症状性精神障害
「理由もなく気分が落ち込む」「なぜかイライラする」。その原因不明の心の不調、もしかしたら体からの重要なSOSサインかもしれません。一般的に心の不調はストレスなどが原因と思われがちですが、実は甲状腺の病気のように、体の異常がうつ病に似た症状を引き起こすことがあるのです。
このように、体の病気が原因で精神的な症状が現れる状態を「症状性精神障害」と呼びます。これを見過ごしてしまうと、根本的な原因が解決されず、心の不調が長引いてしまう可能性も否定できません。
この記事では、あなたの心の不調の裏に隠されているかもしれない「症状性精神障害」について、その原因や症状、正しい治療法までを詳しく解説します。真の原因を知ることが、適切なケアへの大切な第一歩です。
症状性精神障害の概要
「気分が落ち込む」「なぜかイライラする」といった心の不調。その原因は、ストレスや環境の変化だけとは限りません。実は、体の病気が原因で精神的な症状が現れることがあります。これを「症状性精神障害」と呼びます。つまり、心の不調は、体が発している病気のサインかもしれないのです。
例えば、首にある甲状腺という臓器の働きが乱れると、うつ病に似た気分の落ち込みや、逆に興奮しやすくなることがあります。
症状性精神障害と似た言葉に「器質性精神障害」があります。この二つの違いは、原因が脳に直接的な影響を与えているかどうかです。
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種類 |
原因となる病気の場所 |
具体例 |
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症状性精神障害 |
脳を含む、全身のさまざまな臓器 |
甲状腺の病気、糖尿病、膠原病(※)など |
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器質性精神障害 |
脳そのもの |
脳梗塞、脳腫瘍、頭部のケガなど |
※膠原病(こうげんびょう):免疫システムの異常により、自分の体を攻撃してしまい、全身に炎症が起こる病気の総称です。
このように、症状性精神障害は、器質性精神障害を含む、より広い範囲を示す言葉として使われることもあります。心の不調を感じた際には、その背景に体の病気が隠れていないかを探ることが、正しい治療への大切な第一歩となります。
症状性精神障害の種類
症状性精神障害は、原因となる体の病気によっていくつかの種類に分けられます。心の不調の裏に、どのような体の病気が隠れているかを知ることがとても重要です。
症状性精神障害は、原因によって大きく以下の3つのグループに分類できます。
- 脳の病気が直接の原因となるもの 脳梗塞や脳腫瘍、頭のケガなどによって脳の組織が傷つくことで、精神的な症状が現れます。このタイプは特に「器質性精神障害」と呼ばれます。脳の感情や思考をコントロールする部分がダメージを受けるために起こります。
- 脳以外の体の病気が原因となるもの 全身の病気が、間接的に脳の働きに影響を与えて精神症状を引き起こします。例えば、ホルモンバランスの乱れが代表的です。体の活動を調整する甲状腺ホルモンが多すぎると興奮しやすく、逆に不足するとうつ病のように落ち込みがちになります。
- 治療薬などが原因となるもの 他の病気の治療で使われる薬が、副作用として精神症状を引き起こすことがあります。例えば、膠原病などの治療で使われるステロイド薬は、気分を高揚させたり、逆に落ち込ませたりすることが知られています。
このように、心の不調の背景にはさまざまな体の病気が隠れている可能性があります。そのため、原因となっている体の病気を特定し、その治療を優先することが精神症状を改善する鍵となります。
症状性精神障害の原因
心の不調を訴える方の背景に、体の病気が隠れていることは珍しくありません。 ストレスや疲れだけが原因とは限らないのです。 症状性精神障害を引き起こす原因は非常に多岐にわたります。 ここでは、主な原因をグループに分けて見ていきましょう。
- 内分泌(ホルモン)の異常 ホルモンは心と体の調子を整える「調律師」のようなものです。 このバランスが崩れると、精神的な症状が出やすくなります。
- 甲状腺の病気 体の活動を活発にするホルモンです。多すぎると興奮し、 不足すると気力がなくなり、うつ病に似た状態になることがあります。
- 副腎の病気 ストレスに対抗するホルモンなどを分泌する重要な臓器です。 機能の異常が、気分の大きな波につながることがあります。
- 免疫システムの病気(膠原病など) 自分の体を異物と間違えて攻撃してしまう病気です。 この時に起こる全身の炎症が、脳の働きにも影響を及ぼします。 代表的な病気に、全身性エリテマトーデス(SLE)などがあります。
- 治療で使う薬の影響 体の病気を治すための薬が、副作用として精神症状を起こすことがあります。 特に膠原病などの治療で用いられるステロイド薬は、 気分を高揚させたり、逆に落ち込ませたりすることが知られています。
- その他の全身の病気 糖尿病による血糖値の大きな変動や、特定のビタミン不足なども、 脳のエネルギー代謝に影響し、精神的な不調の原因となり得ます。
このように、原因は一つではなく、さまざまな体の状態が関わっています。 そのため、心の不調の背景にある原因を正確に突き止めることが、 適切な治療への第一歩となるのです。
症状性精神障害の症状
症状性精神障害の症状は、原因の病気によって実にさまざまです。 心と体の両方に、まるで別々の病気かのような症状が現れるのが特徴です。 そのため、うつ病や認知症など他の精神疾患と間違われることもあります。
症状の現れ方には、急に始まる場合とゆっくり進行する場合があります。 ご自身の状態と照らし合わせて、確認してみてください。
こころに現れる主な症状
心の症状は、ご本人も周囲の方も気づきにくいことがあります。 性格の変化や疲れのせいだと考えず、客観的に見つめることが大切です。
- 意識の状態の変化(急に現れることが多い症状) 時間や場所が分からなくなる、話のつじつまが合わないなど、 意識が混乱した状態(せん妄)が見られることがあります。
- 気分の変化 感情のコントロールが難しくなり、気分の波が激しくなります。 * 抑うつ 理由もなく気分が落ち込み、何もやる気が起きなくなります。 * 不安や焦燥感 常にそわそわと落ち着かず、ささいなことでイライラします。 * 多幸感・躁状態 不自然なほど気分が高揚し、過度におしゃべりになることもあります。
- 考え方や感じ方の変化 現実にはないことを強く信じ込んだり、感じたりすることがあります。 * 幻覚 他の人には聞こえない声が聞こえる(幻聴)などがあります。 * 妄想 事実ではないことを、誰に説得されても固く信じ込みます。
- 記憶や思考力の変化(ゆっくり現れることが多い症状) 脳の機能が低下し、日常生活に支障が出ることがあります。 * 健忘症 単なる物忘れと違い、体験したこと自体を忘れてしまいます。 * 認知機能障害 集中力が続かず、考えをまとめることが難しくなります。
からだに現れる主な症状
体の症状は、原因となっている病気を特定する上で重要な手がかりです。 心の不調と合わせて、以下のような体のサインがないか確認しましょう。
- 強い疲労感や倦怠感
- 眠れない、あるいは眠りすぎる
- 動悸(頻脈)や息切れ
- 手のふるえ(振戦)
- 異常な量の汗をかく(発汗)
これらの症状は、体が発している病気のサインかもしれません。 複数の症状に心当たりがある場合は、自己判断せずに医療機関へご相談ください。
症状性精神障害の検査・診断
症状性精神障害の診断では、精神症状の背景に隠れている、 「体の病気」を正確に特定することが最も重要です。 そのため、心の状態だけでなく、体全体を丁寧に調べる検査を行います。
まず、診断の第一歩として、患者さんやご家族からお話を伺う「問診」を行います。 これは、原因を探るための非常に大切な手がかり集めです。
- いつから、どのような症状がありますか 心の不調だけでなく、体の変化についても詳しくお聞きします。
- これまでにかかったことがある病気 過去の病歴が、現在の症状と関連している可能性があります。
- 現在服用しているお薬やサプリメント 薬の副作用が原因となることもあるため、正確な情報が重要です。
問診と体の診察で得られた情報をもとに、原因を特定するため、 科学的な根拠に基づいた検査を計画的に進めていきます。
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検査の種類 |
主な目的と調べること |
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血液検査 |
体の調子を整えるホルモン(甲状腺ホルモンなど)の異常や、体内の炎症の有無、栄養状態などを調べます。 |
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画像検査 (CT, MRI) |
脳の形を詳しく見るための検査です。脳腫瘍や過去の脳梗塞の跡など、脳自体の異常がないかを確認します。 |
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脳機能検査 (SPECTなど) |
脳の血の流れを画像で評価し、脳が正常に働いているかを確認します。必要に応じて行われることがあります。 |
これらの問診、診察、各種検査の結果を総合的に評価し、 精神症状の原因となっている体の病気を診断します。
症状性精神障害の治療
症状性精神障害の治療で最も大切なのは、精神症状を引き起こす 大元である「体の病気」を正確に見つけて治療することです。
心の不調は、あくまで体の病気が原因で現れている「結果」です。 そのため、原因となっている体の問題を解決することが、 根本的な回復への一番の近道となります。
治療は、主に2つの柱で進められます。
- 原因となっている体の病気の治療
- つらい精神症状を和らげる治療(対症療法)
原因となっている体の病気の治療
まず最優先されるのは、原因疾患に対する専門的な治療です。 原因となる病気によって、治療法は大きく異なります。
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原因となる体の病気 |
主な治療法 |
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ホルモンの異常 (甲状腺の病気など) |
ホルモンの分泌を薬で調整したり、不足しているホルモンを補う治療(ホルモン補充療法)を行ったりします。 |
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免疫システムの病気 (膠原病など) |
体の過剰な免疫反応や炎症を抑えるために、ステロイドや免疫抑制薬などを使います。 |
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お薬の副作用 |
医師の判断のもと、原因となっている薬の量を減らしたり、種類を変更したりします。自己判断での中止は危険です。 |
つらい精神症状を和らげる治療(対症療法)
原因の治療には時間がかかる場合もあります。 その間、患者さんのつらい心の症状を和らげるために、 原因の治療と並行して「対症療法」を行います。
例えば、以下のようなお薬を慎重に使い分けます。
- 抗不安薬 強い不安や焦り、イライラを和らげるために使われます。
- 抗精神病薬 幻覚や妄想といった症状を抑える効果が期待できます。
これらの薬は、原因となっている体の病気に悪影響を与えないよう、 専門の医師が状態を見ながら慎重に種類や量を選びます。













