器質性精神障害

「最近、物忘れがひどくなった」「理由もなく気分が落ち込む」。その不調の原因は、本当にストレスだけだと思っていませんか?実は、心の症状の裏には、脳梗塞や頭のケガ、さらには一見関係なさそうな体の病気が隠れていることがあります。

こうした脳や体の病気が引き起こす精神症状を「器質性精神障害」と呼びます。例えば、脳卒中を経験した方の約3人に1人がうつ病を発症するという報告もあるほど、決して珍しいものではありません。幻覚や人格の変化といった深刻な症状が現れることもあります。

この記事では、その知られざる病気の実態から、原因を特定する検査、治療法までを詳しく解説します。あなたや大切な人の不調に隠された本当の原因を見つけ、適切な対処法を知るための一歩となるでしょう。

器質性精神障害の概要

「心の不調」と聞くと、多くの方はストレスを思い浮かべるかもしれません。 しかし、脳や体の病気が原因で、心や行動に変化が現れることがあります。 これを「器質性(きしつせい)精神障害」と呼びます。

この病気は、原因となる体の変化がはっきりと特定できる点が特徴です。 原因は大きく分けて2つあります。

  • 脳が直接ダメージを受けた場合
  • 脳梗塞や脳出血、交通事故による頭のケガ、脳腫瘍などが挙げられます。
  • 体の病気が脳に影響した場合
  • 肝臓や腎臓の病気、甲状腺の病気、ビタミン不足などが原因です。

症状は物忘れや意欲の低下などさまざまです。 特に高齢の方では、幻覚が現れることがあります。 実際にはないものが見える「視覚幻覚」や、虫が這うように感じる「触覚幻覚」などが代表的です。

研究によれば、これらの幻覚は器質性精神障害のほか、他の精神疾患でも見られることがわかっています。 そのため、心の症状の背景に体の病気が隠れていないか調べることが、治療の第一歩として非常に重要になるのです。

器質性精神障害の種類

器質性精神障害は、原因によって大きく2つのタイプに分けられます。 脳が直接ダメージを受けたのか、体の他の病気が脳に影響したのか、という視点です。

原因の場所

タイプの名前

具体的な病気の例

脳そのもの

脳器質性精神障害

・脳梗塞や脳出血<br>・交通事故による頭のケガ<br>・アルツハイマー病など

脳以外の体

症状性精神障害

・甲状腺の病気<br>・肝臓や腎臓の病気<br>・薬の副作用

1. 脳そのものが原因となるタイプ(脳器質性精神障害) 脳梗塞や脳出血、頭のケガなどにより、脳の組織が直接壊れてしまうことが原因です。 特に脳卒中の後に気分が落ち込む「脳卒中後うつ病」は、代表的な例です。 ある研究では、脳卒中を経験した方の約3分の1が、このうつ病を発症すると報告されています。

2. 体の病気が脳に影響するタイプ(症状性精神障害) 一見、心とは関係なさそうな体の病気が、脳の働きを悪くさせることがあります。 例えば、甲状腺の病気ではホルモンのバランスが崩れて脳に影響します。 肝臓や腎臓の病気では、本来排出されるはずの毒素が体に溜まり、脳の機能を低下させます。

このように、心の不調の裏には様々な体の病気が隠れている可能性があります。 特に幻覚などの症状は多様な原因で起こるため、原因を正確に見極めることが治療の第一歩となります。

器質性精神障害の原因

心の不調は、脳や体の病気が原因で起こることがあります。 原因は大きく2つのパターンに分けられます。 脳が直接ダメージを受けた場合と、体の病気が脳に影響した場合です。

1. 脳に直接的な原因がある場合 脳の組織が傷ついたり、変化したりして精神症状が現れます。

  • 脳の血管の病気 脳梗塞や脳出血など、脳の血管にトラブルが起きた場合です。 特に脳卒中の後、気分が落ち込む症状が出ることがあります。 ある研究では、脳卒中を経験した方の約3人に1人がうつ病を発症すると報告されています。 これは、脳が傷ついたことで「神経炎症」という小さな火事が起き、気持ちを調節する機能に影響するためと考えられています。
  • 脳のけがや病気 交通事故や転倒で頭を強く打ち、脳が傷つくことが原因です。 また、アルツハイマー病のように脳の神経が変化する病気や、ウイルスなどが脳に入り込む脳炎なども含まれます。

2. 体の病気が脳に影響する場合 一見、心とは関係なさそうな体の不調が脳の働きを悪くします。 脳は体全体から栄養や酸素をもらって働くため、体の不調が脳に影響しやすいのです。

  • 体の病気 甲状腺の病気によるホルモンバランスの乱れが影響します。 また肝臓や腎臓の病気では、毒素が体に溜まり脳に悪影響を及ぼすことがあります。
  • 栄養の問題や薬の影響 特定のビタミンが不足したり、薬の副作用が原因となったりすることもあります。

器質性精神障害の症状

器質性精神障害の症状は、脳のどの部分が傷ついたかによって様々です。 原因となる病気や、ダメージの範囲によって一人ひとり異なります。 症状は多岐にわたりますが、主に3つのグループに分けられます。

1. 考える力や覚える力の変化(認知機能の障害)

物事を理解したり、計画したりする脳の働きに変化が見られます。 いわゆる「認知症」でよく知られる症状が現れることがあります。

  • 記憶障害 新しいことを覚えられない、少し前の出来事を思い出せないなどです。
  • 見当識障害(けんとうしきしょうがい) 今日の日付や時間、自分が今どこにいるのかが分からなくなります。
  • 遂行機能障害(すいこうきのうしょうがい) 料理のように、手順を考えて物事を進めることが難しくなります。
  • 判断力の低下 状況に合わせて、何が適切かを判断する力が落ちてしまいます。

2. 心や行動の変化(精神症状)

感情のコントロールが難しくなったり、意欲がなくなったりします。 もともとの性格が変わってしまうことも、この病気の特徴の一つです。

  • 幻覚・妄想 実際にはないものが見える「視覚幻覚」が代表的な症状です。 特に高齢の方では、虫が体の上を這うように感じる「触覚幻覚」も現れることがあります。 これらの幻覚は、脳内の情報伝達物質のバランスが崩れることで生じると考えられています。 また、幻覚は他の精神疾患でも見られるため、原因を正確に調べることが非常に重要です。
  • 感情の変化 理由もなくひどく落ち込んだり、逆にささいなことで怒ったりします。
  • 意欲の低下 今まで好きだったことにも興味がなくなり、やる気が起きなくなります。
  • 人格の変化 穏やかだった人が急に怒りっぽくなるなど、性格が別人のように変わることがあります。

3. 意識レベルの変化(意識障害)

意識がはっきりしない状態になることもあります。 ぼーっとして集中できない軽い状態から、呼びかけても反応しない重い状態まで様々です。 意識に変化が見られる場合は、すぐに医療機関へ相談することが大切です。

器質性精神障害の検査・診断

心の不調の原因が、脳や体の病気にあるのかを突き止めることが重要です。 そのため、心の状態だけでなく、体全体を詳しく調べる検査を行います。 原因を特定するため、丁寧な聞き取りと検査を組み合わせて診断します。

  • 問診(お話を聞くこと) いつから、どんな症状があるかなど、詳しいお話を聞きます。 過去の病気やケガ、飲んでいる薬も大切な情報です。 これらは原因を特定するための、とても重要な手がかりになります。
  • 身体診察・神経学的検査 医師が体の状態を直接見て、脳や神経の働きに異常がないか調べます。 ハンマーで膝を叩く反射の確認や、バランス感覚のチェックなどです。
  • 血液検査・尿検査 体の中に隠れた病気がないか、血液や尿から情報を得ます。 肝臓や腎臓の機能、ホルモンバランス、栄養不足などを確認します。
  • 画像検査(CT、MRIなど) 頭のCTやMRIを使い、脳の断面を撮影して詳しく調べます。 脳梗塞の跡や脳腫瘍など、脳の形に変化がないかを直接見ることができます。
  • 心理検査 質問に答えたり簡単な課題をしたりして、脳の働きを客観的に評価します。 記憶力や注意力、計画を立てる力などがどの程度かを確認します。

これらの検査結果を総合的に判断し、原因となる体の病気を特定します。 幻覚などの症状がある場合は、他の精神疾患ではないか慎重に見極めます。 正確な診断が、適切な治療への第一歩となるのです。

器質性精神障害の治療

この病気の治療で最も大切なのは、心の症状を引き起こす原因です。 原因となっている脳や体の病気、ケガを治すことが治療の基本です。 そのため、心の専門家と体の専門家がチームで治療にあたります。

治療は主に、以下の2つの柱で進められます。

  • 原因となっている病気の治療(根本治療)
  • つらい精神症状を和らげる治療(対症療法)

1. 原因となっている病気の治療

これが治療の中心となり、原因によって方法が異なります。 例えば、脳神経外科や内科など、他の科の医師と協力します。

  • 手術が必要な場合
  • 脳にできた腫瘍や、頭のケガなどが原因のときに行います。
  • お薬で治す場合
  • 体の感染症や、ホルモンのバランスの乱れなどが原因のときに使います。
  • リハビリを組み合わせる場合
  • アルツハイマー病などで、残った脳の働きを保つために行います。

2. 精神症状をやわらげる治療

原因の治療と同時に、つらい心の症状を軽くする治療も大切です。 幻覚や強い不安、ひどい落ち込みなどには、お薬を使うことがあります。 気持ちを落ち着かせ、少しでも楽に過ごせるようにするためです。

最近の研究では、治療法も進歩しています。 例えば、脳卒中の後に起こるうつ病も、器質性精神障害の一つです。 脳卒中を経験した方の約3人に1人が、このうつ病になるとされます。

このうつ病の発症には「神経炎症」が関係していると分かってきました。 これは脳の中で起きる、目に見えない小さな火事のような状態です。 この炎症が、うつ病を悪化させることが研究で示されています。 今後は、この炎症を抑える新しい治療法の開発も期待されています。

原因によっては治療が長く続くこともあります。 医師とよく相談し、無理のない環境で治療を続けることが大切です。