断することが、適切な治療への第一歩となるのです。

エプーリスの原因

エプーリスができてしまう根本的な理由は、歯ぐきへの「長期間にわたる刺激」です。 一つの原因だけでなく、いくつかの要因が合わさってできることもあります。 主な原因は、次の3つのパターンに分けられます。

  • モノが当たる刺激(物理的な刺激) お口の中で、特定の場所に継続してモノが当たることで発生します。 ・合わない詰め物やかぶせ物 治療した歯の縁が、歯ぐきにチクチクと当たり続けている状態です。 ・不適切な入れ歯 入れ歯の金具や土台が歯ぐきを圧迫し、傷つけている状態です。 ・歯並びの問題 歯が傾いていることで、食事のたびに同じ場所の歯ぐきを噛んでしまいます。
  • お口の汚れによる刺激(慢性的な炎症) お口の衛生状態が悪く、歯ぐきの炎症が続くことで発生します。 ・歯石やプラーク(歯垢) 歯の汚れが原因で歯ぐきが常に腫れる「歯肉炎」が続いている状態です。 ・治療していないむし歯 むし歯で欠けた歯の鋭い部分(残根)が、歯ぐきを傷つけ続けます。
  • 体の内側からの影響(ホルモンバランスの変化) 特に女性ホルモンの影響で、歯ぐきが刺激に敏感になり発生します。 妊娠中は女性ホルモンが増えるため、わずかな刺激でもエプーリスができやすくなります。 これを「妊娠性エプーリス」と呼びます。

これらの原因を取り除かない限り、手術で切除しても再発しやすいです。 なぜエプーリスができたのか、原因を突き止めることが治療の第一歩です。

エプーリスの症状

エプーリスは歯ぐきにできる「できもの」ですが、痛みを感じることはほとんどありません。 そのため、歯みがきのときに出血したり、鏡で見たときに偶然気づいたりして、初めてわかることが多いです。

症状には、見た目やできる場所に次のような特徴があります。

  • できる場所 上のあごの歯ぐきにできることが多く、特に歯と歯の間に見られます。
  • 形や大きさ 形は、表面がツルッとした丸いものや、キノコのように茎があるものなど様々です。 大きさは、小さな豆粒くらいのものから、親指の頭ほどの大きさにまでなることがあります。

また、エプーリスは種類によって、色や硬さなどの見た目が変わります。 これは、できものの中身をつくっている成分が違うためです。

特徴

色

硬さ・その他

血管がたくさん集まったタイプ

赤みが強く、鮮やかな色

・とてもやわらかい<br>・歯ブラシなどの少しの刺激でも血が出やすい

丈夫な線維でできたタイプ

周りの歯ぐきと似たピンク色や白っぽい色

・ゴムのような弾力がある<br>・比較的硬い

はじめは小さくても、ゆっくりと大きくなっていくことがあります。 大きくなると、隣の歯を押して歯並びを乱したり、歯を支えるあごの骨を溶かしたりすることもあります。

痛みがないからといって、自分で判断して放っておくのは危険です。 気になるできものを見つけたら、早めに歯科医院や口腔外科を受診しましょう。

エプーリスの検査・診断

歯ぐきにできた「できもの」の正体を正確に突き止めることは、治療の第一歩です。 見た目だけでは、良性のエプーリスか、他の病気かを完全に見分けることはできません。 そのため、歯科医院ではいくつかの検査を組み合わせて、慎重に診断を進めていきます。

診断は、主に次の3つのステップで行われます。

  • ステップ1:お話を聞き、お口の中を詳しく見る(問診・視診) まず、いつからできものができたか、痛みや出血はあるかなどをお聞きします。 そして、できものの色や形、大きさ、硬さを、歯科医師が直接見て確認します。 原因となりうる、合わない詰め物や歯石がないかも丁寧にチェックします。
  • ステップ2:レントゲンで骨の状態を確認する(X線検査) できものの影響が、歯を支えるあごの骨まで及んでいないかを調べます。 エプーリスが大きくなると、見えない部分で骨を圧迫することがあります。 レントゲンを撮ることで、骨の状態を正確に把握することができます。
  • ステップ3:できものの一部を調べて確定診断する(病理組織検査) 最も重要な検査が、この「病理組織検査(びょうりそしきけんさ)」です。 できものの一部を切り取り、顕微鏡で細胞レベルまで詳しく調べます。 この検査によって、良性か悪性(がん)かをはっきりと区別できます。 どの種類のエプーリスかを確定し、最適な治療法を決めるための大切な検査です。

これらの検査結果を総合的に判断して、最終的な診断が決まります。 近年では、特殊な光を組織に当てて腫瘍の種類を見分ける新しい技術も研究されています。 正確な診断こそが、適切な治療への最短ルートとなるのです。

エプーリスの治療

エプーリスの治療は、できものを取り除く手術が基本です。 しかし、ただできものを取るだけでなく、原因に合わせた治療が大切です。

治療の基本的な流れは、以下のようになります。

  • 手術によるできものの切除 できものそのものを、メスやレーザーを使って取り除きます。 良性のできものですが、自然になくなることは少ないです。
  • 原因の除去 再発を防ぐため、これが最も重要なポイントになります。 合わない詰め物や入れ歯、歯石など、刺激の原因も一緒に治療します。 原因を残したままだと、同じ場所にまたできてしまう可能性があります。
  • 関連する歯や骨の処置 できものが歯を支える骨まで及んでいる場合は、注意が必要です。 再発を防ぐため、できものと関連する歯や骨の一部も切除することがあります。 もちろん、歯の状態が良ければ、できる限り歯を残す方法を考えます。

どの種類のエプーリスかを正確に見分けることは、治療の成功に不可欠です。 これは人間だけでなく、犬の口腔腫瘍の研究でも示されています。 腫瘍の種類によって治療法やその後の経過が大きく変わるためです。 そのため、手術の前にどのタイプかをしっかり見極めることが大切です。

ただし、妊娠中のホルモンバランスの変化が原因でできる「妊娠性エプーリス」は例外です。 このタイプは出産後に自然に小さくなったり、消えたりすることがあります。 そのため、すぐには手術せず、出産後まで様子を見ることが一般的です。