斜視

片方の目が違う方向を向いてしまう「斜視」。実は、日本人の約50人に1人が該当するといわれるほど、身近な目の状態です。単なる「クセ」や「見た目の問題」だと思われがちですが、その背景には、物が二重に見えたり、奥行きが掴みにくくなったりといった生活への支障や、お子さまの場合は視力の発達が妨げられる「弱視」のリスクも隠されています。

また、特定の疾患との関連も指摘されており、自己判断は禁物です。この記事では、斜視の種類や原因、ご家庭で気づけるサインから最新の治療法までを、専門的な情報をもとに分かりやすく解説します。あなたや、あなたの大切なご家族の目の健康を守るため、まずは正しい知識から学んでいきましょう。

斜視の概要

斜視とは、片方の目は見たいものをまっすぐ捉えているのに、 もう片方の目が違う方向を向いてしまう状態のことです。 これは決して珍しいものではなく、 日本人の約50人に1人(約2%)が該当するといわれています。

目の向きがずれる方向によって、いくつかの種類に分けられます。

  • 内斜視 目が内側(鼻のほう)に寄ってしまいます。
  • 外斜視 目が外側(耳のほう)に向いてしまいます。
  • 上下斜視 目が上や下を向いてしまいます。

また、特定の疾患や発達の特性と関連して見られることもあります。 例えば、自閉スペクトラム症(ASD)のある方は、 そうでない方と比べて斜視の割合が約4.7倍高いという研究報告があります。 これは多くの研究結果を統合した、信頼性の高い分析によるものです。

斜視と似ていますが、異なる状態もあるため注意が必要です。

状態

特徴

斜視

常に、あるいは時々、片方の目が違う方向を向いている状態。

斜位

両目で見ている時は正常だが、片目を隠すと隠した目がずれる状態。

偽斜視

見かけ上は斜視に見えるが、実際には目の向きは正常な状態。

特に小さなお子さんの場合、目頭の皮膚が白目にかぶさることで、 目が内側に寄っているように見える「偽斜視」というケースもあります。 気になる症状があれば、自己判断せずに専門医に相談することが大切です。

斜視の種類

斜視とひとことで言っても、いくつかの種類に分けられます。 目の向きや症状の現れ方によって、原因や治療法も変わってきます。 そのため、どの種類の斜視なのかを正確に知ることが大切です。

まず、目がどの方向に向いているかで、大きく3つに分けられます。

目の向きによる分類

どのような状態か

内斜視(ないしゃし)

片方の目が、内側(鼻のほう)に寄っている状態です。

外斜視(がいしゃし)

片方の目が、外側(耳のほう)に向いている状態です。

上下斜視(じょうげしゃし)

片方の目が、上や下に向いている状態です。

また、症状がどのように現れるかによっても、種類が異なります。

  • 恒常性(こうじょうせい)斜視 常に目がずれている状態です。
  • 間欠性(かんけつせい)斜視 疲れた時や、ぼーっとしている時だけ目がずれる状態です。 日本人では、この間欠性の外斜視が最も多いとされています。

さらに、生まれる前の環境が影響して起こる斜視もあります。 例えば、お母さんのお腹の中にいる時のアルコールの影響で、 「胎児性アルコールスペクトラム障害(FASD)」という状態になることがあります。 複数の研究をまとめた信頼性の高い報告によると、 FASDのお子さんは、そうでないお子さんと比べて、 斜視になる割合が高いことがわかっています。

このように斜視には様々な種類があるため、 気になる症状があれば、まずは専門の医師に相談することが重要です。

斜視の原因

斜視が起こる原因は一つではありません。 目のピントを合わせる機能の問題や、 目を動かす筋肉や神経の異常など様々です。 時には全身の病気が隠れていることもあります。

お子さんの斜視では、原因がはっきりしないことも多いですが、 主に以下のようなものが考えられます。

  • 目のピント調節や視力の問題 特に強い遠視があると、ピントを合わせようと目に力を入れるため、 目が内側に寄ってしまうことがあります(調節性内斜視)。 また、片方の視力が悪いと、脳がその目を使わなくなり、 目が違う方向を向いてしまうことも原因の一つです。
  • 目を動かす筋肉や神経の問題 目を動かす筋肉や、脳から筋肉へ指令を出す神経に異常があると、 両目の動きのバランスが崩れて斜視になります。 脳の病気や頭のけがが引き金になることもあります。
  • 生まれつきの要因や発達との関連 自閉スペクトラム症(ASD)のある方は、そうでない方と比べて、 斜視の割合が約4.7倍高いという研究報告があります。 また、お母さんのお腹の中にいる間のアルコールの影響で、 「胎児性アルコールスペクトラム障害(FASD)」として、 斜視などの目の異常が起こりやすいこともわかっています。 これらは多くの研究をまとめた、信頼性の高い分析によるものです。
  • 全身の病気 大人になってから突然斜視になった場合、注意が必要です。 糖尿病や甲状腺の病気などが隠れている可能性も考えられます。

このように原因は多岐にわたるため、 目のずれに気づいたら、まずは専門医に相談することが大切です。

斜視の症状

斜視のサインは、目がずれているという見た目だけではありません。 お子さまの普段の何気ないしぐさにも隠れていることがあります。 ご自身やお子さまに当てはまるものがないか、確認してみましょう。

【斜視の主な症状チェックリスト】

  • 目の位置のずれ 片方の目が、見たい方向とは違う方を向いている状態です。 内側や外側、上下など、ずれる方向はさまざまです。
  • 物が二重に見える 右目と左目から入った情報が、脳でうまく一つになりません。 その結果、物がダブって見えてしまうことがあります。
  • 奥行きや立体感がつかみにくい 両目で物を見る力がうまく働かず、距離感がわかりにくくなります。 ある研究では、このような立体視の障害が報告されています。
  • まぶしがる・片目をつぶる 特に、外の明るい場所でまぶしそうにすることがあります。 また、片方の目だけをつぶるしぐさもサインの一つです。
  • 頭を傾けて物を見る まっすぐ見ると物が二重に見えるため、無意識のうちに、 一番見やすいように顔の角度を調整している状態です。
  • 視力が発達しない(弱視) 特に小さなお子さまの場合、注意が必要です。 斜視の目を使わないことで、視力の発達が止まってしまいます。

また、斜視の背景にある原因によっては、他の症状を伴うこともあります。 例えば、まぶたが下がってくる「眼瞼下垂(がんけんかすい)」や、 視力障害が一緒に見られることも少なくありません。 気になるサインがあれば、自己判断せず、早めに眼科を受診しましょう。

斜視の検査・診断

斜視の診断は、見た目の印象だけで判断するものではありません。 眼科での専門的な検査によって、正確に状態を把握することが大切です。 特にお子さんの場合、自分で症状をうまく伝えられないことも多いため、 客観的なデータに基づいた検査が非常に重要になります。

検査では、目の向きのズレだけでなく、視力や両目で物を見る機能など、 様々な角度から目の状態を詳しく調べていきます。

【主な検査内容】

  • 視力検査 年齢に合わせた方法で、片目ずつの視力をはかります。 斜視の目を使わないことで視力が育たない「弱視」になっていないか、 確認するためのとても大切な検査です。
  • 屈折検査 遠視や近視、乱視など、ピントを合わせる力に問題がないか調べます。 特にお子さんの内斜視では、強い遠視が原因の場合もあります。
  • 眼位検査 専用の器具を使い、目がどの方向にどれくらいズレているのか、 その角度を正確に測定する、斜視診断の中心となる検査です。
  • 両眼視機能検査 両目を使って物を立体的に見る力(立体視)が、 きちんと機能しているかを詳しく調べます。
  • 眼球運動検査 目を上下左右に動かしてもらい、目を動かす筋肉や神経の働きに、 異常がないかを確認します。

斜視の診断は、目の複雑な動きを評価する専門的な技術が求められます。 そのため、医師は診断技術を高めるために、特別な模型やコンピューターで、 トレーニングをすることもあるほどです。 これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりに合った治療を考えます。

斜視の治療

斜視の治療目標は、大きく分けて2つあります。 一つは両目で物を立体的に見る力を育てることです。 もう一つは、目の位置をまっすぐに整えることです。

治療法は一つだけではなく、原因や年齢、症状の程度に応じて、 いくつかの方法を組み合わせて行います。

治療法

どのような治療か

メガネやコンタクト

遠視や近視などが原因の場合に行う、最も基本的な治療です。ピントが合うように調整します。

プリズムメガネ

特殊なレンズで光の進む向きを変え、物が二重に見える症状を和らげることを目指します。

視能訓練

両目で見る力を鍛えるトレーニングです。特に、斜視が原因で視力が育たない「弱視」を伴う場合に重要です。

手術

目の周りにある筋肉の位置や長さを調整し、目の向きをまっすぐに整えます。

最近では、お子さんの視能訓練に新しい方法も出てきました。 ゲーム感覚で楽しく取り組めるVR(仮想現実)を用いた訓練です。 複数の研究を分析した信頼性の高い報告によると、 特に7歳未満のお子さんでは、従来の治療法よりも視力の改善に、 良い影響があることがわかっています。

また、遠視などが原因の一部の斜視では、 屈折矯正手術が選択肢になることもあります。 研究によれば、この手術は目のズレを減らす効果が期待できますが、 誰にでも合うわけではなく、専門医による慎重な判断が必要です。 どの治療法が最適か、医師とよく相談して決めていきましょう。