原発性マクログロブリン血症
健康診断などで血液の異常を指摘され、「原発性マクログロブリン血症」という聞き慣れない病名を告げられた方もいるかもしれません。血液のがんの一種と聞くと、大きな不安を感じてしまいますよね。しかし、この病気には「進行が非常にゆっくりで、自覚症状がないことも多い」という意外な特徴があります。
日本血液学会の調査によると、年間の発症者は100万人に約3人という、比較的まれな病気です。そのため情報が少なく、「がん」と診断されてもすぐに治療が始まらないこともあるため、ご自身の状況をどう捉えればよいか、戸惑いや不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、そんな原発性マクログロブリン血症の正体について、病気の原因や種類、検査から最新の治療法までを網羅的に解説します。ご自身の状態を正しく理解し、今後の見通しを立てるための一助として、ぜひ最後までご覧ください。
原発性マクログロブリン血症の概要
原発性マクログロブリン血症は、血液のがんの一種です。 血液中にある白血球の仲間「リンパ形質細胞」ががん化します。 この細胞は、骨髄の中で異常に増えてしまう病気です。
この病気は、多くの場合で進行がゆっくりとしています。 そのため、「低悪性度リンパ腫」という種類に分類されます。
この病気の大きな特徴は、がん細胞が作戦ミスをすることです。 体を守る「IgM」という抗体を、異常にたくさん作ってしまいます。 本来は体を守る武器が、血液の流れを悪くする原因になります。 この状態を「過粘稠(かねんちょう)症候群」と呼びます。
どのような人がかかりやすい?
原発性マクログロブリン血症は、比較的まれな病気です。 日本血液学会の調査によると、以下のような特徴があります。
- 年間の発症者数 2021年には、国内で496人の方が新たに診断されました。 100万人あたり年間約3人が発症するまれな病気です。
- かかりやすい年齢 60代から70代の方に多く見られます。 しかし、20代から50代の若い世代で発症することもあります。
- かかりやすい性別 男性にやや多く発症する傾向が報告されています。
病気の進行がゆるやかなため、自覚症状はほとんどありません。 健康診断の血液検査で異常が見つかることも多いです。 症状がなければ、すぐに治療せず経過をみることもあります。
原発性マクログロブリン血症の種類
原発性マクログロブリン血症は、症状や検査の結果で分類されます。 ご自身の状態がどの段階にあるかを知ることは、とても大切です。 今後の見通しを立て、治療方針を決めるための重要な地図になります。
病気は、大きく分けて次の3つの種類に分けられます。
1.症候性(しょうこうせい)WM
病気による症状が、体にすでにあらわれている状態です。 「症候性」とは、「症状がある」という意味です。 例えば、貧血によるだるさや息切れ、出血などがみられます。
骨の中(骨髄)を調べる検査で、がん細胞が10%以上を占めます。 症状があるため、診断されると治療を始めることが一般的です。 いわば、病気が活動を始めているサインが出ている段階です。
2.無症候性(むしょうこうせい)WM
体に症状は出ていませんが、検査で病気のサインが見つかる状態です。 「無症候性」とは、「症状がない」という意味になります。 しかし、血液検査や骨の中の検査では、異常が確認できます。
症状がないため、すぐに治療はせず、定期的に検査をします。 注意深く経過を観察し、病気が進行しないか見守る段階です。
3.IgM-MGUS(意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症)
無症候性の状態よりも、さらに初期の段階にあたります。 症状はなく、検査での異常もごくわずかな状態です。 進行はとてもゆっくりで、生涯治療が不要な方も多くいます。
「意義不明」という言葉に不安を感じるかもしれません。 しかし、これは「すぐには体に影響しない」という意味です。 この段階でも、定期的な検査で状態を確認することが大切です。
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種類 |
症状のあり・なし |
検査でのサインの目安 |
これからのこと(方針) |
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症候性WM |
あり |
骨の中のがん細胞が10%以上 |
治療を開始します |
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無症候性WM |
なし |
異常なたんぱく質が多く、骨の中のがん細胞が10%以上 |
定期的に検査をして様子を見ます |
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IgM-MGUS |
なし |
異常なたんぱく質が少なく、骨の中のがん細胞も10%未満 |
定期的に検査をして様子を見ます |
原発性マクログロブリン血症の原因
この病気がなぜ起こるのか、その原因はまだ完全には解明されていません。 しかし、近年の研究によって、私たちの体の設計図である、 「遺伝子」に起こる後天的な異常が深く関わっているとわかっています。
大切なことは、これらの遺伝子の異常は生まれた後に偶然起こる変化です。 そのため、親から子へ遺伝するものではありません。 また、特定の生活習慣が原因となって発症するわけでもありません。
原因として特に重要と考えられている、2つの遺伝子異常を紹介します。
- MYD88(マイディーエイティーエイト)遺伝子の異常 この病気の患者さんの約9割に、この遺伝子の異常が見つかります。 MYD88遺伝子は、細胞がむやみに増えないように、 ブレーキをかける大切な役割を持っています。 しかし、この遺伝子に異常が起こるとブレーキが効かなくなります。 その結果、細胞に「増え続けなさい」という命令が止まらなくなり、 がん細胞が無秩序に増えていくと考えられています。
- CXCR4(シーエックスシーアールフォー)遺伝子の異常 患者さんの3〜4割の方では、MYD88遺伝子に加えて、 このCXCR4遺伝子にも異常が見られます。 この異常が加わると、がん細胞が骨髄の中にとどまりやすくなります。 そのため、病気の勢いがより強くなる傾向があることがわかっています。
これらの遺伝子の異常が、がん細胞を増やす根本的な原因となります。 ご自身の病気の原因を理解することは、治療への大切な一歩です。
原発性マクログロブリン血症の症状
この病気の症状は、主に2つの原因からあらわれます。 一つは、がん細胞が体のあちこちで増えてしまうこと。 もう一つは、血液が異常なタンパク質でネバネバになることです。
病気の進み方は、とてもゆっくりとしています。 そのため、最初は症状がなく、健康診断で偶然見つかる方も多いです。 どのような体のサインに気づくべきか、一緒に見ていきましょう。
体のSOSサイン・チェックリスト
あなたの体にあらわれている症状は、どれにあてはまりますか?
【がん細胞が増えることによる症状】 骨の中やリンパ節でがん細胞が増えることで起こります。 体のエネルギーが消耗され、さまざまな不調としてあらわれます。
- 全身のだるさ、疲れやすさ 骨の中(骨髄)は、血液を作る大切な工場です。 工場ががん細胞に占領され、酸素を運ぶ赤血球が作れなくなります。 その結果、貧血になり、少し動くだけでも息切れやめまいがします。
- 原因不明の発熱、ひどい寝汗、体重の減少 これらは「B症状」と呼ばれ、リンパ腫に特徴的なサインです。 診断された方の約23%に、これらの全身症状が見られます。
- リンパ節の腫れ 首やわきの下、足の付け根などにある、ばいきんと戦う基地です。 このリンパ節が、がん細胞で腫れてくることがあります。
- お腹の張り お腹の中にある肝臓や脾臓(ひぞう)が腫れることが原因です。
【血液がネバネバになることによる症状(過粘稠症候群)】 増えすぎたIgMタンパク質で、血液の流れが悪くなることで起こります。 診断された方の約3割に、この症状が見られると報告されています。
- 頭痛、めまい、耳鳴り 脳へ向かう細い血管の流れが、滞ることで起こります。
- 目のかすみ、視力の低下 目の奥にある、とても細い血管の血流が悪くなるのが原因です。
- 鼻血や歯ぐきからの出血 血液の流れが滞ると、血管の壁がもろくなり出血しやすくなります。
【異常なタンパク質が悪さをする症状】 IgMタンパク質が、神経や血液の成分に直接影響を与えることもあります。
- 手足のしびれ、感覚がおかしい(末梢神経障害) 異常なタンパク質が、手足のすみずみにある神経を攻撃します。 ピリピリとしたしびれや、触った感じが鈍くなることがあります。
- 寒さで指先が白や紫色になる(レイノー現象) 異常なタンパク質の中には、冷えると固まる性質のものがあります。 そのため、冷たい水に触れると指先の血流が一時的に悪くなります。
これらの症状は、他の病気でも見られるものばかりです。 しかし、いくつか当てはまるなど気になることが続く場合は、 自己判断せず、かかりつけ医や血液内科へご相談ください。
原発性マクログロブリン血症の検査・診断
この病気の診断は、一つの検査だけで決まるものではありません。 症状や健康診断の結果から、病気の可能性が考えられた場合、 いくつかの詳しい検査を組み合わせて、総合的に判断します。
パズルのピースを集めて、一つの絵を完成させるのに似ています。 どのような検査で、病気の正体をつきとめていくのか見ていきましょう。
体の状態を知るための基本検査
まず、体全体の健康状態を把握するために、血液や尿を調べます。 特に血液は、体の中をめぐる「情報屋さん」のような存在です。
- 血液検査
- 異常なたんぱく質(M蛋白)の調査 この病気の特徴である「IgM」という異常なたんぱく質が、 血液中にどのくらい増えているのかを精密に測定します。
- 血液の成分の数の調査(血球計算) 酸素を運ぶ赤血球や、ばいきんと戦う白血球などが、 十分に作られているかを確認し、貧血などの有無を調べます。
診断を確定させるための中心的な検査
血液検査で異常が見つかった場合、さらに詳しい検査に進みます。 病気の本体がいる「アジト」を直接調べる、とても大切な検査です。
- 骨髄検査(こつずいけんさ)
- どんな検査? 血液を作る工場である「骨髄」を調べる検査です。 腰の骨に部分的な麻酔をし、細い針で骨の中の組織を採ります。
- 何がわかるの? 採った組織を顕微鏡で観察し、がん細胞の顔つきや数を見ます。 骨髄の中の10%以上をがん細胞が占めていることが、 診断を下すための重要な基準の一つとなります。
- 遺伝子検査
- どんな検査? 骨髄の細胞を使って、体の設計図である「遺伝子」を調べます。 この病気の患者さんの約9割で見つかる遺伝子の異常を探します。
- 何がわかるの? 「MYD88(マイディーエイティーエイト)」という遺伝子の異常は、 診断を裏付けるための、とても強力な証拠になります。
検査結果のまとめと最終診断
これらの検査で集めた情報を、世界共通の診断ルールに当てはめます。 似たような特徴を持つ、他の血液の病気ではないことを確認したうえで、 最終的に「原発性マクログロブリン血症」という診断が確定するのです。
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検査の種類 |
この検査でわかること |
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血液検査 |
異常なたんぱく質の量や、貧血の有無がわかります。 |
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骨髄検査 |
病気の本体である、がん細胞の顔つきや数を確認します。 |
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遺伝子検査 |
病気の原因となる、遺伝子の異常があるかを調べます。 |
原発性マクログロブリン血症の治療
この病気は、進行がとてもゆっくりしているのが特徴です。 そのため、診断されてもすぐに治療が始まらないこともあります。 症状がない「無症候性」の段階では、定期的に検査をします。 病気の勢いが増してこないか、注意深く見守る期間です。
治療は、病気が体に影響を及ぼし始めたサインが出た時に検討します。 治療の目的は、病気を完全に消し去ることではありません。 つらい症状を和らげ、病気と上手に付き合っていくことが目標です。
治療を始めるタイミングのサイン
以下のような症状や検査の異常が、治療開始の目安となります。
- 血液を作る工場(骨髄)の働きが落ちてきた時
- 貧血が進んで、だるさや息切れが強くなる
- (ヘモグロビン値が10g/dLを下回るなど)
- 血を止める血小板が減り、出血しやすくなる
- (血小板数が10万/μLを下回るなど)
- 全身に症状があらわれた時
- 原因がわからない熱が続く
- 寝汗がひどい、体重が急に減る
- リンパ節や肝臓、脾臓の腫れによる症状がある
- 血液のネバネバ(過粘稠症候群)が強くなった時
- めまいや頭痛、目のかすみなどが続く
主な治療法の種類
治療法は、主に「薬物療法」が中心となります。 どの治療を選ぶかは、体の状態や年齢、遺伝子の種類を考えます。 患者さんご自身の希望も伺いながら、一緒に方針を決めていきます。
また、異常なIgMタンパク質が非常に多い場合には、 薬の治療を始める前に、特別な処置を行うことがあります。
- 血漿交換(けっしょうこうかん)療法
- 血液中のネバネバの原因であるIgMタンパク質を、
- 一時的に取り除く治療法です。
- これにより、薬物療法の効果を高めたり、
- 治療に伴う副作用を予防したりします。
- 薬物療法
- 大きく分けて2種類の治療法があります。
- リツキシマブ併用化学療法
- がん細胞の表面にある目印を狙う「リツキシマブ」と、
- 複数のがん治療薬を組み合わせる点滴治療です。
- BTK阻害剤(分子標的薬)
- がん細胞が増えるために必要な命令系統を、
- ピンポイントで邪魔する飲み薬の治療です。
- 遺伝子異常の種類によって、効果が期待できる場合があります。





