「骨肉腫」という病名を聞いたことがありますか?これは骨にできる悪性腫瘍、つまり「骨のがん」の一種で、年間100万人に1〜2人しか発症しない非常にまれな病気です。特に10代から20代の若い世代に多く、日本では年間約250人がこの病気と診断されています。
成長痛や打ち身と似た痛みから始まるため、発見が遅れがちになることも。しかし、化学療法や手術の進歩により、現在では約9割の方が手足を残したまま治療を受けられるようになりました。この記事では、骨肉腫の初期症状から原因、最新の治療法までを詳しく解説します。気になる症状があれば、早期発見のためにぜひ参考にしてください。
骨肉腫の概要
骨肉腫(こつにくしゅ)は、骨に発生する悪性腫瘍、つまり「骨のがん」の一種です。
非常にまれながんであり、年間に100万人に1人から2人程度が発症します。 日本では、1年間に約250人の方がこの病気と診断されています。
骨肉腫には、次のような特徴があります。
- 10代から20代の、骨が活発に成長する若い世代での発症が約6割を占めます。
- しかし、40代以上で発症するケースもあるため、幅広い年代で注意が必要です。
- 骨がある場所ならどこにでもできる可能性があります。
- 特にひざの周り(太ももの骨や、すねの骨)にできることが多く、全体の約6割を占めます。
近年、骨肉腫をより早く見つけるための診断技術の研究も進められています。 例えば、血液検査だけでがんを発見する技術が期待されています。
私たちの血液の中には、「エクソソーム」という細胞から出る小さなカプセルが流れています。 このエクソソームの中にある「circRNA(環状RNA)」という物質を調べることで、がんの診断に役立てようとする研究があります。
ある研究では、このcircRNAを分析することが、骨肉腫を含む複数のがんを発見する上で有効である可能性が示されました。 このような新しい検査方法が実用化されれば、体を大きく傷つけることなく、より早期に骨肉腫を発見できる可能性があります。
骨肉腫の種類
骨肉腫と診断されたとき、それがどのような種類の骨肉腫なのかを知ることは、とても大切です。 がん細胞の見た目や、がんができた場所、原因などによっていくつかの種類に分けられます。 種類によって病気の進み方や治療の方針が異なるため、正確な分類が治療の第一歩となります。
主に「できた場所」と「できた原因」によって分類されます。
できた場所による分類
骨肉腫は、体のどこにできたかによって大きく2つに分けられます。 それは、手足にできる骨肉腫と、顔やあごの骨にできる骨肉腫です。
- 手足にできる骨肉腫 骨肉腫のほとんどがこのタイプにあてはまります。 太ももや、すね、腕の骨など、手足の長い骨に発生することが多いです。
- 顔やあごの骨にできる骨肉腫 比較的まれですが、顔やあごの骨に発生することがあります。 このタイプは、手足にできる骨肉腫とは少し性質が異なります。
ある研究では、顔やあごの骨にできる骨肉腫は、手足にできるものと比べて生存率が高い傾向があると報告されています。 そのため、治療では手術によってがん細胞を完全に取りきることが、何よりも重要になります。
できた原因による分類
がんがどのようにしてできたかによっても、種類が分かれます。
- 原発性骨肉腫 特別な原因がなく、もともと健康だった骨に最初にできるタイプです。 骨肉腫のほとんどが、この「原発性」にあたります。
- 続発性骨肉腫 もともとあった他の病気や、過去に受けた放射線治療などがきっかけで発生するタイプです。 例えば「線維性異形成症」という骨の良性の病気から、ごくまれに骨肉腫へ変化することがあります。 ある研究報告によると、その確率は約1.67%と低いものでした。 頻度は低いですが、もとになる病気がある場合は、慎重に経過をみていく必要があります。
骨肉腫の原因
骨肉腫がなぜできてしまうのか、そのはっきりとした原因はまだわかっていません。 しかし、いくつかの要因が病気になりやすくなることと関係していると考えられています。
1. 遺伝子の変化 私たちの体には、がんの発生を抑える「ブレーキ役」の遺伝子があります。 その代表が「Rb遺伝子」や「p53遺伝子」です。 これらの遺伝子に何らかの異常が起こると、骨肉腫のリスクが高まることがわかっています。
2. もともとある病気との関連 まれですが、他の病気がきっかけで骨肉腫が発生することがあります。 特に関係が知られているのは、以下のような病気です。
- 遺伝しやすい病気 網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)や、 Li-Fraumeni(リ・フラウメニ)症候群など
- 骨の病気 骨パジェット病や、 線維性異形成症(せんいせいいけいせいしょう)など
例えば「線維性異形成症」という良性の骨の病気から、ごくまれに骨肉腫へ変化することがあります。 ある研究では、頭や顔の骨にできた場合、その確率が約1.67%だったと報告されています。 頻度は低いものの、もとになる病気がある場合は注意が必要です。
3. その他の要因 過去に受けた放射線治療が、骨肉腫の発生に関係することもあります。
また、骨肉腫が原因で骨がもろくなり、軽い力で骨折してしまう「病的骨折」には特に注意が必要です。 この病的骨折は、がんが他の場所へ広がる「転移」のリスクを高めることが、複数の研究を分析した報告で示されています。 この報告では、病的骨折を起こすと生存率が下がる傾向も指摘されており、病気の進行に大きく影響する要因と考えられます。
骨肉腫の症状
骨肉腫のサインは、がんができた場所によって少しずつ違います。 しかし、いくつかの共通した症状があり、早期発見の重要な手がかりとなります。
最も多くみられるのは、がんができた場所の「痛み」や「腫れ」です。 はじめは運動後や、ぶつけた後だけ痛むなど、打ち身や成長痛によく似ています。 しかし、成長痛は両足に出やすいのに対し、骨肉腫の痛みは片方の決まった場所だけ続くことが多いのが特徴です。
がんが進行すると、何もしなくてもズキズキと痛むようになります。 特に夜、眠っている間に痛みが強くなることも少なくありません。 また、痛む場所が熱を持っているように感じる「熱感」を伴うこともあります。
さらに症状が進むと、がん細胞によって骨がもろくなります。 その結果、軽い衝撃や日常の動作だけで骨が折れてしまう「病的骨折」を起こすことがあります。 この病的骨折は、単なる骨折とは違い注意が必要です。 複数の研究を分析した報告によると、病的骨折を起こすと、がんが他の場所へ広がる「転移」のリスクが高まることが示されています。
骨肉腫は手足だけでなく、顔やあごの骨にできることもあります。 ある研究では、顔やあごにできた場合は、手足にできるものと少し性質が異なることが報告されています。
【骨肉腫でみられる主な症状チェックリスト】
- ぶつけた覚えがないのに、片方の腕や足の骨が痛む
- 痛む部分が腫れてきた、または熱っぽい感じがする
- 運動の時だけだった痛みが、じっとしていても続くようになった
- 特に夜、痛みが強くなる
- 1ヶ月以上、同じ場所の痛みが続いている
- 軽い衝撃で骨が折れてしまった
このような症状に気づいたら、自己判断せず、できるだけ早く整形外科を受診することが大切です。
骨肉腫の検査・診断
骨や関節の痛みが続くとき、骨肉腫を疑う場合には、いくつかの検査を段階的に行います。 お医者さんは、パズルのピースを一つひとつ集めるように、丁寧な検査で病気の正体を探ります。
STEP1:まずは骨の様子を見る「画像検査」
はじめに行うのは、痛む場所のX線(レントゲン)検査です。 骨肉腫では、骨が壊されたり、逆に新しい骨が作られたりする特徴的な影が見えることがあります。
X線検査で異常が疑われた場合は、さらに詳しい検査に進みます。 それぞれの検査で、がんの大きさや広がり、周りの組織との関係などを立体的に調べます。
|
検査の種類
|
どんなことを調べるの?
|
|
MRI検査
|
磁石と電波の力で体の断面を見る検査です。
がんの正確な大きさと広がりを調べます。
筋肉や神経、血管などとの位置関係もわかります。
|
|
CT検査
|
X線を体の周りからあてて断面を見る検査です。
骨がどのくらい壊れているかを詳しく見ます。
肺など、他の場所にがんが飛んでいないか(転移)も確認します。
|
|
骨シンチグラフィ
|
ごく弱い放射線を出す薬を注射し、全身の骨を一度に調べます。
がん細胞が集まっている場所が光って見えるため、他の骨への転移がないかを確認できます。
|
STEP2:診断を確定させる「生検(せいけん)」
画像検査だけでは「骨肉腫の疑いがある」としか言えません。 診断を確定させるためには、がんの一部を直接取り出して、顕微鏡で詳しく調べる**生検(病理検査)**が必要です。
この検査で、がん細胞の「顔つき」を見て、良性か悪性かを最終的に判断します。 生検は、後の手術計画に大きく影響する非常に重要な検査です。 そのため、骨肉腫の治療経験が豊富な専門医が、慎重に行うことがとても大切になります。
STEP3:その他の検査と新しい診断技術
画像検査や生検とあわせて、血液検査も行います。 骨が活発に作られるときに増える酵素(ALP)の値を調べ、病気の勢いをみる参考にします。
また最近では、体に負担の少ない新しい診断方法の研究も進んでいます。 私たちの血液の中には、細胞から出る「エクソソーム」という小さなカプセルが流れています。 その中にある「circRNA(環状RNA)」という物質を調べることで、がんの診断に役立てようとする研究です。
ある研究では、このcircRNAを分析することで、骨肉腫を含む複数のがんを高い精度で見つけられる可能性が示されました。 この検査では、がんではない人を83%の確率で正しく「がんではない」と判断できたと報告されています。 このような新しい技術が、今後の診断に役立つことが期待されています。
これらの検査結果を総合的にみて、骨肉腫の診断と病気の進行度(ステージ)が決定されます。
骨肉腫の治療
骨肉腫の治療は、がんを完全になくすことを目指します。 同時に、できるだけ体の機能を残すことも大切な目標です。 現在の治療は、主に次の2つを組み合わせて行われます。
- 化学療法 抗がん剤を使ったお薬の治療です。
- 手術 がんを取り除く治療です。
この2つの治療を、計画的に進めていくことが基本です。
治療の基本的な流れ
治療は、大きく3つのステップで進められます。 まず手術の前にお薬でがんを小さくし、手術で取り除きます。 最後に、ダメ押しのお薬で体中のがん細胞をなくします。
- 術前化学療法 手術の前に抗がん剤を使い、がんを小さくします。 目に見えない小さな転移をたたく効果も期待できます。
- 手術 がんを周りの正常な組織ごと、完全に取り除きます。
- 術後化学療法 手術の後に、体の中に残っているかもしれないがん細胞を 徹底的になくすために行います。
各治療法の詳しい説明
化学療法(抗がん剤治療) 手術の前と後に、数種類の抗がん剤を点滴で投与します。 手術前にがんを小さくすることで、手術の範囲を小さくし、 手や足の機能を残しやすくなるという大切な目的があります。
手術 がん細胞を残さず取りきるため、腫瘍とその周りを広く切除します。 以前は手足の切断も少なくありませんでした。 しかし、化学療法の進歩により、今は約9割の方が手足を残す 「患肢温存(かんしおんぞん)手術」を受けられるようになりました。
がんが原因で骨が折れてしまう「病的骨折」を起こした場合も、 この温存手術が選択されることが増えています。 ただし、病的骨折はがんが他の場所へ広がる「転移」のリスクを 高めることが、複数の研究を分析した報告で示されています。
また、背骨にがんができた場合は、特別な手術が必要です。 がんをひとかたまりで取り出す「en bloc(エンブロック)切除」が その場所でがんが再発するのを防ぐために重要とされています。
放射線療法 骨肉腫は放射線が効きにくいがんのため、基本的には行われません。 しかし、手術で取り除くことが難しい場所にがんがある場合など、 補助的な治療として選択されることがあります。