X染色体連鎖性低リン血症性くる病

「うちの子、少しO脚気味かも」「周りの子より背が低い気がする」。そんなお子さんの成長に関する心配は、単なる個人差ではないかもしれません。その背景には、「X染色体連鎖性低リン血症性くる病(XLH)」という、約2万人に1人が発症する遺伝性の病気が隠れている可能性があります。

この病気は、体の設計図である遺伝子の変化によって、骨の重要な栄養素「リン」が尿へと過剰に流れ出てしまうことが原因です。骨の変形や成長の遅れだけでなく、患者のお子さんの約5人に1人に頭の骨の合併症が見られるというデータもあり、早期の発見がとても重要になります。

この記事では、見過ごされがちなXLHの症状から診断方法、そして根本原因に働きかける新しい治療法までを詳しく解説します。大切な我が子の健やかな成長を守るために、まずは病気に関する正しい知識を身につけましょう。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の概要

X染色体連鎖性低リン血症性くる病は、体の設計図である遺伝子の変化で起こる病気です。英語の頭文字をとって「XLH」とも呼ばれます。

この病気の一番の特徴は、骨や歯を丈夫にする「リン」という大切な栄養素が、腎臓の働きによって尿と一緒に体外へ過剰に排出されてしまうことです。その結果、血液の中のリンが足りない状態(低リン血症)に陥ります。

リンが不足すると、骨が十分に硬くなることができず、体に次のような影響が出ることがあります。

  • 足の骨の変形 歩き始める頃から、O脚やX脚のように足が曲がってしまうことがあります。
  • 身長の伸びが遅い 骨が正常に成長しにくいため、同年代の子どもと比べて身長が低くなる傾向があります。
  • 骨や関節の痛み 骨がもろくなることで、痛みを感じやすくなります。

特に、この病気のお子さんでは、頭の骨の成長に注意が必要です。赤ちゃんの頭の骨が予定より早くくっついてしまう「頭蓋縫合早期癒合症」という状態が起こりやすいことがわかっています。

複数の研究をまとめて分析した信頼性の高い報告によると、この病気のお子さんのうち約22%(およそ5人に1人)に頭蓋縫合早期癒合症が見られました。これは、一般のお子さん(約2100〜2500人に1人)と比べて、非常に高い確率です。

この病気は、およそ2万人に1人の割合で見られると考えられています。骨や成長に関する気になる症状があれば、専門医に相談することが大切です。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の種類

「くる病」という言葉は、骨がもろくなる病気の総称です。 骨がうまく硬くなれない(石灰化しない)状態を指します。 その原因は一つではなく、いくつかの種類に分けられます。

原因によって、治療法も変わるため、分類はとても大切です。 くる病は、大きく次の2つのタイプに分けられます。

  • 後天性のくる病 生まれた後の生活習慣などが原因で起こるタイプです。 食事で摂るカルシウムやビタミンDが足りないことが、 主な原因として知られています。
  • 遺伝性のくる病 生まれつき持っている体の設計図(遺伝子)の問題で起こります。 X染色体連鎖性低リン血症性くる病(XLH)はこのタイプです。

さらに、遺伝性のくる病は、体の仕組みのどこに問題があるかによって、さらに細かく分類されます。

  • カルシウムの利用に問題があるタイプ カルシウムを体に吸収したり、うまく使ったりする機能に、 遺伝的な問題があるくる病です。
  • リンの調節に問題があるタイプ リンを体の中に保つ仕組みに問題があるくる病です。 XLHは、このタイプに含まれます。

XLHは「遺伝性」であり、特に腎臓からリンが尿に漏れ出てしまうことで、血液の中の「リンが不足する」病気なのです。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の原因

この病気は、体の設計図である遺伝子の一つに変化が起きることで発症します。 原因となるのは「PHEX(フェックス)」という名前の遺伝子です。

このPHEX遺伝子は、性別を決めるX染色体の上にあります。 PHEX遺伝子には、あるホルモンの量を調節する大切な役割があります。

そのホルモンは「FGF23」と呼ばれています。 FGF23は、骨の材料になる「リン」の量を調整する司令塔です。

しかし、PHEX遺伝子に変化が起きると、FGF23が過剰に作られます。 その結果、腎臓へ「リンを体外に排出しなさい」という命令が出続けてしまいます。

私たちの腎臓には、体に必要なリンを回収するための入口があります。 この入口は「リン酸輸送体」と呼ばれ、数種類あることが知られています。

過剰なFGF23は、このリン酸輸送体の働きを邪魔します。 すると、大切なリンが尿と一緒にどんどん体の外へ出て行ってしまうのです。 研究では、この輸送体の機能が失われると、くる病の他に腎臓に石ができるリスクも高まる可能性が示唆されています。

病気が起こる仕組みを、段階を追って見ていきましょう。

  • ステップ1:PHEX遺伝子の変化 体の設計図の一部に、生まれつき変化が起きます。
  • ステップ2:FGF23ホルモンの過剰 リンを調節するホルモンが、必要以上に作られます。
  • ステップ3:腎臓でのリン再吸収の低下 リンを取り込む入口の働きが邪魔されます。
  • ステップ4:血液中のリンが不足する リンが尿に漏れ出て、体の中のリンが減ります。
  • ステップ5:骨がもろくなる 骨の材料が足りず、丈夫な骨を作れなくなります。

このように、遺伝子の変化から始まる一連の流れが原因となります。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の症状

この病気の症状は、骨や歯を中心に全身にあらわれます。 症状のあらわれ方は、年齢によっても少しずつ変わります。

子どもにあらわれやすい症状

多くの場合、歩き始める1歳から2歳ごろに気づかれます。 骨の成長に関わる、次のような症状が特徴的です。

  • 足の変形(O脚・X脚) 体重を支える足の骨が、リン不足で柔らかいために、 重さに耐えきれずO脚やX脚のように曲がってしまいます。
  • 身長が伸びにくい(成長障害) 骨の端には「成長板」という、骨を伸ばす工場があります。 この病気では成長板の働きが悪くなるため、身長が伸びにくくなります。
  • 頭の骨が早くくっつく(頭蓋縫合早期癒合症) 赤ちゃんの頭の骨は、脳の成長のため隙間が開いています。 この隙間が予定より早くくっついてしまう状態です。 複数の研究報告をまとめた分析によると、 この病気のお子さんの約22%に見られたと報告されています。 これは一般のお子さんと比べて、非常に高い確率です。

大人になってからの症状

子どもの頃からの症状に加えて、次のような問題も起こります。 骨がもろくなる「骨軟化症」が、様々な症状を引き起こします。

  • 骨や関節の痛み 骨が柔らかくなることで、体をうまく支えられなくなり、 腰や背中、足の関節などに慢性的な痛みを感じやすくなります。
  • 骨にヒビが入りやすい(偽性骨折) はっきりとしたケガがなくても、日常のささいな動きで、 骨にヒビが入ってしまう「偽性骨折」を起こしやすくなります。
  • 関節が動かしにくい 関節の周りにある靭帯や腱にカルシウムがたまり、 硬くなることがあります(石灰化)。 その結果、関節の動きが悪くなることがあります。

骨だけでなく歯にも影響

この病気は骨だけでなく、同じくリンを必要とする歯にも影響します。 研究でも、骨と歯の両方に広く影響が出ることがわかっています。 そのため、歯の根元に膿がたまるなどのトラブルが起きやすいです。 まれに、音が聞こえにくくなる難聴を伴うこともあります。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の検査・診断

この病気の診断は、一つの検査だけで決まるわけではありません。 問診や診察、様々な検査結果をパズルのように組み合わせます。 そうして全体像を見て、慎重に判断することが大切です。 早期の診断は、適切な治療を始めるために非常に重要です。

まず、医師はお子さんの様子を詳しく見て、お話を聞きます。 O脚や身長の伸び悩みなど、見た目でわかるサインを確認します。 その上で、診断のために次のような検査を段階的に進めます。

  • 血液検査 体の中のSOSサインを見つける、とても重要な検査です。 血液を調べることで、次のような特徴がわかります。 ・骨の材料である「リン」が少ないこと ・骨が悲鳴をあげているサイン(ALPという数値が高い) ・リンを追い出す命令を出しすぎるホルモン(FGF23)が多いこと
  • 尿検査 腎臓という「ざる」から、大切なリンが漏れていないか調べます。 この病気では、本来体に戻るはずのリンが尿に多く出てしまいます。
  • 画像検査(レントゲン) 骨の形を直接写真に撮って、くる病特有の変化を確認します。 足の骨の曲がり具合や、骨の成長部分の形を見ます。

これらの検査で病気が強く疑われると、診断を確定させます。 研究でも、臨床症状や検査結果、画像検査の情報を総合的に判断することが、 正しい診断には不可欠だと示されています。

最終的な診断のために、遺伝子検査を行うことがあります。 原因となるPHEX遺伝子の変化を直接確認するための検査です。

また、より詳しく骨の状態を評価するために、 骨の一部を採って調べる「骨生検」を検討することもあります。 骨の硬さ(石灰化)が足りない状態を、 顕微鏡レベルで直接確認できる、とても信頼性の高い検査です。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の治療

この病気の治療の大きな目標は、血液中のリンの量を正常に保つことです。 これにより、骨の変形を防いで痛みを和らげ、お子さんの健やかな成長を支えます。 治療の主役は薬ですが、アプローチの仕方が異なる2つの方法があります。

従来の治療法(飲み薬)

体の中から失われていくリンを、直接おぎなう治療法です。 次の2種類の飲み薬を組み合わせて、治療を進めます。

  • リン酸製剤 不足しているリンそのものを、お薬として飲みます。
  • 活性型ビタミンD製剤 飲んだリンが、腸から体に吸収されるのを助けるお薬です。

この方法は、体から出ていってしまう分を、口から一生懸命に補充するイメージです。 しかし、1日に何回も薬を飲む必要があり、患者さんの負担になることもあります。 また、長期間の服用で腎臓に負担がかかる可能性にも注意が必要です。

新しい治療法(注射薬)

病気の根本原因に直接働きかける、比較的新しい治療法です。 この病気では「FGF23」というホルモンが、腎臓に過剰な命令を出しています。 その結果、大切なリンが尿と一緒にどんどん捨てられてしまいます。

そこで使われるのが「抗FGF23抗体薬」という注射薬です。 このお薬は、FGF23の働きをピンポイントで抑え込みます。 これにより、腎臓からリンが漏れ出るのを防ぎ、体内のリン濃度を正常に保ちます。

治療法

従来の治療(飲み薬)

新しい治療(注射薬)

薬の種類

・リン酸製剤<br>・活性型ビタミンD製剤

・抗FGF23抗体薬

目的

失われたリンを、外から補う

リンが失われる原因を、元から断つ

特徴

1日に数回、薬を飲む必要がある

2〜4週間に1回程度の注射で済む

このように、リンの量をコントロールする研究は常に進んでいます。 新しい治療法の登場は、患者さんの選択肢を増やし、生活の質の向上につながります。

その他の治療

骨の変形が日常生活に大きく影響する場合は、手術を検討することもあります。 O脚やX脚を矯正し、まっすぐな骨に戻すための手術です。 また、お子さんで身長の伸びが特に遅れている場合には、 成長を促すための成長ホルモン治療を併用することもあります。

どの治療法が最適かは、患者さん一人ひとりの状態によって異なります。 医師とよく相談し、納得のいく治療法を選んでいきましょう。