歯周病

「歯磨きの時に少し血が出るだけ」。そう軽く考えていませんか?その症状は、あなたの歯を静かに蝕む「サイレント・ディジーズ」こと歯周病の危険なサインかもしれません。日本人の成人の多くが罹患していると言われ、痛みなどの自覚症状がないまま静かに進行し、気づいた時には手遅れになることもある恐ろしい病気です。

実は、ある特定の細菌がお口の中にいるだけで、将来の歯周病発症リスクが約4.1倍にも跳ね上がることが研究で報告されています。痛みがないからと放置している間に、歯を支える大切な骨が溶かされているとしたら…。

この記事では、歯を失う大きな原因である歯周病の正体から、ご自身でできるセルフチェック、最新の治療法までを詳しく解説します。大切な歯を一生守るために、まずはその静かな脅威について知ることから始めましょう。

歯周病の概要

歯周病は、歯を支える歯ぐき(歯肉)や、あごの骨(歯槽骨)が細菌によって静かに壊されていく病気です。

初期の段階では痛みなどの自覚症状がほとんどありません。そのため「サイレント・ディジーズ(静かな病気)」とも呼ばれています。実は、日本人の成人の多くが歯周病にかかっているともいわれ、誰にとっても他人事ではない病気なのです。

歯周病の主な特徴は以下のとおりです。

  • 初期は痛みを感じにくい
  • 症状がないから大丈夫、と自己判断するのは危険です。
  • 歯ぐきの腫れや出血から始まる
  • 歯磨きのときの出血は、歯周病のサインかもしれません。
  • 進行すると歯がぐらつき、最終的には歯が抜けてしまう
  • 歯を失う大きな原因の一つが、歯周病です。
  • 口臭の原因になる
  • お口の中の細菌が増えることで、口臭が強くなります。

歯周病の直接の原因は、歯の表面につく歯垢(プラーク)にひそむ細菌です。特に「アグリゲイティバクター・アクチノマイセテムコミタンス JP2株」という特定の細菌は、歯周病のリスクを高めることがわかっています。

複数の研究を統合した信頼性の高い分析によると、この菌がお口の中にいる人は、いない人と比べて歯周病と診断されるリスクが約1.9倍に高まります。

さらに、現時点でこの菌がお口の中にいると、2~5年後に歯周病を発症するリスクが約4.1倍にもなることが報告されています。つまり、この菌の存在は将来の歯周病を予測する重要な手がかりとなり得るのです。

「歯ぐきから血が出るだけ」と軽く考えずに、ご自身の歯を守るため、気になる症状があれば早めに歯科医院を受診しましょう。

歯周病の種類

歯周病とひとことで言っても、実は症状の進み具合によって大きく2つの段階に分けられます。炎症が歯ぐきだけにとどまっているか、それとも歯を支える骨にまで及んでいるかが大きな違いです。

1. 歯肉炎(しにくえん)

歯周病の初期段階で、炎症が歯ぐきだけに限定されている状態です。歯を支えている、あごの骨はまだ壊されていません。

  • 歯肉炎の主なサイン
  • 歯ぐきが赤く腫れる
  • 歯磨きの時に血が出る

痛みはほとんど感じないため、自分では気づきにくいのが特徴です。しかし、この段階で適切な歯磨きなどのケアを行えば、健康な歯ぐきに戻れる可能性があります。

2. 歯周炎(ししゅうえん)

歯肉炎が進行し、炎症が歯を支える骨(歯槽骨)にまで広がってしまった状態です。一度溶けてしまった骨は、基本的には元に戻りません。

歯周炎は、進行の程度によってさらに細かく分けられます。

進行度

主な症状

軽度歯周炎

歯と歯ぐきの間の溝(歯周ポケット)が深くなり始め、歯磨きで出血しやすくなります。

中等度歯周炎

歯を支える骨が溶け始め、歯が少しぐらつきます。口臭が気になったり、歯ぐきから膿が出たりします。

重度歯周炎

骨がさらに溶けて歯のぐらつきが大きくなります。硬いものが噛みにくくなり、最終的には歯が抜けてしまうこともあります。

重度の歯周炎で歯を失うと、その後の治療も複雑になります。歯周病で骨が損傷した場所では、インプラント治療の際に土台となる骨を増やす追加の手術が必要になる場合がある、との研究報告もあります。

また、同じ「歯周炎」という名前でも、歯の神経が原因で根の先に炎症が起きる「根尖性歯周炎」という別の病気もあります。ある研究では、生まれつき歯の形が特殊な場合に、この病気が起こりやすいことが示唆されています。気になる症状があれば、自己判断せずに専門家にご相談ください。

歯周病の原因

歯周病の直接的な原因は、歯の表面に付着する歯垢(プラーク)に潜む細菌です。歯垢は単なる食べかすではなく、細菌が作り出したネバネバした塊、いわば「細菌のおうち」です。

歯垢を放置すると、唾液の成分と混ざり合って石のように硬い「歯石」に変わります。歯石の表面はザラザラしているため、さらに細菌が付着しやすくなる悪循環を生み出します。

近年の研究では、数ある歯周病菌の中でも特に攻撃性の高い菌の存在がわかってきました。例えば「アグリゲイティバクター・アクチノマイセテムコミタンス JP2株」という特定の細菌です。

複数の研究を科学的にまとめた分析によると、この菌がお口の中にいる人は、いない人と比べて歯周病と診断される危険性が約1.9倍に高まります。

さらに、現時点でこの菌がお口の中にいると、2~5年後に歯周病を発症する危険性が約4.1倍にもなることが報告されています。つまり、この菌の存在は将来のリスクを予測する重要な手がかりとなり得るのです。

また、歯垢や特定の細菌だけでなく、以下のような間接的な要因も歯周病の発症や進行に大きく関わっています。

  • 生活習慣など
  • 喫煙や過度なストレス、不規則な食生活は、体の抵抗力を下げて歯ぐきの炎症を悪化させやすくします。
  • お口の中の状態
  • 歯並びが悪いと磨き残しが増え、歯ぎしりや合わない詰め物は歯や歯ぐきに余計な負担をかけます。
  • 全身の病気や体の変化
  • 糖尿病は歯周病を悪化させやすく、また歯周病が糖尿病を悪化させるという相互関係があります。妊娠もホルモンバランスの変化で歯ぐきが腫れやすくなります。

このように、歯周病は日々の歯磨きだけでなく、さまざまな要因が複雑に関わり合って静かに進行していく病気なのです。

歯周病の症状

歯周病は、初期の段階では痛みがほとんどありません。そのため「サイレント・ディジーズ(静かな病気)」と呼ばれ、気づかないうちに静かに進行していくのが特徴です。

痛みがないから大丈夫、と思っていても、実は歯ぐきの中では少しずつ変化が起きています。まずは、歯周病の初期サインを知っておきましょう。

  • 歯ぐきの赤みや腫れ
  • 健康な歯ぐきは薄いピンク色で引き締まっていますが、炎症が起きると赤く腫れぼったくなります。
  • 歯みがきのときに出血する
  • 歯ブラシが当たった時に血が出るのは、歯ぐきが弱っているサインです。
  • 口の中がネバネバする
  • 朝起きた時などに、お口の中がスッキリせず、ネバつきを感じやすくなります。
  • 口臭が気になる
  • 歯周病の原因菌が増えることで、独特の嫌なにおいが発生します。

歯周病が進行すると、症状はよりはっきりと現れます。ご自身の状態と比べてみましょう。

進行度

主な症状

歯肉炎(初期)

・歯ぐきが赤く腫れる

・歯みがきで出血することがある

軽度歯周炎

・歯ぐきの腫れや出血がひどくなる

・歯と歯ぐきの溝(歯周ポケット)が深くなる(3~5mm)

中等度歯周炎

・歯を支える骨が溶け始め、歯が少しぐらつく

・歯ぐきから膿(うみ)が出ることがある

・口臭が強くなり、硬いものが噛みにくい

重度歯周炎

・骨がさらに溶けて歯が大きくぐらつく

・歯ぐきが下がり、歯が長く見える

・自然に歯が抜けてしまうこともある

また、お口の健康は、体全体の健康と深くつながっています。例えば、血液の病気など、特定の体の不調があると、歯周病をはじめとするお口のトラブルが起こりやすくなることが研究で報告されています。

歯周病セルフチェック ご自身の歯ぐきを鏡で見て、当てはまるものがないか確認してみましょう。

  • 歯ぐきから血や膿(うみ)が出る
  • 歯がグラグラする感じがする
  • 歯ぐきが赤く腫れている
  • 口のなかがネバネバする
  • 口臭が気になる、または指摘された
  • 歯が長くなったように見える(歯ぐきが下がった)
  • 硬いものが噛みにくくなった

一つでも当てはまる場合は、歯周病の可能性があります。痛みがないからと放置せず、早めに歯科医院に相談することが、大切な歯を守るための第一歩です。

歯周病の検査・診断

歯周病は痛みがなく進むため、気づきにくい病気です。そのため、歯科医院での定期的な検査がとても大切になります。ご自身では気づけないお口の中の変化を、専門の器具を使って詳しく調べていきます。

歯科医院では、主に以下の検査を組み合わせて、歯周病がどのくらい進んでいるかを正確に診断します。

  • 歯周ポケットの深さの測定 「プローブ」という、目盛りのついた細い器具を使います。歯と歯ぐきの間の溝(歯周ポケット)にそっと入れて深さを測ります。健康な歯ぐきなら2〜3mmですが、歯周病が進むと溝は深くなります。
  • 歯ぐきからの出血の確認 プローブでポケットの深さを測った時に、血が出るかどうかも確認します。出血は、歯ぐきに炎症が起きていることを示す分かりやすいサインです。
  • レントゲン検査 歯を支えている、あごの骨の状態を確認する重要な検査です。歯ぐきに隠れた骨が、歯周病菌によってどのくらい溶けてしまっているかを写し出します。
  • 歯の揺れの確認 ピンセットのような器具で歯を優しく動かし、グラつきの程度を調べます。歯を支える骨が溶けると、歯はだんだんと揺れるようになります。

これらの検査結果から、歯周病の進行度を総合的に診断します。特に糖尿病などのご病気をお持ちの方は、歯周病が悪化しやすいため、必ず医師に伝えてください。

実際に、歯周病の治療をすることで、血糖値の指標であるHbA1cが短期的に改善する可能性を示した研究報告もあります。お口の検査は、体全体の健康状態を知るための大切なきっかけにもなるのです。

歯周病の治療

歯周病の治療は、病気の進み具合に合わせて計画されます。 治療の基本は、原因である歯垢や歯石を徹底的に除くことです。 歯科医院での治療と、ご自身の毎日のケアが車の両輪となります。

治療はまず「歯周基本治療」から始め、改善が難しい場合は、 「歯周外科治療」という次の段階に進むことがあります。

治療の段階

主な治療内容

歯周基本治療

・プラークコントロール:

治療で最も大切な部分です。正しい歯みがきの方法を身につけ、ご自身で歯垢をしっかり除去できるようにします。

・スケーリング・ルートプレーニング:

歯周ポケットの中の歯垢や歯石を専用の器具で取り除きます。さらに歯の根の表面を滑らかにし、汚れが再び付くのを防ぎます。

歯周外科治療

基本治療で改善が難しい、深い歯周ポケットが残っている場合に行います。歯ぐきを少しだけ開き、直接目で見て歯の根の奥深くの汚れを取り除く「フラップ手術」などが代表的です。

近年、治療の効果を高めるための新しい方法も研究されています。

  • レーザー治療や光を使った治療 ある研究では、特に糖尿病をお持ちの方で、基本治療と併用すると短期的に歯周ポケットの状態が良くなる可能性が報告されています。
  • 体の反応を調整するお薬 歯周外科治療の際に、骨が作られるのを助けるなど、体の治ろうとする力をサポートするお薬を使う研究も進められています。

これらの治療は、誰もが行うものではありません。 また、歯周病治療が糖尿病の数値を良くする可能性も研究されていますが、まだはっきりとした結論は出ていないのが現状です。 まずは歯科医師と相談し、ご自身に合った治療法を見つけましょう。