突発性難聴

「昨日まで普通に聞こえていたのに、朝起きたら片方の耳が聞こえない…」そんな恐ろしい経験をするのが突発性難聴です。日本では年間約35,000人、特に働き盛りの40〜60代に多く発症しており、あなたにとっても決して他人事ではありません。

この病気の恐ろしい点は、原因がまだはっきりと解明されていないこと。そして、治療はまさに「時間との勝負」であることです。発症後、いかに早く適切な治療を始められるかが聴力の回復を大きく左右し、対応が遅れると難聴や耳鳴りが残ってしまう可能性も高まります。

この記事では、突発性難聴の知っておくべき特徴から原因、そして時間との勝負である治療法までを詳しく解説します。ご自身や大切な人を守るために、いざという時に後悔しないための正しい知識を身につけましょう。

突発性難聴の概要

これまで耳の病気をしたことがないのに、 ある日突然、片方の耳が聞こえにくくなる病気です。

いつ聞こえなくなったかがはっきりしているのが特徴で、 「朝起きたら聞こえなかった」などと説明できることが多いです。

日本では年間約35,000人が発症するといわれており、 特に働き盛りの40〜60代の方によくみられます。

突発性難聴には、知っておくべき3つの特徴があります。

  • ほとんどが片方の耳にだけ起こる
    左右どちらかの耳だけに発症することがほとんどです。 両耳に同時に症状が出ることは非常にまれで、 突発性難聴全体の約11.9%と報告されています。 もし両耳に症状がある場合は、自己免疫の病気や 心臓・血管の病気が隠れている可能性が考えられます。
  • 日によって聞こえ方が変わらない
    メニエール病のように、聞こえ方が良くなったり 悪くなったりを繰り返すことはありません。
  • すぐに治療を始めることが大切
    発症してから治療を始めるまでの時間が、 聴力が回復するかどうかに大きく影響します。 治療が遅れると、難聴や耳鳴りが残ってしまうため、 「変だな」と感じたらすぐに受診することが重要です。

突発性難聴の種類

突発性難聴は、症状の現れ方によっていくつかの種類に分けられます。 ご自身の状態がどれに近いかを知ることは、治療を進める上で大切です。 主に「聞こえなくなる耳の数」と「めまいの有無」で分類されます。

聞こえる耳の数による分類

片方の耳だけに起こるか、両耳に起こるかで大きく分けられます。

種類

特徴

片側性(かたがわせい)

・片方の耳だけに症状が現れるタイプです。

・突発性難聴を発症する方のほとんど(約88%)がこのタイプです。

両側性(りょうがわせい)

・両耳に症状が現れるまれなタイプで、全体の約12%と報告されています。

・片側性よりも聴力の回復が難しい傾向があり注意が必要です。

特に両方の耳が同時に聞こえなくなる場合は、注意が必要です。 自己免疫の病気や高血圧など、耳以外の病気が原因の可能性があります。

めまいの有無による分類

難聴と同時にめまいが起こるかどうかも、重要な分類のポイントです。

  • めまいを伴わないタイプ 聞こえにくさや耳鳴り、耳が詰まった感じだけが起こります。
  • めまいを伴うタイプ ぐるぐる回るような強いめまいや吐き気を伴うタイプです。 音を聞き取る部分だけでなく、平衡感覚を司る部分も障害されています。 ある研究では、めまいを伴う場合、伴わない場合と比べて 聴力が回復しにくい可能性が約2.3倍高くなると報告されています。

ご自身の症状を正確に医師に伝えることが、適切な診断につながります。

突発性難聴の原因

なぜ突然、耳が聞こえなくなるのでしょうか。 残念ながら、突発性難聴のはっきりとした原因はまだわかっていません。 しかし、いくつかの有力な説があり、原因は一つではなく、 さまざまな要因が重なって起こると考えられています。

現在、原因として考えられている主な説は次の2つです。

  • 循環障害説
  • 耳の血の流れが悪くなることで発症するという考え方です。
  • ウイルス感染説
  • ウイルスが耳の神経に感染することで発症するという考え方です。

循環障害説

耳の奥には、音を感じ取る「有毛細胞」という毛のような細胞があります。 この細胞は、とても細い血管から栄養や酸素をもらって働いています。 血管の流れが悪くなると有毛細胞がダメージを受け、発症すると考えられます。

複数の研究から、突発性難聴と生活習慣病との関連が指摘されています。 糖尿病や高血圧、脂質異常症などがある方は、 そうでない方と比べて発症しやすいことがわかっています。

関連が指摘されている病気や状態

高血圧

糖尿病

脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い)

心筋梗塞の経験

血液中のホモシステインという物質が高い状態

特に、血液中の「ホモシステイン」という物質も注目されています。 この物質は血管を傷つけやすくするため、血流が悪くなる原因の一つです。 ある研究では、突発性難聴の方はこの値が高い傾向にあると報告されました。

ウイルス感染説

もう一つの有力な説は、ウイルスが原因ではないかという考え方です。 おたふく風邪やヘルペスなどのウイルスが、耳の奥や聞こえの神経に入り込み、 炎症を起こして聞こえを悪くさせてしまうという説です。

このほか、過労やストレス、睡眠不足なども発症に関係するといわれます。 これらは体の免疫力を下げてウイルスに感染しやすくしたり、 自律神経のバランスを乱して血の流れを悪くしたりするためです。

このように、原因は一つではなく、血流の問題やウイルス、 日々の生活習慣や心身の負担などが複雑に絡み合って起こると考えられています。

突発性難聴の症状

突発性難聴の最も大きな特徴は、その名の通り 「ある日突然、片方の耳の聞こえが悪くなる」ことです。

前日までは何ともなかったのに、 「朝起きたら聞こえなかった」 「電話中、急に相手の声が遠くなった」など、 いつ症状が始まったかをはっきり覚えている方が多いです。

難聴の程度は人それぞれで、軽いものから重いものまで様々です。 聞こえにくさ以外にも、いくつかの特徴的な症状があります。 ご自身の状態と比べてみてください。

【突発性難聴の主な症状チェック】

  • 難聴 音がこもって聞こえたり、耳に膜が張ったように感じます。 全く聞こえなくなってしまうこともあります。
  • 耳鳴り 「キーン」「ピー」というような、金属音や電子音のような 高い音が聞こえ続けることが多いです。
  • 耳閉感(じへいかん) 耳が詰まった感じや、水が入ったときのような感じがします。 自分の声が大きく響くように感じることもあります。
  • めまい 自分や周りがぐるぐる回るような、回転性のめまいです。 気持ち悪さや吐き気を伴うこともあります。

これらの症状は一度きりで、日によって良くなったり悪くなったり することはありません。手足のしびれや意識障害など、 耳以外の症状が起こらないことも、この病気の特徴です。

突然聞こえなくなるという経験は、ご本人にとって 非常に大きな不安やストレスとなります。 ある研究では、突発性難聴になった方はそうでない方と比べて、 気持ちが落ち込みやすくなる可能性が約1.6倍高くなると 報告されています。体の症状だけでなく、心のつらさを 感じることもある病気なのです。

突発性難聴の検査・診断

「突然聞こえなくなった」という不安の中、病院では何をするのでしょうか。 突発性難聴の診断は、パズルのピースを集めるように、 丁寧な問診といくつかの検査を組み合わせて行われます。

まず、いつ、どのように聞こえにくくなったかなど、詳しいお話をお伺いします。 その後、耳の中を直接見て、耳垢や中耳炎など、 他の原因がないかを確認します。

そして、診断の中心となるのが「聞こえの検査」です。 どのような検査で、何がわかるのかを見ていきましょう。

検査の種類

検査でわかること

純音聴力検査

・静かな部屋でヘッドホンをつけ、音が聞こえたらボタンを押します。

・どの高さの音が、どのくらい聞こえにくいのかを調べます。

・難聴の程度や種類を正確に判断するための基本の検査です。

血液検査

・耳の病気ですが、体の中で起きている変化を知るために行います。

・突発性難聴の方の多くで、体内の炎症を示す数値が高いことが

研究で報告されており、診断の補助や回復の見通しを立てる

目的で実施が推奨されています。

・特に白血球のバランスや、血液の固まりやすさを示す

「フィブリノーゲン」という値などを確認します。

その他の検査

・めまいがある場合:

体のバランスを調べる平衡機能検査や、目の動きを見る

眼振検査を追加することがあります。

・必要に応じて:

MRIなどの画像検査で、似た症状を起こす脳の病気が

隠れていないかを確認することもあります。

これらの検査結果を総合的に判断し、突発性難聴の診断を確定します。 正確な診断が、適切な治療への第一歩となるのです。

突発性難聴の治療

突発性難聴の治療は、時間との勝負です。 発症してから治療を始めるまでの時間が、聞こえの回復を大きく左右します。 できれば1週間以内に治療を始めることがとても大切です。

治療の基本は「安静」と「薬物治療」の2本の柱で進められます。

治療の中心はステロイド薬

現在の治療では、耳の奥で起きている炎症やむくみを抑えることが重要です。 そのために「副腎皮質ステロイド薬」という薬が中心的な役割を果たします。 この薬は、ダメージを受けた神経の回復を助ける効果が期待されています。 はじめは多めの量から使い、1〜2週間かけて徐々に量を減らしていくのが一般的です。

このほか、耳の血のめぐりを良くする薬や、神経の働きを助けるビタミン剤、 細胞のエネルギーを高める薬などを組み合わせて治療することもあります。

回復を後押しする治療法

薬の治療と合わせて、他の治療法を行うこともあります。 代表的なものに「高気圧酸素療法」があります。 これは、特殊な装置の中で濃度の高い酸素を吸う治療法です。 耳の奥のすみずみまで酸素を行きわたらせ、細胞の回復をうながします。

治療効果に影響するポイント

残念ながら、誰もが同じように回復するわけではありません。 回復の見通しは、体の状態によって変わることがわかっています。

  • めまいの有無 ある研究では、強いめまいを伴う場合、伴わない人と比べて 聴力が回復しにくい可能性が約2.3倍高くなると報告されています。
  • 持病の有無 糖尿病や高血圧などの持病がある方も、回復が難しい傾向にあります。 これらの病気は、突発性難聴の発症自体にも関わると考えられています。
  • 血液検査の結果 体の炎症の度合いや、血液の固まりやすさ(フィブリノーゲン値など)も、 回復を予測する上で重要な手がかりとなります。 そのため、治療方針の決定のために血液検査を行うことが推奨されています。

薬での治療とあわせて、ストレスを避け、十分な睡眠をとることも大切です。 心と体をしっかり休ませることが、聞こえの回復への近道となります。