側弯症
鏡の前でまっすぐ立ったとき、左右の肩の高さが違う、あるいは洋服が片方にずれてしまう。そんな経験はありませんか?もしかしたら、それは単なる癖ではなく、背骨が左右に曲がってしまう「側弯症」のサインかもしれません。日本では100人に1〜2人の割合で見られ、特に思春期の女の子に多いと言われています。
側弯症の多くは、原因不明のまま痛みを伴わずに進行するため、学校検診や家族からの指摘で初めて気づくケースがほとんどです。「姿勢が悪いだけ」と軽く考えていると、変形が進み、将来的に痛みや呼吸器への影響が出る可能性も否定できません。
この記事では、ご家庭でできる簡単なセルフチェックの方法から、進行度に応じた具体的な治療法の選択肢まで、側弯症に関する情報を専門的に、そして分かりやすく解説します。ご自身や大切なご家族の体の変化を見逃さないために、まずは正しい知識を身につけましょう。
側弯症の概要
私たちの背骨は、横から見ると緩やかなS字カーブを描いています。これは、体の重みをうまく分散させるための正常な形です。しかし、正面から見たときは、まっすぐであるのが健康な状態です。
側弯症とは、この正面から見た背骨が左右に曲がってしまう病気です。単に横に曲がるだけでなく、背骨そのものがねじれてしまうことも特徴です。診断にはレントゲン写真が用いられ、背骨の曲がりの角度を「コブ角」という指標で測ります。この角度が10度以上ある場合に側弯症と診断されます。
日本では100人に1~2人ほどの割合で見られ、特に思春期の女の子に多い傾向があります。しかし、装具治療の対象となる20度以上の側弯症は0.5%程度です。ほとんどの場合は軽度で、定期的な経過観察となります。
もし曲がりが進行する場合には、装具を使った治療や手術が必要になることもあります。手術が必要になった場合でも、様々な方法が検討されます。患者さん一人ひとりの状態や手術のリスク、得られる効果を総合的に考え、最適な治療法が慎重に選ばれます。
例えば、背骨を固定する範囲をできるだけ少なくする方法など、一人ひとりのニーズに合わせたアプローチが選択されるのです。
側弯症のポイント
- 状態 正面から見て背骨が左右に曲がり、ねじれを伴う病気
- 診断 レントゲンで測る「コブ角」という角度が10度以上で診断
- 頻度 思春期の女の子に多く、100人に1~2人の割合で見られる
- 治療 経過観察、装具療法、手術があり、状態に合わせて選択する
側弯症の種類
側弯症とひとことで言っても、原因によっていくつかの種類に分けられます。 大きく分けると、背骨そのものが原因ではない「機能性側弯症」と、背骨の構造自体が変形している「構築性側弯症」の2つがあります。
一時的に曲がって見える「機能性側弯症」
機能性側弯症は、背骨自体に骨の変形などの異常はありません。 何か他の原因によって、一時的に背骨が曲がって見える状態を指します。 例えば、腰の痛みをかばう姿勢や、左右の足の長さの違いなどが原因です。 このタイプは、原因となっている問題が解決すれば、曲がりも改善することがあります。
治療の対象となる「構築性側弯症」
構築性側弯症は、背骨自体がねじれを伴って立体的に変形している状態です。 一般的に、装具や手術といった側弯症の治療が必要になるのは、このタイプです。 原因によって、さらに以下の4つに分類されます。
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種類 |
特徴 |
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特発性側弯症 |
原因がはっきりとわからない、最も多いタイプです。 側弯症全体の約80〜85%を占め、特に思春期の女の子に多く見られます。 曲がり方のパターンによって、さらに細かく分類されます。 |
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先天性側弯症 |
生まれつき、背骨の骨(椎骨)の形に異常があることが原因で起こります。 |
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神経筋原性側弯症 |
脳性まひなど、神経や筋肉の病気が原因です。 背骨をまっすぐに支える力が弱くなることで発症します。 |
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症候性側弯症 |
マルファン症候群といった、他の病気が背景にあります。 その病気の一つの症状として、背骨が曲がってしまいます。 |
このように、側弯症の種類を正しく見極めることが非常に大切です。 どのタイプかによって、今後の経過や治療方針が大きく変わるからです。 気になることがあれば、自己判断せずに専門の医師に相談しましょう。
側弯症の原因
側弯症がなぜ起こるのか、その原因は一つではありません。 実は、側弯症と診断される方のうち、最も多いのは原因不明のタイプです。
全体の約80〜85%を占める「特発性(とくはつせい)側弯症」がこれにあたります。 「特発性」とは、現在の医学では原因をはっきりと特定できない、という意味です。 特に思春期の女の子に多く見られる傾向があり、まだ研究段階にあります。 しかし最近の研究では、いくつかの遺伝子が関係している可能性も指摘されています。
一方で、原因がわかっている側弯症もあり、主に以下のようなものがあります。
- 生まれつき背骨の形に問題がある
- 先天性側弯症と呼ばれ、胎児のときから背骨の骨(椎骨)の形に異常があることが原因です。
- 神経や筋肉の病気によるもの
- 脳性まひなどの病気で、背骨をまっすぐに支える神経や筋肉の力が弱まることが原因です。
- 他の病気の一つの症状として現れる
- マルファン症候群のように、体の結合組織がもろくなる病気などが背景にある場合です。
「姿勢が悪いと側弯症になりますか?」とよく質問されます。 いわゆる猫背などの悪い姿勢が、直接的に特発性側弯症を引き起こすという医学的な証拠はありません。 しかし、腰の痛みなどをかばう姿勢が、一時的に背骨を曲げることはあります。
このように側弯症の原因は多岐にわたるため、自己判断は禁物です。 気になることがあれば、必ず専門の医師に相談してください。
側弯症の症状
側弯症のサインは、背骨が曲がっているからといって、すぐに痛みとして現れるわけではありません。 特に初期の段階では痛みを感じないことがほとんどです。 そのため、ご本人も気づかないまま進行してしまうことも少なくありません。 学校の検診やご家族から見た目の変化を指摘されて、初めて気づくというケースが一般的です。
日常生活の中で、以下のようなサインがないか確認してみましょう。 一つでも当てはまる場合は、専門医への相談をおすすめします。
【ご家庭でできる側弯症チェックリスト】
- 肩の高さの左右差 まっすぐ立ったときに、左右の肩の高さが違って見えます。
- 肩甲骨の出っ張り 背骨のねじれにより、片方の肩甲骨が後ろに突き出て目立ちます。
- ウエストラインの非対称 腰のくびれの位置や深さが、左右で異なって見えます。
- 体の傾き まっすぐ立っているつもりでも、体が左右どちらかに傾いているように見えます。
- 洋服の着こなしの違和感 スカートが自然に回ってしまったり、ブラウスの裾の長さが左右で違ったりします。
ご家庭で簡単にできるチェック方法として「前屈テスト」があります。 お子さんに気をつけの姿勢から、両手を合わせてゆっくりお辞儀をしてもらってください。 背中側から見たときに、背中や腰のどちらか片側が盛り上がって見える場合は、側弯症の可能性があります。
背骨の変形が進行すると、見た目の変化だけでなく、体に不調が現れることもあります。
- 痛みやしびれ 背骨の曲がりが筋肉や関節に負担をかけ、腰や背中に痛みを感じることがあります。 さらに神経が圧迫されると、足にしびれが出ることもあります。
- 疲れやすさ 体のバランスが崩れるため、長時間立ったり座ったりすることがつらくなります。
- 呼吸器への影響 まれですが、胸の変形が重度になると胸郭(きょうかく)が肺を圧迫します。 これにより、運動時に息切れしやすくなることがあります。
痛みがないからと放置せず、見た目の変化に気づいたら、早めに専門医に相談することが大切です。
側弯症の検査・診断
学校の検診で紙をもらったり、ご家族から指摘されたりすると、どんな検査をするのか不安になりますよね。 側弯症の診断は、背骨の状態を正しく知るためにとても大切で、いくつかの段階を踏んで丁寧に行われます。
ステップ1:目で見て、話を聞く「診察」 まず、医師が患者さんの体を直接見て、背骨の状態を確認します(視診)。 ご家庭でのチェックリストと同じように、以下の点などを注意深く観察します。
- 肩の高さに左右差はないか
- 肩甲骨の出っ張りが左右で違わないか
- ウエストラインが非対称になっていないか
特に重要なのが「前屈テスト」です。 両足をそろえて立ち、ひざを伸ばしたままゆっくりお辞儀をしてもらいます。 背骨にねじれがあると、肋骨(ろっこつ)や腰の高さに左右差が生まれます。 この盛り上がりは、側弯症の診断における重要なサインです。
ステップ2:背骨の写真を撮る「画像検査」 診察で側弯症が疑われた場合、診断を確定するために画像検査を行います。
- レントゲン(X線)検査 立った状態で背骨全体の正面と側面の写真を撮影します。 重力がかかった状態での、ありのままの背骨の曲がり具合を見るためです。 この写真から「コブ角」という角度を測り、曲がりの程度を客観的に評価します。 この角度が10度以上ある場合に、側弯症と診断されます。
- MRI検査・CT検査 必要に応じて、より詳しい検査を行うこともあります。 レントゲンが骨の形を見る検査であるのに対し、MRI検査は背骨の中を通る大切な神経(脊髄)の状態を見るのに役立ちます。 生まれつきの骨の異常や、神経の病気などが隠れていないか調べるために重要です。
これらの検査結果を総合的に判断し、側弯症の種類や重症度を正確に診断します。 その上で、一人ひとりに合った今後の治療方針を一緒に考えていきます。
側弯症の治療
側弯症の治療法は、背骨が曲がっている角度(コブ角)が重要です。 それに加えて、年齢や骨の成長がどの段階にあるかを総合的に判断します。 治療の選択肢は、主に以下の3つに分けられます。
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治療法 |
コブ角の目安 |
対象となる方の特徴 |
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経過観察 |
約25度以下 |
曲がりが軽度な方 骨の成長がほぼ終わっている方 |
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装具治療 |
約25度〜40度 |
骨の成長がまだ続いている方 |
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手術療法 |
約40〜50度以上 |
骨の成長に関わらず曲がりが大きい方 今後も進行が予測される方 |
経過観察
背骨の曲がりが比較的小さい場合、すぐに治療は開始しません。 定期的にレントゲン検査を行い、カーブが進行しないかを確認します。 骨の成長がほぼ止まっていれば、進行のリスクも低くなります。
装具治療
骨の成長期にカーブの進行が見られる場合に選択される治療法です。 コルセットのような装具を装着し、カーブが悪化するのを防ぎます。 入浴や体育の時間を除き、基本的に一日中着けることが大切です。
手術療法
手術の最も重要な目的は、カーブの進行を確実に止めることです。 骨の成長が終わっていても、カーブが大きい場合は手術が検討されます。 将来の肺機能の低下や、腰・背中の痛みを防ぐことにも繋がります。
手術には、体のどこからアプローチするかで、いくつかの方法があります。
- 背中側から治す方法(後方法) 背中側から金属の棒やネジで背骨を矯正し、固定します。
- 体の横から治す方法(前方法) わき腹などを切開し、背骨の前方から矯正・固定します。
ある研究報告によると、どちらの方法も背骨をまっすぐにする効果は同程度とされています。 前方法は固定する背骨の数を少なくできる可能性があります。 しかし、後方法に比べて手術時間や入院期間が長くなる傾向があります。 どちらが最適かは、患者さんのカーブの状態やリスクを総合的に判断し、医師が慎重に決定します。





