原発性骨髄線維症

原因不明のだるさや寝汗、お腹の張り。もし、あなたがそんな症状に心当たりがあるなら、それは単なる体調不良ではないかもしれません。血液をつくる工場である「骨髄」が、まるで石のように硬くなってしまう「原発性骨髄線維症」という病気の可能性があります。

これは血液のがんの一種で、日本では年間約380人が新たに診断されるまれな疾患ですが、決して他人事ではありません。特に60代以上で発症しやすいとされています。

この記事では、病気の原因となる遺伝子の変化から、ご自身の体を守るための最新の治療法までを詳しく解説します。不安を安心に変えるための第一歩として、ご自身の状態と照らし合わせながら読み進めてみてください。

原発性骨髄線維症の概要

原発性骨髄線維症は、少し難しい名前の病気です。 血液をつくる工場である「骨髄」が硬くなってしまいます。 まるでスポンジが石のようにカチカチになるイメージです。

骨髄は普段、赤血球や白血球などの血液細胞をつくります。 しかし、線維化という現象で骨髄が硬くなると、 正常な血液を十分につくれなくなってしまうのです。 代わりに、お腹の脾臓(ひぞう)が血液をつくろうとします。 その結果、脾臓が大きくなることも特徴的な変化です。

この病気は血液のがんの一種で、比較的まれな疾患です。 日本では1年間に約380人が新たに診断されると推定されます。 主に60代で発症し、男性のほうがかかりやすい傾向にあります。

この病気の診断は、血液検査や骨髄生検などで行います。 骨髄生検とは、骨髄の組織を少しだけ採って調べる検査です。 専門家の間では、常に診断基準の見直しが行われています。 特に、骨髄の状態をくわしく調べることが重要とされます。

原発性骨髄線維症のポイント

  • 血液をつくる場所の異常 骨髄が硬くなること(線維化)
  • 血液への影響 正常な血液細胞が減り、貧血などの症状が出やすくなる
  • 他の臓器への影響 骨髄の代わりに、脾臓が大きくなることがある

原発性骨髄線維症の種類

骨髄線維症は原因によって2つに分けられます。 ほかの血液の病気がもとで起こる「二次性」に対し、 とくに原因となる病気がないものを「原発性」と呼びます。

この原発性骨髄線維症は、病気の進行度合いによって、 さらに2つの段階に分類されることがとても重要です。 血液工場である骨髄の線維化(硬くなること)の進み方で区別します。

前線維化期(ぜんせんいかき)

骨髄の線維化がまだ軽度か、ほとんどみられない初期段階です。 症状がはっきりしないため、ほかの病気と区別が難しい場合があります。 専門家の間では、より正確な診断のため基準が常に検討されています。 そのため骨髄を直接調べる検査(骨髄生検)が非常に重要になります。

顕性線維化期(けんせいせんいかき)

病気が進行し、骨髄の線維化がはっきりと進んでしまった段階です。 研究により、この段階では体内で炎症や線維化を進める細胞の働きが、 より活発になることがわかっています。 また、血液細胞間の情報伝達も変化し、病気の進行に影響します。

2つの段階の特徴を、以下の表にまとめました。

段階

骨髄の状態

特徴

前線維化期

線維化は軽度か、ほとんどない

病気の初期段階。ほかの病気との区別がとても重要になる。

顕性線維化期

線維化がはっきりと進んでいる

体内で炎症や線維化が活発化し、症状が出やすくなる。

ご自身の病状がどの段階にあるかを正確に把握することが、 今後の治療方針を決めるうえで非常に大切です。

原発性骨髄線維症の原因

この病気の主な原因は、遺伝子の後天的な変化です。 血液をつくる大元の細胞(造血幹細胞)の遺伝子に、 生まれた後に何らかの変化が起こることで発症します。 親から子へ受け継がれる病気ではありません。

私たちの体には、血液の量を適切に保つ司令塔がいます。 それがJAK2などの遺伝子です。 しかし、この司令塔の遺伝子に変化が起こると、 命令が暴走し、異常な血液細胞が過剰に作られます。

原因となる主な遺伝子の変化は、以下の3つです。

遺伝子の名前

変化がみられる方の割合

JAK2(ジャックツー)遺伝子

約50~60%

CALR(カルレティキュリン)遺伝子

約20~30%

MPL(エムピーエル)遺伝子

約3~5%

研究では、増えすぎた異常な細胞が、 まわりに炎症や線維化を進める物質を出すとされます。 病気が進行するほど、このサインは強くなっていきます。

また、JAK2遺伝子の変化は血液を固まりやすくします。 そのため、血管に血の塊(血栓)ができることがあります。 実際に脳の血管が詰まる病気のリスクを高めることも、 研究で指摘されており注意が必要です。

原発性骨髄線維症の症状

原発性骨髄線維症の症状は、人によってさまざまです。 病気の初期段階である「前線維化期」では、 はっきりとした症状が出ないことも珍しくありません。

しかし病気が進むと、体の中で炎症などが強くなります。 研究でも、進行するほど炎症や線維化のサインが増え、 体に様々な変化が現れることがわかっています。 ご自身の体のサインを見逃さないことが大切です。

<症状のチェックリスト>

  • 全身にあらわれる症状 原因のわからない37.5度以上の熱が続くことや、 寝ている間にぐっしょりと汗をかくことがあります。 また、半年で5%以上の体重減少もサインです。
  • 貧血による症状 酸素を運ぶ赤血球が減ることで起こります。 少し動いただけでも息切れや動悸がしたり、 体がだるく、疲れやすいといった状態が続きます。
  • 脾臓(ひぞう)が大きくなることによる症状 お腹が張って苦しい感じがしたり、 左のわき腹あたりに痛みを感じることがあります。

特に注意したいのが、血の塊(血栓)ができやすくなることです。 血液の設計図であるJAK2遺伝子に変化が起きていると、 血栓症のリスクが高まることが研究で指摘されています。 実際に、脳の血管に血栓ができる病気が見つかることもあります。

この場合、これまでにない激しい頭痛や吐き気、 視界がかすむといった症状につながる可能性があります。 気になる症状があれば、自己判断せず医療機関へご相談ください。

原発性骨髄線維症の検査・診断

原発性骨髄線維症の診断は、一つの検査だけで決まるわけではありません。 血液や画像、遺伝子、骨髄の検査結果をパズルのように組み合わせ、 総合的に判断することが非常に重要です。 診断はWHO(世界保健機関)などが定める国際的な基準にもとづき、 専門の医師が慎重に行います。

  • 血液検査 血液中の赤血球や白血球、血小板の数を調べます。 貧血の有無や、本来は骨髄にいるはずの未熟な血液細胞が、 血液中に流れ出ていないかなどを確認します。
  • 画像検査 お腹の超音波(エコー)検査などを行います。 骨髄の代わりに血液をつくろうとして負担がかかる、 脾臓(ひぞう)や肝臓が大きくなっていないかを調べます。
  • 遺伝子検査 血液や骨髄の細胞を使い、病気の原因となる遺伝子の変化を調べます。 診断を確定し、治療方針を決めるうえでとても重要な手がかりです。

遺伝子名

異常が見つかる方の割合

JAK2遺伝子

約50~60%

CALR遺伝子

約20~30%

MPL遺伝子

約3~5%

  • 骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検) 診断を確定するために、最も大切な検査です。 腰の骨から骨髄の組織をほんの少しだけ採り、 骨髄の線維化の程度や細胞の形を顕微鏡で詳しく観察します。

この検査の精度を高めるには、基本が何よりも重要です。 研究者の間では、骨髄を適切に採取し正しく処理することが、 正確な診断に不可欠だと常に指摘されています。

また、骨髄の細胞の評価は専門家でも判断が難しいことがあります。 そのため最近では、AIが画像を解析して診断の精度を高める研究が進み、 AIが経験豊富な専門医と同等の精度を示したという報告もあります。 こうした技術が、より正確な診断につながることが期待されています。

原発性骨髄線維症の治療

原発性骨髄線維症の治療は、一人ひとりの状態に合わせて決まります。 治療の目標は、つらい症状を和らげ病気の進行を穏やかにすることです。 そして、患者さんの生活の質をできるだけ保つことが重要になります。

治療方針は主に「リスク分類」という、病気の勢いを測るものさしで決まります。 年齢や血液検査の結果などから、今後の見通しを評価します。 このリスクの高さによって、治療の選択肢が変わってきます。

リスク分類

主な治療方針

低リスク・中間1リスク

症状がなければ、定期的な検査で慎重に経過を見守ります。

つらい症状がある場合は、それを和らげる薬物療法を考えます。

中間2リスク・高リスク

病気を根本から治す可能性がある唯一の治療法として、

「同種造血幹細胞移植」が第一に検討されます。

同種造血幹細胞移植

この治療は、病気を根本から治せる可能性を持つ唯一の方法です。 健康な方からいただいた「血液のタネ」(造血幹細胞)を移植し、 異常になった自分の骨髄を、正常なものに入れ替えます。

特に病気の勢いが強い高リスクの患者さんでは、 この移植治療で長期的な生存率が高まることが研究で示されています。 ただし、治療は体への負担が大きく、慎重な判断が必要です。

研究では、移植後の最初の1年間は合併症などで亡くなる危険性が高まります。 しかし、その大変な時期を乗り越えれば、移植を受けなかった場合より、 生存できる可能性が大きく高まるというデータもあります。 そのため移植を行うかは、体の状態や遺伝子の特徴などを詳しく評価し、 主治医と十分に話し合って決めることが何よりも大切です。

症状を和らげる治療

移植が難しい場合や、リスクが比較的低い段階で行う治療です。 つらい症状を軽くすることを一番の目的とします。

  • 脾臓の腫れや全身症状に 異常な命令を出す「JAK」という司令塔の働きを抑える薬を使います。 お腹の張りやだるさ、寝汗などの症状を和らげる効果が期待できます。
  • 貧血に対して 酸素を運ぶ赤血球が足りず、息切れやだるさが強い場合は、 赤血球輸血を行い、症状の改善を目指します。