突然の激しい動悸、脈打つような頭痛、そして滝のような汗。これらの症状を「パニック障害かも」「更年期だから仕方ない」と片付けていませんか?その不調、実は腎臓の上にある「副腎」にできた腫瘍が原因かもしれません。
「褐色細胞腫」と呼ばれるこの腫瘍は、血圧を上げるホルモンを過剰に放出し、体の中に嵐を巻き起こします。診断される方の約3〜4割は遺伝的な要因が関わっており、特定の遺伝子変異があると80歳までに35%が発症するというデータもあります。放置は危険です。この記事では、診断が難しいこの病気の正体から最新の治療法までを解説します。原因不明の体調不良の答えが、ここにあるかもしれません。
褐色細胞腫の概要
褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ)は、腎臓の上にある「副腎(ふくじん)」という臓器などにできる腫瘍です。
この腫瘍は、血圧や心拍数を上げる「カテコラミン」というホルモンを、過剰に作り出してしまう特徴があります。
そのため、普段は血圧が正常なのに突然高くなったり、激しい動悸や頭痛、大量の汗が出たりする症状が発作的に現れます。
これらの症状は他の病気でも見られるため、診断が難しい場合があります。腫瘍の多くは良性で、手術で取り除くことで治る可能性があります。しかし、一部は悪性で、他の臓器に転移することがあるため注意が必要です。
また、この病気の約30~40%は遺伝的な要因が関わっています。例えば、特定の遺伝子(SDHB遺伝子)に変異があると、発症するリスクが年齢とともに高まることがわかっています。
ある研究によると、SDHB遺伝子に変異を持つ人が、褐色細胞腫や関連する腫瘍を発症する確率は、年齢とともに直線的に上がることが示されました。
- 20歳で4%
- 40歳で11%
- 60歳で24%
- 80歳で35%
このように遺伝的な背景を持つ方は、転移や他の場所に腫瘍ができる可能性も考えられます。そのため、生涯にわたって定期的な検査を受け、ご自身の体をしっかり見守っていくことが非常に大切です。
褐色細胞腫の種類
褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ)は、いくつかの視点から種類分けされます。 「原因」と「腫瘍の性質」という2つの分け方があります。 ご自身の腫瘍がどのタイプかを知ることはとても大切です。 なぜなら、タイプによって治療方針が大きく変わるからです。
原因による分類
腫瘍ができた原因によって、2つのタイプに分けられます。
- 孤発性(こはつせい)褐色細胞腫 特別な原因がなく、偶然に発生するタイプです。 褐色細胞腫と診断される方の約7割がこの孤発性にあたります。
- 遺伝性(いでんせい)褐色細胞腫 生まれつきの遺伝子の特徴が関係して発生します。 全体の約3〜4割を占めるといわれています。 原因となる遺伝子にはSDHBやVHLなどがあります。 特にSDHB遺伝子に変異があると注意が必要です。 悪性化したり、他の場所に転移したりする可能性が、 他のタイプより高いことが研究でわかっています。
腫瘍の性質による分類
腫瘍そのもののおとなしさによっても、2つに分けられます。
- 良性(りょうせい)褐色細胞腫 腫瘍ができた場所から動かず、おとなしいタイプです。 他の臓器に広がる(転移する)ことはありません。 褐色細胞腫の約9割が、この良性タイプです。 手術で腫瘍を取り除くことで、完治が期待できます。
- 悪性(あくせい)(転移性(てんいせい))褐色細胞腫 腫瘍がリンパ節や骨、肝臓などに広がるタイプです。 全体の約1割とまれですが、注意深く見守る必要があります。 手術だけでなく、薬を使った治療も組み合わせて行います。 近年では、進行性の悪性腫瘍に対して、 スニチニブなどの分子標的薬が有効な場合があります。
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分類の方法
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種類
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特徴
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原因で分ける
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孤発性
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・原因が特定できず、偶然にできる<br>・全体の約70%を占める
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遺伝性
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・遺伝子の特徴が関係してできる<br>・全体の約30~40%を占める<br>・SDHB遺伝子変異は悪性化に注意が必要
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性質で分ける
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良性
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・転移しないおとなしいタイプ<br>・全体の約90%を占める<br>・手術による完治が期待できる
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悪性(転移性)
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・他の場所に転移する可能性がある<br>・全体の約10%とまれ<br>・手術と薬による治療を組み合わせる
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このように、褐色細胞腫にはいくつかの種類があります。 正確な診断に基づき、ご自身のタイプに合った治療法を、 医師と一緒に考えていくことが非常に重要です。
褐色細胞腫の原因
褐色細胞腫ができるはっきりとした原因は、まだ全て解明されていません。 しかし、大きく分けて2つのパターンがあることがわかっています。 原因がどちらのタイプかを知ることは、今後の治療や経過観察の方針を決める上で非常に重要です。
偶然にできる「孤発性(こはつせい)」
褐色細胞腫と診断された方のうち、約7割がこのタイプにあたります。 特別な原因がなく、遺伝とも関係なく、偶然に腫瘍ができるケースです。 そのため、ご家族に同じ病気の方がいなくても発症します。
遺伝子が関わる「遺伝性(いでんせい)」
残りの約3〜4割は、生まれつきの遺伝子の特徴が関係するタイプです。 私たちの体の設計図である遺伝子に、もともと変化があることで発症しやすくなります。 関連する遺伝子として、以下のようなものが知られています。
- SDHB 特に注意が必要な遺伝子です。
- SDHD
- VHL
- RET
- NF1
特にSDHBという遺伝子に変化がある方は、注意深く経過を見る必要があります。 ある研究報告によると、この遺伝子に変化がある方が腫瘍を発症した場合、生涯のうちに腫瘍が他の場所へ転移するリスクは9%とされています。 さらに、別の場所に新たな腫瘍(二次腫瘍)ができる可能性も24%あることがわかっています。
このように、遺伝性の場合は将来のリスクがある程度予測できます。 そのため、生涯にわたって定期的な検査を受け、ご自身の体をしっかり見守ることが大切です。 ご家族への影響など、不安があれば遺伝カウンセリングで専門家に相談することもできます。
褐色細胞腫の症状
褐色細胞腫の症状は、体を興奮させるホルモンが原因です。 このホルモンは「カテコラミン」と呼ばれています。 腫瘍からカテコラミンが大量に放出されることで、 体にさまざまな変化が、まるで嵐のように現れます。
症状の出方には2つのタイプがあります。 突然症状が出ては治まることを繰り返す「発作型」。 そして、常に何らかの症状が続く「持続型」です。 これらの症状は他の病気と間違われやすいため注意が必要です。
代表的な5つの症状
特に特徴的なのは、以下の5つの症状です。 これらは「5大症状」とも呼ばれ、 発作的に現れることが多く、数分から1時間ほど続きます。
- 高血圧 最も多く見られる症状です。 カテコラミンが血管を強く収縮させるため、 血圧が急激に、または持続的に高くなります。
- 頭痛 ズキンズキンと脈打つような激しい頭痛が特徴です。 血圧の急上昇に伴って起こります。
- 動悸(どうき) 心臓がドキドキと速く、力強く打つのを感じます。 カテコラミンが心臓を過剰に働かせるためです。
- 発汗(はっかん) 運動もしていないのに、突然びっしょりと汗をかきます。 体の代謝が急に活発になることで起こる症状です。
- 顔面蒼白(がんめんそうはく) 発作が起きると、顔から血の気が引いて真っ青になります。 皮膚の血管が収縮するために起こります。
全身に現れるさまざまなサイン
カテコラミンの影響は全身に及ぶため、 他にも多彩なサインが現れることがあります。 ご自身の体調変化と見比べてみてください。
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分類
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具体的な症状の例
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お腹の症状
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・吐き気、嘔吐<br>・便秘、お腹の痛み
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体の症状
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・理由のない体重減少<br>・疲れやすさ、だるさ<br>・微熱が続く
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心や神経の症状
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・急な不安感や恐怖感<br>・イライラする<br>・指先がピリピリとしびれる
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その他の症状
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・目がかすむ<br>・胸の痛み<br>・血糖値が高くなる
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これらの症状は、パニック障害や更年期障害など、 他の病気の症状と似ているため、診断が難しい場合があります。
特に危険な「褐色細胞腫クリーゼ」
最も注意が必要なのが「褐色細胞腫クリーゼ」です。 これは、何らかのきっかけでホルモンが爆発的に放出され、 命に関わる危険な状態に陥ることです。
▼クリーゼの引き金になりうること
- お腹を強く押すこと(診察や検査など)
- 手術、麻酔、組織を採る検査(生検)
- 一部の薬の使用
- 強い精神的ストレス
- 出産
クリーゼが起こると、血圧が異常な高さまで上昇します。 その結果、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こす恐れがあります。 原因不明の高血圧や発作的な症状があれば、自己判断はせず、 できるだけ早く専門の医療機関を受診することが極めて重要です。
褐色細胞腫の検査・診断
高血圧や動悸などの症状から褐色細胞腫が疑われる場合、診断を確定させるためにいくつかの検査を段階的に行います。
検査は、犯人探しの捜査のように進められます。 まず体の中で悪さをしているホルモンを見つけ出し、次にそのホルモンを作り出している腫瘍の隠れ家を特定します。
ステップ1:ホルモンの量を調べる(血液・尿検査)
最初に、体を興奮させるホルモン「カテコラミン」が、体の中に異常に多くないかを調べます。
- カテコラミンとその代謝物の測定 血液や尿の中に、カテコラミンや、 それが分解された後の物質(メタネフリンなど)が、 増えていないかを確認します。 これは褐色細胞腫の診断で、とても重要な手がかりです。
- クロモグラニンA(CgA)の測定 診断の助けとなるもう一つの指標です。 複数の研究をまとめた分析では、この検査は、 褐色細胞腫を見つけるのに有用であると報告されています。 ただし、これだけで診断が確定するわけではありません。
ステップ2:腫瘍の場所を探す(画像検査)
血液や尿の検査で異常が見つかったら、次に腫瘍が体のどこに、どのくらいの大きさで隠れているのかを画像で探します。
- CT検査・MRI検査 体の断面を詳しく撮影し、副腎などに腫瘍がないかを探します。
- MIBGシンチグラフィー 褐色細胞腫が取り込みやすい特殊な検査薬を注射します。 この薬を目印にして、腫瘍の正確な場所や広がりを調べます。
ステップ3:組織を調べる(生検)
ほとんどの場合、ここまでの検査で診断がつきます。 しかし、どうしても診断が確定できない場合に限り、腫瘍の一部を針で採って顕微鏡で調べる「生検」を行うことがあります。
この検査は、腫瘍を刺激してホルモンが大量に放出され、血圧が急上昇するリスクを伴います。 ある研究報告によると、この検査で入院などの処置が必要になった合併症は15%弱で見られたとされています。
そのため生検は、本当に必要な場合にのみ検討されます。 実施する際は、専門医が万全の準備と厳重な管理のもとで、慎重に行うことが不可欠です。
褐色細胞腫の治療
褐色細胞腫の治療は、腫瘍を取り除き、ホルモンの嵐を鎮めることが大きな目標です。 治療の主役は、原因となっている腫瘍を取り除く「手術」です。 しかし、腫瘍の状態によっては「薬物療法」や「放射線治療」も行います。 患者さん一人ひとりの状態に合わせ、最適な治療法を選びます。
1. 手術療法
腫瘍を取り除き、高血圧などの症状を根本から治すための、最も基本となる治療法です。 多くの場合、お腹に小さな穴をいくつか開けて行う「腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術」が選ばれます。 この方法は、お腹を大きく切る手術に比べて傷が小さく、体への負担が少ないのが特徴です。
- 手術前の血圧管理が最も重要です 褐色細胞腫の治療で何よりも大切なのが、手術前の血圧管理です。 手術の刺激でホルモンが大量に放出され、血圧が危険なほど上がる「クリーゼ」を防ぐためです。 安全に手術を行うため、1〜2週間前から入院して準備を進めます。
- α(アルファ)遮断薬 血管を広げて血圧を下げる薬です。まずこの薬で血圧を安定させます。
- β(ベータ)遮断薬 α遮断薬の後に、心拍数を落ち着かせる目的で追加されることがあります。
2. 薬物療法・放射線治療
手術が難しい場合や、腫瘍が他の場所に転移している場合に検討される治療法です。
- 分子標的薬 がん細胞の成長に関わる特定の場所だけを狙う薬です。 転移がある褐色細胞腫には、「スニチニブ」という薬が選択肢になります。 これまで、この病気に対する薬の効果を科学的に証明した研究は多くありませんでした。 しかし、ある国際的な臨床試験でスニチニブの効果が示されました。 この薬を使った患者さんは、使わなかった方々と比べて、病気の進行を抑える効果が期待できると報告されています。 この研究結果は、スニチニブが信頼性の高い選択肢であることを示すものです。 ただし、だるさや高血圧などの副作用もあるため、医師とよく相談しながら治療を進めます。
- その他の治療法
- 化学療法(抗がん剤治療) 数種類の薬を組み合わせて、がん細胞を攻撃します。
- 放射線治療(131I-MIBG内照射) 腫瘍に集まる性質を持つ特殊な薬を注射し、体の内側から放射線で腫瘍を攻撃します。
治療費に関する公的支援制度
褐色細胞腫の治療は、医療費が高額になることがあります。 経済的な負担を軽くするために、利用できる公的な制度があります。
- 高額療養費制度
- 指定難病医療費助成制度(悪性の場合)
詳しくは、病院の相談員(医療ソーシャルワーカー)や、お住まいの市区町村の窓口にご確認ください。