乾癬性関節炎
長引く皮膚の症状に加え、原因不明の関節痛に悩んでいませんか?その二つの不調は、実は「乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)」という一つの病気が原因かもしれません。これは、皮膚の病気である「乾癬」と関節の痛みが同時にあらわれる病気です。
日本では乾癬の患者さんが約50万〜60万人いるとされ、そのうち1〜2割の方に関節炎がみられます。決して珍しい病気ではなく、単に関節が痛むだけでなく、糖尿病や腎臓病といった全身の健康をおびやかす合併症につながることもあるため、早期の発見が重要です。
この記事では、見過ごされがちな乾癬性関節炎の症状や原因、診断、最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、適切な対処法を見つける一助としてください。
乾癬性関節炎の概要
乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)とは、皮膚の病気である「乾癬」と、関節の腫れや痛みを伴う「関節炎」が同時にあらわれる病気です。
日本では乾癬の患者さんが約50万〜60万人いるとされ、そのうち1〜2割の方に関節炎がみられます。決して珍しい病気ではなく、30代〜50代の方に発症することが多いです。
この病気は皮膚や関節だけでなく、全身の健康に影響を及ぼすことがあります。そのため、下記のような他の病気を合併することにも注意が必要です。
注意したい主な合併症の例
- メタボリック症候群 高血圧や糖尿病、脂質異常症などが含まれます。
- 慢性腎臓病(CKD) ある研究では、乾癬性関節炎の患者さんの約1割が慢性腎臓病を合併しているとの報告もあります。
- ぶどう膜炎 目の炎症が起こる病気です。
- 炎症性腸疾患 おなかの病気で、下痢や腹痛が続きます。
特に腎臓の病気は注意が必要です。ある研究では、乾癬性関節炎の患者さんの9.2%が慢性腎臓病を合併していたと報告されています。糖尿病や腎結石などがあると、発症リスクがさらに高まることもわかっています。
このように、乾癬性関節炎は全身の病気と捉えることが大切です。皮膚や関節の症状だけでなく、全身の状態を総合的に管理していく必要があります。
乾癬性関節炎の種類
乾癬性関節炎は、症状があらわれる場所や関節の数で分類されます。 どの関節に炎症が起きるかによって、主に5つのタイプに分けられます。 これらの特徴を、複数あわせ持って発症することも珍しくありません。
- 遠位関節型(えんいかんせつがた) 指の一番先にある関節(DIP関節)に腫れや痛みが出ます。 爪に乾癬の症状がある方は、このタイプを合併しやすいです。
- 多関節炎型(たかんせつえんがた) 5つ以上の多くの関節に炎症が起きるタイプです。 症状のあらわれ方が、関節リウマチに似ていることがあります。
- 少数関節炎型(しょうすうかんせつえんがた) 炎症が起きる関節が4つ以下と少ないのが特徴です。 体の左右どちらか片側に症状が出ることが多いです。
- ムチランス型 関節の破壊や骨の変形が著しく進んでしまうタイプです。 進行すると、指が短くなったように見えることもあります。
- 脊椎炎型(せきついえんがた) 背骨や骨盤の関節(仙腸関節)といった体の中心部に炎症が起きます。 「休むと痛み、動かすと楽になる」という特徴的な腰痛が出ます。
乾癬性関節炎は「血清反応陰性脊椎関節炎(SpA)」という病気のグループの一つです。 SpAの患者さんが人工股関節の手術を受けると、合併症のリスクが高まることが研究で示されています。 しかし、その中でも乾癬性関節炎の患者さんは、手術後に股関節が外れたり骨折したりするリスクは比較的低いと報告されています。 このように、ご自身のタイプを知り、適切な管理を受けることが大切です。
乾癬性関節炎の原因
乾癬性関節炎のはっきりとした原因は、まだ完全にはわかっていません。 しかし、いくつかの要因が複雑にからみあって発症すると考えられています。
主な原因は、体を守るための「免疫」という仕組みの異常です。 何らかのきっかけで免疫システムが誤作動を起こします。 そして、自分自身の皮膚や関節を攻撃し、炎症を引き起こすのです。
特に、体の中で炎症を強める「サイトカイン」が過剰に作られます。 この全身に広がる炎症が、病気の根本にあると考えられています。 近年の研究では、この炎症を抑える治療が他の病気のリスクを減らす可能性も示されています。 例えば、乾癬性関節炎を含む自己免疫疾患の患者さんが、抗TNF療法や抗IL-17療法という治療で全身の炎症を抑えると、パーキンソン病の発症リスクが低下したという報告もあります。 このことは、全身の炎症を管理することがいかに重要かを示唆しています。
また、発症には以下の要因も関わるとされています。
- 遺伝的な要因 病気そのものが遺伝するわけではありません。 しかし、ご家族に乾癬の方がいると発症しやすい傾向があります。 日本人では、親が乾癬の場合に子供が発症する確率は約5%とされ、病気になりやすい体質が関わると考えられています。
- 環境的な要因 もともと持っている体質に、以下のような要因が加わることで発症の引き金になると考えられています。
- ストレス 心身への過度な負担が、免疫のバランスを乱すことがあります。
- 肥満や偏った食生活 体の中で、炎症が起きやすい状態を作ってしまう可能性があります。
- 喫煙 免疫の働きに悪影響を与え、症状を悪化させる一因です。
- 感染症 ウイルスや細菌への感染が、免疫の誤作動のきっかけになります。
- けが 皮膚や関節への物理的なダメージが引き金になることもあります。
このように、乾癬性関節炎は免疫の異常が原因の病気です。 そのため、他の人にうつる(感染する)ことは決してありません。
乾癬性関節炎の症状
乾癬性関節炎では、皮膚や関節、爪など全身に多彩な症状が現れます。 症状の出方は人それぞれで、皮膚症状が先に出ることもあれば、逆に関節の痛みが先行することもあります。
以下のチェックリストで、ご自身の症状を確認してみましょう。 一つでも当てはまる場合は、専門医への相談をおすすめします。
<乾癬性関節炎の主な症状チェックリスト>
- 関節の症状
- 指の関節の腫れや痛み 特に、爪に近い指の第一関節(DIP関節)が腫れて痛みます。 爪に乾癬の症状がある方は、この関節炎を合併しやすい傾向があります。
- 背中や腰、おしりの痛み じっとしていると痛みが強くなり、動かすと楽になるのが特徴です。 これは「炎症性腰痛」と呼ばれ、単なる腰痛とは異なります。
- その他の関節の痛み 手首、ひじ、ひざ、足首など、比較的大きな関節にも症状が出ます。
- 関節以外の症状
- 指全体の腫れ(指炎) 手や足の指一本が、全体的に赤く腫れあがることがあります。
- 腱や靱帯の付け根の痛み(付着部炎) アキレス腱の付け根やかかと、あばらの骨などが痛みます。 腱や靱帯が骨にくっつく部分で炎症が起きている状態です。
- 爪の変化 爪が厚くなる、表面に小さなへこみができる、色が濁る、爪がはがれるなどの変化が見られます。
- 目の症状(ぶどう膜炎) 目が充血する、視界がかすむ、痛みを感じるなどの症状が出ます。
これらの症状の現れ方や治療への反応は、男女で違いがある可能性も指摘されています。 ある研究では、治療法の選択や治療満足度などに性別による差がみられると報告されました。 性別による違いを考慮した個別化された医療が重要と考えられています。 気になる症状は、ささいなことでも医師にしっかり伝えることが大切です。
乾癬性関節炎の検査・診断
乾癬性関節炎の診断は、パズルのピースを組み合わせるように丁寧に行います。 皮膚の症状と関節の症状を、総合的にみて判断する必要があるのです。
ご自身で皮膚の変化に気づいていなかったり、逆に関節の痛みが先に現れたりします。 そのため、診断が難しい場合もある病気です。
診断のためには、まず問診で症状について詳しくお聞きします。
- いつから、どの関節が痛みますか?
- 皮膚に気になる症状はありますか?(頭皮や爪の変化なども含みます)
- ご家族に乾癬と診断された方はいますか?
その後、診断を確定させるために、次のような検査を行います。
- 血液検査 体の中で炎症がどのくらい起きているかを調べます。 また、症状が似ている関節リウマチなどの病気ではないかを確認します。
- 画像検査 レントゲンや関節エコー、MRIといった機械を使います。 関節の骨に変化がないか、腱が骨にくっつく部分に炎症がないかなどを詳しく見ます。
診断の際には、国際的な分類基準(CASPAR分類基準)も参考にします。 以下の項目を点数化し、合計3点以上で乾癬性関節炎と診断する助けになります。
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評価項目 |
点数 |
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皮膚の症状 |
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現在、乾癬にかかっている |
2点 |
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過去に乾癬にかかっていた、または家族に乾癬の人がいる |
各1点 |
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爪の症状 |
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爪が剥がれる、点状のへこみなどがある |
1点 |
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指の腫れ(指炎) |
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指全体がソーセージのように腫れている |
1点 |
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その他 |
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血液検査でリウマチ因子が陰性(関節リウマチではない) |
1点 |
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レントゲン検査で関節の近くに新しい骨ができている |
1点 |
乾癬と診断された方の中には、将来の関節炎を心配される方もいるかもしれません。 「乾癬の治療薬(生物学的製剤)で関節炎を予防できるか」も研究されています。 いくつかの研究では、関節炎になるリスクが低くなったと報告されました。 しかし、大規模な研究では、その結果は支持されませんでした。
このように、まだはっきりとした結論は出ていないのが現状です。 そのため、現時点では関節炎の予防だけを目的として、このお薬を使うことは推奨されていません。 気になる症状があれば、まずは専門医に相談することが何よりも大切です。
乾癬性関節炎の治療
乾癬性関節炎の治療目標は、大きく分けて2つあります。 一つは、つらい皮膚や関節の症状を和らげることです。 もう一つは、関節が壊れてしまうのを防ぎ、生活の質を守ることです。
治療は、症状や進行度に合わせて段階的に進めるのが一般的です。 お薬を中心に、あなたに合った治療法を一緒に探していきます。
治療の基本となるお薬
治療の基本は、お薬を使った薬物療法です。 症状に応じて、以下のようなお薬を組み合わせて使います。
- 非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs) まず使われることが多い、痛みや腫れを和らげるお薬です。 炎症を抑える作用がありますが、病気の進行そのものを止める力は弱いです。
- 疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs) 病気の活動性そのものを抑える働きがあるお薬です。 NSAIDsで効果が不十分な場合などに検討されます。 関節が壊れていくのを防ぐ効果が期待できます。
- 生物学的製剤・JAK阻害薬 炎症を引き起こす原因物質をピンポイントで抑えるお薬です。 DMARDsで効果が不十分な場合や、症状が重い場合に用います。 高い効果が期待できる反面、費用が高額になることがあります。
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薬の種類 |
どんな働き? |
どうやって使う? |
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生物学的製剤 |
炎症の原因物質(サイトカイン)の働きをブロックする |
点滴、皮下注射 |
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JAK阻害薬 |
細胞の中で炎症の信号が伝わるのをブロックする |
飲み薬 |
生物学的製剤で乾癬の治療を行うと、将来の関節炎を予防できるかという研究も行われました。 いくつかの研究では、関節炎になるリスクが低くなったと報告されています。 しかし、より大規模な研究では、はっきりとした予防効果は確認できませんでした。
このように、まだ研究結果が一致していないのが現状です。 そのため、現時点では関節炎の「予防のためだけ」にこのお薬を使うことは推奨されていません。 あくまで、発症してしまった関節炎の症状を抑えるための治療として使われます。
このほか、皮膚の症状には塗り薬や光線療法なども行います。 どの治療法を選ぶかは、あなたの症状や体の状態、生活スタイルなどを考え、専門医とよく相談して決めていくことが何よりも大切です。





