耳の前やあごの周りに、ふと触れると小さなこぶのようなものを感じたことはありませんか?「痛くないから大丈夫」と自己判断しがちですが、そのしこりは「耳下腺腫瘍」かもしれません。
耳下腺腫瘍の約9割は命に別状のない良性ですが、残りの1割は「耳下腺がん」という悪性の可能性があります。これは人口10万人あたり年間わずか0.6人ほどが診断される「希少がん」の一つで、放置すると顔の動きにくさ(顔面神経麻痺)といった深刻な症状を引き起こすこともあります。
この記事では、耳下腺腫瘍の種類や原因、見過ごしてはいけない危険なサインについて詳しく解説します。大切な体からのサインを見逃さないためにも、ご自身の症状と照らし合わせながらぜひご一読ください。
耳下腺腫瘍の概要
耳下腺腫瘍(じかせんしゅよう)とは、耳の前からあごにかけてある「耳下腺」にできる、こぶのようなものです。
耳下腺は、食事のときなどにつば(唾液)をつくる大切な場所で、唾液腺のなかで最も大きい組織です。
耳下腺にできる腫瘍には、大きく分けて2つのタイプがあります。
- 良性腫瘍 ゆっくりと大きくなることが多く、命の危険はほとんどありません。
- 悪性腫瘍(耳下腺がん) 周りの組織に広がったり、体の他の場所に転移したりすることがあります。
ほとんどの耳下腺腫瘍は良性で、悪性のものは比較的まれです。
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種類
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割合の目安
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良性腫瘍
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約9割
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悪性腫瘍(がん)
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約1割
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悪性である耳下腺がんは「希少がん」の一つです。1年間に新たに診断される人は、人口10万⼈あたり0.6⼈ほどとされています。
ほとんどは耳下腺だけの問題ですが、まれに他の病気が背景にあることもあります。
例えば、Birt-Hogg-Dube(バート・ホッグ・デューベ)症候群という遺伝性の病気と関連することがあります。この病気は皮膚や肺、腎臓に症状があらわれることが特徴です。
最近の研究では、この病気の患者さんの約4割に耳下腺腫瘍が見つかったと報告されています。そのため、耳のしこりの他に気になる症状がある場合は、医師に相談することが大切です。
耳下腺腫瘍の種類
耳下腺にできる腫瘍には、たくさんの種類があります。 これらは大きく「良性腫瘍」と「悪性腫瘍」の2つに分けられます。
良性腫瘍
命の危険がほとんどなく、ゆっくり大きくなることが多い腫瘍です。 代表的なものには、以下の種類があります。
- 多形腺腫(たけいせんしゅ) 良性腫瘍の中で最も多いタイプです。
- ワルチン腫瘍 比較的高齢の男性や、タバコを吸う方に多いとされています。
このほか、2022年にWHO(世界保健機関)が新しく分類に加えた、 「角化嚢胞腫(かくかのうほうしゅ)」のような珍しい腫瘍もあります。
悪性腫瘍(耳下腺がん)
悪性腫瘍は「耳下腺がん」とも呼ばれます。 周りの組織に広がったり(浸潤)、体の他の場所に飛んだり(転移)する 可能性があるため、注意が必要です。
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種類
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特徴
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良性腫瘍
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・命の危険はほとんどない
・ゆっくり大きくなることが多い
・代表例:多形腺腫、ワルチン腫瘍
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悪性腫瘍(耳下腺がん)
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・周りに広がったり、転移したりする可能性がある
・種類が非常に多い
・痛みや顔の動きにくさが出ることがある
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このように耳下腺腫瘍は種類がとても多いため、 しこりに気づいたときは、正確に種類を調べることが治療の第一歩です。
耳下腺腫瘍の原因
耳下腺に腫瘍ができるはっきりとした原因は、残念ながらまだ完全にはわかっていません。
しかし、いくつかの要因が関係している可能性が考えられています。
遺伝的な要因
ほとんどの耳下腺腫瘍は遺伝と関係なく発生します。 しかし、まれに遺伝子の変化が関わる病気が背景にあることがあります。
その代表的なものが「Birt-Hogg-Dube(バート・ホッグ・デューベ)症候群」です。
- Birt-Hogg-Dube症候群とは 遺伝子の変化によって、皮膚や肺、腎臓などにさまざまな症状があらわれる病気です。
最近の研究では、この病気の患者さんの約4割に耳下腺腫瘍が見つかったと報告されています。 特に「オンコサイトーマ」という種類の良性腫瘍が多いことが特徴です。
また、この病気の患者さんの約半数には、口の中にできものが見られることもわかっています。
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Birt-Hogg-Dube症候群でみられる主な症状
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皮膚:顔や首にできる、白くて小さなできもの
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肺:肺に袋状のもの(嚢胞)ができ、肺が破れやすくなる(気胸)
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腎臓:腎臓に腫瘍ができるリスクが高まる
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耳下腺:こぶのような腫瘍(特にオンコサイトーマ)
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口の中:小さなできもの
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このように、耳下腺のしこりが、体の他の部分の病気を見つける大切なサインになることもあります。
その他の要因
遺伝以外では、ウイルス感染や過去の放射線治療などが関係する可能性も指摘されています。
しかし、まだ研究段階であり、はっきりとした因果関係はわかっていません。 多くの場合、特別な原因を特定できないまま発症することがほとんどです。
耳下腺腫瘍の症状
耳下腺腫瘍の最初のサインは、耳の前や下、あごにできる「しこり」です。 多くの場合、このしこりには痛みがなく、ゆっくり大きくなるため見過ごされがちです。
しかし、「痛くないから大丈夫」と自己判断するのは危険です。 腫瘍が良性か悪性(がん)かによって、現れる症状は大きく異なります。
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腫瘍の種類
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主な症状の特徴
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良性腫瘍
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・痛みのない「しこり」がほとんど
・ゆっくりと時間をかけて大きくなる
・しこりは比較的やわらかく、よく動く
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悪性腫瘍(がん)
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・しこりに痛みをともなうことがある
・急に大きくなることがある
・しこりが硬く、周りの組織に張り付いて動きにくい
・顔の動きにくさ(顔面神経麻痺)が出ることがある
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特に、以下のような症状は悪性腫瘍の可能性も考えられるため、注意が必要です。
顔の動きにくさ(顔面神経麻痺)
顔の表情をつくるための大切な神経(顔面神経)は、耳下腺の中を通っています。 そのため、悪性腫瘍がこの神経に影響を与えると、顔の片側が動きにくくなることがあります。
- 目が完全に閉じられない
- 口の片側が下がり、水や食べものがこぼれる
- 顔の表情が左右で非対称になる
ある報告では、悪性の耳下腺腫瘍の患者さんの約2割に、この顔面神経麻痺がみられたとされています。
痛みや飲み込みにくさ
悪性腫瘍が大きくなると、首の痛みや、ものを飲み込みにくい感じ(嚥下障害)が出ることがあります。
最近の研究では、悪性耳下腺腫瘍の治療を受けた患者さんの約3割が、飲み込みにくさを経験したと報告されています。 これらの症状は、病気が進行しているサインの可能性もあります。
全身の病気との関連
まれに、耳下腺のしこりが全身の病気のサインとなることがあります。 例えば、「Birt-Hogg-Dube(バート・ホッグ・デューベ)症候群」という遺伝性の病気では、耳下腺腫瘍と同時に、口の中や皮膚にできものが見られることがあります。
気になる症状があれば、自己判断せずに早めに専門の医療機関を受診しましょう。
耳下腺腫瘍の検査・診断
耳やあごの周りにしこりを見つけたら、その正体を詳しく調べる検査が必要です。 しこりの状態を正確に知ることが、適切な治療を選ぶための大切な第一歩となります。
検査は、主に以下のステップで進められます。
- ①医師の診察(視診・触診) まずは医師がしこりを直接見て、触って状態を確かめます。 しこりの大きさや硬さ、動くかどうかなどを確認します。
- ②画像検査 超音波(エコー)やCT、MRIといった機械を使い、 体の内側からしこりの様子を詳しく観察します。
- ③細胞の検査(穿刺吸引細胞診) しこりが良性か悪性(がん)かを見分けるために、 細い針で細胞を少しだけ採って顕微鏡で調べます。
特に大切なのが、細胞を採って調べる「穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)」です。 しかし、この検査だけで100%正確な診断ができるわけではありません。
ある研究報告によると、この細胞診で「良性」と判断されても、 実は悪性だったというケースが約1割(10.6%)あることがわかっています。
そのため、医師は一つの検査結果だけで結論を出すことはしません。 CTやMRIの画像で、以下のようなサインが見られないかを慎重に確認します。
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悪性を疑う画像サイン
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不規則な形
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腫瘍の形がきれいな丸ではなく、ギザギザといびつな形をしている。
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周りへの広がり(浸潤)
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腫瘍が周りの組織に食い込むように広がっている様子。
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これらのサインは、細胞診の結果が良性であっても、悪性の可能性を示す重要な手がかりです。 このように、複数の検査結果を総合的にみて、最終的な診断を確定させることが非常に重要になります。
耳下腺腫瘍の治療
耳下腺腫瘍の治療は、腫瘍が良性か悪性(がん)かによって方針が異なります。 しかし、どちらの場合も手術で腫瘍を取り除くことが治療の基本となります。
良性腫瘍の治療
良性腫瘍の場合、基本的には手術で取り除くことがすすめられます。 特に「多形腺腫」という種類は、時間をかけて悪性に変わる可能性があるためです。
一方で、「ワルチン腫瘍」のように悪性になることがまれな場合は、 手術をせずに大きさの変化などを定期的に確認する「経過観察」を選ぶこともあります。
最近では手術の方法も進歩しています。 傷あとが目立たないよう、髪の生え際や耳の後ろを切るなど、 美容的な面に配慮した新しい手術のやり方が増えてきました。
こうした工夫は、見た目の満足度を高めるだけでなく、 顔の動きにくさなどの合併症をできるだけ少なくすることにもつながります。
悪性腫瘍(がん)の治療
悪性腫瘍(がん)の場合も、治療の中心は手術です。 がんが周りに広がるのを防ぐため、腫瘍とその周りの組織を少し広めに切り取ります。
手術のあと、再発のリスクを減らすために追加の治療を行うことがあります。 具体的には、放射線治療や薬物療法(化学療法)です。
これらの追加治療は、がんをしっかり治すために重要です。 しかし、生活の質に影響を与える可能性も報告されています。
ある研究では、悪性耳下腺腫瘍の治療を受けた患者さんの 約3割が、飲み込みにくさを経験したと報告されています。 他にも、首の痛みや気分の落ち込み、不眠といった症状が出ることがあります。
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腫瘍の種類
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主な治療法
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補足
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良性腫瘍
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・手術
・経過観察(一部)
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・多形腺腫はがん化の可能性があるため手術がすすめられます。
・傷あとが目立ちにくい美容に配慮した手術法も増えています。
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悪性腫瘍(がん)
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・手術
・放射線療法
・薬物療法
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・手術が治療の中心です。
・手術後に追加治療を行うことで、生活の質に影響が出る可能性もあります。
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どの治療法を選ぶかは、腫瘍の種類や大きさ、患者さんご自身の状態などを 総合的に考えて決めていきます。 不安な点や疑問点は、担当の医師とよく話し合うことが大切です。