母指CM関節症
ビンの蓋が開けにくい、タオルを絞ると親指の付け根が痛むなど、日常のささいな動作で痛みを感じていませんか。その症状は、特に更年期以降の女性に多い「母指CM関節症」のサインかもしれません。放置すると症状が進行し、親指の変形につながる可能性があります。
この記事では、母指CM関節症の詳しい原因や症状の進行段階、診断方法を解説します。さらに、サポーターなどによる保存療法から、痛みを和らげる新しい治療法、手術療法に至るまで、病気の進行度に応じた治療の選択肢を網羅的に紹介します。
ご自身の症状がどの段階にあるのかを客観的に把握し、どのような治療の選択肢があるのかがわかります。痛みを諦めるのではなく、適切な対処法を知ることで、今後の見通しを立てるための一助となるはずです。
母指CM関節症の概要
母指CM関節症とは、親指の付け根にある「CM関節」の軟骨がすり減ることで、痛みや変形が生じる病気です。
物をつまむ、ビンの蓋を開ける、タオルを絞るといった日常のあらゆる動作で、親指の付け根には想像以上の負担がかかっています。
特に更年期以降の女性に多く見られるのは、関節の滑りを良くする女性ホルモン(エストロゲン)が減少し、炎症が起きやすくなるためと考えられています。
はじめは「ビンの蓋が開けにくい」といった軽い痛みや違和感から始まりますが、症状が進むと親指の付け根が腫れ上がり、親指が開きにくくなるなど、日常生活に支障をきたすようになります。
治療の基本は、サポーターなどによる固定や薬物療法といった保存療法です。これらに加え、痛みを和らげるための新しい治療法も研究されています。
例えば、特殊な磁気を用いるパルス電磁界(PEMF)療法は、治療が終わった後も痛みを和らげる効果が続く可能性が示唆されています※。
このように母指CM関節症は放置すると進行しますが、早期に適切な診断と治療を受けることで、症状の緩和が期待できる病気といえます。
母指CM関節症の種類
母指CM関節症は、レントゲン写真に写る関節の状態によって、病気の進行度を4つのステージ(病期)に分類します。
この分類法は「Eaton(イートン)分類」と呼ばれており、今後の治療方針を立てるための重要な指標となります。病気が進むと、軟骨がすり減って骨と骨のすき間(関節裂隙)が狭くなったり、「骨棘(こつきょく)」というトゲのような骨が形成されたりします。
各ステージの主な特徴を下記に整理します。
ステージ | レントゲンでみられる主な特徴
Stage 1 | ・関節の形はほぼ正常です。 ・関節を包む袋(関節包)の緩みなどにより、骨と骨のすき間がわずかに広がって見えることがあります。
Stage 2 | ・軟骨が少しすり減り始め、関節のすき間が狭くなります。 ・大きさ2mm以下の小さな骨のトゲ(骨棘)が見られることもあります。
Stage 3 | ・軟骨のすり減りがさらに進み、関節のすき間が著しく狭くなります。 ・大きさ2mm以上の、はっきりとした骨のトゲを伴います。
Stage 4 | ・Stage 3の状態に加え、隣り合う手首の関節(舟状大菱形骨関節など)にも変形が及んでいます。
このように、レントゲン写真で病気の進行度を正確に見極めることが、適切な治療法を選ぶための第一歩です。
ステージが初期であればサポーターによる固定や薬物療法といった保存療法が中心となりますが、進行している場合には手術療法も選択肢に入ってきます。
母指CM関節症の原因
母指CM関節症の直接的な原因は、長年の使用による関節軟骨のすり減りです。
親指の付け根にあるCM関節は、物をつまむ・握る・ひねるといった複雑な動きを可能にする、非常に可動域の広い関節です。その分、構造的に不安定になりやすく、日常のささいな動作でも負担が集中しやすいという特徴を持っています。
こうした加齢や使い過ぎといった主な要因に加え、以下の要素が複合的に関わることで、発症のリスクが高まると考えられています。
・ホルモンバランスの変化
更年期以降の女性に発症が多いのは、女性ホルモン「エストロゲン」の減少が大きく関わっています。エストロゲンには、関節の動きを滑らかにする「滑膜(かつまく)」の炎症を抑える働きがあるため、減少すると関節内で炎症が起きやすくなり、軟骨のすり減りが加速する一因となります。
・もともとの関節のゆるさ(遺伝的要因)
関節を支える「靭帯(じんたい)」が生まれつき緩い、いわゆる「関節弛緩性(かんせつしかんせい)」がある方も、発症しやすい傾向にあります。靭帯が緩いと関節がぐらつき安定性が低下するため、軟骨に余計な負担がかかりやすくなるためです。
・過去の怪我の影響
若い頃の突き指や骨折、捻挫といった怪我も、後年になって影響を及ぼすことがあります。怪我によって関節のかみ合わせに微妙なズレが生じると、そのズレが長年の負担の蓄積によって、徐々に関節の変形を引き起こすきっかけになるのです。
・親指に負担をかける生活習慣
スマートフォンやパソコンの長時間操作、調理や裁縫、育児や介護など、指先をよく使う作業はCM関節に繰り返し負担をかけます。特に、ビンの蓋を開ける、タオルを絞るといった「つまむ力」と「ひねる力」が同時にかかる動作は、関節への負荷が大きいため注意が必要です。
母指CM関節症の症状
母指CM関節症の症状は、物をつまんだりひねったりした時の鋭い痛みから始まり、病気が進行するにつれて「親指が開きにくい」「付け根が出っ張ってきた」といった見た目の変化や動かしにくさへと発展します。
はじめのうちは、特定の動作をした時だけ痛みを感じ、普段は気にならないことがほとんどです。
特に、以下のような「つまむ」「ひねる」という2つの力が同時にかかる動作で、親指の付け根に負担が集中しやすくなります。
・ビンの蓋を開ける
・ドアノブを回す
・タオルや雑巾を絞る
・ハサミやホッチキスを使う
・字を書く、箸を持つ
病気の進行に伴い、症状は徐々に変化していきます。ご自身の状態と照らし合わせてみてください。
症状の段階 | 主な症状
初期症状 | ・特定の動作の時だけ、親指の付け根に鋭い痛みや鈍い痛みを感じる ・動作をやめると痛みは和らぐ
進行期の症状 | ・何もしなくてもズキズキと痛むようになる(安静時痛) ・関節の周りが腫れたり、熱っぽさを感じたりする ・親指が開きにくくなり、物をつかみにくくなる ・親指の付け根の骨が出っ張ってくる
特徴的な変形 | ・親指がアルファベットの「Z」のように変形する(白鳥の首変形)
親指の付け根がポコッと出っ張ってくるのは、関節の軟骨がすり減って亜脱臼(あだっきゅう:関節がずれかかった状態)を起こしたり、骨のトゲである「骨棘(こつきょく)」が形成されたりするためです。
さらに亜脱臼が進行すると、体は無意識にバランスを取ろうとし、指先の関節が「くの字」に曲がり、付け根から2番目の関節が反り返った状態になります。この見た目が白鳥の首のように見えることから、「白鳥の首変形」と呼ばれています。
これらの症状は、着替えや食事といった日常のささいな動作さえも困難にし、生活の質(QOL)を大きく低下させる原因となります。「ただの使い痛みだろう」と自己判断せず、初期のサインに気づいたら、お早めに専門医へご相談ください。
母指CM関節症の検査・診断
母指CM関節症の診断は、医師による診察とレントゲン検査という2つの柱で進められます。患者さんが感じている症状と、画像でわかる客観的な関節の状態を照らし合わせることで、病気の進行度を正確に把握します。
はじめに、診察室で親指の付け根の状態を直接見て、触って確認します。
・関節の腫れや熱っぽさの有無
・押したときに痛みを感じる場所(圧痛)と強さ
これらに加え、「研磨テスト(グラインドテスト)」という、この病気に特徴的なテストを行います。これは、医師が患者さんの親指を軽く押しながら軸方向に回す手技です。
もし関節軟骨がすり減っている場合、骨同士が直接こすれ合うため、この動作によって痛みや「ゴリゴリ」という特有の音(摩擦音)が引き起こされます。この所見があれば、母指CM関節症が強く疑われます。
次に、診断を確定させるためにレントゲン検査を実施します。レントゲン写真によって、関節の状態を客観的に評価できます。
【レントゲンで確認する主な項目】
・関節のすき間の狭さ(関節裂隙狭小化):軟骨のすり減り具合がわかります。
・骨のトゲ(骨棘)の有無や大きさ:関節が変形しているサインです。
・関節のズレ(亜脱臼)の程度:病気の進行度を判断する重要な指標となります。
これらの所見を、病気の進行度を示す世界的な指標「Eaton(イートン)分類」に当てはめて重症度を判断し、今後の治療方針を具体的に決めていきます。
また、親指の付け根に痛みを引き起こす病気は他にもあるため、それらとの見極めも重要です。特に、腱鞘炎の一種である「ドケルバン病」や「関節リウマチ」とは症状が似ているため、問診や診察所見から慎重に区別します。
治療を進めるにあたり、痛みの程度を客観的に評価することも役立ちます。研究分野では、痛みの強さを0から10の数値で評価するNPRSスコアなどが用いられ、治療によって痛みがどのくらい改善したかを確認することがあります※。
母指CM関節症の治療
母指CM関節症の治療は、まず関節への負担を減らす「保存療法」から始めます。多くの方はこの保存療法で症状が和らぎますが、数カ月続けても痛みが改善せず、生活に大きな支障をきたしている場合には「手術療法」が選択肢となります。
実際に手術が必要になるのは、全体の約1割程度と考えられています。
保存療法:まずは関節の負担を減らすことから
治療の基本は、痛みの原因となっているCM関節を安静に保ち、負担を減らすことです。複数の治療法を組み合わせ、症状の改善を目指します。
・安静・固定
専用のサポーターやテーピングでCM関節を固定し、動きを制限して安定させます。関節のぐらつきが抑えられることで、痛みの軽減につながります。特に夜間も含めて2カ月ほど継続して使用すると、関節の炎症を効果的に抑えることが期待できます。
・薬物療法
痛みを直接和らげる目的で、消炎鎮痛剤の飲み薬や、湿布・塗り薬といった外用薬を併用します。
・注射療法
薬で痛みが十分にコントロールできない場合、関節内への注射を検討します。関節の滑りを良くする「ヒアルロン酸注射」のほか、特に痛みが強い場合には、炎症を強力に抑える「ステロイド注射」を行うことがあります。ただし、ステロイドを繰り返し注射すると、逆に関節の軟骨や靭帯を傷めてしまうリスクがあるため、使用頻度は慎重に判断する必要があります。
・その他の治療法
上記の治療と並行して、以下のような選択肢もあります。
・パルス電磁界(PEMF)療法:夜間に特殊な装置を使い、微弱な磁気を関節に当てる治療法です。ある研究では、4週間の夜間使用で、治療を終えてから2週間後に痛みが有意に改善したことが報告されており、治療後も鎮痛効果が持続する可能性が示唆されています※。
・動注治療:痛みの原因となる異常な新生血管を減らす、新しい治療法です。
・エクオールサプリメント:女性ホルモンと似た働きをする成分で、更年期以降の女性で有効な場合があります。
手術療法:痛みが続く場合の最終手段
保存療法を3〜6カ月程度続けても痛みがコントロールできず、ビンの蓋が開けられない、字が書きにくいなど、日常生活に深刻な支障が出ている場合に手術を検討します。
手術方法には主に、関節を再建する方法と固定する方法があり、それぞれに長所と短所があります。患者さんの年齢や仕事、生活で何を優先したいかによって最適な術式が変わるため、医師と十分に話し合って決めることが重要です。
主な手術方法を以下に示します。
手術方法 | 概要 | メリット | デメリット
切除関節形成術 | ・痛みの原因となる骨(大菱形骨)の一部を切り取り ・自分の腱を使って関節の土台を再建する | ・親指の動き(可動性)が保たれる | ・物をつまむ強い力は入りにくくなることがある
関節固定術 | ・変形した関節の骨を削り ・金属製のプレートやネジで固定する | ・物をつまむ力が回復しやすい | ・関節が動かなくなるため、可動域が制限される
このほか、近年では傷んだ関節を金属やセラミック製の人工関節に置き換える「人工関節置換術」も行われるようになりました。ただし、まだ長期的な成績が安定していないケースもあるため、実施できる医療機関は限られています。










